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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第百四十一話 失われた女神

             第百四十一話 失われた女神
「しかしそれでは」
「だが!」
映像では激しい議論が行われていた。
「この星は救えません!」
「ではジークよ」
「!?」
「あれは」
皆ここで金髪の若者を見た。髪の色こそ違うがそれは。
「サンドマンさん!?」
「間違いない」
その彼が今。映像の中で何かを必死に主張しているのだった。
「サンドマンさんだ」
「じゃあこれは本当に」
「私のかつての姿だ」
それだというのだった。
「かつてのな」
「?けれど何で髪の色が違うんだ?」
「染めてるわけでもないみたいだし」
皆このことを怪訝に思うのだった。
「どういうことかしら」
「しかも服が」
見れば白い鎧のような服だった。映像のサンドマンはその騎士のような服を着ているのだった。
「地球の。それもこの世界の」
「服にしては」
「しかも今」
皆の疑念はさらに続く。
「サンドマンさんジークって言われたよな」
「だよな」
このことにも気付いたのだった。
「何か凄い話がわからねえけれど」
「何なんだ?こりゃ」
「ですから僕は」
「ではジークよ」
「聞こう」
映像の中のサンドマンは必死に主張していたが周りの厳しい声に射抜かれていた。
「君のあの計画は成功したのかね」
「実験は」
「それは」
映像の中のサンドマンはここで口篭ってしまった。
「もうすぐですが」
「君の妻まで失い」
「それでもやっているようだが」
「あれならばです」
映像の中のサンドマンはまたしても必死で主張した。
「必ずやこの星とこの星の人々を」
「駄目だ。現実性がない」
「とてもな」
こう言い捨てられるのだった。
「無駄なことはしない」
「それだけだ」
「くっ・・・・・・」
映像の中のサンドマンは悲しい顔で歯噛みする。それと共に舞台が変わった。
「兄さん!」
「兄さんって!?」
「今言ったけれど」
「ああ」
皆映像の中のサンドマンが目の前にいる男を兄さんと呼んだのを聞いた。見ればそこには赤い長い髪の逞しい顔の男が立っていた。
「あんなものを作ってどうするんだ!」
「どうするかだと?」
「そうだ!」
またしても必死に叫ぶ映像の中のサンドマンだった。
「あれでは多くの人が殺されてしまう」
「構わない」
だがその兄と呼ばれた男は冷徹に彼に言葉を返した。
「少しでも多くの命を助ける為にはだ」
「犠牲も必要だというのか」
「その通りだ」
言いながら映像の中のサンドマンに顔を向けるのだった。
「多くの命を助ける為にはな」
「多少の犠牲はということなのか」
「ジークよ」
彼もまた映像の中のサンドマンに冷然とした声をかけるのだった。
「では聞こう」
「うっ・・・・・・」
「御前はルフィーラを犠牲にした」
この言葉と共に映像の中のサンドマンに嫌悪に満ちた視線を向けていた。
「それを忘れると思うか」
「それは・・・・・・」
「御前に犠牲を言う資格はない」
彼はさらに言うのだった。
「我が妹、そして己の妻を犠牲にした御前にはな」
「・・・・・・・・・」
ここでまた映像が変わり今度は砂浜だった。リィルがカプセルの中で眠っていた。映像の中のサンドマンはその彼女を見ていとしげに呟くのだった。
「行こう、我が娘よ」
「娘!?」
「それじゃあリィルは」
皆ここでわかったのだった。
「サンドマンさんの娘!?」
「それにサンドマンさんは」
「そうだ。リィルは私の娘だ」
ここで映像が消え現実のサンドマンが言うのだった。
「私と妻の間に産まれたな」
「そうだったんですか」
「リィルさんは」
「そして私の妻ルフィーラは」
今度は彼女のことも話す。それと共にまた映像が浮かび出てそこには一人の美女を抱いて嘆き悲しむサンドマンがいた。
「死んだ。グラヴィオンを開発する中でな」
「そうだったんですか」
「そんなことがあったんですか」
「私は故郷を捨てた男だ」
サンドマンは今度は己自身について述べた。
「遥かな故郷をだ」
「じゃあサンドマンさんは」
「まさか」
「そのまさかだ」
また皆の問いに答えてみせた。
「地球にはいない。そして故郷を救えなかった」
「・・・・・・・・・」
「だが義兄はこの地球を狙ってくるとわかっていた」
「義兄さん!?」
「まさかあの映像の」
「ヒューギ=ゼラバイア」
「ゼラバイア!?」
皆今度はこの名前に反応した。
「ゼラバイアって」
「まさかと思いますけれど」
「ゼラバイアを開発したのは私の義兄だ」
やはりこう答えるサンドマンだった。
「その星の生物を殺戮しその後に故郷の我が同胞達が移住できるように。義兄が生み出したものだったのだ。それがゼラバイアなのだ」
「そうだったんですか」
「それでゼラバイアが」
「我が故郷は今でもある」
サンドマンはまた言った。
「今まさに死に絶えようとしているがそれでもだ」
「それを救うことは」
「できるんですか?」
「おそらく可能だ」
サンドマンはそれを諦めてはいなかった。
「私はその技術を持っている」
「それならすぐに」
「その星に行きましょう」
皆一斉にサンドマンに対して告げた。
「だってサンドマンさんの故郷なんでしょう!?」
「だったら」
「だが義兄はそれがわからないのだ」
サンドマンの声が悲しいものになった。
「決してな」
「そんな。それじゃあ」
「お義兄さんとは」
「戦わなくてはならない」
サンドマンは言った。
「必ずな」
「この地球を新たな故郷にする為に」
「ゼラバイアを送り込むから」
「だからこそ私はグラヴィオンを地球に持って来たのだ」
だからなのだった。
「今までこのことを黙っていて申し訳なかった」
そして皆に対して頭を下げるのだった。深々と。
「このような私だ。申し訳ない」
「いいですよ」
「そうですよ」
しかし皆は。そのサンドマンに対して温かい声をかけるのだった。
「誰でも言えないことがありますよ」
「けれどサンドマンさんは今それを私達に話してくれましたよね」
「話を」
「ええ」
また言う皆だった。
「そうですよ。ですから」
「人間その弱さを見せるってとても勇気がいります」
そこを付け込まれる恐れがあるからだ。これは誰でも本能的に避けることである。己を守る為にである。人として至極当然の行動でもある。
「けれど私達はそのサンドマンさんの弱さを知りました」
「ですから」
信じられるというのだった。
「サンドマンさんを信じます」
「絶対に」
またサンドマンに対して温かい声をかけた。
「ですから一緒に戦いましょう」
「ゼラバイアと」
「そして」
「有り難う」
今度は心から礼を述べるサンドマンだった。
「それでは諸君」
「はい、また戦いがはじまります」
「その時は。御願いします」
「うむ、わかった」
いつものサンドマンに戻っていた。自信に満ち堂々とした彼に。
「それでは諸君」
「はい」
「次の戦いに向けて」
「今は英気を養ってくれ」
やはりいつもの彼であった。
「今はな」
「わかりました!」
「それじゃあ!」
皆明るく解散した。これで話は終わったかに思われた。しかしであった。
「あっ、リィル」
「はい」
今は城に戻っているグラヴィゴラスの中においてであった。夜のその城の中で斗牙はリィルに会った。彼女はその城の中を歩いているのだった。
「もう怪我はいいの?」
「ええ」
斗牙の言葉にこくりと頷くリィルだった。
「皆が手当てしてくれたから」
「そうなんだ」
「次の戦いには間に合うわ」
気丈な言葉だった。
「だから。気にしないで」
「わかったよ。あっ、そうだ」
ここで斗牙はあることを思い出したのだった。
「リィル、君に伝えないといけないことがあるんだ」
「伝えないといけないこと?」
「うん、君はね」
彼はわかっていなかった。何もかも。だからこそ言えたのだった。
「サンドマンの娘なんだよ」
「えっ・・・・・・」
「君はサンドマンの娘なんだ」
何でもないといった顔での言葉だった。
「サンドマンのね。実はそうだったんだ」
「嘘・・・・・・おじ様がそんな」
「嘘じゃないよ。皆もうわかったから」
微笑んでさえいた。
「このことがね。君はサンドマンの娘だったんだ」
「おじ様が私の娘だったなんて」
強張った顔になるリィルだった。
「そんな。私は」
「あれっ、驚いたの?」
やはり何もわかっていない。
「本当のことだから。君はサンドマンの娘なんだよ」
「嘘・・・・・・」
「嘘じゃないよ」
繰り返しでしかなかった。
「ほら、次の戦いに備えてね。身体を休めようよ」
「・・・・・・・・・」
リィルは完全に我を失くしてしまった。そうしてふらふらと斗牙と別れそのうえで城の中を彷徨った。そうして橋のところで力尽き横に倒れていった。
「それでよ」
「だよなあ」
そこにたまたまエイジ達が通り掛った。彼は弾児や大島、高須達と楽しくお喋りをしながら橋のところを歩いているのであった。
「あそこであの技を出したのがよかったんだよな」
「やっぱりプロレスだぜ」
エイジはこう大島に告げた。
「延髄斬りでな。一気に決めるのがな」
「俺はあれだな」
剣人もまた言う。
「ジャイアントスイングで決めるのがいいな」
「あっ、あれもいいよね」
高須は彼の言葉に笑顔で頷いた。
「あの技でね。回していってね」
「そうだろ?ああいうのがいいんだよ」
「いや、渋く関節技だ」
これは弾児の意見だ。
「地味に、だが確実にだ」
「御前いつもそんなんだよな」
剣人は弾児の意見にあまり面白くないような顔を向けた。
「地味で確実ってな」
「しかしそれがいい」
だが弾児は己の意見を曲げようとはしなかった。
「確実なのがな」
「まあそれもいいか」
闘志也はその弾児の意見に賛成した。
「地味だけれど確実にやらないといけない時ってあるからなあ」
「あまり闘志也向きじゃないけれどな」
ジュリイは笑ってこう突っ込みを入れた。
「やっぱり派手にだろ?闘志也は」
「それにそうじゃないと闘志也らしくないな」
謙作も言う。
「派手にじゃないとな」
「まあそれを言ったらその通りだけれどな」
彼自身もそのことを認める。
「俺もな。派手にやらないとな」
「そうだよ。やっぱり派手に決めるんだよ」
エイジがここでまた笑って言った。
「プロレスでも何でもな」
「それはそうとエイジ」
「前見て」
ユミとカオリが言ってきた。
「あれリィルちゃんじゃないの?」
「あの髪はそうよ」
「あっ、本当ですね」
ルカがそれを見て言った。
「リィルさんです。あれは」
「もう歩けるようになったのか」
ミシェルは感心したように言う。
「まだ少しふらふらしているみたいだけれどな」
「いや、待て」
だがここでクランが目を鋭くさせた。
「何か様子がおかしい」
「様子が?」
「おかしい?」
今のクランの言葉にネネとララミアがすぐに身構えた。
「そういえば何か動きが」
「おかしいわ」
「そうね」
カナリアも既に身構えていた。
「あのままではまさかとは思うけれど」
「橋から落ちるぞ」
アルトはそれを危惧する言葉を出した。
「本当に危ないな」
「おい、マジでやばいぜ!」
今叫んだのは剣人だった。
「リィルちゃんが!」
「リィル!」
皆すぐに動いた。リィルは今まさに橋から落ちようとしていた。
すぐに彼女を捕まえようとする。しかしそれは間に合わなかった。
「まずい!」
「落ちたぞ!」
橋の下の川に落ちてしまった。そのまま川に流されていく。皆橋の上からそれを見る。
「ちいっ!」
エイジが真っ先にその川に飛び込んだ。
「俺が行く!」
「エイジ!」
「気をつけろ!」
皆も飛び込もうとしたが止めた。そのかわりベラリオスが自分の中からロープを出してきていた。
「ガオオオオオオオン!」
「よし、これだ!」
ガスコンがそのロープを手に持って叫ぶ。
「エイジ、とにかくリィルちゃんを確保しろ!」
「ああ!」
エイジは泳ぎながらガスコンに対して応える。
「後はこちらからロープを出す。いいな!」
「わかったぜ。恩に着る!」
こうしたやり取りの後で何とかリィルを確保して彼女をロープに縛り付ける。こうして彼女を引き揚げ何とか助けることに成功したのだった。
「間一髪だったな」
「全くだぜ」
皆とりあえずは安心した。
「それでリィルちゃんは?」
「大丈夫なの?」
「うむ、安心しろ」
クランがユミとカオリに答える。
「体力はかなり落ちているが命に別状はない」
「そう。よかったわ」
「本当にどうなるかって思ったけれど」
「しかし」
だがここでミシェルがいぶかしむ顔になって言うのだった。
「どうしてリィルちゃんがこんなところに」
「そうだよな。寝ていた筈なのにな」
剣人もそこがわからなかった。
「何でこんなところを歩いてたんだ?」
「あっ、皆」
ここで斗牙が皆のところに来た。
「ここにいたんだ」
「あれっ、斗牙」
「どうしたんだよ」
「うん。さっきリィルがね」
そのリィルを見ながらの言葉だ。今の彼女が濡れて意識がないのも見てはいる。
「あれっ、どうして濡れてるの?」
「どうしてもこうしてもじゃねえよ」
「全くだよ」
皆その彼に対して言う。
「川に落ちてよ」
「大変だったのよ」
「川に落ちてって」
「おい斗牙」
エイジが怪訝な顔で彼に問う。
「どうしたんだよリィルは。何か知ってるか?」
「ああ、さっきね」
斗牙はここでも自覚することなく話した。
「リィルにサンドマンがお父さんだって話したんだけれど」
「何っ!?」
「嘘だろ!?」
皆今の彼の言葉には思わず叫んでしまった。
「そんなことしたなんて」
「本当ですか!?」
「何か悪かったの?」
自覚なき言葉は続く。
「本当のことを教えて」
「馬鹿野郎!」
最初に彼を怒鳴ったのはエイジだった。
「御前自分が何をやったのかわかってるのか!」
「何かって?」
「今リィルはどんな状態だ!」
そこから話すエイジだった。
「とてもそんな話を聞ける状態じゃねえだろ。怪我して気力が落ちてるんだぞ!」
「それはそうだけれど」
「そうだけれどじゃねえ!」
エイジはまた怒鳴った。
「そんなこと言ったからリィルはふらふらになってな!」
「それで?」
「川に落ちてもうすぐで溺れるところだったんだ!」
自分が濡れているのは気にも留めていなかった。
「御前がそんなこと言ってふらふらになったせいでな!」
「僕のせいでって」
「ちょっとはリィルのことも考えろ!」
「ちょ、ちょっとエイジ」
「落ち着け。なっ」
皆あまりにも怒るエイジを止めに入った。
「もう少し気を鎮めて」
「斗牙だって悪気があってやったわけじゃないし」
「そんなことはわかってるんだよ」
エイジは忌々しげに皆に返した。自分を止めている皆に。
「けれどな。悪気がないのが問題なんだよ」
「悪気が?」
「何でこいつは他の奴のことがわからねえんだ」
斗牙を見据えて、いや睨んでさえいた。
「他の人間の心がよ。わからねえんだよ」
「心・・・・・・」
「わかっていなきゃならねえんだよ」
戸惑った顔になる斗牙にさらに言うエイジだった。
「誰にも教えられてなかったのかよ」
「まあエイジ」
ジュリイはあえて優しい声を彼にかけた。
「リィルちゃんをベッドにまで運ぼう」
「そうだ」
謙作も言う。
「ここはな。皆でな」
「ああ」
そしてエイジも彼等の優しさに頷くのだった。
「わかったぜ。それじゃあな」
「斗牙、御前も今は休んでくれ」
闘志也は彼に優しい言葉をかけた。
「いいな。今はな」
「今はって」
「いいんだ」
あえて厳しいことは言わないのだった。
「御前も悪くないんだからな」
「僕が。悪い」
だが斗牙の心にはこう残った。
「何が悪いんだ。僕には」
リィルは再び休息が必要になった。グランナイツは五人で動くしかなくなった。しかもそれだけではなくなっていた。
「まずいことになったな」
「そうですね」
キラがアムロの言葉に応えていた。
「斗牙君があれから」
「あのままでは満足に戦えない」
アムロはこう断言した。
「そして司令塔の斗牙があのままだと」
「グラヴィオンもですか」
「そうだ。今の彼等は非常に危険だ」
アムロは実際に危惧する言葉さえ出した。
「これ以上酷いことになることも考えられる」
「そうですね。確かに」
そしてキラもその可能性を否定できなかった。
「このままだと」
「だが。俺達には何もできない」
「おい、またそりゃ随分と冷たいな」
カイが今のアムロの言葉を聞いて言ってきた。
「何もできないってよ」
「そうだよ。アドバイスはできるんじゃないか?」
ハヤトもこうアムロに言ってきた。
「それで随分と変わるだろう?」
「それはできるさ」
アムロもアドバイスはできるというのだった。
「ただな」
「ただ?」
「それでも決めるのは彼等なんだ」
アムロが言うことはこういうことだった。
「考えて決めることはな」
「そういうことかよ」
「エイジ達が決めることって」
「もっと言えば斗牙が決めることなんだ」
アムロは話を絞ってきた。
「斗牙が。決めることなんだ」
「あいつがかよ」
カイはアムロの言葉を聞いて彼の顔をその脳裏に思い浮かべた。
「あいつが決めるのかよ」
「そして迷わないようにするのも」
それもなのだった。
「彼が決めることなんだ。どうするかはね」
「どうするかっていったら」
セイラはそんなアムロの言葉に目を曇らせた。
「あれじゃない。まるで彼が戦いから離れるみたいに」
「その可能性はある」
アムロはそこまで読んでいるのだった。
「あのままだと。少なくともグランナイツの中の不協和音は消えはしない」
「不協和音か」
スレッガーはその不協和音という言葉に暗い顔になった。
「そうだよな。あのままだとあのチームは空中分解してもおかしくないな」
「まずはエイジが斗牙にどうしようもない反感を抱いてしまった」
まずはエイジだった。
「そして斗牙はわからずにどうしていいか困っている。あの二人があれでは」
「それにリィルちゃんがね」
セイラは彼女のことを話に出した。
「当分起き上がれなくなったし」
「あの娘が話のはじまりだしな」
リュウはリィルのことに顔を曇らせた。
「それを考えると。今は」
「これで他のメンバーにも影響が及ぶ」
アムロは他のメンバーのことにも言及した。
「二人とリィルだけじゃなくなっている」
「そういえばです」
キラが口を開いてきた。
「エイナさんが斗牙さんを必死に慰めていますけれど」
「それっていいことなんじゃないのか?」
トールはそれを聞いて顔を少し明るくさせた。
「エイナさんが慰めてるんならな」
「そうよね」
ミリアリアもこのことに明るい顔になった。
「エイナさんいつも斗牙のことを気にかけてるしそれなら」
「だよなあ。じゃあ大丈夫かな」
「いや、それはどうかな」
カズイも頷いたがサイはそうではなかった。
「それがかえって逆効果にならなければいいけれど」
「逆効果って」
「まさか」
「いや、有り得るな」
アムロがここでまた言った。
「それもな。有り得る」
「有り得るんですか?」
「どうしてですか?」
「慰めることも確かに必要だ」
アムロはこのこと自体は認めた。
「だが。時として一人にしてやることも大事なんだ」
「一人に、ですか」
「そっとですね」
「そうなんだ。あまり過度に側にいるとかえって負担になる」
アムロはこうキラ達に話した。
「かえってな」
「じゃあどうすればいいんですか?」
「それじゃあ」
「何でも匙加減なんだ」
アムロはここで匙加減という言葉を出した。
「それを考えて接しないとな」
「それ考えたらあれだよな」
カイはアムロの今の話を聞いてすぐに察して述べた。
「エイジの奴は冷た過ぎるな、今は」
「無理もないけれどね」
ハヤトはエイジの立場に立って言ってみせた。
「今のエイジの気持ちを考えたら」
「そしてエイナちゃんは気を使い過ぎている」
セイラが言うのは彼女のことだった。
「そういうことになるわね」
「ルナちゃんとミヅキちゃんもな」
スレッガーはこの二人について言うのだった。
「どうしていいかわからないっていうかな」
「ルナちゃんは出来るだけエイナちゃんのフォローをしようとしてるな」
リュウはそのことをしっかりと見ていた。
「あの娘なりにな」
「そうですよね。不器用ですけれど」
「それでも」
トールとミリアリアはリュウのその言葉に頷いた。
「何とかしようって」
「頑張ってますね」
「それにミヅキさんは」
「エイジに何処となく言ってるけれど」
カズイとサイはミヅキを見ての言葉を出した。
「それでもエイジはわかっていないね」
「今は。話を聞けないだろうね」
「最悪の事態にならなかったらいいんだが」
アムロはそれを恐れているのだった。
「このままだと。本当にな」
「そうですよね。グランナイツにとってよくないことにならなかったらいいですけれど」
キラはそのアムロの言葉に応える。
「僕達ができることが。何かあれば」
「いざという時はどちらかを一人ずつ食べるのに誘うか」
アムロが考えた一つの解決策はそれだった。
「次の戦いが起こる前にそうして」
「宥めるんですね」
「それがいいと思ってるんだけれどな」
アムロは大人らしい解決案を出したのだった。
「そうして皆で話せばそれだけで随分と違うからな」
「そうですね。じゃあ明日にでもエイジと斗牙をそれぞれ」
食事に誘って話をしようと思うキラだった。しかしその時だった。
警報が鳴った。皆それを聞いて一斉に立った。
「!?」
「まさか!」
「敵だ!」
ブライトが彼等のところにやって来て告げた。
「総員出撃だ。いいな!」
「ブライト、敵は何処にいるんだ!?」
アムロは立った状態で彼に問うた。
「近くか?それとも」
「タスマニアだ」
そこだというのだった。
「タスマニアに出没した。そこだ」
「そうか。タスマニアか」
アムロはタスマニア島と聞いて考える顔になった。
「このシドニーに近いな。好都合だ」
「そうだ。だから我々も行く」
また言うブライトだった。
「それでいいな」
「わかった。じゃあ皆」
「おう」
「行こう、アムロ」
リュウとハヤトがアムロの言葉に応える。そして皆彼に続き出撃した。タスマニア島に辿り着くとそこにはもうゼラバイア達が上陸してきていた。サンドマンはそのゼラバイア達を見て告げるのだった。
「それではグランナイツの諸君」
「はい」
「行きましょう」
応えたのはルナとエイナだった。
「今から」
「そしてタスマニアを護りましょう」
「そうだ。その為に戦ってくれ」
サンドマンはこうも彼等に声をかけた。
「すぐにな。いいな」
「わかってるわ」
今度はミヅキがサンドマンの言葉に応えた。
「じゃあ。行きましょう」
「うん」
斗牙は力なく彼女の今の言葉に頷いた。
「それじゃあ」
そしてそのうえでエイジに顔を向ける。だが二人の間には言葉はなかった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
二人は顔を見合わせても沈黙したままそのうえで出撃する。グラヴィオンは確かに出撃した。だがその異変は誰もが感じるものだった。
「まずいですね」
「そうだな」
シーブックはトビアの言葉に頷いた。
「今のグラヴィオンは普段のグラヴィオンじゃない」
「ただリィルさんがいないだけじゃないですね」
「ああ。このままじゃ本当にまずい」
シーブックは本気で危惧を感じていた。
「何があってもおかしくない」
「フォローが必要かしら」
ジュンコは心配してこう述べた。
「誰かが行かないと」
「いえ、残念だけれどそうもいかないみたいよ」
だがその彼女にマーベットが言ってきた。
「今回もね」
「そう。また敵が多いのね」
「ええ、かなり」
そういうことだった。
「来ているわ。おそよ一万五千」
「一万五千ですか」
ウッソはその数を聞いて顔を曇らせた。
「それに援軍も来るとしたら」
「二万は覚悟しておくべきだな」
「そうだな」
オデロとトマーシュも言う。
「ゼラバイアのことを考えたらな」
「それが妥当だな」
「それに俺達は右翼を受け持つ」
オリファーは自分達の受け持ちの話をした。
「それで左にいるグラヴィオンの援護は」
「仕方ありません」
カラスの言葉は一度聴いただけでは薄情なものに聞こえた。
「彼等自身に頑張ってもらうしか」
「けれどカラス先生」
トビアはそんなカラスに対して言うのだった。
「それじゃああんまりにも」
「トビア君、私はいつも言っていますね」
しかしカラスはそのトビアに対していつものように教師的な言葉で告げるのだった。
「強い者こそが生き残るべきだと」
「それはそうですが」
「そういうことです。彼等が強ければ生き残ります」
やはり素っ気無いように聞こえる言葉だった。
「弱ければ死にます。ですが」
「ですが?」
「私の考えは変わりませんが」
ここで前置きも出て来た。
「それでも。私は人間としての彼等は嫌いではありません」
「嫌いじゃない」
「できることなら死んで欲しくはありません」
これがカラスの本音だった。
「今の事態も乗り越えてもらいたいものです」
「それはできますか?」
「やろうと思えば。いえ」
「いえ?」
「やらなければなりません」
こう言うのだった。
「彼等の為にも。何としてもです」
「何としてもですか」
「私は期待しているのですよ」
今カラスはその左翼をじっと見ていた。
「是非にとね」
「そうだったんですか」
「試練は乗り越えなければなりません」
また厳しいことを言うカラスだった。
「ですが人を好きになることはそれとは別です。むしろ」
「むしろ?」
「好きな人にこそ乗り越えてもらいたいものです」
カラス独特の考えであった。
「是非にです」
「じゃあエイジさん達は」
「苦難ではあります」
それもよくわかっているカラスだった。
「ですが彼等ならきっとです」
「そういうことですか」
「トビア君、話はそれ位にするべきだ」
「来たぞ」
ザビーネとドレルがここで彼に告げてきた。
「正面と右から来た」
「我々を取り囲むつもりだ」
「来たんですか」
そしてトビアもまたそれを見ているのだった。
「それじゃあ僕も」
「行きましょう」
セシリーが彼に声をかけてきた。
「私達の戦いにね」
「はい、わかりました」
「さて、楽しいお祭のはじまりだよ」
ギリは変わっていなかった。
「じゃあ今回もね。明るくね」
「後ろは任せてくれ」
「横は私がね」
トトゥガとローズマリーがその彼に続く。
「それでは。戦闘開始だ」
「早速ね」
来たゼラバイアを撃墜するローズマリーだった。これが開戦の合図となった。
ゼラバイアはすぐに大挙してロンド=ベルに襲い掛かってきた。彼等もそれに応戦する。
「これなら!」
「これだ!」
セレインとリッシュがそれぞれ接近用の武器を使って目の前に来たゼラバイアを両断した。両断されたゼラバイアは彼等の前で爆発する。
「どれだけいてもね」
「負けるわけにはいかないからな」
「そうね。その通りよね」
「ええ、マナミ」
マナミとアイシャも当然ながら戦場にいた。二人はその息を完全に合わせている。
「ここで負けたらね。お話にならないわ」
「ゼラバイアもこの世界の脅威だから」
「その通りだ」
アークライトはアシュクリーフを高速で動かさせながら攻撃を繰り出していた。
「ゼラバイアも倒す」
「こうしてな」
エルリッヒもまた彼の傍でノウルーズを駆っている。
「ブラッド、いいな」
「ああ、カーツ」
カーツとブラッドもスーパーアースゲインに乗り込んでいる。
「ここもまた正念場だ」
「やってやるさ」
「けれどよ。こりゃまずいな」
「まずいって何がよ」
パットは今声をあげたヘクトールに対して問うた。
「これ位の激しい戦闘はいつもじゃない」
「いや、そうじゃなくてよ」
だがヘクトールはそうではないと返すのだった。
「やっぱりな。グラヴィオンな」
「グラヴィオンなのね」
「まずいぜ。あの動き」
見ればグラヴィオンの動きは普段と違って何処かぎこちないように二人には見えた。
「あれじゃあ本当にな。一歩間違えたらな」
「そうだな」
アーウィンが冷静に彼の言葉に頷いた。
「まだ戻っていないのか」
「戻って欲しいです」
グルースはのんびりとした調子だったが本気で心配していた。
「さもないと現実に」
「いざとなったら私が行こうかしら」
ミーナは今にもグラヴィオンの方に行かんばかりだった。
「フォローでね」
「そうだな。いざという時にはな」
ジェスもそれは同じだった。
「行けるように構えておこう」
「そういえばサンドマンの旦那も妙だな」
イルムはサンドマンのことを言った。
「何かグラヴィゴラスの指揮もいつもよりはっきりとしないな」
「そうだな」
リンもそれは見抜いていた。
「あのままではグラヴィゴラスも危ない」
「そりゃまずいだろ」
ジョッシュは二人の話を聞いて眉を顰めさせた。
「グラヴィオンとグラヴィゴラスがなくなったらそれこそ」
「けれどジョッシュ」
ここでリリアーナがそのジョッシュに告げてきた。
「今私達だって」
「ここを離れられないっていうのかよ」
「ええ」
ジョッシュ達もそれはまた同じなのだった。
「私達がここを離れたらそれこそ」
「ちっ、じゃああれかよ」
ジョッシュはリリアーナの言葉に歯噛みして応えるしかなかった。
「エイジ達に頑張れっていうのかよ」
「それしかないと思うわ」
リリアーナの顔も辛いものになっていた。
「仕方ないけれど」
「方法はあるにはある」
だがここでウェントスが言ってきた。
「我々で敵をできるだけ引き付けることだ」
「それしかないっていうのね」
「俺はそう思う」
グラキエースにも答えるウェントスだった。
「それならばどうだ」
「そうだな。それしかねえな」
ジョッシュはウェントスのその提案に頷いた。
「肝心の斗牙があんなんじゃな」
「それじゃあ」
リリアーナも言う。
「それでいきましょう」
「ああ。それじゃあな!」
早速目の前のゼラバイア達に対して派手な攻撃を仕掛けるジョッシュだった。それによりゼラバイア達は小隊単位で次々と倒されていく。
「容赦しねえからな。覚悟しやがれ!」
「私だってそうよ!」
リリアーナもジョッシュと同じように派手な攻撃をゼラバイア立ちに浴びせる。
「斗牙君達はやらせないわよ。覚悟しなさい!」
「よし、俺達もだ」
「ええ」
ウェントスとグラキエースも二人に続く。
「こうして少しでもこちらに兵を向けさせて」
「斗牙達に向かわないようにしましょう」
彼等はこのやり方で凌ごうとした。実際にそれは成功しグラヴィオンとグラヴィゴラスの前の敵は殆どいなくなってしまっていた。
「よし、これなら」
「いけるわね」
皆このやり方に手応えを感じていた。
「この調子でこちらに敵の目を引き付けて」
「それで」
「その通りです」
エレもまたそれでいいとするのだった。
「こちらで敵を引き付ければそれだけグラヴィオンに向かう敵が減ります」
「その通りですな」
エイブはゴラオン全体の指揮を執りながら女王の言葉に頷いた。
「それではエレ様、我々もまた」
「正面に攻撃を集中して下さい」
実際にエレはこう命じた。
「そしてそのうえで敵を引き受けるのです」
「ええ。それでは」
「これで大丈夫だと思います」
エレはここでは頭で考えただけで述べた。
「この戦いは」
「私もそう思います」
シーラがゴラオンのモニターに出て来た。彼女のグランガランは今ゴラオンと艦首を並べてそうして敵と対峙して戦っているのである。
「これでグラヴィオンとグラヴィゴラスに向かってきている敵はかなり減りました」
「そうですね。それではこのまま」
「ただ」
しかしここでシーラは言うのだった。
「ゼラバイア達は基本的に知能のようなものはないのですが」
「シーラ様、それが何か」
シーラの横からカワッセが問う。
「あるのでしょうか」
「シーラ様、何か感じられたんですか?」
「まさか」
「いえ、感じてはいません」
「私もです」
それはエレも同じだった。
「私もゼラバイア達からは本能だけを感じ取るのみです」
「その通りです。ですが」
それでもといった感じでまた言うシーラだった。
「ゼラバイアを操る彼が策を考えているのなら」
「若しかしたらここでも」
「策!?」
ゴラオンに乗り込んでいたミサトが今のシーラの言葉に反応を見せた。
「まさか策を弄している」
「だとしたらそれは一体」
ミサトに続いてリツコも言う。
「何なのかしら」
「あれですよね、確か」
「ゼラバイアを操ってるのって」
「はい」
シーラはエルとベルに対して答えた。
「サンドマンさんの義理のお兄さんです」
「じゃあ狙うとしたら」
「やっぱり」
「!?それでは」
エイブはここまで聞いてはっとした。
「今グラヴィオンに向かっている敵は少ない」
「そして我等もグラヴィオン達とは別に戦っている」
カワッセも言う。
「ならば今は」
「彼にとっては」
「しまったわ」
ミサトもここで察したのだった。
「すぐに誰かグラヴィオンの援護に向かって」
「グラヴィゴラスにも」
リツコもまた言うのだった。
「早く。さもないと」
「どちらもかなり危ないわ」
「じゃあ俺が行く!」
真っ先に名乗りを挙げたのはショウだった。
「俺のこのビルバインなら!」
「そうよショウ」
同乗しているチャムもここで叫んだ。
「行っちゃえ!それでエイジ達を助けるのよ!」
「よし!」
「俺も行かせてもらう」
続いて名乗りを挙げたのはダバだった。
「エルガイムマークツーもブローラーに変形したらすぐだ!」
「じゃあダバ」
彼にはリリスがいた。
「行きましょう。今すぐに」
「うん。さもないと危険だ」
「じゃあ御願いするわ」
ミサトは名乗りを挙げた二人に対して頼む声をかけた。
「それでね。一刻も早く」
「わかってる。グラヴィオンはやらせない」
「グラヴィゴラスもやらせません」
二人はそれぞれの小隊を離れすぐに向かう。ミサトはその二人の向かう姿を見守ったうえで暗い顔になって言葉を出すのだった。
「さあ、果たして上手くいくかしら」
「わからないわね」
リツコも今はこう答えることしかできなかった。
「ショウ君とダバ君はロンド=ベルでも屈指のエースだれどね」
「それにウィングキャリパーとブローラーはかなりの機動力だけれど」
「間に合うかしら」
ミサトはこのことを真剣に危惧していた。
「果たして」
「気付くのが遅かったかしら」
リツコは暗い顔で述べた。
「今回は」
「どうかしらね。かなりまずいけれど」
ミサトも今回は表情に余裕がない。
「あの子達は普段はやってくれるけれどね」
「普段通りに間に合ってくれることを祈るしかないのね」
「そういうことになるわ」
ミサトが言うのは結局このことだった。
「普段通りにしてくれたらいいけれど」
「そうね。けれどできると思う?」
リツコは今のそのミサトの言葉に真剣な顔で問うた。
「今のあの子達に」
「特に斗牙君ね」
「ただでさえリィルちゃんがいないのに」
マイナスポイントは増える一方だった。
「それにサンドマンさんもね」
「ええ。あの人もね」
二人は彼についても危惧を覚えていたのである。
「あのままだと。本当に」
「油断と同じ位迷いは危険よ」
そのことがよくわかっているリツコだった。
「特に今みたいに大勢を相手にしている場合にはね」
「しかもゼラバイアの首領があの人の義理のお兄さんだとすると」
またマイナスポイントだった。
「それこそ」
「何時狙われても仕方ないわ」
そうなるのだった。
「本当にね」
「けれど今は誰も援軍に送れないし」
これは戦術的な問題であった。
「だからやっぱり」
「何とかしてもらうしかないわね」
リツコもこの答えを出すしかなかった。
「残念だけれどね」
「そうなるわね」
この二人にしろ今は戦術指揮で手が一杯であった。戦いはロンド=ベルにとって戦力的にも精神的にも余裕がないまま進む。しかしそれでも彼等は奮戦し何とか凌ぎだしていた。そして遂には勝利を収めようという段階にまで進むことができたのであった。
「よし、このまま」
「いけるわね」
エイジとルナがグラヴィオンの中で笑みを浮かべていた。
「今回もどうなるかって思ったけれどな」
「何とかいけそうね」
「そうね」
二人に対してミヅキが応える。
「このままね。勝てそうね」
「おいエイジ」
エイジにディアッカが声をかけてきた。
「順調みたいだな」
「まあな」
「よし、じゃあよ」
ディアッカはエイジの機嫌がよくなったと見てさらに言うのだった。
「この戦いが終わったら炒飯御馳走するぜ」
「おっ、炒飯かよ」
「ああ。海鮮炒飯な」
それを御馳走するというのである。
「卵もたっぷり入れてな。どうだよ」
「いいな、それ」
エイジはディアッカのその炒飯の話を聞いて笑顔になる。
「じゃあ頼むぜ。他にもあるんだよな」
「後は海鮮麺に海老蒸し餃子に鱶鰭焼売だな」
「中華料理かよ」
「そうさ。それに小龍包」
それもだというのだ。
「他にも結構作るぜ。食うだろ」
「当たり前だろ。そうか、ディアッカの中華料理か」
「僕も作らせてもらうよ」
シンジも彼に声をかけてきた。
「ハンバーガー。どうかな」
「あれっ、シンジ御前料理できるのかよ」
「できるよ」
こう答えるシンジだった。
「ちゃんとね。これでも料理は得意なんだよ」
「まあらしいっていえばらしいな」
彼の話を聞いて何となくそうも思うエイジだった。
「それじゃあハンバーガーも頼むぜ」
「うん、任せておいて」
「お酒もあるからさ」
ザズも参戦してきた。
「それもどっさりと」
「お菓子もありますよ」
今度はサンユンだった。
「それもどうぞ」
「よし、何かえらく豪華だな」
話を聞いているうちに機嫌がさらによくなったように見えたエイジだった。
「よし、さっさと戦いを終わらせてな」
「もう終わりね」
レイが言ってきた。
「もう敵はいないわ」
「おっ、そうかよ」
「よし、じゃあ打ち上げだ」
アポロもエイジに対して声をかけてきた。
「いいな皆、派手に楽しむぜ」
「はい。それじゃあ」
エイナが彼の言葉に笑顔で頷いた。戦いは何とか無事終わったかに思えた。ところがであった。
「!?」
「馬鹿な!」
ここで、であった。突如グラヴィオンとグラヴィゴラスの後方にゼラバイア達が姿を現わしたのである。
「ゼラバイア!」
「伏兵!?まさか!」
「いかん!」
グローバルがここで叫んだ。
「今ここで狙われてはひとたまりもない!」
「すぐに援軍を!」
クローディアが提案する。
「向けましょう。誰か!」
「俺が行きます!」
マリンが名乗りをあげた。
「バルディオスの移動なら!」
「よし、頼む」
グローバルはマリンのその申し出を受けて応えた。
「すぐにだ。向かってくれ」
「はい!」
「行くぜマリン」
「時間がない」
ジャックと北斗はもう顔を強張らせていた。
「一瞬を争うからな」
「もうな」
「いえ、これは」
今そのバルディオスが向かおうとしたところで。ジェミーが暗い声を出した。
「もう。グラヴィオンに攻撃が」
「まだ間に合う!」
それでも叫ぶマリンだった。
「行かないで何か言うより行ってどうするかだ!」
「そ、そうね」
マリンの今の言葉にはとするジェミーだった。
「それじゃあ」
「行くぞ皆!」
「よし!」
「行こう!」
今バルディオスは瞬時にグラヴィオンの傍に移動しようとする。しかしそれは残念だが間に合いそうになかった。グラヴィオンに既に無数の敵のミサイルやビームが向かおうとしていた。
「いかん!」
それを見てサンドマンも叫ぶ。
「すぐに弾幕を張れ!グラヴィオンを護るのだ」
「無理です!」
しかしコリニアがこう答えてきた。
「間に合いません。もう」
「ならばグラヴィゴラスを前に出すのだ」
サンドマンはそれでも諦めなかった。
「そしてグラヴィオンの盾となる。いいな」
「いえ、それも間に合いません」
今の彼の言葉にはレイヴンが答えた。
「最早。グラヴィオンは」
「くっ、それでは」
「そんな、エイジ様」
「斗牙様」
テセラとチュクルが苦しい声を漏らす。
「せめて脱出して下さい」
「さもないと」
最早絶望かと思われた。今まさにグラヴィオンに敵の無数の攻撃が炸裂しようとしていた。それだけの攻撃を受ければさしものグラヴィオンも無事では済まない。しかしこの時だった。
「私が!」
「何っ!?」
「エイナ!」
エイナの機体が分離した。エイジと斗牙はそれを見て思わず叫んだ。
「何をする気だ!」
「エイナ、下がるんだ!」
「いえ、私は約束しました」
だがエイナは二人に、特に斗牙に対して言うのだった。
「斗牙様を御護りすると」
「僕を」
「だからです」
その顔は微笑んでさえいた。
「ですから。今ここで!」
「待つんだエイナ!」
斗牙は敵のその無数の攻撃の前に出たエイナを必死に呼び止める。
「それだけの攻撃を受けたら君は」
「大丈夫です」
また斗牙に対して微笑むエイナだった。
「私は必ず帰ってきます。ですから」
「そんなこと起こる筈がないよ!」
今のエイナの言葉を信じられなかったのは彼だけではなかった。
「だから戻るんだ、エイナ!」
「暫くお別れです」
今まさに攻撃が炸裂しようという中でのエイナの言葉だった。
「その間御気を落とさずにいて下さいね」
「エイナ、エイナーーーーーーーーーーーーーッ!!」
斗牙の絶叫も空しくエイナの機体は爆発し炎に包まれた。その間にバルディオスが来てゼラバイア達を瞬く間に一掃してしまった。
「グラヴィオンは助かったけれど」
「助かったって言えるかしら」
「いや、無理だな」
マリンとメリッサに対して剣人が答えた。
「エイナさんが死んだんだぜ。それで何で助かったって言えるんだよ」
「けれど剣人」
今の彼の言葉にキャシーが問うてきた。
「あの娘言ったじゃない。絶対に帰って来るってね」
「無理だ」
だが彼はその可能性を否定した。
「そんなのよ。あの状況でよ」
「そうね」
エルフィも今の剣人の言葉に頷くしかなかった。
「あれじゃあ。脱出も確認できなかったし」
「無理ですか、やはり」
「あの状況では」
ドニーとジャンは今のエルフィの言葉に問うた。
「どう考えても」
「戻っては」
「あんた達が思ってる通りね」
ここではこう返すエルフィだった。
「残念だけれどね」
「とりあえず探しましょう」
アンドレイはそれでも言うのだった。
「機体の確認を」
「機体はあります」
彼に答えたのはソーマだった。
「残骸になっていますが」
「それでコクピットは」
「・・・・・・・・・」
無言で首を横に振るソーマだった。
「誰もいません」
「そうか。いないか」
「まあよ。いないんならかえっていいじゃねえか」
パトリックは必死に楽観論を出してみせた。
「そうだろ?脱出できたかも知れないしな」
「そうだな。とにかくまず探そう」
グラハムもここではあえて楽観論を述べてみせた。
「まずはな」
「はい」
「それでは」
彼の言葉に応えたのはハワードとダリルだった。
「今すぐに」
「捜索に入りましょう」
「俺も加わらせてもらう」
ジョシュアもこう言ってきた。
「絶対に見つけ出すからな」
「じゃあ俺はこっちだ」
「私はそちらに」
皆こうしてエイナの捜索をはじめた。ところが肝心のグランナイツ及びグラヴィゴラスは。
「サンドマン様は?」
「何処ですか?」
「斗牙様も」
二人が行方不明になってしまったのである。
「何処にもおられません」
「一体何処に」
「あの馬鹿野郎!」
それを聞いて真っ先に怒りの声をあげたのはエイジだった。
「逃げやがったな、戦いから」
「えっ、エイジさん」
「逃げたっていいますと」
「だから逃げやがったんだよあいつは!」
こうメイド達に告げるのだった。
「今から行って来る!」
そして何処かに向かおうとする。
「タスマニアは島だからな。すぐに見つかるさ」
「見つかるって」
「じゃあエイジ様」
「このままにしておけるかよ!」
本気の言葉であった、
「あの馬鹿をな。このままにな!」
こう言って飛び出していった。彼は真っ先に捜索に出た。その頃グラントルーパー隊でも。
「あれ、隊長は?」
「あれっ、そういえば」
「いない?」
アレックスに対してジュゼとイワンが応えていた。
「何処に行ったんだ?」
「さあ」
「何か私服に着替えてたけれど」
ハンスがこんなことを言う。
「外かな」
「?もう斗牙とサンドマンさんの捜索に出たのか?」
アレックスはこう察しをつけた。
「だとすると」
「さあ。とにかく俺達もな」
「行こうぜ。仲間を探しにな」
「そうだよな」
三人も三人で言うのだった。そのうえでアレックスを誘いもする。
「じゃあアレックス」
「わかってるさ。それじゃあな」
彼は笑顔で仲間達に応える。そうしてそのうえで捜索に向かう。誰もが斗牙とサンドマンを見つけ出そうとしていた。仲間達を。

第百四十一話完

2009・8・10 
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