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ノルマ

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第三幕その三


第三幕その三

「ノルマ!」
 彼等は前に立つノルマに対して問う。既に彼女は神木を背にして立っていた。
「一体何があったのですか」
「鐘が鳴ったということは!」
「戦いだ!」
 ノルマは彼等に対して高らかに宣言する。
「立つのだ戦士達よ!敵を皆殺しにするのだ!」
「しかしノルマ」
「貴女は」
 ここでオロヴェーゾもガリアの者達もその顔を強張らせてノルマに対して問うのであった。
「貴女はこの前は」
「そうだ。今はその時ではないと」
「今は違う!」
 しかしノルマはそれでも叫ぶのだった。
「皆殺しだ!何があろうとも!」
「何があろうとも」
「そうだ!」
 またしても叫ぶ。
「勇ましい戦士達よ戦いの雄叫びをあげよ!」
「ならば!」
「我々も!」
 誇り高きガリアの戦士達もそれに応えた。そうしてノルマの前に一斉に立ち上がり叫ぶのだった。その手に剣や槍を持って。
「戦え、戦士達よ!ガリアの森で我等が負けることはない!」
「その通りだ!」
 彼等は口々に叫ぶ。
「餓えた狼の様に彼等に襲い掛かり」
「我等の剣や槍を紅に染めてやるのだ!」
「斧もだ!」
「弓も!」
 斧も弓矢も高々と掲げられる。
「ローマ人の血でリグリの汚れた水の上にほとぼしり出るのは彼等の血!」
「身を鎌で刈り取るかのように彼等を撫で斬りとして!」
「ローマの鷲の旗を叩き落せ!」
「神々に彼等の血を捧げよ!」
「太陽の光の前に!」
 ノルマは怖気を奮わせる顔をして彼等の前に立っていた。その彼女に対してオロヴェーゾが問うのであった。
「ノルマよ」
「はい」
 ノルマは兵士達を見据えたまま父に対して応えた。
「生贄はどうするのだ」
「生贄ですか」
「そうだ。戦いの前の生贄だ」
 ガリアの風習である。戦いの勝利を祈って生贄を捧げる。それが彼等の習わしなのだ。
「誰がいいか」
「それは」
 ノルマは祭司としてそれを選ぼうとする。だがここでクロチルデがまた来て彼女に対して言うのであった。
「ノルマ様」
「どうしたの?」
「この森にローマ人が入って来ていました」
「ローマ人が」
「はい」
 ノルマはそれを聞いてそのローマ人が誰なのかおおよそわかった。しかしそれは今はあえて言わないのであった。その顔でまた言うのであった。
「それでそのローマ人はどうなりましたか?」
「捕まりました」
 クロチルデは答える。がリア人達はそれを聞いてまたいきり立つのであった。
「そのローマ人を生贄に!」
「それこそが生贄に相応しい!」
「いえ、待つのです」
 しかしノルマはそう言って彼等を止めるのであった。
「まずは私が生贄を見ましょう」
「貴女がですか」
「そうです」
 そう皆に対して告げる。
「ここにその生贄を」
「はい。それでは」
 クロチルデはそれに応えて兵士達にそのローマ人を連れて来る。その彼とは。
「やはり」
「ポリオーネ!」
「この男が!」
 それはやはりポリオーネだった。ガリア人達の血が騒ぐ。
 
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