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星河の覇皇

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第六部第三章 奸物その四


「うちのチームが勝ったのはやはりウェスト君を監督にしたからだな」
 カレーラスは誇らしげにそう言った。
「おっとカレーラスさん」
 今まではカレーラスの独壇場であったがここでマウムが入って来た。
「ウェスト君は元々うちの監督でしたぞ」
「おっと、そうでしたな」
 このウェストという監督は連合においても知られた監督である。闘将として知られシンガポール出身の白髪の男である。選手育成でとりわけ有名である。
「あの時はかなり苦しめられました」
「ふふふ」
 マウムはそれを聞き満面に笑みを浮かべた。
「彼でうちはようやく連合一になれましたからな」
「うちも遂にそれを達成しましたぞ」
 だがここでカレーラスが反撃に出た。
「これからは野球でも負けはしませんぞ」
「望むところです」
「そういうことはうちに勝ってから言いなさい、野球においては特に」
 ここでポートも入ってきた。
「うちはこと野球に関しては連合で一番ですぞ」
「それは確かに」
「今年も苦しめられました」
 二人は思わずポートに頭を下げるようにして言った。
「ふふふ」
 ポートはそれを受けて誇らしげに笑った。
「我がチームの監督は連合一の名将ですからな」
「ドン=ファチリーニ監督ですね」
 フンプスが尋ねた。
「左様」
 ポートは胸を冗談めかして思いきりふんぞりかえらせた。
「彼には全てを任せてある程です」
「しかしですな」
 ここでマウムが口を挟んできた。
「幾ら何でも乗船の際お金は払うべきでしょう、彼の場合は」
 ファチリーニは堂々たる風格の人物であり下手なヤクザ者ですら逆らえない程の男である。移動の際は当然イーグルグループの船等を使用するが彼はここではフリーパスであった。アメリカ出身で現役時代はサードであった。ちなみにウェストはファーストである。
「よう、御苦労さん」
 その挨拶だけで船員が通してくれるのである。これは彼の力がそれだけ大きいということであった。
「おかしいですかな」
 ポートはそれに対して平然と返した。
「そちらの上監督も同じだった筈ですが」
 そうマウムに返した。ファランクスの監督は上春利という中国出身の監督である。元々はキャッチャーであり知将として有名である。
「彼の場合はフリーカードを提供しているだけです」
「しかし彼にはそれだけの価値はあると認めておられますな」
「はい」
 マウムはそれに答えた。
「彼程の知将はいないでしょうからな」
「知将もいいですが」
 ここでカレーラスも入ってきた。
「やはり闘将が一番ですぞ」
「カレーラスさん」
 だがここでマウムは反撃に出た。
「ウェスト君は元々こちらの監督でしたぞ」
 実はウェストはかってファランクスの監督を務めていた。その育成能力でもってチームを建て直し、五回の連合制覇を果たしている。そして今バイソンで連合制覇も果したのである。
「おっと、そうでしたな」
 カレーラスはそれにとぼけてみせた。
「ですが今は我がチームの監督です」
「むうう」
 マウムはそれに対して苦い顔を作るしかなかった。
「まあ来年も楽しくやりましょう。カレーラスさん」
 ポートが言った。
「今年はそちらに花を差し上げる形になりましたが来年はそうはいきませんぞ」
「それはこっちもです」
 マウムもである。
「この雪辱、晴らさせてもらいますからな」
「それは有り難い」
 カレーラスは二人を前に悠然と微笑んでいる。
「では喜んで受けて立ちましょう。野球で勝つことがころ程楽しいとは思いませんでしたからな」
「ふふふ、これは病みつきになりますからな」
「その通り、どうやら我々はやっとカレーラスさんにその愉しみを教えることができたようですな」
 マウムとポートは笑った。こうして野球の話はつつがなく終わった。
「さて」
 彼等は一息置いてフンプスに顔を向けた。
「本日我々が長官に御会いする為にここへ来た事情ですが」
「はい」
 フンプスはそれを受けて顔を引き締めさせた。
「連合軍と航路の関係です」
 船舶会社といっても色々ある。アナハイム社の様に造る会社もあれば流通を扱う会社もある。彼等は造ってもいるが流通に重点を置いているのである。
「連合軍とですか」
 あらかじめそれはわかっていた。彼は三人に顔を向けた。
「我々の航路は今まで民間用のものばかりでした。これは御存知だと思います」
「ええ、それはわかっております」
 カレーラスにそう答えた。
「我々は船舶会社ですが軍用のものは取り扱ってはおりません。ですから軍用の港湾施設も航路も用意はしていないのです」
「はい」 
 マウムにも答えた。
「おわかりだと思いますが間違っても軍艦が交通できるような状況ではないのです。それはおわかりですね」
「無論です」
 ポートにも返した。
「それを聞いて安心致しました。では我々が最近懸念していることですが」
 彼等はいよいよ本題に入ってきた。
「連合軍の港湾施設が最近急激に整備されておりますがこれは我々の施設や航路とは何も関係はないのでしょうか」
「もし重なったりした場合は何かと不都合が生じますので」
「それを長官にお伺いしたいのです」
「それですか」
 フンプスは一呼吸置いて彼等に言葉を返した。
「それは問題ないと思います」
「何故でしょうか」
「ティアマト級巨大戦艦は御存知ですね」
「はい」
「あの化け物の様な艦ですな」
「国防省は今あの艦を使用することが可能な港湾施設及び航路を整備していると聞いております。あの艦は民間の港湾や航路では支障が出るでしょう」
「確かに」
「航路はともかくあの艦を収めることのできる施設は民間では無理です」
 軍艦と民間の艦船では構造が根本から異なる。彼等にとってみればあの巨大戦艦は全く未知の部類の存在と言ってよいものであった。
「それでは港湾施設は問題ありませんな」
「それを聞いて安心致しました」
 彼等はそれを聞いて納得した様に頷いた。
「そして次の問題ですが」
 すぐに別の話題に入った。
「航路ですね」
 フンプスがそれについて問うた。
「はい」
 彼等はそれに対して頷いた。
「我々も連合軍の航路を拝見させて頂いたのですが」
「それまでの各国の軍の航路を整備し、より効率的な航路に整備していっておりますな」
「そのようですね」
 それはフンプスも知っていた。だからすぐに答えることができた。
「そちらも順調に進んでいるようです」
「それは何より」
 三人はそれに対して満足した様に頷いた。
「ですがまだまだですな」
「といいますと」
「合理的な交通にはまだ至っていないということです」
「少なくとも交通の視点から見るとそうなります」
「交通からですか」
「はい」
 三人はそれに答えた。流石にこの世界での巨人達と言われるだけはあった。確かな眼であった。
「これは意図的だと思われますが民間の交通ルートと混ざるのを避けておりますな」
「はい、それは八条長官からもお聞きしております」
 フンプスはそれに答えた。
「何でも民間人に迷惑がかからないようにと」
「はて迷惑とは」
「連合軍は少なくともかなり規律正しい軍ですが」
 これは八条が軍律を徹底させているからである。精々飲酒でのトラブルや風俗店での金銭でのトラブル位だがそれに対してもかなり厳しく対処している程である。その為彼等に対する市民の信頼は高い。
『まずは紳士であるように』
 そういった訓示も出されている。当然ながら将校に対しては特に厳しい。
「それとはまた別の問題です」
「別の問題ですか」
「はい、交通の邪魔になりかはしないかと。八条長官はそれをいたく気にしておられますな」
 そのことについて実際に八条とフンプスの間で色々と議論があった。結果として軍用の航路と民間用の航路は完全に分けられた。これは戦略としてはまずい場合も多々あったが民間人への配慮を重視した為こうなったのである。
 
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