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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第四十六話 紅の幻想

              第四十六話 紅の幻想

クロガネの艦橋において。ヴィレッタとダイテツが話をしていた。
「現在ですが」
ヴィレッタがダイテツの左脇に立って報告をしている。ダイテツは座ってそれを聞いている。
「我が軍の戦力は問題ありません」
「なしか」
「はい」
あらためてダイテツの言葉に答える。
「そしてシャドウミラーの動きですが」
「何かわかったか?」
「いえ」
虚しく首を横に振るだけであった。
「残念ですが今はまだ」
「そうか。ならば情報収集を続けよう」
「わかりました」
「もう一つ聞きたいことがあるのだが」
ダイテツはここで話を変えてきた。
「何でしょうか」
「あの二人のことだが」
「ラミアとアクセルですね」
「そうだ。君はどう思うか」
率直にヴィレッタに問うてきた。顔を彼女に向けて。
「難しいことは事実だと思います」
「そうか、やはりな」
答えはわかっていた。だから驚きはしなかった。
「ですがロンド=ベルにはかつて敵だった者も多いです」
「そうだな」
「私もまた」
ヴぃれったもかつてはそうであった。
「そうでありましたし」
「そうだったな。それを考えれば」
「はい。希望はあります」
ヴィレッタもこう言うのだった。
「ですから」
「そうだな。バルマー戦役のことだが」
「あの時ですか」
「レビ=トーラー。マイ=コバヤシだが」
「ええ」
正式な名は今はそうなっている。しかし皆がレビと呼んでいるのだ。
「彼女もあの時は操られていた」
「そうでした。ユーゼス=ゴッツォに」
「わしはその時はいなかったが。そうだったな」
「おそらくはあの二人も」
ヴィレッタはこう考えていた。
「ですからきっと」
「わしは常々考えているのだ」
ここでダイテツは言った。
「何をでしょうか」
「ロンド=ベルには不思議な縁があるとな」
彼が言うのはそこであった。
「縁ですか」
「かつて敵対していた者が我等の同胞となり共に戦う」
「確かに」
「我々にはそれを受け入れる度量がある」
また言うのだった。
「わしはそう信じておる」
「確かに」
己の言葉が偽りではないと信じていた。ヴィレッタもまた。二人の心は今同じものを見据えていた。
「それでは今後は」
「続けるべきだ」
結論はもう出ていた。
「説得をな」
「そうですね。では二人が出た時はまた」
「頼むぞ」
そう話をしていた。その時レビは一人己の部屋で眠っていた。しかしそこで彼女は夢の中においてもう一人の自分と話すのであった。
「目を覚ませマイ」
彼女をマイと呼んでいた。
「マイ=コバヤシ」
「うう・・・・・・」
「御前も見たはずだ、あの女を」
もう一人の自分が語る。レビをマイと呼んで。
「御前が置かれている状況はあのラミアという女と同じ」
「どういうことだ、それは」
「御前の周りの者は全て『敵』」
そう『彼女』は言う。
「我等を打ち倒した憎むべき『敵』」
「『敵』!?」
「そうだ」
彼女はさらに言ってきた。
「アヤ=コバヤシ、リュウセイ=ダテ」
レビにとってはかけがえのないものになりつつある二人だった。
「ロンド=ベルの者達は全て我らの『敵』だ」
「嘘だ!」
レビはそれを否定した。それを言葉にも出す。
「そんなことは有り得ない」
「嘘ではない」
しかしもう一人の自分は邪な声で囁くのだった。
「あの者達は我等。ジュデッカと戦ってきた」
「しかしそれは」
ユーゼスに操られてのことだった。それを言おうとするが頭が割れそうになる程痛んだ。
「う、うう」
頭を押えて苦しむ。
「うう・・・・・・」
「さあ、迷うことはない」
ここでまたもう一人の自分が囁く。邪な笑顔と共に。
「私と一つになるのだマイ=コバヤシ」
こう囁く。
「我等の『敵』を倒す為に」
また言う。
「再びジュデッカを甦らせる為に」
「いや、違う」
しかしレビはそれを拒む。そのマイ=コバヤシとして。
「私は『敵』になりたくない。アヤ達の『敵』には」
「『敵』だ」
しかし彼女はそれでも言う。
「あの者達は我等の『敵』なのだ」
ここで必死に拒むレビから何かが出て来た。それは力だった。
「ううっ、あああっ!!」
「『敵』を倒せ!」
彼女はまた叫ぶ。
「我等の『敵』を。アヤ=コバヤシ達を倒せ!」
「嫌だ!」
しかしそれでもレビは拒む。
「私は・・・・・・!」
ここでレビを誰かが揺り動かした。彼女が目を開けるとそこにはシャインとラトゥーニがいた。
「マイ!」
シャインが必死に彼女に声をかける。
「しっかりなさいませ!」
マイ「!!」
「マイ・・・・・・」
ラトゥーニもいる。彼女は部屋の外から彼女の声を聞いて慌てて入って来たのだ。
「シャイン、ラトゥーニ」
レビが身体を起こして二人に問うた。
「どうして御前達が」
「貴女がうなされているのが聞こえたから」
ラトゥーニが彼女に答えた。
「それで」
「そうだったのか」
「大丈夫でございますか!?」
シャインが気遣う顔で彼女に問うた。
「あ、ああ」
二人に応えながら。夢の中でのことを思い出すのだった。
(ラトゥーニやシャイン王女が私の『敵』)
そのことを。
(アヤ達が私の)
しかしそれについて思うのだった。次第にはっきりと。
「マイ!?」
「ち、違う」
首を横に振ってそれを否定した。
「!?」
「違う、そんなことはない!」
またそれを否定した。
「そんなことは!!」
そう言って部屋を飛び出る。二人は慌てて彼女を追い掛ける。
「ど、何処へ行かれますの!?」
「マイ・・・・・・!」
だが彼女はシャワールームに入るのだった。そこで何かを必死に洗い落としていた。必死に。まるで何かを忘れたいかのように。
彼女のことはすぐに皆に伝わった。ラーダがアヤに言う。
「アヤ」
「ええ」
アヤは暗い顔をして彼女の言葉に頷いていた。
「わかっているわ」
「レビ=トーラーの心がまだあの娘を」
「けれどそれが事実なのよ」
アヤは苦しい声で呟いた。
「私達もそれを否定することはできないわ」
「そうだったわね。貴女はその戦いにいたのだから」
「ええ。あの時で終わったと思ったのだけれど」
その時はそうであった。
「けれど。そうじゃなかったのね」
「そうだな」
そこにヴィレッタが来た。彼女も複雑な顔をしている。
「事実なのだしな」
「隊長・・・・・・」
「私もそうだった」
クインシィも来ていた。
「事実を。受け入れるしかないのだ」
「クインシィ、貴女も同じ考えなのね」
「そうだ」
レビの言葉に頷いてみせた。
「己を認めるのはまずは己自身だ」
「そうね。レビもまた」
「アヤ=コバヤシだったな」
今の彼女の名であった。
「しかし。まだレビ=トーラーでもあるのか」
「ユーゼス=ゴッツォに操られていた時間は長かったわ」
「そうらしいな」
クインシィはこれについてはよくは知らない。その時彼女はロンド=ベルにはいなかったからだ。だからこれは仕方のないことであった。
「その時の記憶がまだ残っているから」
「同じか」
ここでクインシィは言った。
「同じ!?」
「そうだ。あの女と」
「ラミアのことだな」
「そうだ」
ヴィレッタの言葉に頷いた。
「あの女と同じなのだな。レビも」
「そうね」
アヤはクインシィのその言葉を認めた。その通りだった。
「同じなのね。そういえば」
「そうだ。それを考えれば誰もが同じだ」
業を知っている女だからこその言葉であった。
「私達はな」
「レビ・・・・・・ラミア・・・・・・」
暗鬱な空気がロンド=ベルを覆おうとしていた。彼等はラミアとアクセルを連れ戻そうと考えているがその手懸かりは見つからないのだった。
「ようやく真実に気付いたか」
また『彼女』がレビに囁いていた。
「や、止めろ!」
「恐れることはない」
彼女はさらにレビに囁く。
「全てを。私を受け入れろ」
「わ、私は」
必死に拒み続ける。
「御前じゃない!」
「だがそれこそが違うのだ」
悪魔的な笑みと共に囁き続ける。
「御前はこの私」
また言う。
「ジュデッカの巫女レビ=トーラー」
「レビ=トーラー」
「そう。だから」
力がまた発動される。それがレビから出された。
「くっ!ああっ!!」
「さあ」
その悪魔めいた笑みがまたレビにかけられる。
「我に身を委ねよ」
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
「我と共に『敵』を倒すのだ」
彼女は囁き続ける。それを聞くレビの目が虚ろになってきた。
「『敵』を・・・・・・倒す」
「そうだ」
悪魔的なものがさらに強くなった。
「我等の『敵』を打ち倒せ。その為の力を手に入れろ」
「力を・・・・・・」
「そして」
また彼女は言う。
「我が玉座に戻るのだ」
不意にレビが出撃した。ロンド=ベルの中は大騒動になった。
「マイがいなくなった!?」
「あ、ああ」
リュウセイがシャインに答える。
「急に出撃したんだよ」
「そうですか」
シャインを嫌な予感が襲った、
「私達もあの子の様子がおかしかったので捜していたのですが」
「若しかして」
ラトゥーニが気付いた。
「自分のことを!?」
「!?まさかそれは」
ライはそれで気付いた。
「あのバルマー戦役のか」
「そうでしょうね」
ガーネットがそれに頷いた。
「それしかないわ」
「俺達は聞いただけだけれどよ」
ジャーダも聞いてはいた。
「もう一人の自分ってのがいるんだろうな」
「そうだと思う」
ラトゥーニはジャーダのその言葉に頷いた。
「だから今は」
「追うぜ」
リュウセイの言葉はそれ以外にないものだった。
「あいつは俺達の仲間だ」
「うん」
ラトゥーニはリュウセイのその言葉にこくりと頷いた。
「じゃあすぐに」
「その通りだ」
リュウセイもラトゥーニのその言葉に頷く。
「過去は知ってるさ」
それは誰も否定できない。
「けれどな。例えどんな過去があっても今のあいつは」
「そうだ」
「その通りですわ」
ライとシャインが彼の言葉に頷いた。
「皆で手分けしてマイを捜すぞ」
「ええ!」
こうして彼等はレビ、いやマイを捜しに向かった。ロンド=ベル総員で出撃してだった。
マイは土佐湾にいた。そこでR-GUNを駆っていた。
「私は・・・・・・」
まだ夢の中のことが頭を支配していた。
「どうすればいいんだ」
ただ先に進む。しかしそこには何もない。それでも進む。見えないものを見ようとするかのように。
ロンド=ベル総員で探す。その途中でライはヴィレッタに対して声をかけてきた。
「隊長」
「どうした?」
「確認しておきたいことがあります」
「確認?」
「はい」
ライはヴィレッタに対して頷くのだった。
「何をだ」
「レビ、いえマイのことです」
彼は言うのだった。
「トーラーという名ですが」
「それか」
「やはり御存知なのですね」
「知らないと言えば嘘になる」
それが彼女の返事であった。
「知っているわ、確かに」
「やはり。ではトーラーというのは」
「バルマー十二支族」
霊帝の下でバルマーを治めるその一族達だ。
「あのユーゼス=ゴッツォもラオデキア=ジュデッカ=ゴッツォもその中の一人よ」
「そうだったのですか」
「ええ。ゴッツォ家とジュデッカ=ゴッツォ家」
それが彼等の家の名であった。
「その二つの家と同じよ。またマーグもまた」
「兄さんも!?」
「ええ」
そこにはタケルもいた。ヴィレッタは彼に対しても答えたのだった。
「そうよ。彼はギシン家の者」
「そうだったのか。兄さんは」
「ギシン家の直系。タケル、いやマーズ」
タケルを本当の名で呼んでみせてきた。
「貴方もそれは同じよ」
「それは知っていたけれど」
「そうよ。貴方もそうした意味ではマイと同じなのよ」
「兄さんもまた」
「そして隊長」
またライがヴィレッタに問うた。
「トーラー家というのは」
「トーラー家は祭祀の家」
ヴィレッタは言う。
「そして呪術も操る家」
「呪術も」
「レビ、いえマイを洗脳したのはトーラー家の者よ」
「誰ですか、それは」
それが誰なのか聞かないわけにはいかなかった。ここまで来て。
「エツィーラ=トーラー」
「それがその者の名ですか」
「そうだ。バルマー帝国祭祀長」
その官職についても述べる。
「呪術においても帝国において比類なき腕の持ち主よ」
「そいつがマイを洗脳していたのかよ」
「そうよ。しかもかなり悪質なものだったみたいね」
こうリュウセイに答えた。
「今になって出て来るなんて」
「くそっ、そいつがマイを」
リュウセイはここまで聞いて憎しみの篭った声を出した。
「マイを洗脳していやがったのか」
「私も彼女についてはよくは知らないわ」
「隊長もですか」
「バルマーは階級社会」
所謂封建制度である。バルマーの特徴だ。
「得られる情報は上になればなる程増えていくものだから」
「隊長ではそこまでの情報は得られなかったのですか」
「ええ、そうよ」
こうライに答えた。
「当然話したことはないわ」
「ですか」
「ええ、けれど」
ここでヴィレッタは言った。
「マイは自分でレビの残留思念を振り払おうとしているわ」
「自分で」
「私はそれを信じるわ」
その声が強いものであった。
「それに」
「それに?」
「アヤとマイがツインコンタクトを行わなければ今のSRXは安定しないわ」
これは戦力分析による言葉であった。
「動き出した様々な勢力に対抗するには」
「今というタイミングでマイをSRXチームに加え荒療治をするしかないと?」
「そうよ」
またライに答えた。
「だからあの子を私達で守っていかなければならない」
言葉が強いものになった。
「これから私達が生き残る為にSRXの下に集わなければならないのよ」
「そうなのか」
「マイもまた」
「そしてライ」
ヴィレッタはまたライに声をかけてきた。
「はい」
「もう一つ貴方に言わなければならないことがあるわ」
「それは一体」
「私は」
ヴィレッタは語りはじめた。
「私はイングラムのクローン」
「えっ!?」
「何と」
それを聞いたそこにいる者全てが驚きの声をあげた。
「イングラム少佐のクローンだったなんて」
「まさかとは思っていたが」
「彼の代行者として創られた存在」
こう告げるのだった。
「そして」
「そして?」
話はさらに続いた。
「私の役目は貴方達と共にSRXで来るべき脅威を振り払うこと」
また告げてきた。
「それが私の真意よ」
「じゃあそれでいいさ」
「えっ!?」
今度はヴィレッタが驚く番であった。リュウセイの言葉に対して。
「今何と」
「だからそれでいいんだよ」
またリュウセイは言ってきた。あっけらかんとした調子で。
「クローンなんて今更って感じだしよ」
「それもそうだな」
タケルがそれに頷いた。
「そんなのはもう全然問題じゃないな」
「そうなの」
「行きましょう隊長」
ライがここでまた言ってきた。
「俺達の仲間を助ける為に」
「ライ・・・・・・」
「例えどのような過去を持っていようとも」
ライはさらに言葉を続ける。
「俺達はSRXの下に集ったチームなのでしょう?」
「ええ」
「それで充分です」
笑った。珍しく曇りのない笑みで。
「隊長、マイの後を追いましょう」
「わかったわ。ライ」
「はい」
「・・・・・・ありがとう」
ライに礼を述べる。また一つ彼等の中の絆が出来上がったのであった。
マイは土佐湾上空にいた。そこで彼女は突如としてシャドウミラーの軍勢に出会ったのだった。
「おやおや」
その軍の指揮官はアーチボルトであった。
「ロンド=ベルですか。どうやら偵察のようですね」
「くっ、こんなところで」
「ですが偵察とはいえ容赦はしませんよ」
酷薄な笑みをたたえて告げるのだった。
「私とてシャドウミラーなのですからね」
「戦うしかないか」
「さて、敵は一機です」
その酷薄な笑みのまま指示を出す。
「ゆっくりと時間をかけて仕留めなさい」
「駄目か」
幾らマイといえど数が違い過ぎた。こう判断するのも当然だった。
「ここが私の死に場所か」
「マイ!」
だがその時だった。クインシィが姿を現わしたのだった。
「クインシィ、どうしてここに」
「御前の行く先は感じていた」
彼女の勘であった。
「やはりここだったか」
「そうか、私の動きを読んでいたのか」
「それは少し違う」
それは否定するのだった。
「違う!?」
「そうだ。御前のことが心配だった」
こうマイに言う。
「だから勘を頼りにここに来たんだ。正解だったか」
「私を心配しているというのか」
「当然だ!」
応えるクインシィの声が強くなった。
「仲間だ!仲間を心配しないで何が戦士だ!」
「仲間・・・・・・私が」
「そうだ!」
彼女はまた言うのだった。
「仲間だから来たのだ。理屈ではない!」
「そうか。私が仲間か」
「今皆に連絡をした」
クインシィの動きは速かった。
「すぐに皆来る。それまで持ち堪えるぞ」
「済まない。それじゃあ」
「来るぞ」
シャドウミラーの軍勢が二人に迫る。
「いいな。皆が来るまでな」
「わかった。生き残る」
「そしてだ」
クインシィはまたマイに言うのだった。
「何だ、今度は」
「御前はマイ=コバヤシだ」
これが今度のクインシィの言葉だった。
「わかったな。マイ=コバヤシだ」
「マイなのか。私は」
「そうだ」
そう告げるのだった。
「レビ=トーラーではない。わかったな」
「わかった。では私は」
「そうだ。過去は乗り越えていくものだ」
これはクインシィが己の身でわかったことである。だからこそ言えるのであった。
「いいな」
「ああ」
「だからだ。生き残るぞ」
またクインシィの言葉が鋭くなった。
「何としてもな」
「おやおや。どうにも暑苦しいですね」
それまで静かに話を聞いていたアーチボルトはここでまた言ってきた。
「ですがこちらとしてもこれがビジネスなのでね。さて」
「戦うというのならもうわかっているぞ」
「いえいえ。それだけではありません」
慇懃にクインシィに言葉を返してきた。
「こちらも援軍を呼ばせてもらいましたし」
「御前達もか」
「ええ。では御二人共」
またしても酷薄な笑みを見せてきた。
「ここでさよならを」
その言葉と共に軍を進めさせる。マイとクインシィは僅か二機でその大軍を迎え撃つのだった。
敵は多い。しかし二人はその攻撃を右に左にかわしながら反撃を加えるのだった。
「甘いなっ!」
マイは攻撃に関しては積極的だった。次々に反撃を浴びせて撃墜していく。
「この程度で私を撃ち落とすつもりか」
「そうだ!」
そしてそれはクインシィも同じであった。同じく攻撃をかわし反撃で倒していく。
「この程度ではな!やられるわけにはいかない!」
「やはりそうですか」
しかしアーチボルトは彼等を見てもやはり平然としていた。
「もっともこれは想定の範囲内でして」
「どういうことだ!?」
「こっちも切り札があります」
彼は言う。
「とっておきの切り札がね」
「何だ、一体」
「何を出すというのだ」
「貴女達もよく知っている方々ですよ」
これを聞いてマイもクインシィも何かを察した。
「よくね」
「まさか」
「それは」
「さあ、おいでなさい」
アーチボルトは涼やかに言ってみせてきた。
「貴方達にとっての最高の相手ですよ」
そのアーチボルトの後ろに出て来たのは。あの二人だった。
「ラミア!」
「アクセル!」
「まさか二人だけとはな」
「しかし。容赦はしないぞ」
「くっ、もう傷が癒えているのか」
クインシィはアンジュルグの右腕を見て呻く様に呟いた。
「何という回復力だ」
「シャドウミラーを甘く見ないことだ」
ここでの言葉もシャドウミラーのW17としての言葉であった。
「あの程度の傷。どうということはない」
「そういうことだ。では倒させてもらう」
アクセルも言う。そしてそのまま二人に迫る。
二人が迫り攻撃を浴びせようとする。ラミアが弓を引き絞る。
「死ねっ!」
弓を放つがそれは二人にかわされた。
「この程度では当たりはしないか」
「私は死ぬわけにはいかない」
マイが攻撃をかわしながら言った。
「このままでは。こんなところでは」
「ではそのまま逃げ続けるのだな」
そこにアクセルが来た。
「できればの話だが」
「くっ、マイ!」
クインシィはラミアの再度の攻撃に動きを止められている。マイに向かうことはできなかった。
「いかん、このままで」
「死ぬがいい!」
「くっ!」
アクセルの攻撃がそのまま貫こうとしていた。だがその時だった。
不意に二人の間に誰かが出て来た。それは。
「なっ、貴様は」
「間に合ったぜ!」
リュウセイであった。彼がアクセルの拳を己の拳で受け止めていた。
「ギリギリだったみたいだがな!」
「貴様、どうしてここに!」
「マイを探していたんだよ!」
こうアクセルに言い返す。
「危ないところだったがな」
「マイ!」
「よかった、無事ね」
SRX全員がそこにいた。何とか間に合ったのだ。
「マイ、わかっているつもりだ」
リュウセイはアクセルが退いたのを見てからマイに告げた。
「けれどな。御前は一人じゃないんだ」
「私は。一人じゃない」
「そうさ。何かあったら俺達に言え」
そしてこう言う。
「力になるからな。御前を支える力にな」
「私を支えるというのか」
「そうだ」
「そうよ」
ライとアヤも言ってきた。
「だからだ。安心しろ」
「貴女は私の妹じゃない」
アヤも言う。
「だから。何かあったら話して、本当に」
「わかった」
「そしてだ」
そこにはヴィレッタもいた。彼女もマイに対して語る。
「御前はもうレビ=トーラーではない」
「レビではないのか」
「そうだ。マイ=コバヤシだ」
そう彼女に告げた。
「それ以外の誰でもない。レビ=トーラーは消えた」
こうも言う。
「わかったな」
「・・・・・・いや」
しかしマイはその言葉には首を横に振る。
「それはわからない」
「わからないのか、まだ」
「そう、まだ」
リュウセイにも答える。
「けれどこれからわかる。だから」
「そうだよ、これからだよ」
リュウセイはその言葉に希望を見出した。
「これからマイ=コバヤシなんだよ。それでいいよな」
「そう。私はマイ=コバヤシ」
それを今ようやく実感しだしていた。
「マイ=コバヤシとして戦い、生きる」
そのうえでラミアに顔を向けた。アクセルにも。
「ラミア、アクセル」
「何だ?」
「御前達も私と同じなんだ」
こう二人に言うのだった。
「一緒だと、私達と御前が」
「何を戯言を」
「いや、戯言じゃない」
だがマイの言葉ははっきりとしていた。
「人形から人間になれる。だから」
「言った筈だ。私は兵器!」
しかしその言葉をラミアは否定した。
「それ以外の何者でもない!」
「そうだ!」
アクセルもまた。
「そう言って俺達を惑わすつもりなら無駄だ!」
「生憎無駄ではありませんことよ」
「そうよ」
また誰かが出て来た。それはシャインとラトゥーニであった。
「マイ、来ましたわ!」
「私達だけじゃないわ」
「何っ、すると」
「ええ、そうよ」
ラトゥーニがマイに答える。
「クインシィさんの通信を受けたから」
「そうか、間に合ったか」
「やいやいやい!」
早速タスクの声が聞こえてきた。
「やっぱり出てやがったな!」
「けれど今回も上手くはいかないわよ」
レオナもいる。そして他の面々も。
「姉さん、無事だったか!」
「勇、私は無事だ」
クインシィは自分の弟にこう言葉を返す。
「マイもな。何とかな」
「そうか。それなら後は」
「ラミアさん!アクセルさん!」
ヒメは二人に己の言葉をかけた。
「気付くんだよ!二人はそこにいたら駄目なんだよ!」
「まだ言うのか」
「何度でも言うよ!」
ヒメの決意は変わらない。
「こっちに戻って来て!早く!」
「早くも何も」
「俺達は最初からシャドウミラーの人間だ」
二人はヒメの言葉も拒む。
「それ以外の何者でもない。言った筈だ!」
「それでもまだ言うか!」
「だから何度でも言ってやるって言ってんのよ!」
アムが二人に言い返す。
「何処まで頑固なのよ!」
「いい加減にしねえと腕づくで連れ帰るぞ!」
これはヤザンの言葉であった。
「何かわからねえが腹が立ってきたぜ、おい」
「それはまあ言い過ぎじゃないの?」
それにライラが突っ込みを入れる。
「強引なのは女の子に嫌われるよ」
「それもそうか。やっぱり家庭的にだな」
「そういうことだね」
「とにかくだ。何度でも言ってやる!」
今度はケーンが叫ぶ。
「戻って来い!あんた達は仲間なんだ!」
「こうなったら俺達が!」
「行きます!」
出たのはアラドとゼオラであった。二人の動きを見て両軍もまた動いた。
「突撃だ!」
「攻撃開始です」
アムロとアーチボルトがそれぞれ指示を出した。両軍はあらためて総力戦に入った。
その中でアラドとゼオラは二人に向かう。オウカが彼等のフォローをする。
「いい、二人共」
「ええ、わかってますよ」
「ここで何としても」
「それが無理でも」
オウカはここで最悪のケースも考えていた。
「二人の心をこちらに向けるのよ」
「二人のですか!?」
「ええ、そうよ」
これがオウカの考えであった。
「少しずつだけれどこちらに向けられているから」
「だからですね」
「いいわね」
また二人に告げた。
「周りの敵は私が引き受けるわ。だから」
「すいません」
「そちらは御願いします」
そうは言いながらも二人も周りの敵を切り払っていくのだった。そうして前に進む。オウカはその二人の横や後ろから来る敵を蹴散らしていた。見ればシャインとラトゥーニもそこにいる。
「このまま前に。見えたわ!」
「はい!」
「それじゃあ!」
二人はラミア、アクセルの前に前に来た。そうして今言うのだった。
「ラミアさん、アクセルさん!」
「本当に今ここで!」
「まだ言うか!」
「シャドウミラーの俺達に!」
「操られてるだけなんですって!」
アラドはその二人に言う。
「それをわかって下さい!」
「私達と一緒にいたじゃないですか!」
ゼオラもアラドに続く。
「あの時を。ですから」
「もう一度俺達と一緒に」
「御前達と」
ここでラミアは無意識のうちに言葉を出していた。
「一緒にいた時」
「そうです、あの時です」
アラドはここぞとばかりに彼女に告げる。
「あの時と同じようにこれからも」
「私達と一緒に」
「またしても戯言を」
相変わらずの調子のラミアであった。
「私はシャドウミラーのW17だと何度言えばわかるのか」
「だから言ってるだろ!」
「そうです!」
しかし二人も退かないままであった。
「何度だって言うって!」
「だからラミアさん、アクセルさん!」
二人は懸命に呼びかける。
「もう一度ロンド=ベルに!」
「戻って下さい!」
「・・・・・・戻る」
不意にラミアの中に何かが宿った。
「私は人形なのにか」
「人形なんかじゃないんですって!」
「アラドの言う通りです!」
「私が人形ではない」
ラミアの目がまた動いた。
「どういうことだ。では何だというのだ」
「人間なんですよ!」
「私達と同じ!」
「御前達と同じ・・・・・・私が」
「それをさっきから言ってるんじゃないですか」
「本当にわからないんですか!?」
二人も必死だった。これまでになく必死にラミア達に訴えかけていた。
「人間なんですよ!」
「人形なんかじゃありません!」
「私は・・・・・・人形ではないのか」
「俺もまた」
「全く。どういった奇特な人達なんでしょうね」
アーチボルトは話を聞くうちに彼等のことを冷笑するようになった。冷笑は彼の常であるがそれは常にも増して深いものになっていたのだった。
「人形だと自分達で言っているというのに」
「貴様にはわからないことだ」
レーツェルが彼の前に出て来て言う。
「人の命を何とも思わない貴様にはな」
「ほう、また貴方ですか」
アーチボルトは彼のヒュッケバインを見てもやはりいつものシニカルさを崩してはいない。
「つくづく飽きない方ですね。何度も私の前に出て来られて」
「これも言った筈だ」
いつもの冷静さの中に激情を込めていた。
「貴様は私が倒すと」
「あのことをまだ憶えておられると」
「答える気はない」
ここでもレーツェルは必死に激情を隠していた。
「特に貴様にはな」
「ふむ、まあいいでしょう」
こう言われて感情を乱すアーチボルトではなかった。やはり平然としている。
「それならそれで。さて」
「ここで倒す」
二人は対峙をはじめた。風がその間に舞う。
「勝負といきましょうか」
「行くぞ、トロンベ」
レーツェルは愛機に声をかけた。
「一気に駆け抜けるぞ」
彼等は戦いに入る。その周りでは既に両軍の戦いが最後の段階に入っていた。その中で二人もまた戦いに入るのだった。
その最後の段階においてもアラドとゼオラはラミア達の説得にあたっていた。それは彼等の攻撃をかわしながらの懸命の説得であった。
「そこまでしてする理由は何だ」
今度はアクセルが二人に問うのだった。
「俺達は人形だと何度でも言っているが」
「だからそれは違うんです!」
「貴方達は人間なんです!」
「何故そう言える!」
また拳を繰り出す。今度はまともにアラドのビルトビルガーを完全に捉えていた。アラドといえどそれはよけることができない速さであった。
「くっ、しまった!」
「アラド!」
ゼオラが思わず声をかける。しかし間に合わない。
「死ね!戯言と共にな!」
「ちぃっ!」
今まさにアラドを潰そうとしていたその時だった。二人の間にマイのR-GUNが来た。彼女はその拳をその両腕をクロスさせて受け止めたのであった。
「マイ!?」
「そんなことしたら!」
「ぐううっ!」
その衝撃はR-GUNといえど満足に耐えられるものではなかった。両腕が破損しかなりのダメージを受けてしまっていた。
しかしそれでもマイには傷はなかった。かなりのダメージではあったが。
「私にもわかっている」
マイはアラド達にではなくラミア達に言っていた。
「私も同じだったからだ」
「同じ!?」
「そうだ」
ラミアの言葉に答える。
「私もかつては人形だった」
「御前が。そうだったのか」
「レビ=トーラー」
以前の自分の名を告げた。
「それがかつての私の名前だった」
「それは聞いている」
アクセルが答える。
「既にな。ロンド=ベルにいた頃に」
「そうだった。だが」
しかしマイはここで言うのだった。
「しかし今は違う。私はレビ=トーラーではない」
さらに言う。
「人形でもない。私はマイ=コバヤシだ!」
「何っ!?」
「人間だ!御前達と同じだ!」
「御前達と同じだと」
「そうだ!」
二人に対して叫んだ。
「御前達も私と同じだ。人間なんだ!」
「人形ではなく人間だと」
「そうだ、私と・・・・・・いや私達と同じだ」
「だからそれをさっきから何度も言ってるんですよ!」
「同じなんです!」
またアラドとゼオラが二人に言ってきた。
「だからロンド=ベルに!」
「帰りましょう!」
「・・・・・・何故だ」
ラミアに異変が起こった。
「何故御前達の言葉を否定できなくなっているのだ」
「何っ、ラミア」
アクセルが今のラミアの言葉に顔を顰めさせた。
「御前、まさか」
「いや、違う」
それは言葉では否定する。
「私は。ラミア=ラヴレス」
「何っ!?」
失言だった。ラミア=ラヴレスと言ってしまったのだ。
「今何と言った」
「うう・・・・・・」
「W17、どういうことだ」
「それは。つまりだ」
「・・・・・・落ち着け」
ラミアに対して言う。
「わかったな。いいな」
「・・・・・・ああ」
「下がれ」
次にアクセルが出した言葉はそれであった。
「下がれ!?」
「そうだ」
アクセルはまた告げた。
「いいな。ここは」
「・・・・・・わかった。それではな」
ラミアはその言葉を受けて撤退した。それを見届けてからアクセルも。
「仕切り直しだ」
こうマイ達に告げたうえでだ。
「また会おう。いいな」
「アクセルさん、あんただって」
アラドはアクセルに対しても言うのだった。
「わかっている筈なんだ。だから」
「私達は絶対に貴方を」
「無駄なことを何時までもやってろ」
それに対するアクセルの態度はあくまで冷淡であった。少なくともそのふりをしていた。
「何時までもな」
「御前も人間だ」
そのアクセルにマイも告げた。
「憶えておくのだ」
「・・・・・・ふん」
顔に嫌悪を浮かべさせて撤退する。アーチボルトもそれを見て兵を退かせるのだった。
「では私達もこれで」
「去るというのか」
「遭遇戦ですしね」
それを理由にするようであった。
「正直そんなもので無駄に戦力を消耗するのは好きではないんですよ」
「何を今更」
レーツェルはその彼に言い返す。
「本来はですよ。それでは皆さん」
言葉だけは慇懃であった。
「また御会いしましょう」
こう告げて戦場を去った。後に残ったのはロンド=ベルの者達だけであった。
その中でSRXチームがマイのところに集まる。そうして彼女に声をかけるのだった。
「やったな、マイ」
「御前は遂に」
「どうしたのだ?」
マイはキョトンとした顔でリュウセイとライの言葉に応えた。168
「私が何をしたというのだ?」
「何がって御前」
「貴女は自分で言ったのよ」
アヤも言ってきた。
「私がなのか」
「そうよ。レビ=トーラーじゃないって」
ラミア達に告げた言葉であった。
「そう言ったじゃない」
「あれか」
「そう、あれよ」
またマイに言う。
「貴女はもうレビ=トーラーじゃないの。マイ=コバヤシなのよ」
「そうか。私はもう」
「ええ、そうよ」
にこりと笑ってマイにまた告げる。
「もう過去は振り払ったのよ、自分の手で」
「マイ=コバヤシとしてだな」
「そういうこと。だからもう夢で悩まされることもないわよ」
「人間になれたんだな」
マイはそれをこう表現した。
「私は」
「!?ああ、そうか」
リュウセイは最初その言葉の意味がわからなかったがすぐに察した。
「そうなるよな、これは」
「そういうことだ。そしてあの二人も」
ライも言う。
「何時かきっとな」
「そう。必ずその時は来る」
ヴィレッタが告げた。
「だから諦めないことだ」
「そういうことね。けれど今は」
「とりあえずはハッピーエンドだな」
ガーネットとジャーダが笑って言ってきた。
「さて、そのハッピーエンドの中で帰りましょう」
「何だかんだで激しい戦いだったからな」
「そうだな」
二人のその言葉にクインシィが頷く。
「すぐにまた次の戦いもあるしな」
「そういうこと。その次の戦いの為にも」
「もう帰ろうぜ」
「わかった」
マイはその言葉を受けてこくりと頷いた。
「ロンド=ベルにな」
今己の帰るべき場所を見出したマイであった。そしてそこに帰る。最早レビ=トーラーではなくなっていた。マイ=コバヤシとなって帰るのであった。
戻ったマイは一応は処罰は受けた。しかしそれは営巣に一日という軽いものであった。
「何か軽いですね」
「それは否定できないわね」
サイにマリューが答えていた。
「けれど事情が事情だしね」
「そうですね。それは」
サイも頷けるところがあったので納得した。
「確かに」
「それによかったですよ」
今度口を開いたのはトールであった。
「あのままマイがいなくなったらそれこそ取り返しがつかないところだったんですから」
「そうよね。ただ戦力としてだけじゃなくて」
「はい」
この先はもう皆同じだった。
「仲間がいなくなりますからね」
「そういうこと。正直トールがいなくなった時も皆心配したんだぞ」
「悪い悪い」
こうカズイに返す。
「俺もあの時は死んだかと思ったよ」
「不吉なこと言わないの」
ミリアリアが顔を顰めさせて今のトールの言葉に突っ込みを入れる。
「あの時本当に心配したんだから」
「だから御免って」
「スカイグラスパーが真っ二つだったわね」
マリューはそのことをはっきりと憶えていた。
「けれどよく考えたらそれからも」
「そうですね」
今の彼女の言葉にサイが頷く。
「激戦ばかりですから。生き残っているのが」
「フレイもナタルさんも戻ってきたし」
カズイはこのことをまず喜んでいた。
「何か退艦するつもりだった俺も残ってるし」
「俺もまた操舵やってるし」
「皆よく元気でいると思うわ。中には殺しても死なないんじゃないかって人達もいるしね」
「ああ、あの人達ですね」
ミリアリアは今のマリューの言葉が誰をさしているかわかった。
「グン=ジェム大佐やドクーガの人達」
「濃いわよねえ」
あらためてそれを思う。
「グレスフィールドさんもそうだしアズラエルさんも」
「あとシャッフル同盟なんかは」
「あれは話には聞いていたけれどね」
実はかなり有名な彼等であった。
「実際に見てみるとやっぱり凄いわよね」
「マスターアジアなんて異常ですよね」
ミリアリアが言う。
「あの人ってひょっとしてガンエデンより凄いんじゃ」
「シンジ君が凄い憧れてるけれどね」
「そうですね」
シンジノマスターアジアへの憧れは相当なものであり続けている。
「レイちゃんの憧れの人でもあるし」
「その前に人間なんでしょうかあの人」
「さあ」
トールの問いにマリューは首を傾げさせた。
「あの人とBF団だけはわからないわね」
「ですよね」
「何か最近キラ君もあの人達みたいな熱さを求めているけれど」
大次郎やムウと共にだ。
「漢祭りって何なのかしら。あとニコル君が軍神がどうとか言ったりしてるし」
「あっ、そういえばシーブックさんやバーニィさんも」
カズイがふと気付いた。
「正義だん削除だのを最近口癖にしていますよ」
「あとマイヨさんとヘンケンさんが魔王がどうとかって」
「BASARAじゃないかしら」
ミリアリアがトールに突っ込みを入れる。
「よくわからないけれど」
「BASARA!?」
「ええ」
ミリアリアは言うのだった。
「そんな言葉が浮かんできたのよ」
「BASARA、ねえ」
マリューにはわからない世界のようだ。首を捻る。
「あまりよくわからないわ。私にわかるのは」
「何ですか、艦長は」
「月にかわってお仕置きよ!」
不意にこう言う。
「やっぱりこれかしら」
「あっ、そういえば艦長って」
ミリアリアは今の言葉でまた気付いた。
「タータさん、エル=フィノちゃん、プレセアさん、サフィーネさん達とよく一緒におられますよね」
「気が合うのよ」
マリューの弁である。
「ずっと一緒だった気がしてね」
「そうなんですか」
「あとひかるちゃんにイーグル君にダイアンさんともね」
微妙に変わった顔触れである。
「あとアムロ中佐と」
「あの人ですか」
「やっぱり渋いわよね、ロンド=ベルのスーパーエース」
「確かに」
その座は動かないのだった。やはりアムロはアムロであった。
「いつも助けてもらってるしね」
「そういえばそのアムロさんですけれど」
「どうしたの?」
今度はカズイの言葉に顔を向けた。
「また一段と動きがよくなってますよね」
「そうね」
それはマリューも感じていた。
「流石って言うべきかしら。その辺りは」
「キラよりも凄いからね」
「確かに。ショウさんといい」
「あの二人とかはまた別格よ」
これはロンド=ベルだけの評価ではない。
「あとクワトロ大尉にカミーユ君もね」
「ニュータイプに聖戦士はですか」
「そういうことよ。けれどキラ君やシン君も」
マリューはこの二人の名もあえて挙げる。
「経験を積んでいけば彼等みたいになれるわよ」
「まだこれからですか」
「キラ君は最近ねえ」
また困った笑みになる。
「あのうじうじしたところは消えていっているけれどそのBASARAになってるし」
「はい」
そこが問題なのであった。
「シン君はシン君で何か答えは聞いてないとか」
「あれ何なんでしょう」
ミリアリアが首を捻る。
「何か取り憑いたんでしょうか」
「そういえばアスランも」
「そうそう」
その横でトールとカズイが言い合う。
「何か蝿がどうとかで」
「あれは何なのかな」
「また変なものでしょうね」
マリューもそれはわかる。
「ほら、クワトロ大尉も何か蝙蝠がどうとか言ってるわよね」
「はい」
これも奇怪なことだと言われている。
「多分それと同じね」
「同じなんですか」
「最近そういうことが多いわね、それにしても」
マリューはふと思うのだった。
「ほら、皆あれじゃない?」
急に少し真剣な顔になった。
「自分達が複数の世界を跨って動いているように感じないかしら」
「そういえば」
この言葉で最初に考えたのはサイであった。
「バイストンウェルもセフィーロもあれですね」
「異世界よね」
「異世界にも通ってるし」
そこもまた考えてみれば非常におかしなことであるのだ。
「それぞれの世界で異変が起きている」
「それでこの世界も」
マリューはこの世界についても言及した。
「こっちはもう異変どころじゃないわよね」
「偶然にしても多過ぎますよね」
ミリアリアも気付いた。
「ガイゾックにしろ地底の勢力にしろ」
「そうした勢力が全部偶然出て来る」
マリューはさらに言う。
「偶然が重なるにしてはおかしいわよね」
「あれっ、そういえば」
今度気付いたのはトールであった。
「何かさ、そうした有り得ない偶然が重なる時ってさ」
「何かあるの?」
「いつもグランゾンがいる時だよね」
トールが言うのはそこであった。
「グランゾン!?」
「気のせいかな。ほら」
トールはさらに言う。
「シュウさんが生き返っていない間は何も起こっていないじゃない」
「そういえばそうだな」
カズイはそれに頷く。
「グランゾンがいる間に様々なことが起こっている」
「そうね」
マリューもカズイに続いて頷いた。
「グランゾンがいると何かが起こるのよね」
「シャドウミラーも」
「そういえばシャドウミラーだって」
カズイはシャドウミラーについて述べた。
「違う世界から来ているよな」
「そうだ、あの連中も」
「向こうの世界も何かおかしいようだし」
「一度に複数の世界が混ざり合ってしかも何処の世界もおかしい」
「しかも偶然が重なり合う時はグランゾンがいる」
彼等は深く考えだした。
「何かつながるかしら」
マリューは顔を顰めさせていた。
「何かが」
「少なくともグランゾンには何かがありますよ」
サイはそれは間違いないと見ていた。
「あのマシンには」
「そうかしらね、やっぱり」
「シュウ=シラカワ博士がそれを御存知かどうかはともかくとして」
「あの人はまた全然わからないのよね」
マリューはこう言って首を傾げさせた。
「本当に。何を考えているのか」
「確かに」
「それは」
四人もそれに頷く。シュウが何を考えているかわかる人間はいない。全てが謎に包まれた男であるのだ。
「何か色々とまだありそうね。本当に」
「シャドウミラーにしろ」
「そう、また彼等と戦うことになるわよ」
これはマリューの勘が教えていた。
「しつっこいから。どうせまたね」
「そうですか。それじゃあまた」
「とりあえずは大阪に駐留よ」
こう皆に伝える。
「そこで様子見。いいわね」
「大阪ですか」
「食べればいいわ」
にこりと笑って四人に告げる。
「私も葛城三佐と街に出るわ」
「たこ焼きにお好み焼きですね」
「ええ、ビールで」
その笑みのままミリアリアに答える。
「やっぱり炭水化物にはビールよ」
「好きですね、やっぱり」
「ビールは女の友」
こう主張するのは彼女とミサトの二人である。
「それは憶えておくことよ」
「はあ」
「じゃあ付き合いなさい」
「えっ!?」
「俺達もですか!?」
四人は今のマリューの言葉に思わず声をあげた。
「何でまた急に」
「ついでにキラ君やザフトのメンバーも呼びなさい」
しかもまだ追加注文があった。
「わかったわね」
「あの、どうして」
「人数が多い方がビールは美味しいのよ」
そう四人に答えるのであった。
「だからよ。わかったらさあ」
「はあ」
「それじゃあ」
かなり強引に大阪見物が決まった。何はともあれ今は平和がある一同であった。

第四十六話完

2008・3・1



 
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