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万華鏡

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第十七話 甲子園にてその三

「今度中華街に行ったら」
「広東料理のお店に入るのね」
「そうしようかなって思ってるけれど」
「じゃあ行ったら。バイキングもあるしね」
「そうね。それじゃあね」
「この餅は多分北京だけれど」
 北京料理になるというのだ。
「食べてね。スープは買った時は広東って書いてたから」
「じゃあ北京と広東のごっちゃなのね」
「そうなるわね。とにかくこの二つを食べてね」
「ええ、甲子園行って来るわ」
「応援しっかりとね」 
 母は微笑んで琴乃の背中を押した。そうしてだった。
 その餅とスープを食べて飲んだ、それからだった。
 早いうちに家を出ようとする、だがここで。
 中年の男が出て来て寝ぼけ眼でこう言ってきた。
「何だ琴乃もう起きてるのか」
「おはよう、お父さん」
 琴乃はその男に顔を向けて挨拶をした。
「今起きたのね」
「ああ、おはよう」
 父も娘に対して挨拶をする。そのうえでだった。
 娘に対してあらためてこう言ってきたのだった。
「今日は何処に行くんだ?部活か?」
「今日は部活ないから」
「じゃあ何でこんなに早いんだ」
「今から甲子園行くの。部活の仲間と一緒稲」
「それで何処に行くんだ?」
「甲子園よ」
 琴乃は父に対しても素直に答えた。
「そこにね」
「行くんだな」
「そうするつもりなの」
「気をつけろよ」
 娘に対しての父の言葉だった。
「あそこはな」
「騒ぐ人が多いからよね」
「相手は今日は」
「広島よ」
 父にもこのことを答える。
「だからとことんまではならないけれどね」
「そうか、巨人じゃないならな」
 父もそれを聞いて安心した。
「だったらいいがな」
「ええ、それじゃあね」
「何人で行くんだ、それで」
 父もまたテーブルの自分の席に座ったうえで娘に問うた。
「一人じゃないな、部活の皆とだと」
「五人よ」
「そうか、帰り道も気をつけろよ」
「わかってるわ、それもね」
「じゃあ行って来い、そして楽しんでこい」
 娘に対して微笑んで告げた。
「そうしてこい」
「わかったわ。それじゃあね」
「最近球場にも行ってなかったな、甲子園にも」
「受験だったからね」
 またこの話になる。だが琴乃は特に気にすることなく答える。
「それはね」104
「そうだな。しかしそれも終わってな」
「久し振りに行ってくるから」
「そうか。ところで母さん」
 父は娘の話を聞き終えてから自分の妻に顔を向けて問うた。
「今朝の朝御飯は何だ?」
「これよ」
「ああ、これな」
 餅とスープを見て父も言う。
「昨日の残りのスープと」
「そう、中国の餅ね」
「この餅いいよな」
 父は笑顔で言う。
「美味いからな」
「お父さんそのお餅好きだからね」
「わざわざ買って来てくれたんだな」
「そうよ、それじゃあね」
「ああ、食べさせてもらうな」
「そうしてね」
「朝はやっぱり食べないとな」
 父は確かな声で言った。 
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