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ソードアート・オンラインーツインズー

作者:相宮心
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SAO編-白百合の刃-
  SAO3-隠れボスという存在

 五十ニ層『フリーダムズ』
 電気街のようなアルゲードやお嬢様の花園のセルムブルグと比べると、フリーダムズは地味な部類だ。良く言えば、広大すぎるお庭のようなイメージのある層だ。アインクラッドで最も人口の少ないフロアの一つで面積もそこそこ広く、主街区も小さな村の規模。あとは果てしなくどこまでも続く草原と奥まで流れる川のシンプルな地形。フィールドにモンスターは出現しないが、その分、迷宮区に出てくるモンスターがとにかく多かった印象を持っていた。

「もの好きよね……ここの層何もないじゃない」
「何もないところがいいのよ。貴女みたいな動いているだけのバカにはわからなくて当然よ」
「動いているバカってどういうことよ」
「そのまんまの意味よ」
「……それ、バカじゃん」
「そう、バカよ」
「バカバカ言うな」
 
 転移門から真っ直ぐ歩いていくと、小型で飾りつけのないシンプルな一階建てのホワイトハウスが見えてきた。
 建物が少ないから、遠くからでもすぐに見つけらるのは良いところなのかな? 本当になにもないから見つけやすい。

「ドウセツの家に到着」
「早く入りなさい」
「あ、うん。わかった」

 ドウセツに続いて、家の中に入る。アスナの家ほどではないが、広いリビング兼ダイニング、必要以上置いてなく白と黒を統一した飾りつけのないシンプルな部屋だった。シンプル故に、高級感かつ清潔感が良さそうな雰囲気を漂わせている。欠点があるとすれば、あんまり女子らしくはないけど。

「お茶は飲んで来たからいらないよね?」
「あ、うん。いらない」

 私は後に続くようにソファーに座った。

「とりあえず、そうね……久しぶりね、くたばってなくて何よりだわ」
「それは……心配しているの?」
「心配じゃないわ、褒め言葉よ。ありがたいと思いなさい」

 どうせなら、もっともらしい褒め言葉がほしいです。そんな淡々と言われても、受け入れることはできませんって。

「貴女の場合、死なれては困るのよ」

 こ、これは……氷のお姫様の珍しいデレ!?

「戦力が下がるのはいろいろと勿体ないから。せめて百層までは生き残りなさい」

 デレの微塵もなかったドウセツに逆に惚れそうです、はい。
 しかし、相変わらず変わっていないわね。訳あって二人で行動してきた時も、常に淡々でめちゃくちゃなことを言うし、変にマイペースだからいろいろと困ったことが多かったわ。でも、これで嫌な人じゃないのが、なんか質悪いっていうか、らしいというか、流石だと言いたいな。美少女だから許されるのかね。
 まぁ、前置きはここまでにして本題でも入ろうかな。

「んで、ドウセツ。私を招待した理由話してくれない?」

 彼女が本当は良い性格なだけで私を家に招待するような人ではないはず。ただ家に招待するのは嫌だと言うわけじゃない、むしろそっちがいいけど……当人はそんなこと望んではいない。
 ドウセツは「そうね……」と前置きのように呟き、私の問いを返した。

「さて、問題。ここからクリアするにはどうすればいいのかしら?」
「え、問題?」
「聞こえないの? 貴女も鈍感主人公だと叩かれやすい難聴バカ?」
「いや、違うから……つか、ドウセツもアニメ見るんだね」
「見て悪い?」
「いや、いいです」

 なんか親近感と意外性が見えた。

「その問題さ、ドウセツは私のことバカにしているの?」
「貴女の回答次第でバカにする」
「いや、そこは優しく教えようよ。でも、その必要ないんだけどね。答えは百層のボズを倒すことでしょ」

 そんな解り切ったことを、なんで問題にして出したんだろう私をバカにするためだけに問題を出すわけがないのはわかったけど、その心理がイマイチわからない。とりあえずこのゲームのクリア条件を答えた。
 ドウセツの表情は淡々としていて、どこかバカにしているような視線で語り続けた。

「貴女バカではないわね」
「これくらいは当たり前だって」
「でも貴女はアホね」
「酷い! 上げてもないのに、平行線で叩き落とすとか鬼畜!」

 問題に解答しただけなのに、しかも問題は簡単なものなのに、アホ扱いされた。1+1=は田んぼの田が正解とか言うのか!? 普通に回答しただけじゃ駄目なのか!?

「正解は合っているが、そんなわかりきっていることを今更聞く必要はない」
「だったら、もっとわかりやすくしてよ」
「する必要はないわ。私が求めている答えはもう一つの方法」
「そんなのあったっけ?」
「思い出しなさい。全てが始まったあの日のチュートリアル。茅場晶彦が説明した、もう一つのクリア条件の方法」
「…………あ」
「思い出した?」
「……うん。思い出した」

 私は忘れていた。いや、忘れされていたと言ってもいい。誰かに記憶を消されかけたのではなく、自分自身で一部の記憶を無意識に消しかけていた。

「隠れボス!」

 ゲームの世界から現実世界へ脱出する条件。それは、百層到達。正確に言えば、百層のボスを倒してクリアしたら現実世界へ帰れるようになっているはずだ。だからみんな百層を目指して、モンスターやフロアボス達の戦いを繰り返し、一層ずつ攻略し、登り続けている。地道に、一層ずつ、何日もかけて攻略をかけることになっていても、ソロや複数、ギルド、攻略組のサポートをする人達の皆で力を合わせれば必ず現実世界へ帰れると希望を抱いていた。
 でも一気に頂上へ登る近道、“それ”を倒せば、現実世界へ帰れる道が用意されている。情報が少なすぎて盲点になってしまった、微かな希望。それが隠れボスという存在。

「そう、隠れボスの存在よ。貴女も思ったことあって、無理だとわかり、忘れようとしていたでしょ?」
「……確かに、隠しボスのことを気にしていたほとんどのプレイヤーは、隠れボスは『ダンジョンの裏ルート』とか『ボス倒した後にいるとか』ありがちなことを思って探ったりはした。でも、それを全て裏切るように隠れボスはいなかったし、隠れルートも存在しなかった」

 おまけに、情報屋も隠れボスのことは全く掴むことができずにいた。しかも情報屋も手に入れない情報を私達は持ってはいないし、手に入れることもできなかった。こういうのはNPCのフラグから隠しボスへと繋がるようにできてはいるはずだ。クエストもそういう風にできている。けれど隠しボズのフラグというフラグがどんなものかなんて誰もわからなかった。それはつまり、隠れボスのフラグといものがないってことにもなってしまう。もはや宝くじの一等を当てるような難易度である隠しボス討伐は無理だと諦め、隠れボスという存在を消すように忘れていた。一生分を遣うような幸運で隠しボスでいっきに現実世界へ帰るよりも、地道に一層ずつ攻略して百層を目指したほうが良いに決まっているようなものだ。当然の結果かもしれない。

「じゃあ、ドウセツは私達が無駄だと忘れされていた隠れボスを今でも探しているの?」
「そうね」
「でも、情報もフラグもないってのはみんな知っているじゃない? それで忘れていたんだしさ。それなのに、どうやって隠れボスを探しているの?」
「それでも探すことはできるわ」
「なに? あてずっぽう?」
「なにも考えずに行動しているわけじゃないわよ。やっぱりバカね」
「バカをつけ足すな」

 と言うか、私がバカなことずっと思っていたよね。酷い。

「そもそもの話。萱場晶彦は隠れボズがモンスターや、フロアボスとは言ってないじゃない」
「でも隠れボズは確かに……って、モンスターじゃないってこと!?」
「そうね、考えるとしたら私達と同じ人。しかも、プレイヤーとして紛れ込んでいる可能性だってあるわ。」
「なっ……!」

 落ち着いた名探偵ぶりのドウセツの推測に、驚きを隠せずにはいられなかった。何故なら、萱場晶彦のせいで私達プレイヤーはゲームの世界に閉じ込められた被害者なんだ。あの中に隠れボズが紛れているなんて誰も思わないだろう。

「で、でもさ……どうして紛れているって推測できるの?」
「それはわかっていることでしょ? 茅場晶彦は隠れボスは“モンスター”であるとは言っていない。心理的に考えるなら、思いつきそうにないことやってくるはずよ。それこそ、人の盲点に隠してこそ、隠れボスに磨きがかかる。より遠くに隠すより、あえて身近なところに隠したほうが以外に見つからない。推測にすぎないけどね」
「あー確かに。かくれんぼで、スタート地点付近で隠れていた鬼が見つからないってことあるよね」
「知らない」
「いや、そこは賛同してよ」

 子供の頃は一度はやったことあるでしょ。でも、まさか萱場晶彦がかくれんぼの例えを使っているかもしれないってことか。確かに、そう考えれば見つかる可能性が意外に低くなる。誰もプレイヤーがボスだなんて、思ってもいないだろう。だからこそ磨きがかかる。兄もアスナも、隠れボスのこと忘れていれば思いもしないことなんだろうな。

「ドウセツが言ったことはわかったよ」
「本当? 貴女アホだから三十回ぐらい言わないとわからないでしょ?」
「一回で十分です!」

 プイッと顔をそむけても、お構いなしに話を続けてくる。

「まだ、隠れボスをどんな方法で対決になるのかはわからない。でも、隠れボスのことはちゃんと脳に埋めつけなさい。“遠くにいて近くにいる人”こそが、隠れボスの可能性がある」

 遠くにいて近くにいる人か……。視線をドウセツに向けてジーっと見つめる。不愉快に思ったドウセツは冷たい声色を出した。

「何なの?」
「いや、もしかしたら……隠れボスはドウセツなんかじゃないかと……」
「…………そう」
「だって、ほら、急に私に教えたりさ、家にお持ち帰りとかされたりとかさって、冗談です、冗談ですから!」

 冗談だから、背筋が凍るような視線で見つめないでください。

「ねぇ……」
「は、はい!」
「死にたいの?」
「すみませんでした!」

 ものすごい殺気と修羅と凍てつく氷の温度を感じた。それはある意味ボス戦よりも恐怖に締め付けられて、とても恐ろしいと思った。
 私は誠意を込めて土下座すると、許してくれたのか罵倒はせず話を変えてくれた。

「貴女を連れてきたのは、単純に流れで協力し合うことになったから伝えただけ。無駄じゃないことではないしね」

 解釈すると、私とドウセツと一緒にパーティーで攻略して行ってもいいが。隠れボスを探す、または隠れボスを倒すことも協力しろってことになるよね? そうだとしても、断る理由はない。
 私にだって、早めに現実世界に帰っていろいろとやらなければいけないことがある。けど焦らず進んで行こう。自暴自棄になったところで辛くなるだけだし、焦ったら寿命を縮めるだけだ。

「そうそう。隠れボスのことは話したけど、もうすぐ次の層に攻略できるから普通に攻略するわよ」
「わかった」

「そっ……」っと、冷淡な声色で呟き立ち上がって、そのまま窓際まで歩いていく。

「もう寝るけど、風呂とかシャワーとかいらないよね?」

 ゲーム内では風呂入ったりシャワー浴びたり着替えたりする必要ない。と言うかゲーム内では風呂そのままを再現するには至っていないようだ。今は慣れたけど、初期の頃は絶望した覚えがある。だって、一日の疲れを取るお風呂に入れないって、女性としては致命的だよ。だからポジティブに考えることにした。
 現実世界に戻ったらお風呂を入る楽しみがあるんだってね。

「いらない。と言うかさ……」

 視線をやや左寄りに移すと、白のシングルベッドが一つ。言いにくいんだけど言うしかなかった。

「わ、私の寝るところは?」
「一緒に寝ればいいでしょ?」
「!?」

 さらっと冷静にとんでもないことを言ってきた。
 普通ならば、女の子同士で一つのベッドに入ることは仲が良い女の子しかやらないだろう。私とドウセツの仲はお世辞にも仲良いとはいえない。私が思っていたとしても、ドウセツは私のことなんて攻略組の一人しか思ってないだろうな。
 だが、それでもいい! 『漆黒』の二つ名の通りの濡羽色(ぬればいろ)の美少女。氷のように冷たいけど、それが美しさに磨きがかかる人と一緒のベッドで寝られるのは最高の幸福だ。同性でも嬉しいことじゃないか。

「い、いいのかな? 私でもいいのかな!?」
「だったら床で寝る? 別に骨を痛めることはないんだし」

 私も知ったのだが、椅子で寝ていても背骨を痛めることはないのだ。それも良いかと思ったのは、流石にお客である私が図々しくドウセツと一緒に寝るのは失礼だし、まだ早いと思ったが、やっぱり暖かいモフモフしたベッドがいいので正直に話した。

「私、ドウセツと一緒に寝たい!」
「そう、私の枕になりたい」
「言ってないよ!」
「そう。床で寝るのなら朝お腹に踏んで起こそうとしたあげたのに」
「痛みで起こそうとするな!」

 承知してくれたので、気分は上昇した。
 そしてもう寝るというので、ドウセツは壁に触れて部屋の操作メニューを出して照明用のランタンを全て消した。その間に素早くシンプルな白色の寝巻きに着替え、結んだサイドテールを下ろした。


「んじゃ、お邪魔しま~す」
「…………」
「ん? どしたの? 急に黙っちゃって」
「…………別に」

 こちらをジッと見つめていたようだけど、イマイチドウセツの反応はわからず、私は布団に潜り込んだ。
 ちなみに部屋が暗くなったので、索敵スキル補正が自動的に適用され、視界が暗視モードに切り替わった。

「…………」
「…………」
「……ねぇ」
「うん?」
「狭いから、やっぱり床で寝て。そして踏まれて起きなさい」
「踏みたいだけでしょ、悪いけど痛いので起きるのは御免なので我慢して」
「図々しいわね」
「だったら、踏みつぶし目覚ましをやめてほしいんだけど」

 思っていたほどベッドの面積はなく、積めないと一緒に入ることは難しかった。この狭さだと、ドウセツが振り返ったら唇が当たりそうだなぁ……ちょっと試すか。

「ねぇ、こっち向い」
「黙って寝なさい」
「はい、すみません……」

 一日を終え、明日の日差しが来るまで瞳を閉じ眠りについ……た、わけでもなかった。

「…………」

 単純に眠れないのである。寝返りすれば寝られるかなと思いつつも、ドウセツもいるし狭いし……。元々、ドウセツの一人暮らしなんだし、普段ならシングルベッドに二人一緒なんてしないだろう。それでもドウセツは誘ってくれたんだ。文句は言えないわね。むちゃくちゃなことは流石に断ろう。
 しかし、本当に眠れない……。

「ドウセツ?」
「…………」
「起きてる?」
「……寝ている」

 返って来たので、間違いなく起きている。けど、その返事は「話しかけるな」と言う意味合いだろう。けど、起きているなら話かけてもいいよね。ドウセツも眠れないなら、話し相手は必要だろう。

「眠れないの?」
「そうね。誰かさんのせいで」
「迷惑だった?」
「少々……」
「そっか……。あーあ、ボタン一つで寝られる機能とかないんだろうね」
「その変わり、『強制起床アラーム』があるじゃない。何でもシステムに頼るなってことでしょうね」

 指定した時間になるとプレイヤーを任意の音楽で無理矢理目覚めさせてくれる。絶対に寝過ごすことはないけど二度寝は可能。

「もう寝なさい」
「ま、待ってよ。ほら夜はガールズトーク」
「くだらないし、興味ない」

 そんなにバッサリ斬り捨てなくても……。頃の女の子だから、そう言うのは少し興味持ってよ。

「おやすみ」
「あ、待ってよ。初めてのガールズトークを」
「おやすみ」

 拒絶の一言だった。

「……おやすみ」

 もうおとなしく寝ましょう。目を閉じて心を無にすれば寝られるはず。
 そう言えばいつぶりだろう。誰かと一緒に、同じベッドで眠るのは久々だな。安心するし、心地よい。だからこそ、今後なにがあった時に、この温もりが奪われるのが恐くなる時がある。急に冷めてしまった時の怖さを私は知っている。
 でも、冷めてしまったら縮こまらないほうがいい。恐怖に負けても前に進んだほうがいい。恐れてもいいけど、逃げないで進もう。
 そうやって生き続けていけば、きっと良いことだってある。生きている限り、なんとかなるはずなんだから……。



 そしていつの間にか、朝はやってきた。
 良く寝たと思って、起き始めると、ドウセツはすでにキッチンで料理をしていた。
 朝飯はスクランブルエッグとトースト。アスナより熟年度はないとは言っていたけど、ふわふわとしていて甘さもあったスクランブルエッグは美味しく、最高の朝食の幸福を味わった。もちろんお世辞でも何でもない。素直な感想を言ったら、うざいと言われた。酷い。
 朝食を終えて、七十四層攻略しに行こうかな、と思った矢先だった。

「…………」
「ドウセツ?」

 返事もせず、ドウセツは窓の向こう側をずっと見ていた。気になったので、私も窓の向こう側に視線を向ける。そこから見えるのは、純白のマントに赤の紋章、まさしくギルド血聖騎士団のユニフォーム。それに加えて、装飾過多気味の金属鎧と大斧を装備した嫌味そうな眼鏡の青年を私は見たことある顔だと認識。名前は確かストロングス。名前のわりに外見と性格が似合わなくて、ドウセツの猛毒舌の餌食にされた人だ。

「なんで、ここにいるの?」
「知らないが、知りたくもないわね」


 窓越しからストロングスを見たドウセツは、落ち着いた態度で外に飛び出した。それに私は続いて外に出る。
 外に出ると、ストロングスはこちらに気づき、昨日とは打って変わって、涼しげな表情で口を開いて話かけてきた。

「ドウセツ」
「張り込みとかキモいわよ、変態負け犬」
「き、貴様!!」

 と思いきや、早くも先制攻撃の毒を喰らってしまい、冷静さを失い眉間にシワが寄せて昨日と同じように憎々しげ口を開き、発した。

「お、お前が裏切ったおかげで、アスナ副団長が悲しみ泥をつけた代償、今すぐここで払え!」
「人がいつやめて、いつ抜けるのは自由でしょ? そんなこともわからないなんて……」

 ドウセツは一旦、目を閉じ、毒を溜め込んでからの冷淡な声色で毒を吐いた。

「このストーカー、変態、性格、外見、武器、全てが中途半端で似合わないし、自分が正義だと思っている愚か者。うざいしバカでしつけのなってない負け犬。意味がわからなすぎるから消えて」

 うわぁ……容赦ないなぁ……。毒を吐くより、攻撃性もあるから毒を刺しているわね。普通の人ならば精神的にHP0になるんじゃない? メンタル大事ね。

「……って」

 突然、ドウセツは右指を私に向けた。

「キリカが言っていたわ」

 …………。
 …………は?
 ドウセツは、先ほどまで精神攻撃という名の毒をぶつけてきた。それなのになんか私がやったことになっていた。本当に何が起こったのか一瞬理解できなかった。
 なんでドウセツは……得をしない嘘をつくのかな? 意外とドウセツって、バカじゃないかなぁ? なんで私に責任を押し付けるようなことするのかな!? 悪魔か!
 いや、そうは言っても、こんな嘘で騙されるなんているわけが……。

「ざけるなぁ!!」
「信じているのかよ!」

 憎悪を向ける視線は私に変わり、ドウセツの嘘を信じたストロングスは軋むような声で怒りを露にする。この瞬間、ストロングスは私までも怨む対象になったってことだ。そんな元凶である隣の猛毒プレイヤーは清々しいほど冷静だった。

「もっとオブラートに包まないと駄目でしょ?」
「あんたが言うなよ! あんたが! オブラートの欠片もない人が言われると腹が立つし、何よりも私に押しつけやがって……!」
「実際そう思っているでしょ?」
「思ってないって!」
「貴様ァ!!」
「なんで、あんたは憎き相手の言葉を信じるのよ!」
「黙れ! 貴様のような雑魚プレイヤーが」
御託(ごたく)はいいわよ、雑魚……って、キリカが言っているわ」
「ドウセツ!」

 言ってないし、思ってもいないし! これ以上、損ばかり起こそうとしないで! ストロングスも一度落ち着いて良く考えようよ。憎き相手の言葉を信用しすぎるから、バカにされるんだって気づいてよ。
 そんな私の思いは虚しく、目の前には半透明のシステムメッセージが出現する。
 

『ストロングスから1VS1デュエルを申し込まれました。受諾(じゅだく)しますか?』

 無表情に発光する文字の下に、Yes/Noのボタンといくつかのオプション。

「頑張りなさい」

 せめて笑顔が欲しいところを、クールな表情で淡々な声色で励まされた。

「わかったよ、もう……」

 私は誓いとして、いつか仕返しすることを誓った。仕方ないのでドウセツの変わりに受けさせてもらおう。
 Yesボタンに触れ、オプションの中から『初撃決着モード』を選択し、メッセージは『ストロングスとの1VS1デュエルを受諾しました』と変化、その下で六十秒のカウントダウンが開始される。ゼロになった瞬間、私とストロングスの間では街区でのHP保護が消滅し、勝敗が決するまで打ち合うことになる。
 私はまず、ドウセツの家から離れて、五メートルほどの距離を取って向き合った。
『初撃決着モード』は最初に強攻撃をヒットさせるか、相手のHPを半減させたほうが勝率する。
 ストロングスの斧は高級感漂うおしゃれな銀色の斧を中段構え、剣道ならポピュラーな構え方。対する私の場合、左腰の鞘から片刃剣に似ているカタナを取り出し左手に添えて、体制の向きをちょっと右斜めに構える。
 そしてカウントは一桁となり、5…4…3…2…1……。
 私達の間の空間に、紫色の閃光を伴い『DUEL』の文字が弾く。

「うおおおおおおおおおお!!」

 ストロングスは雄叫びを挙げるように猛然と地面を蹴り上げ動き出した。
 初動は両手斧の中段ダッシュ技、『ランドライルド』防いでも武器を弾く力を持つ厄介な技。
 彼はドウセツにバカにされる人だけではないか。それもそうか、なにせ最強ギルドの一員だから弱いわけないか、メンタルとかは弱いけど……。
 私の力では弾くのに背一杯。その隙で大技を食らったら確実に私の負けだ。
 だけど、だからこそ私はあえて防ぐ。
 振りかぶると思っていたら、振り上げて黄色のエフェクト光を発しながら攻撃をしてくる。私はとくにスキルを使わず、受け止める形で弾くように防ぐ。

「っ!」

 キンッと金属がぶつかり合う音が響き、火花が散る。予想以上の威力に隙を大きく作ってしまう。

「もらった!」
 
 勝利の確信をしたストロングス。狂喜の色が浮かび、『トゥーレ・トゥワポル』と言う、風を切るような効果音と共に大木を切り倒すかのような、水平重攻撃。横に大きく振るわりに出だしが早いが、技後の隙が大きすぎるのが欠点。
 でも、この状況で大きく隙を作ってしまった私に欠点を恐れる心配は皆無。
 だけど。
 それが、私にとっての“好都合”であった。
 大きく隙を作ったと言うことは、止まっている的のようなもの。やられる運命である。
 しかも相手の技は技後に隙を作るが、初動が早く威力が高い。当たったら負け。
 そんな絶望的な状況から救出するように、私は“自然”と“簡単”に妖精が舞踊るように、斧が当たる範囲内から回避。

「なっ――――」

 スローモーションのように相手の動きが遅くなる感じがする。勝てるはずなのに逆に大きな隙を作ってしまい、私に大逆転のチャンスを与えられた瞬間の流れはもう決まっている。その隙を私は確実にとらえ、見逃さなかった。
 カタナスキル、『旋車(せんしゃ)』カタナを水平に360度に払い斬る。隙ができたストロングスは、避けることもできず、モロに喰らった。そして彼は後方へと傾き地面に倒れた。
 その直後、開始の時と同じ位置にデュエル終了と勝者の名を告げる紫色の文字列がフラッシュした。

「ふぅ……」

 クルクルっとカタナを回して、左腰の鞘に修めて一息ついた。

「バ、バカな……な、何だ、あの動き……!」

 驚愕……と言うより、ストロングスは状況が理解出来ない様子。立ち上がることなく、プルプルと震え同じことを呟き返す。
 そりゃそうよね。
 勝てるはずの試合が、数秒間で負けたんだから。カウンターもできないと確信していたっぽいしね。 
 それを作ったのは私でもあるんだけどね。悪いね、ストロングス。

「さ、行きましょう。負け犬なんか放っておきましょう」
「えっ、ちょっと!」

 唯一の観客であったドウセツはひと足早く、ここから立ち去ろうとしていたので、慌ててついて行く。


「見事ね。貴女の回避は相変わらず異常に強い。一体どうしたらあんな風に避けられるのかしら?」
「……どうだろうね。人を試すような人に教えません」

 きっかけはあるにはある。
 私がソロで戦い抜く為には、筋力を鍛えることも敏捷力を鍛えることじゃなく、どんな技も当たらなければ勝ち続ける回避力を私は鍛えた。その成果もあってか、私は一回だけ絶対に回避するスキルを身につけられた。
 その回避力を使って、私は最大の隙である、確実な勝利を見せたところにカウンター狙いをしてきた。それが私の戦闘方であり、短期戦を好む。長期戦になると、私の回避力も限度があるから、そこの隙を見つけられてしまったら負けるかもしれない。
 そう考えると、今後は長期戦の戦いもあり得るから、長期戦の想定も考えて自らのペースを支持しないとなぁ……。理不尽にデュエルを申し込まれたにせよ、意外にも回避を改め直す収穫だわ。
 でも、ドウセツには感謝しない。無駄に人から怨まれたんだから。

「そう言えば、“あれ”使わなかったの? 使わないくらいのストロングスは雑魚だったのね」
「違うわよ! 単に広げたくないから!」
「あっそう」
「なんでそんなにあっさりしているのよ……」

 塩ラーメン並みにあっさりしているよ、この人! 
 ドウセツが言っていた“あれ”はストロングスが雑魚だから使わないんじゃなくて、単に広げたくないから使わなかったのは事実。
 ドウセツが言う“あれ”を使ったら、確実にアインクラッド中に知らされてしまうのだろう。いずれは知ることになるだろうが、ギリギリまでは使いたくない。

「なら、それを使う状況にしましょうか?」
「やめてください。いや、これマジな奴ね」

 天気は薄曇り、暦は今、秋の深まる『トリネコの月』
 10月下旬の、爽やかな風があたりながら『漆黒』のドウセツと共に、広大な草原の先の転移門へと向かった。いろいろと不満があるものの、それでもやっていくしかない。
 
 

 
後書き
SAOツインズ追加
隠れボス。
本作には百層のボズを倒す意外にもクリアするもう一つの方法。隠れボズを見つける難易度は攻略本もないのにテイルズオブエターニアのブルアースを発動するくらいかな? とにかく隠れボズの情報は萱場晶彦のチュートリアルしかない。隠れボズを作った理由はいずれ話します。
 
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