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八条学園騒動記

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第三十二話 薬は恐ろしいその一


                  薬は恐ろしい
 ジミーはこの時何気なくおやつを食べていた。食べているのは草餅である。
「それ何処で買ってきたんだい?」
「拾った」
 ロザリーにそう答える。
「ちょっと待ちなよ」
 彼女はその言葉を聞いてすぐに突っ込みを入れてきた。
「何考えてるんだい。そんなもの食べたら」
「大丈夫だって」
 しかし彼はそれに取り合わない。
「とりあえず匂いはしないからさ」
「後でどうなっても知らないよ」
「俺腹壊したことないから」
「やれやれ」
 そんなふうにごく普通に何処かで拾った草餅を食べた。翌日ジミーは学校に来なかった。
「やっぱりね」
 ロザリーは空いたままのジミーの席を見て呟いた。
「拾い食いなんてするから」
「というかあいつ何考えて生きてるのよ」
 コゼットも言う。
「拾い食いなんて。他に食べ物なかったのかしら」
「ああ、あいつ甘いものには目がないんだ」
 ロザリーがコゼットにそう説明する。
「それでなんだよ」
「どっちにしろ馬鹿ね」
「まあな」
 それは否定できない。そもそもロザリーにも否定するつもりはない。
「しかしよくもまあこんなお約束をやってくれるよ」
 ある意味感心していた。
「食中毒なんてな」
「それはそうとしてよ」
 アンジェレッタの声がした。しかし二人は彼女の姿が目に入らない。
「あれ?アンジェレッタ」
「何処にいるの?」
 ロザリーもコゼットも背が高い。左右を見回してもアンジェレッタの頭は視界には入らない。だから気付かないのだ。
「ここよ、ここ」
 下から声がした。
「ここよ」
「ああ、いた」
「御免御免」
「何かこれもお約束じゃない?」
 小柄なアンジェレッタは二人を見上げて言ってきた。
「私の背のことも」
「まあこれもね」
「多分ここからも予想通りだけれど」
「ああ、わかる?」
 アンジェレッタも笑って言葉を返してきた。
「わかるよ」
 ロザリーは微笑んでアンジェレッタを見下ろして言う。
「薬だろ?」
「うん、それ」
 流石は薬屋の娘であった。アンジェレッタもわかっていた。
「ジミーがお腹壊したのは事実だし」
「それはね」
 コゼットも言う。
「間違いないでしょうに」
「ここであの二人がいれば全然別のこと言うんだろうけれどね」
 ロザリーが教室の中を見回していた。二人というのはテンボとジャッキーのことであるのは言うまでもない。だが二人は今ここにはいなかった。
「いないね」
「何処に行ったのかしらね」
 コゼットも教室の中を見回している。やはりそこには二人はいなかった。
「いたら一発で飛びつくのに」
「ああ、あの二人また謎解きに行ってるわよ」
 アンジェレッタが言った。
「またか」
「そういうこと」
 ロザリーにも答える。
「どうせまたとんでもないこと起こすと思うよ」
「あの二人も大概よね」
 コゼットは苦い顔で述べてきた。
「毎回毎回何するかわからないから」
「馬鹿やるのはわかるけれどね」
 ロザリーの言葉は実に辛辣であった。
「それだけはなね」
「まあね」
 それにコゼットもアンジェレッタも頷く。
「流石は推理研究会の核兵器」
「碌なことしないから」
「まああの二人がいてもいなくてもいいよ、今回は」
 アンジェレッタはあらためて述べる。
「というかいない方が」
「そうね」
「話がはかどるよ」
 コゼットもロザリーも容赦がないがそもそもあの二人が推理を当てたことはない。だからこう言われるのだ。また言われても仕方のないことであった。
「それでさ」
 ロザリーが話題を戻す。
「どうする?見舞い行くか?」
「いいと思うわ」
 アンジェレッタはそれに賛成であった。
「お薬持って行くから」
「そうね。それにしても本当に馬鹿よね」
 コゼットの声は呆れたものになっていた。
「拾い食いしてお腹壊すなんて」
「全くよ」
 そうは言ってもお見舞いには行くことになった。クラスメイトでとりあえず手の空いているのが集まって見舞いに行くことになったのであった。 
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