| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十話 信行の異変その八


 無論信長もだ。こう考えていた。
「そうよ、あ奴はそうした者ではない」
「だからこそですか」
「何かあればその時は」
「あの津々木という者、間違いなく怪しむべき者よ」
 信長の目が再び鋭くなった。
「間違っても油断してはならぬぞ」
「ではことがあれば」
「あの男は」
「そうだ、その時が来ればだ」
 信長の言葉はだ。ここでは一言であった。
「切れ」
「はっ、それでは」
「その時は」
「それで信行の目が覚めれば間違いない」
 信行についてはこうであった。
「若しあ奴に万が一叛意があれば止むを得ぬが」
「そうでない場合はですか」
「その時は」
「命は取らぬ」
 これが信長の考えだった。
「決してな」
「では追放ですか」
「そうされますか」
「いや、それもない」
 信長はそれも否定したのだった。そしてその理由も話した。
「勘十郎はわしにとっても織田家にとっても必要な者だ。それを追い出しては他の国の利になるだけ。それもまた決してせぬ」
「では一度処罰されたうえで、です」
 ここで平手が言ってきた。
「それから御赦しになられては」
「うむ、実はそう考えていた」
 信長も平手のその考えに頷いてみせる。
「用いるとすればそれが妥当だな」
「はい。ですが」
「わかっておる。この件あまりにも謎が多い」
 信長はいぶかしみ続けている。言葉にもそれが出ていた。
 そしてだ。腕を組みながら述べた。
「そもそも。信行があの様になったのはあの男と会ったからというが」
「術でしょうか」
「何かの術を」
「わしはそういうものは信じぬがな」
 これは信長の考えだった。彼はそうしたこの世の摂理から外れていると思われるものにはだ。あくまで冷淡であり続けているのである。
 だからこそこう言ったのだ。しかしである。
「だが。実際にそうしたものであ奴が操られているならば」
「謎を突き止めるべきかと」
「さもなければ真の解決にはなりませぬ」
「そうだな。それではじゃ」
 信長はまた考える顔になってだ。そうしてである。
「その後であ奴と直接会うのも考えておくか」
「その時ですが」
 川尻が進み出てきて申し出てきた。
「それがしが御護りしますので」
「それがしもです」
「是非共」
 黒母衣や赤母衣の面々がここで申し出るのであった。
 その彼等の言葉を受けてだ。信長は満足した顔になった。
 そのうえでだ。こう言うのであった。
「いざという時はだ。頼んだぞ」
「無論です」
「殿の御身体には何も起こさせませぬ」
「それは御安心を」
「それはこれまで気にかけたことはないが」
 信長は話の中でこのことに気付いた。
「そういえばのう」
「殿、それはいけませぬぞ」
 また平手がぴしゃりと言ってきた。
「万が一ということもあります。それに」
「刺客か」
「左様です、殿のお命を狙う者なぞ幾らでもおります」
「それ程多いのか」
「多いです。隣にはあの蝮もいるのですから」
「わしの義親父殿じゃな」
 この名前が出て来た。
「美濃の斉藤道三か」
「あの男はです」
「絶対に信用できませぬな」
「確かに」
「この辺りで最も危険な男です」
 家臣達も道三については厳しい。いや、彼等にしてみれば妥当な言葉だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧