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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第7話 姉弟仲良くそして文化考察?

 こんにちは。ギルバートです。最近になって姉が増えました。家の親は懐が深いのか? それとも考え無しなのか? まあ、そう言う所に私も救われているので、文句はありません。……何時か騙されるんじゃないかと、ちょっと心配でもありますが。

 さて、少し面倒な事になりました。クールーズ家の次期当主の行方不明は、現状のドリュアス家の状況を考えれば不味いと言わざるを得ません。もしこのまま彼が戻らなければ、これから一体如何なるのでしょうか? 果てし無く不安です。

 母上の話では、数日は戻れないそうです。心配ですが私には何もする事が出来ません。

 その間の訓練は、ディーネと二人で行わなければなりません。母上には言えませんが、この事に関して私とディーネは凄く喜んでいたりします。なんと言ってもその間は、地獄(母の訓練)から解放されるのですから。

 一通りの訓練を終えた後、使った道具を片づけてから身を清めるため別れます。使用人が持って来てくれた布で身体を拭き、サッパリしてから居間に行ってユックリと休みます。母上が居る時は疲れ切って、自室(ディーネが養子になった時にもらった)でグッタリしている所です。

 居間でお茶を飲んでいると、ディーネが入って来ました。特に使用人も客もいないので、普通に挨拶をします。

「お疲れ様。ディーネ。今日はお互い、部屋から出る余裕が有ったみたいですね」

「うん。おつかれさま」

 そこで会話が途切れてしまいました。良く考えたら私の正体を話して以来、まともに会話した覚えが殆ど無いです。

 午前中は、私は書庫へ行き勉強してますし、ディーネは礼儀作法の勉強があります。午後からは合流して一緒に訓練しますが、会話と言える物は殆ど無いです。母上の訓練が終わると、お互い疲れ切りバタンキューです。食事中はテーブルマナーの勉強も兼ねているので、慣れないディーネに余裕が無く碌に会話も出来ない状態です。夕食が終わっても、お互い疲労による睡魔には勝てず、そのまま一日が終了してしまします。

 これから姉弟として過ごすのに、この状況は良くないです。今回の事は良い機会なので、思い切ってディーネに話しかけて見る事にしました。

「私の正体に驚きましたか?」

「うん。ビックリはしたけど……」

「ひょっとして、如何接して良いか分からなかったりしますか?」

 あっ、ディーネが固まりました。どうやら図星のようです。

「確かに三十路過ぎのおじさんと融合しましたが、私は見た目通りの3歳児ですよ」

 ディーネに緊張させない様に言葉を選んだつもりですが、私は(マギ。ごめん)と心の中で謝っておきました。

「んー」

 ディーネが頭を抱えて唸ってしまいますが、それも仕方が無いでしょう。しかし、それで問題が解決する訳でもないです。ここは私とディーネの立場を、明確にした方が良いでしょうか?

「折角ですから、今から“ディーネ”ではなく“姉上”と呼びましょうか?」

「うー」

 ディーネは何故か、とても嫌そうな顔をしました。姉の威厳を示せると思うのですが?

「私の方が、一応は年下ですから……」

 そう呼ぶのは当り前でしょう? と、ゼスチャーします。しかしそこが癇に障ったのか、ディーネは言い返してきました。

「中身、おじさんのくせに」

 グサッ。……クリティカルです。今の言葉は、私の心を真芯でとらえ砕きました。イタイです。

「当たり前の事を言っているだけなのに、なんですかそれは?」

「こっちも、本当のこと」

 お互い無言になり睨み合います。そして……

「ハッハハハハハハハハ」

「フッフフフフフフフフフ」

 お互い顔をそらして、笑ってしまいました。まるで、睨めっこの引き分けのようです。

 ひとしきり笑うと、お互い変な緊張感は無くなっていました。

「これからよろしくお願いします。……ア・ネ・ウ・エ」

「ディーネよ、ギル」

 ディーネは語調を強め、怖い顔をしました。

 おぉ。怖い。これ以上からかわない方が良さそうですね。

「分かりました。ディーネ」

 私がそう言うと、二人でまた笑ってしまいました。

 なんとなくギクシャクしていたディーネとの関係を、上手く改善する事が出来たので今日は大収穫です。これでこれからディーネとは、気軽に喋って行けそうです。そう言えば最近、アナスタシアの事を放置したままですね。余裕が無かったとは言え、これは反省しなければいけません。

「そうだ。ディーネ。これからナスの所へ行きませんか?」

「な……ナス……って誰?」

「アナスタシアの愛称です。変ですか?」

「うん。変! すっごく変!!」

 私は「そうかな?」と、首をひねってしまいました。

「ギルって、そう言うところ。お父様そっくり」

「ばっ……馬鹿な!! そんなはずは……」

 正直に言わせてもらえば、これが今日一番のダメージでした。泣いても良いですか?



 その後、歩きながら今日一番のダメージを記憶の底に封印し、アナスタシアが居る部屋へ向かいました。到着しノックすると、乳母が返事をしたのでそのまま部屋に入ります。

「アナスタシアを見に来たの」

 ディーネが代表して答えます。

「ちょうど良かったです。今オムツを交換したばかりなんです。これを処理したいので、少しの間見ていてくれませんか? それと抱きたくても、私が戻ってきてからにしてくださいね」

 ベビーベッドなので、落ちる等の心配は有りません。私達が無理に抱こうとしなければ、問題無いと判断したのでしょう。ハイと返事をすると、乳母は部屋を出て行きました。随分信用されてますね。

 見ているだけではつまらないので、私はアナスタシアのホッペを指で突いて見ました。

「やぁー」

 恐らく「嫌だ」と言いたいのでしょう。泣かれても困るので、これ以上は自重しておきました。ディーネの方を見ると「全くもう」と、言いたそうな表情をしています。その後二人でアナスタシアを眺めて居ましたが、ディーネが突然思いついたように声を上げました。

「そうだ!! わたし達兄弟になったんだから、私の秘密の歌教えてあげる。絶対人に教えちゃダメだよ」

「?……分かりました」

 返事をすると、ディーネが大きく息を吸って歌い始めました。

「♪~~♪~~~~♪~~♪~~♪」

 ディーネの口から、紡がれるのはハルケギニアの言葉ではありませんでした。

(うん……。あれ? 英語?)

「♪~~♪~~~~♪~~♪~~♪」

 ディーネの口から、変わらず英語の歌詞とメロディが紡がれて行きます。

(いや、でもこれは、間違い無いですよね?)

「♪~~♪~~~~♪~~♪~~♪」

 たしかこの歌は、イギリスの民謡だったはずです。

(何故ディーネが、この歌を知っているのでしょうか?)

「♪~~♪~~………………

「ちょ……ちょっと待ってください」

「ん? ……どうしたの?」

「その歌は何処で聞いたのですか?」

 私の質問に、ディーネは首を傾げながらも答えてくれました。

「お母さんが、たまに歌ってくれたの。お父さんの故郷の歌だって言ってた」

「故郷って何処?」

「わかんない。とっても、遠いところだってお母さん言ってた」

 あまりの事態に、私の思考は止まってしまいました。しかし何時までも呆然として居られません。私は必死に頭を再起動させ、この事実を検討してみます。

 ディーネの父親は、地球のイギリス出身なのでしょうか? あるいは父方の祖父か祖母が、そうなのかもしれません。

「お父さんのお父さんとお父さんのお母さんは、何処に居るか知ってる?」

「?お父さんの故郷にいて、遠いから会えないってお母さんが言ってた」

 確定と判断して良さそうですね。ディーネの父親は、あちらの世界からハルケギニアに迷い込んで来たイギリス人です。もしそうならば、ディーネのロマリア嫌いの原因は、もしかして……。

「ディーネのお父さんが居ないのは、ロマリアの人が……?」

「うん。異端審問だって。気に入らない人や、お金を出さない人を連れて行っちゃうんだって」

 恐らくですが、現代知識を利用して一旗あげようとしたのでしょう。そしてロマリアの糞坊主に目をつけられたのかもしれません。もしくは糞坊主の恐喝に応じなかったか、あるいは逆に恐喝を止めようとして……。

 私は心の中で、ディーネの父親の冥福を祈りました。そして思考の海に、身を投げ出します。

 ディーネの父親・オールドオスマンの恩人・シエスタの祖父。サイトは別口にしても、最低でも三人の人間がハルケギニアに迷い込んでいます。ガンダールヴの槍の召喚と考えるなら、オールドオスマンの恩人はロケットランチャー。シエスタの祖父は零戦。そう考えるとディーネの父親も、何かしらの武器(ヤリ)の召喚に巻き込まれたと言う事でしょうか?

 今分かっている事例はこれだけですが、実際に召喚された人間がこれで全てとは思えません。ひょっとしたら、かなりの人数がハルケギニアに迷い込んで来ているのではないでしょうか?

 元の場所も恐らくですが、イギリス・ベトナム・日本と見事にばらけています。ある程度条件があるにしても、地球の何処からでも迷い込むと見た方が良いでしょう。

 良く考えると、ハルケギニアが地球で言う中世・近世の欧州と、非常によく似た文化体系をしているのは何故か、考えた事がありませんでした。地球とハルケギニアは、全く違う文化を持っていて然るべきなのです。それは魔法と言う、独自の文化であり強力な力を有しているからです。

 原因は恐らく、ハルケギニアの文化体系に中世・近世の欧州人が、大きな影響を与えたと考える方が自然です。恐らく武器(ヤリ)の召喚に巻き込まれ、地球から迷い込んできた中世・近世の欧州人が、ハルケギニアの支配者階級に取り入り、文化的に大きな影響を与えたのでしょう。

 それならば、地球から渡って来た人間が残した軌跡が、全くないのは何故なのでしょう? 恐らく盗賊や亜人・幻獣・魔獣に、すぐに殺されてしまうから。それを免れたとしても、ディーネの父親のように神官に目を付けられ処刑。生き残るにはシエスタの祖父の様に、目立たず静かに暮らすしか無いと言う事ですね。

 まかり間違って貴族に取り入り、ハルケギニアに大きな影響を残したとしても、この世界では貴族ではない者の記録など残そうとしないでしょう。むしろ抹消の対象です。

 しかし地球から来た者の影響は、閉鎖的な平民にはかなり出るでしょう。通常なら、平民のコミュニティー(街や村)が外から影響を受けるのは、行商人や旅人……後は出稼ぎから帰って来た身内くらいです。そこに地球から来た者が定住し、地球の文化を伝えたら如何なるか。

 恐らく元の文化と大きく乖離していなければ、受け入れられるでしょう。いえ、6000年前からこの現象が続いて居るのならば、その乖離でさえ殆ど無かった可能性も有ります。

 そう言えば、文化の中には名前も含まれています。名前はトリステイン王国なら、フランス人名が使われますが平民は如何なのでしょうか? もし影響が出るとしたら、その影響はやがて貴族にも出始める筈です。

 現に私の周りには、フランス人名ではない人物が何人か居ます。そう言う私もその一人です。家の家庭の内情からすると、影響が出るのが早くても不思議ではありません。

 ……そして「ゴン!!」……イタイ。ディーネに拳骨を貰いました。

「何するんですか!!」

「呼んでも返事しないからでしょ」

 いくらなんでも、拳骨は無いと思います。見ると乳母がもう帰って来ていました。外も暗くなっています。かなりの時間を、思考の海で過ごしていた様です。と言うか、お腹が空きました。もう夕飯の時間です。

「ほら。行くよ」

「はい。分かりました」



 夕飯を食べ終わり部屋に帰った私は、思考の続きを始める事にしました。

 先ず考えたのは“何故ハルケギニアは、今の文化レベルで停滞しているのか?”です。それは恐らく、科学技術が魔法を脅かすほど発展し始めたのが、中世・近世から……。

 コンコン。

 その時ノックの音で、現実に引き戻されました。返事をすると、入って来たのはディーネでした。

「如何かしたのですか? こんな時間に私の部屋に来るなんて」

「さっきから何考えてるの?」

 ……あぁ、そう言う事ですか。ディーネから見れば、自分の父親の話から私が考え事を始めのです。気にならない方がおかしいです。

 私はディーネに当たり障りのない範囲で、地球とイギリスの事を話しました。しかし話すのは、それだけに止めました。これ以上は、今は話さ無い方が良いでしょう。(自分の父親と同じ境遇の人が居る等と教えても、今のディーネは心を痛めるだけでしょうから)

 私の話を一通り聞くと、満足したのかディーネは自分の部屋へ帰って行きました。



 翌朝の昼すぎに、母上が帰って来ました。話を聞く為に執務室に向かいます。

(予定より帰りが早いですね)

 そんな事を考えながら歩いていると、何故か後ろからヒヨコの様にディーネが着いて来ました。気になりましたが、今はそれどころではないので放っておきます。

 ノックして許可を取ると、すぐに部屋に入ります。ディーネも私に続いて部屋に入って来ました。

「母上結果は如何なりましたか?」

 私は早速質問しました。ディーネは、私の横に並んでいます。母上はディーネが居るので少し躊躇いましたが、一度溜息を吐くと話し始めました。

「残念ながら死体で見つかったわ」

 私はこの時、苦虫を噛み潰したような顔になっていたでしょう。

「今は現当主のロベール殿が健在だけど、もう高齢だから……」

 私は思わず眉間に皺を寄せ、右手を額に当ててしまいした。

「ただし、良い情報があるわ」

 母上の言葉に、私は表情と右手を元に戻しました。

「ロベール殿には、妾との間に子供が居たの。その子供は、ヴァレールと言うのだけど。かなり優秀よ……内政向きだけど」

 最後の一言に、若干顔が引きつります。

「家の領地で(おこな)った屯田守備隊について、いろいろ聞かれたわ。用兵の才能もありそうね」

 ほう、それなら期待出来そうですね。

「ただし、魔法は火のラインメイジなの。ロベール殿やアランがトライアングルだったから、実力を疑問視する声も上がったわ。それが周りの兵達に、不安となって広がっているの」

 うわぁーーーー。それは厳しいですね。魔の森周辺の領主に求められるのは、領地運営力より武力ですから。

「補佐に信用できる優秀なメイジを付けて、不安は最小限に抑えたから暫くは大丈夫よ」

 それなら何とかなるのでしょうか?

「問題は妾の子供と言うところね。高等法院の連中が、かなり難色を示していたわ」

「それで母上は……」

「一応ロベール殿とヴァレールに、こっそり忠告はしておいたわ」

 ヴァレール・ド・クールーズか、頑張ってほしいですね。

「ところで先程から気になていたんだけど、ディーネちゃんと随分仲良くなったのね」

(勘弁してください母上)



 ヴァレールはドリュアス領を手本とし、次々に領地改革案を実行して行きました。もちろん母上は、ドリュアス領改革時の経験からアドバイスをしました。その見返りとして、ドリュアス領を手本とした事は黙っていてもらいました。目立つ事は、高等法院に対する挑発行為になってしまうからです。

 結果、クールーズ領は発展しました。また魔の森警戒の抜本的な見直しを行い、効率化と安全性強化を行いました。

 この甲斐あってか、ヴァレールは敏腕(次期)領主としてトリステイン王国では、名が知れ渡る事となったのです。彼の実力を疑問視していた者達も、この功績により口を閉じるしか無くなりました。

 しかし、これを面白くないと思う者たちが居ました。他の貴族や高等法院の連中です。

 皮肉な事に、ヴァレールに僻みと嫉妬が集中した為、ドリュアス家はその矛先から外れる事になったのです。ドリュアス家への嫌がらせや、妨害工作は一気に減りました。もちろん、油断は出来ませんが……。



 そうこうしている内に、私は4歳になりました。今月はウィンの月(12月)で、もうすぐディーネの5歳の誕生日です。

 ディーネは早く魔法を使いたくて、父上と母上に杖をねだっていました。しかし答えは「大きくなるまで待て」でした。それでも、粘り強く(しつこく)お願いすると「5歳より訓練のみ許可する」と、言わせる事に成功したのです。

 正直に言わせてもらえば、無茶苦茶羨ましいです。

 私も理詰めにして父上と母上を説得したのですが、残念ながら「5歳になれば同じように訓練のみ許可する」と、言われてしまいました。尚も食らい下がりましたが、最終的に母上が切れて「鍛え直す」の一言と共にしごかれました。(何時もの倍辛かったです)

 そして杖との契約も済み、今日はディーネの初魔法授業です。講師は母上自ら努めます。

 私は後学の為、見学させていただきました。

 授業内容はまず《念力》で、小石を浮かせる事から始まりました。

 まず最初に、母上がお手本を見せます。小石は浮き上がり、宙をゆっくり移動し元の位置に落ちました。

 続いてディーネの初挑戦です。コモン・マジックなので口語で魔法を唱えたのですが、杖を振っても小石はビクともしません。

 そこで母上はディーネを後ろから抱き締めるようにし、自分の杖(軍杖)を握らせてその上からディーネの手ごと杖を握りました。

「いい? 落ち着いて目を閉じて、力の流れを感じるのよ」

 そう言って《念力》を発動します。小石は、先程と同じ動きをし同じ場所に落ちました。

「力の流れは感じられた?」

「はい。お母様」

「なら今度は目を開けて、力の流れを感じてみて」

 母上はそのまま、もう一度《念力》を発動します。

「今度も感じられた?」

「はい」

 ディーネの返事を確認すると、母上は自分の杖を回収しディーネから離れました。

「じゃあ、もう一回でやってみましょうか」

「はい」

 再度一人で挑戦しますが、なかなか成功させる事が出来ません。母上が「イメージが大切よ」と言っていますが、それだけでは駄目なのでしょう。

「ディーネちゃん。先程感じた力を、どう使って小石を動かすか考えてみて。それがそのまま、明確なイメージにつながるから」

 ディーネは母上の言葉をもう一度吟味し、「イメージ。イメージ」と口にしながら少し考え始めました。そして暫く経つとイメージが固まったのか、もう一度《念力》を唱えました。

 今度は小石が宙に浮かび上がりました。しかし魔法が成功した喜びからか、集中力が切れ小石は地面に落ちてしまいます。

「成功よ。今度は落ち着いて、宙で動かして御覧なさい」

「はい!!」

 ディーネは元気良く返事すると、また《念力》を使い今度はユックリと宙を移動させ、元の場所に着地させました。

「あら、上手いじゃないの。最初はコモン・マジックを、重点的に教えるからその心算でね」

「はい!!」

「それからコモンマジックを使うにも、自分の属性を把握しているかいないかで魔法の成功率が大きく変わるから、今から属性だけ確認しちゃいましょう」

「はい」

 母上はディーネが頷くのを確認し、説明を続けました。

「では、先ず火の《発火》からよ……」

 母上がまず手本を見せるようです。母上の軍杖の先に、ポッと蝋燭の様に火が灯りました。

「では、やってみなさい」

 母上は魔法を解除しながら、ディーネに言いました。

「はい」

 母上と同じルーンを唱え杖を振りますが、火は一向に灯りませんでした。

「力の流れを感じられた?」

「はい。でも何というか……力が上手く流れない?」

「属性は火ではない様ね。続いて水のコンデンセイション《凝縮》ね」

 先程同様に、母上は手本を見せました。軍杖の先に、バケツ1杯分くらいの水が現れます。そしてそのまま杖を振って投げ捨てました。飛んで行った先で、バシャッと盛大な音が鳴ります。

「では、やってみなさい」

「はい」

 今度は杖の先に、コップ2~3杯分の水が発生しました。成功です。そしてそのまま魔法を解除しました。水は重力に引かれて地面に落ち、泥を含んだ飛沫が飛びました。その所為で泥水がディーネの服に少しかかってしまします。

「うー」

「もう……ドジね。次から気をつけようね~。続いて風のウインド《風》ね」

 母上が《風》を唱えると、母上の方から風が吹いて来ました。

「はい。やってみなさい」

「はい」

 ほんの少しですが、空気が流れました。

「あら、水程じゃないけど風もいけるみたいね。じゃあ、最後に土の《錬金》ね」

 母上が《錬金》を唱えると、両の拳大の泥団子が足元に出来上がりました。

「最後。やってみなさい」

 しかし火と同じで、何も起こりませんでした。

「力の流れは?」

「火と同じ。でも火より流れそうな気がする」

「なるほど。なるほど。ディーネちゃんは、水メイジね。そしてサブで風が使えるのね」

 ディーネの属性基準は、水>風>土>火です。

 母上はとても嬉しそうです。ディーネがモンモランシ家の系譜だとすると、水メイジなのは妥当と言えます。しかしサブとは言え風が使えた事に、母上はかなり喜んでいるようです。

(ディーネは母上が、如何してこんなに嬉しそうなのか気付いていないのかな?)

 そこには母上につられて、一緒に喜んでいるディーネの姿がありました。

(気付いていませんね。これから風系統の、地獄の特訓が待ってるのに……)

 私は心の中で、ディーネに合掌しておきました。



 それから母上とディーネは、やはり風系統の(地獄の)特訓をしていました。(水系統ほったらかしで)……この後、室内でコモン・マジックの練習がある筈ですよね。

 母上は常時上機嫌でしたが、ディーネは目で私に助けを求めて来ます。

(すみません。無理です。諦めてください。……あっ、ディーネが物理的に空を飛びました)

 恐ろしい。フライもレビテーションも念力も無しで、人が空を飛んでます。どっかの映画で見た、竜巻に巻き込まれ空飛んでる牛を思い出しました。

 それでも魔法を使っているディーネを、羨ましく感じてしまうのは仕方が無いのかなと思いました。(代われって言われても全力で拒否するけど)

 この生活(ディーネの地獄)は、私が5歳になるまでの約10ヶ月間も続いたのです。この状況でぐれなかったディーネを、心の中で称賛していたのは私だけでは無いでしょう。 
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