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万華鏡

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第五話 豚骨ラーメンその七


「麺のコシとね」
「おおむねその二つだよな」
「麺の風味もだけれどね」
「けれどまずはな」
「ええ、スープだから」 
 それでラーメンが決まるというのだ。
「それでそのスープがね」
「いい感じだっていうんだな」
「凄くね。これなら何杯でも食べられるわ」
「私も」
 今度は琴乃が言う。実際にかなりの勢いで食べている。
「このラーメンならね」
「幾らでもなんだな」
「だって美味しいから」
 それ故にだというのだ。
「これなら幾らでも食べられるから」
「じゃあ遠慮せず食ってくれよ」
 美優の方も琴乃に笑顔で言う。
「麺も一杯あるからな」
「うん、それじゃあ」
「ただ。麺は自分で茹でてくれよ」
「それはなの」
「ああ、セルフサービスでな」
 所謂それでしてくれというのだ。
「楽しんでくれよ」
「うん。じゃあね」
「大体麺を茹でてて色が変わったらいいからな」
 スープの中にある様な色になればいいというのだ。ラーメンもまた。
「そうしたらいい味とコシだからな」
「あまり早いと」
「かえって駄目なんだよ」 
 麺もまたそうだというのだ。
「その辺りが難しいんだよな」
「ううん、私ラーメンの麺を茹でるっていうと」
 それならばだというのだ。
「インスタントばかりだったから」
「生はなかったのかよ」
「いつもお母さんがやってたの。私がやると麺が凄く不細工になるからって」
 ここでも出る琴乃の料理の外見の悪さだった。
「それでなの」
「まずそうに見えるからか」
「そう。だからないの」
「琴乃ちゃんのお母さんって料理外見派なのかよ」
「というか麺類に凄いこだわりがあって」
 それでだというのだ。
「それでね」
「ああ、ラーメンを茹でるのは」
「全部お母さんがするの。ラッピングも」
 それもだというのだ。見ればだ。
 琴乃のラーメンの外見は確かに酷かった。麺はぐちゃぐちゃに丼の中にありもやしや葱もそうだった。丼のあちこちに散乱し浮かんだり沈んだりしている。
 チャーシューもまた。何かが違っていた。美優はそれを見て琴乃に言う。
「なあ、チャーシューな」
「チャーシューが?」
「何で千切られてるんだ?」 
 そのうえで置かれていたのだ。丼の中に。
「包丁で切ったのに」
「何か上に置いている間に」
「そうなったのかよ」
「そうなの」
 それでだというのだ。
「いつもこうなのよね。私のお料理って」
「それって何でなんだ?」
「わからないのよね」
 自分自身でもだと言う琴乃だった。
「外見はね」
「そうだよな。ただな」
「ただ?」
「幾ら外見がよくてもな」
 美優が言うのは逆説だった。 
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