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万華鏡

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第十六話 プールと海その十二


「私泣いたし」
「ううん、何となくわかるわ」
「なまはげを照る照る坊主にしたら」
「ちょっと違うんじゃ、それって」
「私もそう思うし。やっぱり照る照る坊主はね」
「そのままの方がいいわよね」
「ええ、そうい思うわ」
 こう琴乃に話す。
「ナチュラルにね」
「そうよね。それじゃあ帰ったら作って飾るから」
「そうして本当に晴れたらいいわね」
「そうよね」
 琴乃は学校から帰ってすぐに実際に布でその照る照る坊主を作りだした。母はその娘を見てこう言った。
「晴れて欲しいの」
「今度の日曜ね」
 琴乃は家のリビングのソファーに座って作りながら答えた。
「そうなって欲しいから」
「日曜って何かあったかしら」
「野球の試合があるから」 
 だからだというのだ。
「それでなのよ」
「甲子園?」
「そこに皆で行くことになったから」
 母にこのことも話す。
「それでなの」
「そうなのね。そういえば琴乃ちゃんも」
「最近甲子園行ってなかったからね」
「でしょ?だからなの」
「受験の時は夏とかはね」
「高校野球が終わってもね」
 受験優先ならばそれもだった。
「とても行けないから」
「秋は尚更ね」
「だから行くのを止めてたし」
「本当に久し振りよね」
「うん。結構楽しみにしてるの」
 琴乃は照る照る坊主を作りながらにこにことさえしている、
「阪神の応援出来るのが」
「グッズ用意できてる?」
「お部屋にあるわ」
「法被もメガホンも?」
「風船もあるわ」
「帽子もよね」
「うん、全部ね」
 それも大丈夫だというのだ。
「出来てるわ。けれど」
「けれど。どうしたの?」
「阪神だけれど」
 琴乃は阪神自体のことを気にして言うのだった。
「どうなのかしらね」
「今シーズンの阪神ね」
「ピッチャーはいつも通りだけれど」
 相変わらず好投してくれているというのだ。
「先発、中継ぎ、抑えもね」
「揃ってるわよね」
「右も左もね」
 そうしたことも揃っているというのだ。
「正統派も変則派も」
「阪神は伝統的にピッチャーのチームよ」
「そうらしいわね。だからピッチャーはいいけれど」 
 あの暗黒時代でもピッチャーだけは揃っていた。阪神暗黒時代の原因はその他に、ピッチャー以外にあったのである。
「それでも打線が」
「打たないっていうのね」
「ダイナマイト打線って何?」
「時々出て来るだけのものよ」
 それに過ぎないというのだ。阪神の代名詞も。
「蜃気楼って程じゃないけれどね」
「時々なのね」
「そう、それだけのものだからな」
「じゃあ打つ方は」
「あてにしないのが阪神ファンよ」
 ピッチャーが抑えることは期待してもだというのだ。
「実際いつも取られてる得点は低いでしょ」
「二点とか三点とか」
 全てピッチャーの好投の賜物である。 
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