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魔法と桜と獣

作者:亞紋
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五話 会談と居候

 
前書き
今回は少し短いです。
いや~、毎回五千字とか出してる人は凄いですね……。尊敬しますよ。 

 
五話
『会談と居候』


「それで、少し聞かせてもらってもいいかしら?」

 そう、黒い髪の女性……朝倉由姫が切り出したのは二人が居間に向かい、軽い自己紹介を済ませた少し後だった。
 義之と音姫、由夢を一緒に遊ぶという名目で距離を置かせて、悠二、由姫、さくら。そして、クリーム色のベストを着こんだ壮齢の男性……朝倉純一だけになったときのことだ。
 先ほどまで柔和な母性あふれる笑顔を浮かべていたその顔には今はまるで戦場の兵士のように険しい表情へと変貌していた。

「――別に構いませんよ」

 当然、悠二としてもその程度は予想していたので出された珈琲を啜りつつ答える。

「――悠二くん、貴方はなにもの?」

 まず予想通りの質問。

「魔術師という魔術という神秘を使う者だ」

「魔術師?魔導師ではなくて?」

「Yes」

(これはーー魔術とは別の魔法体形があると考えるのが妥当か……)

 由姫の質問に答えつつ、悠二は静かに思考する。
 さくらのあの『桜』には魔術的な術式は編みこんであったにしろ、どこか機械的なモノではあったと記憶していた。
 だとすればこの世界には魔術は存在せず、代わりにほかの体系の『魔法』が存在すると考えるのが妥当で、おそらくそれを扱うモノを魔導師と呼ぶのだろう。

「――なぜこの島に?」

「偶然だ。フェリーに乗って本島から渡り、歩いて見つけた公園で夜を明かそうとしたら…」

 そういって、悠二の隣にちゃっかり座っていたさくらを親指で差すと

「そこのお人よしに見つかった。――それだけだ」

「嘘は…いってないみたいね」

 悠二の瞳をまっすぐと見据えた由姫が安心したようにつぶやく

「ここで嘘を言って僕の利益はあるか?」

「いいえ。ないわね。疑ったりして悪かったわ、悠二くん」

 フッと張りつめていた空気が和らぎ、由姫の表情も平時のものへと変わる。

「謝る必要はない。その反応は正しい」

 言って、さらに珈琲を啜る。
 ちょうどよい苦みが口に広がり、意識を蝕みつつあった睡魔が遠のいておく。

(やれやれ、体内時間まで子供か……)

 壁に掛けてある時計を見ると、すでに時間は十時を回っている。
 どうやら、名実ともに自分は子供になってしまったのだと内心苦笑する。

(この国じゃないと思うが、戦闘する際には気を付けないとは。それに体も鍛えなくちゃいけないし)

 あまりの前途多難さに思わずため息がこぼれてしまう。
 もっともそれは表情には出てはいないため、由姫やさくらは気付いていない。

「――それで、最終確認だけど悠二君は…」

「別にお前らに害意はないし、明日になればここを出る」

「えっ!?」

 悠二のその発言に驚いた人が約一名。
 その一名、芳乃さくらはその言葉を受けて信じられないという表情を浮かべると言った。

「出てくって……」

「――その方がいいだろ?そっちの爺さんはどうだ?」

 さっきから黙って一言もしゃべっていない純一へと声をかける。悠二としては自身の危険性を強め、一晩で出ていける空気を作るためだったのだが

「――もし、ここを出て言って、お前さんはどうするんじゃ?」

 相手が悪かった、その一言に尽きた。悠二の知らないことだが、彼……朝倉純一もさくらと同等か、それ以上のお人よしなのだ。
 そして、思わぬところからの反撃に悠二は少したじろぐ。

「――どうなの?悠くん」

 ジッと悠二を見るさくらの視線から逃れるようにそっと顔を背ける。

「その年じゃ、たとえお金があったとしてもアパートどころか、ホテルすら借りられないわよね?」

 さらに由姫からの追撃が入る。
 四面楚歌。そんな言葉が不意に浮かび、これがその状況下かと嘆息する。

(――退路なし…か)

 逃げ道を塞がれ、頼りの魔眼による催眠でさえ、すでにさくらにバレている。
 逃げ道は塞がれ、悠二に出来ることはたった一つのみ。
「――ああ、仰る通りなんも手段なんかない。とりあえずフェリーに密航して本島に渡るくらいしかな!!」

 白旗を上げることだった。そのことに口惜しさを覚え半ばやけっぱちになりながら、悠二は白状した。

「じゃあ、今晩だけと言わずにうちにおいでよ、悠くん」

 してやったりという顔でさくらは言う。

「――正気か?」

「酷いよ!!」

 帰ってきた辛辣な言葉に思わず子供っぽい地の反応をしてしまう。
 だが言った方の悠二も考えることがあった。

『解決策……』

 そう呟いたときのさくらの表情。あれが引っかかっていた。

(ああいう顔をする人間は決まって……)

 限界まで張りつめた弓のような印象を抱くその表情は悠二にとっては既知のものだった。そして、当然、その結末も。

(――)

 当然、悠二の創造しているとおりにはならないかもしれない。だが、経験則からいってそれは高確率だろう。見捨てるのは容易い。
 だが

(やれやれ)

 すでに悠二に見捨てるという選択肢は摩耗しつくされて消えている。

「悠くん……?」

「悪い悪い。そうだな、たまにはいいかもな」

 人に甘えてみるのも、恥ずかしさから言葉には出さずに、そして代わりに笑みを深める。

「それに、どうも危なっかしくて見てられん。そうでしょ?爺さん」

 どこか、さっきから何かを考え込んでいるような表情を浮かべている純一へと問いかける。

「悠二くん…。君は……」

 悠二の言葉は由姫やさくらを困惑させるが、純一だけには意味が通ったらしく神妙な顔をする。
その反応に我が意を得たりと少し微笑み

「――さくら」

「なにかな、悠くん?」

「厄介になるがいいか?」

 問いかけた。

「うん♪」

 そして、さくらは本日二度目の笑顔の満開を見せるのだった。





「――悪いな、由姫。夕飯世話になっちまって」

「いいのよ、悠くんだって私の家族よ?」

 そのあと、義之と悠二のために由姫が夕飯をご馳走してくれた。そのあと、悠二とさくらは朝倉家の玄関口に居た。
 言葉遣いについては敬語にしようかともいった悠二だったが、似合わないとのさくらや由姫からの反応で通常通りのものとなっていた。

「お兄ちゃん、おやすみ」

 由姫の背中からひょいっと顔を出した由夢がまだ少し恥ずかしそうに言った。

「ああ、お休み。由夢、それと音姫もな」

「――うん」

 由夢のさらに後ろに立つ音姫にも気づいていた悠二が声をかけると、少し恥ずかしさに顔を染めながらも、音姫は頷いてくれた。

「義之もお休み」

「うん、お休み。お兄ちゃん」

「ああ」

 そんなメンツに見送らえて悠二とさくらは朝倉家を出る。
 とはいえ、向かう芳乃家も隣にあるため、実に不可思議な気もする悠二ではあった。

「――さっきも思ったが、割と大きいんだな。お前の家は」

「えへへ。御祖母ちゃんの時からずっと住んでるんだよ!」

「――」

「てい!」

 思わず、さくらの年齢を考えてしまった悠二の頭に衝撃が走る。

「――女の子に年を聞いたじゃだめだぞ!」

「――言葉には出してなかったんだが?」

「――そんな気がしたんだよ」

「エスパーかよ」

「にゃはは」

 そんなただのじゃれ合い。他愛のない会話を心から楽しむように笑うさくらに悠二の表情はわずかに曇る。
 前を歩いている為、そのことには気づかないさくらは玄関の扉をあける。

「ただいま~♪」

「――お、いや、違うな」

 一瞬、いつものように『お邪魔する』と言いそうになった悠二は訂正する。

「ただいま、だったな」

 そういうと、さくらは嬉しそうに表情を綻ばせたのだった。
 
 

 
後書き
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