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魔法と桜と獣

作者:亞紋
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一話 咎人と女神

 
前書き
にじファンからの移民でその時は八雲葵と名乗っていました亞紋です
性懲りもなく、その時に書いていた奴の改稿版です

時間があったら見てやってください。

では 

 
一話
咎人と女神

 これはひとつの物語。
 世界に抗い、そして世界に殺された男のひとつの異端。
 世に転生者は星の数こそあれ。彼のような転生者は一握の砂のごとく、少ないのではないだろうか?
 脚本も筋書きはありきたりなもの、だが役者がいい。
ーーー故に面白くなると思うよ?

 さあ、開幕だ。

 ポップコーンとジュースの準備はいいか?
 小便は済ませたか?

 一分一秒でも、観客(アナタ方)を楽しませられたのなら幸いだ。
 では、今度こそはじめるとしよう。

 ――世界に抗った、愚者の物語を





 ーーー次元の終息地、そして根源に存在する世界。ありとあらゆる世界はそこから生まれ、そして滅びたのちにそこへと還る。名前はないが、そこを訪れた人間の言葉から『神界』と呼ばれているこの世界は、世界と同じように、そこで死んだ人間を査定し、転生させる云わば関所のような機能も果たしていた。
 ここで、管理人によって来世が決定し、転生する。
 その入り口である『死者の門』付近でこの物語は始まりを告げた。

「―――ここは…」

 黒いスーツを着た男は目を覚ますとなにか列のようなものに並んでいた。前を見ると私服やコートなど多種多様な服を着た老若男女がすさまじい長蛇の列で並んでいる。
 なぜ?自分がこんな場所にいるんだろうか?しばらく、思考を巡らすがなぜか、靄がかったように思い出せない。

「―――まあ、なるようになるだろう」

 と、頭を切り替えると静かに順番を待つ。


〜五時間後〜


「ここか?」

 列を並び、順番が来た男はどこか恭しい態度の女性に案内され、どこか執務室のようなところの前にたっていた。
 ちなみに、その女性は先ほど『それではよい人生を』と、一礼すると立ち去っている。
 そこが何の場所なのか、わかりえる唯一の情報になりそうなのは扉の上にはなにやら書かれている文字だけ。一見するとローマ字に近いと思われるその文字だが

(―――読めん)

 読めなかった。英語をはじめとした数ヶ国の言語を体得している彼でも、読めないような文字だ。だが、初めて見たか?と聞かれるとそうでもない。どこかで見た気がしたが、どうにもそれが思い出せない。

「――むう」

 腕を組んで、必死に記憶を手繰り寄せては見るモノの、結果は芳しくない。そのことに腹立たしげに唸り声をあげる。

「――仕方ない。この部屋の主に聞いてみますか」

 数秒、そのまま悩み続けるが、やがて目の前にある重厚な扉へと目を向ける。
 少々不用心すぎる気がするがいまとなってはそうするよりほかないだろう。ドアノブに手をかけて扉を開けようとすると

「――」
 
「あ、来たね」

 そこで待っていたのは黒い髪のきれいな十歳ぐらいの少女だった。
 少し信じられないのか、目をゴシゴシと擦るが結果は変わらず、彼の瞳には艶やかな黒い髪に、金色の瞳、そして身には中世の神官の着るような豪華なローブで着飾った少女が立っていたのだ。

「はじめまして。僕はーー君たちが読んでいるところの神様だね」

「は?」

 そして、少女から言われた言葉に思わず目を細め、唖然とする青年。
 いや、突然合った少女が神様と名乗ったら、どんな人でもこうなるだろう。

「だから!!か・み・さ・ま!!」

 目の前の男が驚いていないようなので強調するように幼女は無い胸をそらし、宣言する。
 だが、そんな姿には威厳が欠片も無い。

(なに?この子は…。神様?この子が?)

 そんな姿を見た男は思わず、胸中でそんなことを思ってしまう。

「―――そんなことより、ここどこだ?」

 少女の神様宣言を『そんなこと』で済まし、男は辺りを見回す。
 がっちりと作られた壁に、複数設けられた窓には、雲ひとつ無い晴天が映されている。

「日本じゃ…ないみたいだが…」

「えっ!?」

 だが、そんな彼の様子に今度は、少女が男の言葉に驚く。

「そんなことも知らないでここに来たの?」

「ああ。なんか、気づいたら列に並んでてな」

 呆れたようすで、青年に尋ねる少女。答えを聞いて、その表情の色がさらに濃くなる。まるで、常識を知らない存在を目の当たりにしたかのような反応に、すこしムッとするが、その次の言葉でそれは吹っ飛んだ。

「あなた…水無月悠二は下界の時間で27:00に死亡したのよ。覚えてないの?」

 そして、彼女から放たれた言葉は突然の『死』の告知。あまりに突然すぎて男…悠二の頭は珍しくフリーズしてしまう。
 
「え?」

「だから、あなたは死んだの」

 さらにそこに追い打ちをかけるように少女は事実を突きつけた。誰だって、『アナタは死にました』なんていわれれば驚くし、信じられないのも致し方ない。だが、彼に前後の記憶がないのも事実。否定しきれない。

(―――たしか、僕は奴等から仕事を請け負って……)

 悠二が順々に記憶を負っていく中、少女はハアとため息を一つついた。そして、業を煮やしたのかパチンと指を鳴らすと少女と青年の間にモニターが浮かび上がる。そこに移りだされたのは見覚えのある服装の男が体中から血を流している光景。…その男とは紛れも無く彼本人であった。

「ああ・・そういえば・・あの時」

 ちょうど、その時まるで謀ったかのようなタイミングで悠二も思い出した。自分がどうして屍をさらすことになってしまったのか、その顛末を鮮明に脳裏に描けた。

(ああ、そうだ。あの時、僕はアイツらにハメられて……)

 左手で手を覆い、やがて苦虫を噛み潰したような表情へと変わる。彼がこうなった理由は簡単。彼の依頼主が彼を裏切ったのだ。
 人質を救出するために向かった先で待っていたのは複数の代行者。そして、為すすべなくその命を散らしたというわけだ。

「―――あなたも無茶するわね。あなたの体の状態、わからないわけじゃないでしょ?」

 ふうと息を吐き出し、あきれ果てたとばかりにいう。普段の彼だったらあるいはその場を切り抜ける衣できたかもしれないがその時の彼は体はボロボロのスクラップ同然。そんな状態で戦ったのだ。死という結果はある意味必然だろう。

「……ああ」

 そして、少女の逝っていることを誰よりも理解できる悠二は返す言葉もなくただ苦笑いを浮かべるのみ。

「なんでこんなところにいるかということは理解した。それで、僕はどこに行くんだ?」

「どこだと思う?」

 状況の整理を終えた悠二が自分はどうなるのか?と問うと少女はまるで、悪戯を仕掛けている童女のような笑みを浮かべて逆に質問した。
 そんな小悪魔チックな笑顔に一抹の不安を覚えながらも生前?から行くであろうと予測していた場所を告げる。

「---地獄」

 彼本人は行きたいかと聞かれれば首を横に振ろうが、それも仕方ないことだと割り切っていた。少なくとも一般常識を持つ彼の中では自分は英雄や正義の味方などではなくテロリストに属されるべき人間だという認識があるからだ。
 ―――水無月悠二。
 各国の諜報機関にはブラックリストに登録された超弩級のテロリスト。それが悠二についた不名誉な肩書だった。

「却下ね。あなたを地獄に送ったら、きっと地獄はあふれかえっちゃうわよ」

 だが、少女の答えは悠二の予想を裏切ったものだった。少女はやれやれと人を小馬鹿にしたように肩を竦めると次いで指をパチンと鳴らした。
 すると、先ほどまで彼の死体を移していた目の前のモニタが切り替わり、画像の変わりに途方もない桁の数字が浮かび上がる。億すら超え、後一歩で兆にまで届こうという莫大な桁の数字。だが、なぜ少女がこんな数字を掲示したのか、そしてその数字がなにを示すのか見当がつかなかった。

「これは・・・?」

「これはね。あなたがいままで救った人間の数よ」

 尋ねると、両腕を組んだ少女が彼にとって、予想外なころを言ってのけた。すると、僅かにショックを受けたような素振りをみせるが動揺することはなく、少女に言葉を投げ返す。

「―――そうかもな。でも、救えなかった命だってある」

 思い出そうと思えば驚くほど鮮明に思い浮かべることができる。吸血鬼の出来損ないに成り果てた少年少女に対して引き金を引いたとき、たった一人を殺すために旅客機を墜落させたとき、そんなトラウマともいえる光景が目を閉じれば鮮明にフラッシュバックした。

「――たしかにね、あなたは彼らを救うために何万人と殺しているわ。でもね、それを差し引いても、君は人をたしかに救ったのよ」

 まるで慈母か、聖母のような笑みを浮かべて神を名乗る少女は彼が行ってきた所業を肯定した。
 世界の全ての人が彼を悪と、そして彼のしていることを『悪』だと否定したのにも関わらず、彼女は曇りの無い笑顔で即答した。
 ―――その一言で、すこし彼は救われた気がした。
 我ながら単純だと自嘲するが、それでも少しは胸の鉛が落ちた気がした。

「―――だから、あなたは地獄へはいかない」

「―――」

 少女の決意に満ちた表情に、青年は何もいえなくなってしまう。

「いかせられない。(ぼくたち)のプライドにかけて。あなたのやったことは、人間の到底、やれることじゃないのよ。普通の人間は、あそこまで自分を殺せない。あそこまで、機械にはなれない。でも、貴方はそれをやってのけた。それは過ち」

 彼女の言っていることは正論だ。人は他人を殺すことはできるが、自分だけは、自分の感情だけは絶対に殺せない。それは人であれば当然のこと。
 だからなお、彼がやったことは異端なのだ、過ちなのだ。彼がやったこと、それは言わば神の所業。本来なら彼女らがやるはずだったものを人であるはずの悠二がなしてしまった。それおを放置したこと、看過したこと。そして、その結果、悠二に訪れた不幸な終焉に少女は深く後悔し、憤慨していた。

「だからこそ(わたしたち)は君を救いたい。私達がしなくてはならないことを、させてしまったから。止めようと思えば、とめられたのに。だから、アナタは幸せになってもらわなきゃ私たちが……いいえ、私が私を赦せなくなる」

 心底後悔しているようにこぶしを握る神。その表情に嘘は感じられない、本当に心底そう思ってくれている。それを知って、少しうれしくなる。

(神様ってのは傲慢だねぇ)

そんなどこか人間臭い神様に悠二は苦笑しつつ内心で一言。生涯無神論者を通した悠二だったが、こんな人情味のある神様だったら信仰しても等と益体のないことが頭をよぎる。

「気にするな。どうあれ、僕の選んだ道だ」

 そんな人間臭く人情味にあふれた幼女の成りをした神の頭に手をおいて、まるで家族と接するときのような、そんな柔らかな笑みを浮かべてそういう。頭の上に手を置かれたことに特に気に留めることなく、念を押すように少女は問いを重ねる。

「―――後悔は、ないのね?」

「ないね」

 其れだけは言えた。ああすればよかった。こうすればよかったんじゃないか?といったたぐいの後悔や反省ならそれこそ星の数ほどある。だが、青年の中にこの道を選んだことに対する後悔はなかった。

「そう、じゃあ君に神様からのご褒美をあげるね」

 先ほどまでのいかにも神様と言った威厳満載の表情は鳴りを潜め、外見年齢相応の少女の顔で悠二に問いかける。悠二の勝手な推測だがおそらく彼女はこっちのほうが素なのだろう。表情が生き生きしている気がした。

「―――あいにくと僕は無神論者だったんだが?」

「ヤハウェだとか、アッラーだとかあんな低級な神格なんて信じなくていいわよ」

 ハッと鼻で笑うと核爆弾級の発言をサラッと言ってのけた。さすがにその発言には悠二も目を丸くしてしまう。
 もし、いまの台詞を現世のクリスチャンやイスラム教徒が聞いたら卒倒するか、激怒すること間違いなしレベルの危険発言だったからだ。

「―――そういえば」

 そして、不意になにかを思い出したように唐突に切り出した。

「なによ?」

「まだお前さんの名前を聞いてなかったな」

「―――そういえば名乗ってないわね。私は結衣。神階第一位『神皇(シュナイデン・ベルヴェルグ)』って、こっちは名乗らなくていいんだっけ」

 少女…結衣もすっかり忘れていたらしく名乗る。

「知っていると思うが水無月悠二だ。にしても、ベルヴェルクか。……たしかオーディンの別称だったか」

 彼女の名乗った名前からすぐさまその正体を探り当てる。オーディン。北欧神話の主神であり、ルーン魔術の開祖でもある。
 そういえばとようやくそこで思い出した。扉の標識に書かれた文字のことだ。

(ルーン文字だったな。そういえば)

 部屋の主がオーディンというのならばある意味当然の帰結というやつだった。

「そうよ。もっともこれは称号でしかないんだけどね」

「―――ひょっとして、お前。トップだったりするのか?」

「―――」

 言ってはいけないことだったのか、黙ってしまう結衣。どうやら図星らしい。

(やれやれ、こんなのがトップで大丈夫か?この世界)

 少々、行く先が不安になってきたのだった。

「―――ゴホン、それじゃ君の行く先についていうね。ぶっちゃけると、君には二つの道があります」

 ゴホンとわざとらしく咳払いをすると、人差し指と中指を立てて、そういった。

「二つ?」

「そう、二つよ。一つは転生してもう一回、人世をやり直す道。そして、もう一つは、あんまりお勧めしないけど英霊の座に行く道」

「英霊の座……ね」

 一般人なら疑問符がつくだろうが、あいにくと悠二は一般人からかけ離れた存在である。故に、ある程度、その言葉の意味が理解できた。
 だが、悠二としては興味はなかった。自分は英雄の器ではないと思っているし、彼自身あまり英雄というモノが好きではなかったためだ。

「どちらか選べと?」

「そ。私的には前者を強く勧めるわね」

「---わかった。じゃあそのお勧めというのでよろしく頼む」」

 僅かな数秒の逡巡の後にそう答えた。すると、結衣は嬉しそうに表情を綻ばせ、満足そうに笑みを浮かべると不意にパチンと指を鳴らす。瞬間、悠二の目の前のなにもない空間が光を放つ。
 突然の閃光に思わず目を閉じてしまう悠二だったが光がやんで目を開けると何もなかったはずの空間のはあるものがフワフワと浮かんでいた。
 無色透明な膜につつまれたその浮遊物の正体はそれは鎖で黒い鎖で繋がれた二つの小さな指輪と腕輪であった。
 二つの小さな指輪にはそれぞれ白と黒の月と太陽の意匠が刻まれている。さらに腕輪にはなにやら鳥が羽ばたいているような紋章が刻印されて、その三つには共通して、水晶のような赤い宝玉が埋め込まれている。

「これは?」

「私からのささやかな餞別の品。役に立つことは約束するわ。それに君の仕事道具も中に入れてあるし」

「――さいですか」

 こんな小さな指輪と腕輪の中にどうやって入るのだろうか? そんな疑問が浮かんだが、結衣のことを疑う気は不思議と起きなかったのでとりあえず頷いておく。
 指輪は左手の中指と小指に嵌めて、次に腕輪をはめる。サイズはまるで事前にはかったみたいにぴったりだった。

「―――それじゃ、送るね。意識が一旦、なくなるけど大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない」

「じゃあ、始めるわね。目が覚めたら転生先の世界だから。頑張って幸せになりなさいね。じゃないと、私が骨折った意味がなくなるから」

「了解。じゃあな、結衣」

「ええ。さようなら、悠二」

 いうと、結衣は人差し指を軽く噛み切ると空にSのような形をした文字を描く。すると、血がその文字を形作った。
 一見、Sのようにも見える彼女が描いた文字は一つの周期が終わり、新たな周期が始まる変容を示す「死」と「再生」を意味する復活(エイワズ)のルーン。
 転生という儀式にもっとも適したものだろう。
 そして、それを目にした瞬間、まるで糸が切れたマリオネットのように悠二の体は崩れ落ちて、そして粒子へと変換されていく。
 彼が目を覚ます時、それはすでにあちらの世界への定着を終えた時。

「ーーー良い人生を《ein gutes Leben》」

 そして、悠二の体はすべて粒子へと変換され消えていくのだった。
 
 

 
後書き
どうだったでしょうか?
序章なのに何故か6000字近くに……。

にじファン時代とあまり変わってません。

感想指摘お待ちしております 
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