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髑髏天使

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第七話 九階その六


「数百万だったな」
「重要な都市に集中的にいたな」
「ああ、そうだったな」
 アメリカのユダヤ系社会の特徴の一つである。彼等は人口こそ他のマイノリティーに比べてそれ程多くはないがそれでも重要な都市に集中しているのだ。人口分布ではこれが特色である。
「アメリカのユダヤ系って独特なんだよな」
「そもそもユダヤ系自体がだ」
 牧村はユダヤ系そのものについても語る。
「独特だな」
「そうなんだよな。ユダヤ教ってな」
 金髪はユダヤ系の話になるとどんどん進めてきた。
「あれじゃね?食べ物にしろな」
「乳製品と肉は一緒には食べない」
「チーズバーガー駄目らしいな」
「その通りだ。だからすぐにわかる」
 アメリカにおいては、という意味である。
「ユダヤ系かどうかはな。チーズバーガーを前に出せばな」
「食わないのがユダヤ教徒ってわけだからな」
「他にも色々とある」
 とかく決まりが多いのがユダヤ教なのである。食べ物以外の特色といえば。
「髭も剃らない場合が多い」
「スピルバーグなんかがそうだよな」
「その通りだ」
 映画監督のスティーブン=スピルバーグもまたユダヤ系である。アメリカという社会がどれだけユダヤ系が独特のポジションにいるかということの証明の一つであるとも言っていい。
「髭あるんだよな」
「そうだ。サムソンからだな」
「だからわかりやすいんだよな。職業もな」
「学者やジャーナリスト」
 牧村は言う。
「経営者に映画関係者だ」
「知識人とか金融関係に多いのはヨーロッパと一緒だけれどな」
「アメリカではそれが特に強い」
「それでアメリカではあれだよな」
 金髪はさらに話を進めていく。
「ユダヤ系の発言力がかなり強いよな」
「人口的にはマイノリティーの一つでしかない」
 これが現実である。人種の坩堝と言われているアメリカ社会ではユダヤ系の数自体はそれ程ではないのだ。数で言うならばアフリカ系やヒスパニックの方が遥かに多い。
「その中の一つだ」
「けれどあれだよな。その力は」
「まず資金力だ」
 これが大きいのだ。
「そして発言力。知識人が多いからこそ」
「発言力も大きいってわけか」
「しかもこの二つの力を集中的に使ってくる」
 力をただ使うだけではないのだ。集中的に使うのがアメリカのユダヤ系社会の特色なのだ。これは彼等の団結力の強さ故のことである。
「だから彼等は強いとされているな」
「アメリカじゃあれだろ?伝説的なんだろ?」
 金髪の言葉は知ったうえでのものであった。
「その強さはな」
「間違いなくマイノリティーでは最強だろうな」
 そもそも今のアメリカ社会ではマジョリティーにあたる存在は人口比率ではいないと言っていいところがある。所謂ホワイト、アングロサクソン、プロテスタントのピルグリム=ファーザーズ以来のワスプという存在はその比率は少なくなってきている。大統領にしろアイゼンハワーはドイツ系でありケネディ、ニクソン、レーガン、クリントンはアイルランド系である。またユダヤ系だけではなくアフリカ系やヒスパニック、イタリア系、アジア系の高官も実に多い。政府ですらそうであるしアメリカ社会は実に雑多なのである。
「ユダヤ系はな」
「そのユダヤなんだな」
 金髪はあらためて述べた。
「これってな」
「そうだよ。けれどね」
 眼鏡はここで少し溜息をついた。
「うちの学校にはいないからね、ユダヤ系の人は」
「探せば一人はいるんじゃないのか?」
 金髪は少し楽観的に述べた。
「これだけ留学生もうじゃうじゃいる学校だからよ」
「いたとしてもこれ古代のヘブライだよ」
 しかし眼鏡は今度はこのことを指摘したのだった。
「古代の。それに必要な知識だってね」
「あまりにも専門的だな」
「そういうこと」 
 今度は牧村の言葉に対して頷いてみせた。 
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