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髑髏天使

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第二話 天使その十六


「受け入れるしかないのはわかっている」
 水面を見ながら呟いた。
「しかし。それでもだ」 
 受け入れるのは難しかった。己の身体の異変だけではなく異形の者達と闘っていかなくてはならないというのだから。五十年に一度この世に現われ悪しき魔物達を倒す髑髏天使として。そのことを言われては流石の彼でも動揺せずにはいられないということだった、
 闘いは既に一度経た。勝つことはできた。だがまた勝てるとは限らない。敗れれば当然死が待っている。生死にもまた淡白な考えの持ち主で人は何時か必ず死ぬとわかっている。しかしそれが急に来るとなると。それもまた受け入れるのが難しいことであった。
「死ぬ。俺が」
 このことも呟く。
「敗れれば。死ぬのは怖くない」
 それを怖れる考えは彼にはあまりない。
「しかし。魔物共に殺されるのか」 
 そんな彼でも殺されるのは望まない。自然に死ぬのならともかくだ。そのことも考え物思いに耽る。やがてそれにいたたまれなくなったのか立ち上がり傍にあった小石を拾いそれを河に向かって投げた。
 石は何段か水面を跳ねそれから沈んだ。その動きは普段と変わることがない。しかし今の彼は。もうこれまでの彼ではなかったのであった。
「髑髏天使」
 次に出た言葉はこれだった。
「それが俺のもう一つの姿になったのか」
 すっと一歩前に出た。もう足元には水面がある。そこには彼自身の姿もある。それを見ると。明らかに浮かない顔をした彼がいるのだった。
「悩んでも仕方ないがな」
 それはもうわかっていた。
「だが。闘わないと死ぬ」
 このことも認識して顔を苦く暗いものにさせる。
「死ぬつもりはない。それなら闘う」
 闘いを拒むつもりはなかった。それを受け入れることに抵抗はない。何よりも自分自身を守る為に。だがそれでもだった。彼にはそれを容易に受け入れて前に進むまでには確固たる強さはなかったのである。漠然と決意はしているがそれが確固たるものにはなっていないのである。
「闘うが。しかし」
 顔を水面から離した。そのうえでまた考えるのだった。
「こんなことになるとはな。いきなりな」
 今度は上を見上げる。空は何処までも青い。しかしその青が今は。爽やかなものではなく暗鬱としたものに見えるのだった。それが何よりも今の彼の心を表わしていた。どうしようもないまでに。
 悩んでも仕方ないと思った。河に背を向けてこの場を去ろうとした。とりあえずはサイドカーに乗りドライブをして気を紛らわせようとした。しかしその時だった。
「髑髏天使だな」
「まさかとは思うが」
 後ろから、即ち河から声がした。それだけで今の声の主が何者か察したのだった。
「魔物か」
「そう言うのか」
 後ろを振り向く。すると河から異形の者が顔を出していた。水と泥にまみれた頭を見せているその異形の者は。赤い目で牧村を見据えていたのであった。
「今は我々のことを」
「では化け物とでも言おうか」
 牧村は一歩退き間合いを取った。間合いを取りつつ身構えてまた異形の者に対して言う。
「どちらがいい?」
「どちらでも変わりはない」
 異形の者にとってこちらからの呼び名はどうでもいいことのようであった。言葉が素っ気無い。 
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