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髑髏天使

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第十四話 能天その一


                   髑髏天使
                 第十四話  能天 
 うわんとの闘いが終わって数日後。牧村はこの日も大学でトレーニングを行っていた。大学の体育館で黒のジャージ姿で一心不乱に剣を振るっていた。
 体育館ではフェシング部員の他にも様々な部の部員達がそれぞれ練習を行っていた。牧村もまたその中で剣を振るっているのである。それは寡黙にして激しいものであった。
 汗は床に滴り落ち続けている。その中でのトレーニングは何時終わるともなく続いていた。その彼に若奈が来て彼にそっとタオルとポカリスエットを差し出すのだった。
「休憩の時間よ」
「そうか」
 牧村は彼女の言葉に動きを止めて応えた。
「もうそんな時間か」
「ええ。少し休んで」
「わかった」
 牧村はクールな声でまた応えた。
「それではな」
「ええ。それにしても凄い集中していたわね」
「集中していただけじゃない」
 ところが彼はこう返すのだった。
「それはな」
「集中していただけじゃない?」
「そうだ。周りもな」
 こう言うのである。
「見ていた」
「そうだったの」
「時計は見てはいなかったがな」
 だから時間はわからなかったのだ。時計は体育館の壁にかけてある。しかし彼はそれは見てはいなかったのだ。今ようやく見たところである。
「それはな」
「けれど周りは見ていたのね」
「来るのも見えていた」
 それも見えていたというのである。
「それはな」
「集中していないと危ないんじゃないの?」
 若奈は彼の話を聞いたうえで首を捻って述べた。これは至極当然の考えであった。
「相手は正面にいるのよ」
「それはわかっている」
「じゃあどうして?」
 また首を傾げさせて彼に問うた。
「周りにも注意していたの?」
「相手は正面にいる」
 牧村は若奈からそのポカリスエットを受け取りながら述べた。そうしてそれを飲みながら話すのだった。
「正面にな」
「じゃあどうして周りにも注意していたの?」
「敵は何処から来るかわからない」
 剣の如き声でこう言うのである。
「何処からな。来るかどうかわからないものだ」
「だからなの」
「そう。だからだ」
 話すその間にも気配は鋭いものであった。まさに剣であった。
「何時でもな。そういうふうに注意している」
「何かそれってスポーツじゃないみたいね」
 若奈はここまで話を聞いてこう述べたのだった。
「っていうか武道みたいだけれど」
「武道か」
「武道っていうか闘い?」
 暫く考える顔になってからこう訂正もしてきた。
「それに近いような気がするわ」
「そうかもな」
 そして牧村もそれは否定しはしなかった。右手に持ったタオルで顔の汗を拭き左手でポカリスエットを持ちながら飲みつつの言葉だった。
「闘いかもな。確かにな」
「そういう感じよ。本当にね」
「そもそもスポーツも武道もそうだしな」
「そうって?」
「どちらも闘いの為のものだった」
 話はスポーツや武道と闘いの関連についてのものにも移った。
「どちらもな」
「武道はわかるけれどスポーツも?」
「スポーツは元々スパルタからはじまった」
「ああ、スパルタね」
 スパルタといえば若奈もよくわかった。かつてギリシアに存在した都市国家である。国民皆兵制であり常に厳しい軍事訓練を行い精鋭を擁していた国家である。 
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