| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

髑髏天使

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八話 芳香その十九


「魔神の方々を除いてね」
「十二魔神か」
「そうよ。あの方々は別」
 このことも言うのであった。
「死ぬことはないのよ。封印はされても」
「そうか。封印か」
「今日本におられるのは御二人」
 言葉を続けてくる。
「その方々には会ったのね」
「そうだ。既にな」
 髑髏天使もそれは否定しない。アルラウネの周りで異形の舞いを舞い続けるその無数の緑の蔦達とそれを操る彼女を見据えながら。
「会っている」
「言っておくけれどあの方々は神よ」
「それは今も聞いたが」
「それよ。その神に貴方は勝てはしない」
 こう彼に言葉を続ける。
「決して。それにここで私に敗れるのだから」
「さっきも言った筈だ。俺は敗れはしない」
 その無数の斬っても生える蔦を見つつの言葉だった。
「例え何があろうとも」
「これ以上。何を言っても無駄なようね」
「降伏はない筈だな」
 髑髏天使は言葉を強くさせたアルラウネに対して返した。
「そうだったな。我々の闘いは」
「その通りよ。それなら」
「来い」
 劣勢にありながらも相手を挑発してみせた。表情を変えずに。
「今ここで。倒してやる」
「それは私の言葉だけれど」
 アルラウネの態度には余裕が増してきていた。勝利を感じているのがそれだけでもわかる。その為に態度にも出ているのであろう。
「まあいいわ。それじゃあ」
「むっ!?」
 ここでアルラウネは姿を消したのだった。赤い花煙と共に。
「消えたか」
「これは予想していなかったようね」
 アルラウネの声だけが聞こえてくる。暗いガラスの温室の中で。
「私が消えたのは。そうね」
「確かにな」
 冷静な声でそれを認める髑髏天使だった。両手の剣は構えたままで周囲に気をやっている。
「まさか。こう来るとはな」
「さあ。どうするのかしら」
 アルラウネの楽しそうな声だけが響く。
「貴方からは私は見えない。けれど私からは貴方はよく見えるわ」
「俺が」
「ええ。それもよくね」
 笑っていた。その声が。
 あの棘の蔦達は何時しか髑髏天使を囲むようにして地面から出ていてやはり蠢いている。闇の中で舞を続けているのであった。
「見えるわよ。さあ」
 また声がする。
「倒してあげるわ。今ここでね」
 花煙の強い芳香は何時しか消え髑髏天使は闇の中で蠢く蔦の中に身を置いていた。動きはしない。しかしそこで相手の気配をじっと探るのであった。
 アルラウネもまた姿を現わさない。どうやら彼の出方を見守っているらしい。そしてそれと共にその隙を窺っている。温室の中を緊張した空気が支配する。
 髑髏天使は前を向きながらもその注意は四方八方に及ばせていた。何時アルラウネが襲って来てもいいように。しかし気配は感じない。そのまま時間だけが過ぎていく。
 それが永遠に続きそうになったその時だった。不意に彼の周りをあるものが包んできた。
「!?」
 そしてそれを感じた時に彼は思い出した。先日の家族で鍋を食べていた時と博士の言葉を。この二つの話を咄嗟に思い出したのであった。
 それを感じた瞬間にはもう動いていた。右手の剣を後ろに刺す。するとそこには。
「うぐっ・・・・・・」
 アルラウネがいた。丁度今後ろから髑髏天使を襲おうとしていたのだ。しかしその直前に彼女は。その心臓を今出された剣で貫かれてしまったのだった。
「何故・・・・・・」
「確かに姿は消えた」
 髑髏天使は唯一の弱点である心臓を貫かれ断末魔の顔になっているアルラウネは見ずに正面を見据えたままで彼女に対して語る。
「それは確かだ」
「なのにどうして」
「貴様は目だけを考え過ぎた」
「目を!?」
「耳についても注意は払っていたようだがな」
 このことも言い加えはした。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧