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髑髏天使

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第五十五話 魔水その十


「それか死ぬ時にのう」
「そこで妖怪になるかどうか」
「それを決めるんだね」
「そうしてくれるんだね」
「妖怪になるのも悪くはない」
 博士は実際にだ。そう考えていた。
 そのうえでだった。博士はだ。牧村にも言った。
「君もどうじゃ?やがてはじゃ」
「妖怪になるかどうかか」
「いいぞ。妖怪は長生きじゃ」
 その一つの肉体の寿命がだというのである。
「死んでも同じ姿形の肉体で。記憶もそのままじゃ」
「いや」
「いや?」
「それも悪くはないが」
 それでもだと。牧村は話す。
「俺は人間として生まれ変わっていきたい」
「そうしたいのか」
「確かにそうした意味で死なないのはいい」
 それはだというのだ。
「しかしそれでもだ」
「違うというのじゃな」
「一つの記憶を永遠に持っていくことも辛いことだろう」
 牧村の声が曇った。その声がだ。
「だからだ。死ぬべきならば死にたい」
「その都度記憶を消して身体を換えて」
「そうしていきたいんだ」
「そうなんだ」
「忌まわしい記憶もある」
 人間にはそれがあるというのだ。誰にも忘れたくてもどうしても忘れらない記憶がある。心の傷ともいう。それについて考えての言葉だった。
「だからだ。俺は」
「心の傷ね」
「それは消せない場合もある」
 それを話すのだった。
「死ぬことで消えるのならいいと思うがな」
「それも一理あるのう」
 博士はその考えを否定しなかった。むしろ肯定していた。
 そしてだ。こう話すのだった。6
「実際に人間は難しいものじゃ」
「特に心はな」
「人間は心で人間となるのじゃ」
「その心の傷こそがだな」
「一番厄介じゃ」
 博士もわかっている顔で述べる。
「心理学にもなるがな」
「博士ってそれも詳しいよね」
「っていうか心理学もやってたっけ」
「そうだったよね」
「うむ、心理学者でもある」
 実際にそうだとだ。妖怪達に答える博士だった。
「所謂トラウマじゃ。それは厄介なのじゃ」
「心の傷は。容易には消せない」
「身体の傷は何とかなってもじゃ」
 それでも。心はだというのだ。
「心は中々そうはいかん」
「そしてその傷は膿みやすいな」
「身体のそれよりもな」
 さらに厄介な理由があった。それであった。
「心を蝕み続ける。癒せる場合もあるが」
「そうならない場合もある」
「それを考えれば。どうしてもな」
「人として生まれ変わるのもいいのじゃな」
「俺はそこまでの心の傷はないが」
 牧村自身はそこまでのトラウマはないのだという。しかしなのだった。
 彼はだ。ここでさらに話すのだった。
「だがそういう人間は見てきた」
「そうなのじゃな」
「そうだ。極端な暴力を受けてそれが傷になっていた」
 そうだったというのだ。
「身体ではなく心に及んでいた」
「暴力はそうしたものじゃ」
 まさにそれだと。博士も述べる。 
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