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髑髏天使

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第五十五話 魔水その三


「牧村さんも笑うんだね」
「いつも無表情だって思ってたけれど」
「そうじゃなかったんだ」
「笑えたんだね」
「わしもはじめて見たぞ」
 博士もだ。こう言うのであった。
「いや、君が笑うとはな」
「俺が笑ったか」
「笑ったぞ、確かにな」
 本人に対しても話す。
「間違いなくじゃ」
「そうか。俺も笑ったか」
「っていうか牧村さんってこれまで笑ったことなかったの?」
「そうだったの?」
「ひょっとして」
「長い間なかった」
 実際にそうだという牧村だった。
「元々感情を出すのは苦手だったからな」
「それで笑ったこともなかったんだ」
「鉄仮面みたいになっちゃったんだね」
「何時の間にか」
「そうだ、そうなった」
 まさにだ。それでだというのである。
「それでそうなった」
「そうだったんだね」
「牧村さんってつまりは」
「あれ?照れ性?」
「それなんだ」
 こうだ。妖怪達は言うのであった。
「それで感情を出すのが苦手だったんだ」
「そういうことなんだね」
「つまりは」
「そうなるか」
「うむ、そうじゃな」
 牧村はいぶかしんだがだ。博士は答えたのだった。
「そういうことになるな」
「俺は今まで気付かなかった」 
 牧村はその背にもたれかかった姿勢のまま述べた。
「そうしたことにな」
「自分のことってやっぱり気付かないんだね」
「自分自身のことなのに」
「そうなんだ」
「一番身近なものが一番遠い場所にあるのじゃよ」
 博士はこう妖怪達に話した。
「背中は見えないものじゃな」
「私もそれは無理ね」
 二口女が笑いながら言う。頭の後ろの口でも喋っている。その口に髪の毛、蛇の形になったそれが饅頭を入れていっている。
「目はないから」
「背中だけではない」
「あら、そうなの」
「そうじゃ。背中だけではなくじゃ」
 こう話すのだった。
「他の場所もじゃ」
「あらゆる場所が?」
「そうなんだ」
「背中だけじゃなくて」
「他の場所も」
「そうなのじゃ。とにかく自分は見えないものじゃ」
 こう話していくのだった。博士はだ。
「人間にしろ妖怪にしろな」
「魔物だってそうだよね」
「とにかく。自分自身は見えない」
「そうなんだね」
「そういうものなんだね」
「そうじゃ。そしてじゃ」
 さらに話すのだった。博士はまた牧村を見た。
 そうしながらだ。博士は牧村を見てまた話す。
「君もそうだったのじゃな」
「自分はわからないか」
「見えないからのう。見えても一部分だけじゃ」
「自分自身は鏡を見てわかるものだな」
 牧村はここで鏡を話に出した。 
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