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相良絵梨の聖杯戦争報告書

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横田基地サーヴァント防衛戦 その5

 ロード・エルメロイ二世からの電話に会議室は静かになった。
 私は若宮さんと顔を見合わせる。
 ルヴィアさんの言葉を遮って、電話向こうのロード・エルメロイ二世が盛大なため息を吐く。

「先生。どうして――」
『どうして分かるのか、か?
 米軍、日本政府、CIA、法政科。そこに君まで放り込んだんだ。まとまる方がおかしい』
「わたくしまでとはどういう意味ですの!?」
『そのままの意味だ』

 即答。
 このやり取りでいい師弟関係であることが分かる。

『まず、今いる人間を教えろ。できれば電話をスピーカーにしてくれ』
「既にそうなっていますわ」
『……そうか』

 微妙に嫌そうな声を出した。
 なお、この会話も米国に録音されている可能性が非常に高い。
 ……先生。御愁傷様です。

「米軍側の現場指揮官でロバート・ケイン大佐。CIAのアンジェラ・サリバン三等書記官。内閣情報調査室の若宮友里恵分析官。法政科の化野菱理さん。それと私に、相良さんは役職はどのように?」
「内調のオブザーバーで、魔術使い神奈一門の人間です」
『獅子劫は?』
「まだ電話が繋がっています」
『ならちょうどいい』
『俺はあんまり良くねえんだが』

 獅子劫さんのぼやきは無視された。
 こうして、エルメロイ二世がこの場を主導する。

『確認する。逃走したサーヴァントは横田から南西。人間の多い場所を避けながら多摩川方面へ移動している。それで間違いないな?』
『ああ』
『追跡されていることは理解している?』
『間違いねえ。こっちが近づけば進路を変える。野良犬みたいにただ逃げてる訳じゃない』
『なら滝山城ではない』
「滝山城?」

 唐突に地名が出て、皆一斉に地図でその場所を探す。
 城だなんて地元で歴史に興味がないと見つからないものゆえに、先に見つけたのは私だった。
 
「ここね。多摩川の近くの山城」

 私の指に若宮さんがさらに補足する。
 このあたりをフォローできるのが私たちしかいないのは結構きつい。
 化野さんは時計塔だからイギリス在住だし……というか、何でエルメロイ二世は日本でもマイナーな山城なんて知っているんだ?

「横田から南下した多摩川沿いにある八王子北部の城跡です」
『北条氏照の居城だった。天然の地形を使った防御性の高い城で、土地にも歴史がある。魔術的にも完全な外れではないだろう』

 思い出した。この人第四次聖杯戦争の生存者だった。
 資料では、その縁でこの人日本の戦国史好きというか、聖杯戦争の時に日本のゲームで日本史を覚えたとかいう、何か間違った日本通だった。

『だが籠城には向かない』

 エルメロイ二世の話にケイン大佐が眉を寄せる。
 メモを書いて副官に渡していたから、向こう側でも滝山城の情報を大慌てで集めるのだろう。

「城なのにか?」
『現在の話です、大佐。人里に近すぎる。
 警察と米軍が動いている以上、そこへ入れば包囲される。逃走したサーヴァントがそこまで理解できない獣なら、そもそも人間の多い地域を避ける必要がない』

 昔の山城も今は昔。
 横田基地もそういう意味では同じ郊外に作られたのだが、開発の波はここまで押し寄せてきており、この周辺もビルやマンションが立ち並ぶ首都圏の一角になってしまっていた。 

『つまり、奴は追跡者の存在を認識し、安全な場所を選んでいる』
「では、さらに山へ?」
『その可能性が高い』

 アンジェラの問いエルメロイ二世が返事をした後、沈黙が生まれる。
 そして彼の言葉は思わぬ人物に向けて発せられた。

『獅子劫』
『何だ?』
『君はどうして、そんな都合のいい位置にいる?』
『……追いかけてるからだろ』
『そういう意味ではない』

 空気が変わり、獅子劫さんも黙った。
 察したのは私と化野さんで、化野さんは額に手を当ててしまっている。
 もちろん、そんな私たちをエルメロイ二世は見ている訳もなく、彼にとっての真実を魔術協会にとっての地雷を容赦なく踏み抜く。

『君の依頼内容はある程度聞いている。召喚用の触媒も準備していたな?』
『おい、そこまで言うか普通』
『何を召喚するつもりだった?』

 再び沈黙。
 今度ははっきりとケイン大佐・アンジェラ・若宮さんの顔色まで変わる。
 私と化野さんは仲良くため息をつくのみ。
 ルヴィアさんは……変わらないな。凄い。

『……鬼一法眼』
「鬼一法眼?」

 ケイン大佐が当然のように首を傾げ、私も知識を掘り起こす。

 鞍馬山。
 天狗。
 兵法。
 源義経。

「天狗……」
『そうだ』

 私のつぶやきは思ったより大きかったらしく、エルメロイ二世に拾われる。
 エルメロイ二世の声も抑制がかかる声になった。

『そして東京西部で天狗信仰の強い山となれば、高尾山だ』

 全員が地図を見る。
 高尾山。
 八王子市の西にある山で、天狗信仰がある霊地。

『獅子劫。君もそう考えていたな?』
『……ああ』

 電話越しのやりとりは、探偵が犯人を追い詰めるがごとし。
 刑事ドラマならこれで自白があっておしまいだが、現実ではこれからが大変なのだ。

『嫌な方向に全部繋がりやがった』
「つまり、サーヴァントは高尾山へ?」
『まだ断定するな』

 アンジェラの確認にエルメロイ二世が即座に釘を刺す。
 こういう所が慎重だからこそ、聖杯戦争で生き残ったのだろう。

『だが第一候補だ。それと、もう一つ。
 高尾山なら、急いで討伐に行く必要はない』

 今度はケイン大佐が反応した。
 高尾山のワードが出た時点で彼の副官を呼び何か命じていたから、出発準備ぐらいはさせるつもりだったのかもしれない。

「何?」
『マスターを失ったサーヴァントは、無限に現界できるわけではありません』

 説明の仕方が変わった。
 完全に米軍向けだ。

『単独で行動する能力はあるでしょう。しかし、燃料がない車が走り続けられないのと同じです。現界には魔力が必要になる』

「山から補給する可能性は?」

 アンジェラの質問にエルメロイ二世は淡々と説明するが、はたから聞いている私には将棋で詰めろに追い込まれたような感覚を覚えた。

『あります。だから、それを止める。
 高尾は古い霊地だ。だが、人の手が入っていない土地ではない。そして――』

 一呼吸。

『すでに先客がいる』
「先客?」
「天狗ですよ」

 会議室の誰かの声に私が応じてしまい、全員の視線がこっちに集まった。
 ならば、ここの説明は私がするべきなのだろう。

「いえ、本当に鳥の嘴つけたお爺ちゃんがいるとか、そういう意味じゃないですよ?
 天狗と呼ばれている霊的存在。山の信仰とか、土地そのものに結びついた何かです」

『その理解でいい』

 エルメロイ二世のお墨付きが出た。
 何か本当に授業で答え間違えなかった感じがして、ほっとする。

『こちらから霊脈を封じてもいいし、土地の管理者と交渉できる人間がいるなら、外来のサーヴァントに魔力を使わせないよう頼めばいい』

「頼めるのか?」
「多分」
「多分?」
「こういうのはお願いしてみないと分からないんですよ」

 ケイン大佐に私が回答するが、軍人に言う回答としては最悪だとは思う。
 でも、こればかりはオカルトの、つまり神様というか天狗様の気分次第なのでそういうしかない。
 私の返事を受けてエルメロイ二世が続ける。

『だが成功すれば、数日で状況は変わる。
 あのサーヴァントは消滅するか、山を出る』
「山を出た場合は?」
『そこで初めて討伐すればいい』

 あまりにも簡単に言った為に、ケイン大佐が机に両手をつく。
 その音は結構大きかった。

「数日待てと?」
『ええ』
「こちらは既に六人死んでいる」
『だからです。
 今、山に突入すればさらに死ぬ可能性があります』
「……」
『あなたは死者を増やしたいわけではないでしょう、大佐』

 静かな説得に会議室の沈黙。
 煽ってもいないし、責めてもいない。
 ただ事実だけを置いた結果、ケイン大佐が黙る。
 そこにアンジェラが質問した。

「もし、そのサーヴァントが山に留まらず突破を選んだ場合は?」
『そこまで愚かではないと思います』
「根拠は?」
『生存より自由を優先している。
 滝山城のような籠城に適した場所を選ばなかった。
 人間を避け、山へ向かっている。最初に召喚者を殺したという話も合わせるなら――』

 電話越しの声が重くなる。
 この人英国に居るんだよなと疑いたくなる。
 電話越しなのに、この会議室を誰よりも支配していた。

『あれは生き残ることより、誰にも支配されないことを選ぶ類です』

 ヘシアン・ロボ。
 人を憎んだ狼。
 その背に乗る首なし騎兵。

『だから追い詰めすぎれば突破する。だが、こちらから山へ踏み込まなければ、すぐに戦う理由もない』

 なるほど。
 戦う必要がない。
 包囲するだけでいい。
 会議室の空気がエルメロイ二世によって制圧された。

『さて、ここから役割を決める』

 声音が変わり、指示をしようとしているのに誰も口を挟まなかった。
 さっきまであれほど揉めていたのに。
 多分この場の全員が気づいたのだ。
 この人だけが既に解決までの道筋を見ている。

『日本側』
「はい」

 返事をしたのは若宮さん。
 手にはメモとペン。

『まず高尾山周辺の一般人を減らしてください。登山道、道路、公共交通。理由は何でもいい。事故でも熊でも不発弾でも構わない』

「高尾山周辺の封鎖か……福生警察署で現場指揮をとる村田警視にお願いします。
 名目はこちらで決めても問題ないですよね?」
『どうぞお好きなように。
 警察は外周に立つだけでいい』
「立つだけですか?」
『制服警官とパトカーがいる。それだけで間桐とアインツベルンには意味がある』

 あ。
 魔術側が見ようとしない盲点。
 現代社会、特に日本において警察を敵に回しての表の生活はまず不可能だ。
 この人は、それが分かっている。

『彼らも警察官を殺して国家そのものを敵に回すほど馬鹿ではないでしょう。使い魔を自由に動かせる範囲を狭められる』

 若宮さんが即座にメモを取る。
 そのまま村田警視に伝えるのだろう。

『米軍は基地防衛と広域監視。それから魔術要員を日本側封鎖線の内側へ』
「使い魔への対処か?」
『そうです。ただしサーヴァントとは戦わせないでください』
「その程度の区別はできる」
『先ほどできていなかったようですが』
「……」

 ケイン大佐が押し黙る。
 この人、大佐相手でも容赦ない。
 そんなこちらの表情を知らないエルメロイ二世は話を続けていた。

『法政科と相良が識別を補助する。間桐の蟲は侵入したものを排除。ただし追跡できる個体は残す』

 アンジェラがすぐに反応する。
 CIAとしては、希望が通った形なので喜色が声にのってしまう。

「追跡?」
『帰る場所があるなら、帰らせればいい』

 ここでCIA工作官の顔になった。
 楽しそうに見えたのは気のせいだと思いたい。

『アインツベルンは追い返せ。殺すな』
「理由をお伺いしても?」

 化野さんの確認にエルメロイ二世は即答する。

『サーヴァントを連れて本人が来る理由を作りたいのか?』
「結構です」

 そりゃそうだ。
 ただでさえ冬木以外の地でこれだけの役者がそろっているのだ。
 これ以上の追加はごめんであると心の中で思っていた間に、エルメロイ二世は次の話に入る。

『三つ目の使い魔は破壊するな』
「理由をお伺いしても?」
『正体不明の目だ。誰が何を見ているか確認しろ。ただし深追いもするな。向こうもこちらを観察している』
「CIAで追跡します」
『魔術的な部分は法政科か相良に補助させろ』

 化野さんが少し嫌そうな顔をするかせ多分私も同じ顔だろう。
 仕事が増えた。

『獅子劫』
『はいはい』
『高尾山へ向かえ。ただしサーヴァントには接触するな。痕跡を追い、居場所を確定しろ』
『了解』
『ルヴィア』
「はい、先生」
『待機』
「何故ですの!?」

 ルヴィアさん以外の面々に笑顔が。
 当人は元気に怒っているが、清涼剤みたいな掛け合いが続く。

『位置すら確定していない相手に君を放り込んで何の意味がある』
「ですが!」
『君の仕事は見つけてからだ』

 声が厳しくなる。
 先生の声だ。

『獅子劫が追う。警察が人間を退かせる。米軍が外から見る。使い魔はこちらで処理する。そして最後に君が殴れ』

「……」
『得意だろう?』
「もちろんですわ」

 納得するんだ。
 それでいいのか。
 まぁ、得意そうな顔なのでそっとしておこう。
 で、残った私に話が移る。

『相良』
「はい」
『全体の調整を』
「嫌です」

 即答し全員がこっちを見る。
 ダメもとでも抵抗はしておく。

「いや、だってこれ絶対一番面倒な仕事じゃないですか!」
『君以外に日本政府、米軍、CIA、時計塔の全員と話ができる人間がいるのか?』

 会議室を見渡す。

 若宮さん。
 アンジェラ。
 ケイン大佐。
 化野さん。
 ルヴィアさん。

「……JKのする仕事じゃないから泣く。私が」
『諦めろ』

 エルメロイ二世の声にはなんだかすごく実感がこもっていた。
 きっと私と似たような事をしていたのだろうと勝手に親近感がわくが、それは置いておいて。
 そして最後の人が呼ばれる。

『化野』
「はい」

 エルメロイ二世の声が変わった。
 少しだけ、本当に少しだけだが、疲労ではない何かが混じった。

『ここから先は、君の仕事だ』
「と、申しますと?」
『獅子劫が用意している触媒。
 鬼一法眼を召喚する必要は、この事件だけならない』

 空気が止まる。
 獅子劫さんも何も言わない。

『高尾の魔力供給を断ち、封鎖を維持すればロボは消える。あるいは突破してくる。その時に待ち構えればいい』
「では召喚は認めないと?」
『それを私に決めさせるな』

 エルメロイ二世が吐き捨てる。
 その声だけは、たっぷりと責任が乗っていた。

『私は現代魔術科だ。召喚科でも法政科でもない』
「随分と都合の良い線引きですこと」
『組織とはそういうものだ。
 問題は、もし獅子劫に召喚させるなら――』

 二世が言葉を区切る。
 そこまで見えて、それを言う事の重さを理解した上で、エルメロイ二世は決定的な一言を告げた。

『米国に英霊召喚が再現可能な技術だと教えることになる』

 誰も喋らない。
 ケイン大佐も、若宮さんも、アンジェラですら。
 もちろん私も黙らざるを得ない。

『今の彼らは、召喚に失敗した魔術師が化け物を一匹出したことしか知らない。
 触媒を用意し、術式を構築し、意図した英霊を召喚し、契約し、命令できる。
 その工程を見せた瞬間、話が変わる』

 その通り。
 兵器になる。
 研究対象になる。
 そして――

『ワシントンは必ず時計塔へ正式に接触してくる』

 ケイン大佐は軍人として表情を隠し、アンジェラの目が細くなったまま。
 慎重に言葉を選んでアンジェラが口を開いた。

「否定はしません」
『でしょうね』

 疲れ果てた声だった。
 先が読める事、その結果己に何が起こるかまで理解した声。

『国務省、国防総省、CIA。場合によっては議会まで出てくる。誰が窓口になるかで時計塔内部でも揉める』

 化野さんの顔が、物凄く嫌そうになった。
 そうなったら、責められるのはエルメロイ二世だけでなく化野さんもだ。

『法政科は何故事前に止めなかった。現代魔術科は何故米国に余計な知識を与えた。召喚科は何故自分たちの術式を勝手に晒した。エーデルフェルトは何をしていた――』
「最後はわたくしですの!?」

 ルヴィアさんの抗議は皆に黙殺された。
 それが正しかった事を電話向こうの愚痴が証明してくれた。

『そして私のところには、何故弟子を日本へ行かせたと苦情が来る』
「先生の為にがんばっているのですよ!」
『余計なお世話の上に、こんな事態になったから頭が痛いんだ!』

 初めて声を荒らげ、この人も人間なのだと親近感がわく。
 Fワードを使わなかったのは、こちらの人間が表社会でそれ相応の人だというのが分かっているからだろうが、やらかした弟子に愚痴の一つ二つはぶつけたくなる気持ちは分からないではない。
 私も姐弟子様の無理難題に……よそう。心が痛くなってきた。

『さらに米国からは「ロード・エルメロイ二世なら話が通じる」と連絡が来る。
 時計塔内部からは「何故お前だけ米国と話をしている」と嫌味が来る。
 法政科からは「外交案件を増やすな」と言われ、召喚科からは「余計なことを教えるな」と言われ、これで聖杯戦争に私が参加してみろ。
 税関の所で拘束されるならまだしも、下手すれば入国拒否だ』

「そんな事しませんわよね?」
「……」
「……」

 ほぼ同時に仲良く目を逸らす私と若宮さん。
 聖杯戦争がらみのごたごたで、ロードクラスが参戦なんかしてこれ以上の騒ぎになったら……考えたくない。
 若宮さんが頑張って声をだす。

「申し訳ございませんが、お茶漬けだけ食べて帰っていただけませんか?」
「どういう意味ですの?」
『最上級の入国拒否宣言だ』

 場が和むが、本題は提示されたまま。
 だから当事者である化野さんの白い肌に汗が頬を落ちた。
 その責任の重さに、魔術世界を変えかねない決断に。
 エルメロイ二世の顔は見えないが、声は変わった様子はなかった。

『だから化野』
「はい」
『何も見せないことは、もうできない』

 化野さんが目を細める。
 それは、彼女自身がファミレスで私に言った言葉だった。
 それが、ここまで重くなるとは彼女自身も思っていなかったのだろう。

『なら、何を見せるかを決めろ』
「……」
『召喚を隠すなら、今からその準備をしろ。見せるなら、どこまで見せるか決めろ』
「承知しました」
『それが法政科の仕事だ』

 化野菱理が小さく息を吐いて、笑った。
 いつもの、何を考えているか分からない笑顔。

「ええ。ようやく私の仕事になりましたね」

 怖い。
 この人、絶対楽しんでる。
 いや、楽しまなければやってられないか。

『以上だ。
 獅子劫は高尾へ。日本側は封鎖準備。米軍は監視と使い魔対処。CIAは第三勢力を追え。相良はその間の調整。化野は法政科の仕事。ルヴィアは待機』
「不満ですわ」
『知るか』
「先生!」
『相良』
「はい」
『後は任せた』
「丸投げした!?」
『私はロンドンにいるんだぞ!』

 至極もっともな理由と共に電話が切れる。
 会議室に沈黙が落ちた。
 さっきまであれほど揉めていたのに。
 全員が、自分が何をすればいいのか分かっている。
 私は切れた電話を眺めてから、ぽつりと呟いた。

「……ロードって、こういう人なんですね」
「ええ」

 化野さんが笑う。
 そして私達の前に置かれた高尾山の地図を指で叩いた。

「では、仕事を始めましょうか」

 
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