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相良絵梨の聖杯戦争報告書

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横田基地サーヴァント防衛戦 その3

 横田のファミレスにてたぶん信用してはいけない魔術師と魔術使いの、一時的な共同戦線が成立したのはいい。
 そして、握った手を離したところで私は大事な事に気づく。

「……で、誰に話を通しましょうかね?」
「誰に、とは?」

 ルヴィアが首を傾げる。
 困った事に、魔術師にお役所仕事はわからない。
 入ったはいいが注文もしないのもろくでもない客なのでドリンクバーにコーラを飲みながら説明する私。

「横田基地でサーヴァントを討伐するんですよ。
 米軍基地に外国人魔術師を連れて行って、好きに暴れてくださいなんてできる訳ないでしょう?」
「そのぐらいでしたら、そちらで何とかなりませんこと?」
「私を何だと思っているんです?」
「日本政府の魔術担当?」
「違います」

 いや、最近やっている事だけ見れば、あまり違わない気がするが、私は深く考えない事にした。
 少し離れた席でコーヒーを飲んでいる若宮分析官を見る。
 目が合った。

「こっち見ないで」
「まだ何も言ってませんよ」
「言わなくても分かるわよ。
 私は内閣情報調査室の分析官であって、米軍基地の司令官じゃないからね」
「ですよねぇ」

 となると、米国側はアンジェラに話を通せばいい。
 問題は魔術師側だった。
 普通ならば聖杯戦争の監督役である言峰綺礼に話を持っていくべきなのだろう。
 だが……

「言峰神父は無しですね」
「あら?
 どうしてですの?」
「第四次聖杯戦争の癒着はご存じで?」
「なるほど」

 即納得するルヴィアだった。
 悪名は残るとこうなるという例だろう。
 それ以外にも、こちらが彼に渡した情報が冬木のマスターたちに流れていなかった件だけでも信用する理由はない。
 今回の討伐令だって、こちらに恩を売って聖杯戦争から手を引かせるためなのか、それとも別の狙いがあるのか分かったものではない。
 布告は利用する。
 だが、調整役として頼るつもりはなかった。

「となると……法政科ですわね」
「でしょうね」

 私が携帯電話を取り出すとルヴィアが露骨に嫌そうな顔をした。
 私も気持ちは分かる。
 だが、嫌いな相手と仕事をしないで済むほど世の中は優しくない。
 調べてもらって、登録してある番号を呼び出す。
 三回鳴る前に相手が出た。

『はい。化野です』
「相良絵梨です。
 今、お時間よろしいですか?」
『横田基地の件でしょうか?』
「……話が早いですね」
『こちらも仕事ですので』

 相変わらずであるが仕事が早いからこそこうして切る事ができない。
 私はルヴィアを見ると彼女は肩をすくめていた。

「エーデルフェルトさん――ルヴィアさんと話がつきました。
 今回だけですが、共同であのサーヴァントを討伐します」
『そうですか』

 驚いた様子はなく、むしろ、少しだけ安心したようにも聞こえた。
 裏返せば、そこまで事態がやばくなっていたともいう。

『ロード・エルメロイ二世から何か?』
「……そこまで掴んでいるんですか?」
『現代魔術科のロードが、ご自分の教え子に連絡を取れば嫌でも話は回ります』
「時計塔、怖いですね」
『今更でしょう?』
「ごもっとも。それで、もう一人欲しいんです。
 獅子劫界離」

 今度は電話の向こうでわずかな間が空いた。
 嫌な予感がして、案の定的中する。

『その件でしたら、こちらで止めております』
「はい?」

 思わず声が出た。
 ルヴィアも聞こえたらしく眉を上げる。

「止めたって、何を?」
『横田基地へ向かおうとしていたので止めました』
「もう動いていたんですか!?」
『討伐報酬が令呪一画ですから』

 そりゃ動く。
 あの男は十億円を払ってでも令呪を買おうとしていたのだ。
 それがサーヴァント一騎倒せば手に入る。
 傭兵としての腕に自信があるなら、他人より早く動くのは当然だった。

「どこで止めたんです?」
『その質問にはお答えしません』
「何で?」
『今後、法政科がどの程度日本国内で魔術師を追跡できるか知られたくありませんので』
「……なるほど」

 ルヴィアが感心したように笑う。

「随分と用心深い方ですわね」
『聞こえていますよ、エーデルフェルト』
「聞かせましたの」

 仲悪いなぁ。
 私は話を戻す。

「獅子劫さんはこちらに回してもらえませんか?」
『理由をお聞きしても?』

「追跡です。
 私とルヴィアさんには、逃げ回るサーヴァントを探す技術が足りない。
 彼は死霊魔術師で、こういう荒事にも慣れている。
 討伐部隊として組ませるなら相性は悪くないでしょう」

 電話の向こうで沈黙。
 多分、考えているのだろう彼女に釣り糸をたらす。
 彼女は食いつかざるを得ない。
 
『相良さん』
「はい」
『貴女は戦闘に参加されるおつもりで?』
「基本的には後ろです。
 私は正面からサーヴァントと殴り合う趣味はありません」
「わたくしはありますわよ」
「知っています」

 横から入ってきたルヴィアの言葉を即座に切る。
 電話の向こうから、小さなため息が聞こえた気がした。

『……戦力としては成立しますね』
「でしょう?」
『問題は別にあります』
「米軍」
『ええ』

 やはりそこだった。

『横田基地内で既に死者が出ています。
 その上、あれは在日米軍施設です。
 時計塔の魔術師が勝手に入って討伐しました、では済みません』
「ですから電話しました」
『でしょうね』

 化野の声音が変わった。
 魔術師同士の会話から、仕事の話へ。
 役人の折衝と言ってはいけない。
 JKのする仕事でないから泣く。私が。

『こちらで正式に調整します』
「日本政府と?」
『日本政府と在日米軍、それに米国大使館です』

 ルヴィアが少し驚いた顔をし、私も同じ顔だろう。
 思った以上に踏み込んで来た。

「そこまで表に出ます?」
『もう遅いでしょう』

『米軍基地でサーヴァントが暴れ、死傷者が出た。
 米軍はその存在を確認している。
 CIAも把握している。
 そして今度は、時計塔の魔術師が複数動き始めている』

 冷静な返事の上に一つ一つ並べられると酷い。
 今までよく隠蔽できたなというレベルである。

『ここで我々が黙っていたら、米国は独自に動きます』
「既に動いていますよ」
『なら、なおさらです』

 化野は言い切った。

『秘密を守るために、何も見せない段階は終わりました。
 これからは、何を見せるかを我々が選びます』

 さっき私がルヴィアに言ったのと同じ事だった。
 思わず苦笑する。

「法政科も大変ですね」
『誰のせいだと思っているんです?』
「私じゃないですよ?」
『半分ぐらいは貴女です』
「理不尽な」

 若宮分析官が遠くで笑っている。
 聞こえているらしい。

『獅子劫界離はこちらで確保しています。
 彼には待機を命じます。
 エーデルフェルトにも、それまで勝手な行動をさせないでください』
「わたくしは子供ではありませんわ!」
『ならば大人しくしてください』
「……」

 ルヴィアが黙る。
 強い。
 化野菱理、強い。
 そして使える事務屋である。

「では、こちらは?」
『横田へ戻ってください』
「え?」
『米国側との話がつき次第、そちらで合流します』
「早くないですか?」
『時間をかける方が危険です。
 既に米軍は捜索に出ていますから』
「捜索?」

 私は嫌な予感を覚える。
 捜索……米軍の対魔術部隊が捜索……犠牲者が増えなければいいが。

『詳細は現地で。
 アンジェラ・サリバン三等書記官が説明するそうです』

 アンジェラか。
 つまり、CIA側でも既に何か起きている。

『相良さん』
「はい」
『これはもう、聖杯戦争の内部だけで処理できる案件ではありません』
「最初からそう言っていたつもりなんですがね」
『ええ。
 ですから今回は、法政科もその前提で動きます』

 電話が切れると、私は携帯をテーブルに置く。
 温くなったコーラの入ったグラスを持とうとしてルヴィアと目が合う。

「……何か、ずいぶん話が大きくなってませんこと?」
「横田基地でサーヴァントが米兵殺した時点で十分大きいですよ」
「それもそうですわね」

 私たちは同時に立ち上がった。
 若宮分析官も会計を済ませるために席を立つ。

「戻るわよ」
「若宮さん、いいんです?」
「化野さんが日米双方に話をつけるって言ったんでしょう?
 だったらこっちも対策本部に連絡しないと」

 ファミリーレストランを出る。
 駐車場に出た途端、ルヴィアが当然のように私たちの車へ向かってきた。

「……乗るんですか?」
「あら。一緒に行動するのでしょう?」
「そうですけど」

 後部座席のドアが開く。
 金持ちのお嬢様が何の躊躇もなく日本政府関係者の車に乗り込んだ。
 これもCIAあたりに写真を撮られているんだろうなと思うと頭が痛い。

「行くわよ」

 若宮分析官が車を出す。
 目的地は再び横田基地。
 来た時とは状況が違い、今度は私はオブザーバーではない。
 討伐する側の人間として戻る事になる。

「嫌だなぁ……」
「あら。
 楽しみではありませんこと?」
「どこに楽しむ要素が?」
「サーヴァントを狩るのでしょう?」

 ルヴィアは実に楽しそうだった。
 この女を連れて行く判断は本当に正しかったのだろうか。
 そんな疑問を抱えたまま車は横田へ向かう。
 基地周辺へ近づくにつれ、道路脇に警察車両が増えていく。
 更にその向こうでは、米軍の車両が何台も行き来していた。
 明らかに先ほどより騒がしい。

「……何かありましたね」
「でしょうね」

 若宮分析官も表情を固くする。
 基地のゲートでは一度止められたが、すでに話が通っているらしく確認は短かった。
 そして指定された建物の前。
 車を降りると、見覚えのある女性が腕を組んで待っていた。
 アンジェラ・サリバン三等書記官。
 名目上は外交官。
 実態はCIA。
 その彼女は、いつもの余裕のある笑顔を浮かべていなかった。

「お帰りなさい、ミス神奈」
「戻ってきたくなかったんですけどね」
「でしょうね」

 アンジェラはルヴィアを見る。

「ミス・エーデルフェルトもようこそ」
「あら。
 わたくしの事をご存じで?」
「ええ。とてもよく。
 先ほどまでの声を聞かせていただいていたので」

 ルヴィアの笑顔が少し引きつった。
 そりゃそうだ。
 ついさっき英国へかけた電話も聞かれている可能性が高いのだから。
 私はそんな二人の間に割って入る。

「それで、何が起きたんです?」
「捜索に出た部隊が襲われました」
「サーヴァントに?」
「それが……」

 アンジェラの表情から笑みが消える。
 彼女は一度言葉を選び、私たちにこう告げた。
 
「サーヴァントではないようなんです」 
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