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相良絵梨の聖杯戦争報告書

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横田基地サーヴァント防衛戦 その2

 携帯電話が鳴った。
 若宮友里恵分析官の運転する車は横田基地から離れ、都内へ戻る途中だった。
 窓の外には米軍基地を囲むフェンスが流れている。
 基地周辺の道路には、先ほどまでより明らかに警察車両が増えていた。
 表示された番号を見て、私は眉をひそめたのは、見覚えがあるからだ。

「はい。相良です」
『ごきげんよう。ミス相良』
「切っていいですか?」
『お待ちなさいな!』

 電話の向こうでルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが声を上げた。
 若宮分析官がちらりとこちらを見る。
 私は携帯電話を少し離して、口だけで名前を伝えた。

 エーデルフェルト。

 それだけで若宮分析官は嫌そうな顔をした気持ちは分かる。
 それでも切ららかった結果、ルヴィアの声が耳に届く。

『まったく。以前の件をまだ根に持っていらっしゃるの?』
「十億円の小切手を持って突撃してきた人の電話を喜んで受けるほど、私は人間ができていないもので」
『あら。わたくしとしては随分と紳士的に交渉したつもりでしたのに』

「あれが紳士的……まぁいいでしょう。
 それで、何の用です?」

 どうせ聞かなくても分かる。
 このタイミングでそれ以外だったら私の方がびっくりなのだが、案の定その話だった。

『横田基地のサーヴァント討伐についてですわ』
「言峰神父の布告を聞いたんですね」
『ええ。討伐した者には令呪一画。実に分かりやすい報酬ではありませんこと?』
「その言い方だと参加する気満々ですね」
『当然ですわ』

 即答に私はため息をつく。
 電話を切りたいが、切ったところでこの女は勝手にやって来る。
 だったら手元に置いておいた方がまだましだろう。

「一応聞きますけど、単独で横田基地に突っ込むつもりじゃないですよね?」

 一瞬、電話の向こうが静かになり、あきらかに声色が変わった声が届く。

『……先生にも同じ事を言われましたわ』
「先生?」
『ロード・エルメロイ二世です』

 私は黙ったまま携帯を持って天を仰ぐが見えるのは車の天井ばかりなり。
 隣で若宮分析官の眉が動く。
 その名前はこちらも把握している。
 時計塔現代魔術科のロード。
 第四次聖杯戦争の生還者、ウェイバー・ベルベット。

「そのロードがどうして?」
『討伐令が出ましたので、まず先生にご連絡しましたの』
「なるほど」

 そこで私は少し考えた。
 何故、ルヴィアが私へ電話してきたのか。
 この女なら、令呪一画と聞いた瞬間に横田へ向かっていてもおかしくない。
 それなのに、わざわざ私へ連絡してきた。

「……エルメロイ二世から、私に電話しろと言われました?」
『ええ』

 あっさり認めた。

「理由は?」
『そこまでは。ただ――』

 嘘ではなさそうだったが、ルヴィアの声が少し低くなる。
 なんというか、叱られて反省したいけど、理由がわからない感じの声で。

『先生から、横田が米軍基地だと話した途端にひどく怒られましてよ』
「ああ……」

 なんとなく分かった。
 そして次の瞬間には、もっと嫌な事に気づいた。

「その話、何でしました?」
『何で、とは?』
「エルメロイ二世との連絡です」
『携帯電話ですが』

 私は顔を覆い、若宮さんはたまらず吹き出してしまう。
 そして、笑われたルヴィアの不機嫌そうな声が車内に響く。

『聞こえてましてよ』
「若宮さん」
「何?」
「これ、米国側に聞かれている可能性ありますよね?」
「むしろ、聞かれてなかったらCIAとしては仕事していないと叩かれますね」

 私の答えを教える問いに若宮さんも即答。
 電話の向こうは沈黙で返し、しばらくしてしおらしい声で一言。

『……ミス相良?』
「エルメロイ二世、途中で気づいたでしょう?」
『ええ。突然、話を切り上げて貴女に連絡しろと』

 やっぱりか。
 米軍基地で異常事態。
 その直後に関係者が日本から英国へ国際電話。
 現代技術に理解のある人間なら途中で嫌でも気づく。
 しかも相手は時計塔のロードだ。
 CIAからすれば、これほど美味しい通信もないだろう。

「で、私に繋げた訳ですか」
『どういう意味ですの?』
「貴女が勝手に米軍基地へ突っ込む外国人魔術師になるより、日本側と接触して調整中の魔術師になった方がましって事です」

 電話の向こうで再び沈黙。
 今度は少し長かった。

『……先生らしいですわね』
「本当に」

 私も苦笑する。
 会ったことはない人物だが、この一手だけでどんな人間か少し分かった。
 少なくとも、普通の魔術師ではない。
 それでいて生徒思い。

「それで、エーデルフェルトさん」
『ルヴィアで結構ですわ』
「ではルヴィアさん。条件があります」
『伺いましょう』
「勝手に動かない」
『……』
「返事」
『分かりましたわ』

 不満そうだが、ロードからの電話で彼女との関係が分ろうというもの。
 こちらは、それゆえに強気で押す。

「米軍基地及びその周辺では、こちらの指示に従う」
『状況次第ですわね』
「だったら協力しません」
『分かりました!』

 即答でほぼ確定。
 少なくとも、彼女とロード・エルメロイ2世との関係も見えた。

「あと、民間人や米兵を巻き込むような魔術は使わない」
『当然ですわ』
「神秘の秘匿については、もうある程度諦めてください」
『そこを諦めろと!?』

 電話越しでも分かるぐらい声が大きくなった。
 魔術師ならたしかに声も大きくなろうが、事態はそれをとうに過ぎていた。

「既に米兵が死んでます。
 基地内でサーヴァントが暴れました。
 米軍は対魔術部隊まで投入しています。
 この状況で『何も見せずに片付けます』なんて無理です」
『……』
「見せるものを選ぶしかありません」

 ルヴィアはしばらく黙っていた。
 待っていた末に聞こえてきた言葉は私への質問。

『貴女、本当に魔術師ですの?』
「魔術使いですよ。私は」

 我ながらこの言葉を言うと苦笑するしかない。
 魔術使い。魔術師とって蔑称がこれほど誇らしく言えるのは私ぐらいだろう。

『分かりましたわ。そちらに合わせます』
「助かります」
『ただし、討伐の功績と令呪については譲るつもりはございませんわよ』
「そこは言峰神父と話してください」

 私にはどうでもいい。
 むしろ令呪なんて持ち込みたくない。

「今どこです?」

 ルヴィアが現在地を答えると、思っていたよりずっと近い。
 私は若宮分析官に視線を送る。

「会います?」
「会わない選択肢ある?」
「ないでしょうね」
「では、こちらから場所を指定します」
『よろしくてよ』

 横田基地から少し離れたロードサイドのファミリーレストランを指定する。
 魔術師同士の密談をするには風情も何もないが、だからこそ都合がいい。
 人目がある。
 監視カメラがある。
 そして何より、誰かがいきなり魔術を撃ち始めるには不向きだ。

 三十分後。

 私たちが先に店へ入り、奥のボックス席に座っていると、場違いなほど華やかな金髪の女性が入ってきた。

 店員が一瞬固まる。
 そりゃそうだろう。
 ファミリーレストランに入ってくる格好ではない。

「お待たせしましたわ」
「目立ってますよ」
「あら。普通ですわよ?」

 普通の基準について議論するのはやめよう。
 ルヴィアが私の向かいに座る。
 若宮分析官は少し離れた席へ移った。
 会話そのものは聞こえる位置だが、形式上は二人きりということらしい。

「改めまして、今回だけ、という条件で協力いたしましょう」

 ルヴィアが手を差し出し、私はその手を見る。
 以前会った時は、令呪を十億円で買い取ろうとしてきた相手だ。
 信用できるかと聞かれれば、できない。
 だが、使える戦力かと聞かれれば、間違いなく使える。
 そして今は、横田基地のどこかにマスターを失ったサーヴァントが潜んでいる。

「今回だけですよ」
「もちろんですわ」

 私はその手を握り、ルヴィアはとてもいい笑顔で答える。
 こうして、たぶん信用してはいけない魔術師と魔術使いの、一時的な共同戦線が成立した。 
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