『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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隠蔽(ノスフェラトゥの残党編)
奥へ入るほど、湿気がレザー製のコートに水滴となって滴り落ちる。耳を澄ませば、川の音は下を這って、ほかの音を潰す。周りの木々が邪魔で、先はよく見えない。
同じ斜面を昼間から往復してるせいで、景色の区別ももうつかない。
ノスフェラトゥが都庁を占拠してから、2日経ったある日。俺は、奥多摩の人けがない山奥を歩いていた。
理由は、仕事。勿論、ノスフェラトゥとは全く関係ない。いつも通り、塩漬け案件の処理だ。
「ちっ……」
だが、舌打ちが漏れる。全く上手く行ってない。進めど、進めど標的は影も形も見えなかった。
そんな、暗澹たる心情の頭に声が響き渡る。
《念話》
“鴉。そっちは、どうだ?”
“駄目だ。何も居ない”
その響く声に、俺も思念で返す。遠くを探す雪之丞へ「お前は、どうだ?」とは、聞き返さない。焦れた声の感じで分かるからだ。今日は、このやり取りを何度繰り返したか分からない。
そうして、俺からの答えが不発に終わると、声は別方向を探す無骸へ意識を向ける。これも、もう何度目だろうな?
“無骸……”
“………………”
“居たら、その辺の木を思い切り殴れ!”
“……んた事したら、逃げちまうんじゃないか?”
“………………”
唐突に出た意味不明な言葉に、面倒と思いながらも返す。
これまでは、もう少し大人しい合図だったろ。遂に自棄になりだしたか?
“関係ねぇ。逃げても、3人で取り囲みゃ同じだよ。だから、やれ!無骸”
“……おいおい。大丈夫か?”
“………………”
………と、念を送ったものの、正直そこまで積極的に止める気は無かった。頭のどっかで、やっても何も変わらねぇと諦めてたからだろう。
ただ……
し〜〜ん………
“…………おい。どうした?早くやれよ”
“……その場に居ねぇって、ことだよ”
“………………”
そもそも、合図なんてここまで1度も返ってない。内容を変えた所で、目的の連中が居ないんじゃ、合図なんて出しようがねぇ。
そう思ってると、痺れを切らした雪之丞が遂に暴走しだす。
“本当に居ないのか!?居ないなら、思い切り殴れっ!!”
“何でだよ……?”
“………………”
……………バキバキ……ドスーーン。
“……何も居ないんだな”
“いや…今、木倒したろ?”
“………………”
“あれ?ひょっとして、怒ってんのか?”
“もっと、怒っていいぞ”
“………………”
バキバキバキィ!メリメリ!ドスーン!バサァーーーン!!!
“クハハハッ!豪快に行ったなぁ♪”
“いや、やっぱいい。もう、止めてくれ”
“………………”
一体、何本圧し折りやがった?いくら、人の居ない山奥だからって、余り好き放題したら協会に目ぇ付けられちまう……いや、既に手遅れか。
“……っても、こんだけ探しても見つからねぇんじゃ、どうしょうもねぇな”
“痕跡すら見当たらない。もう、ここいらには居ないと思った方がいいだろ”
“………………”
“………合流するか?”
“そうだな”
“………………”
そうして、捜索を切り上げた俺達は、予め決めておいた地点へ、集まる事にした。
一応戻る途中で、標的に遭えるんじゃないかと一縷の望みを託しながら……
◇◇◇
「成果なしかよ?」
「あるように見えるか?」
「………………」
不機嫌丸出しの雪之丞へ、投げやりに返す。期待こそしたが、今まで見つからなかった物がそんな簡単に見つかるはずがない。ある意味で予想通りの全員手ぶらな状況に、苛立ちと徒労感だけが募る。
朝から似たような場所を何往復もして、成果なし。こういうことは、本来珍しくもないんだろうが、実際体験してみると中々やり切れないもんがある。今は、正にそんな感じだ。
「なら、依頼失敗……か?」
「急ぐ案件じゃない。明日以降に回すことも出来るっちゃあ、出来るさ」
「………………」
「……お前は、数日粘れば見つかると踏んでんのか?」
「いいや。全く踏んでない。もう、疲れるだけだし、今日で終わりにしたい」
「………………」
「失敗じゃねぇかよ」
「そうとも言う」
「………………」
「そうにしか、言わねぇよ」
「じゃあ、粘るか?夜を越す準備はしてねぇから、一度街まで降りなきゃだが」
「………………」
「馬鹿言え。んな、七面倒くせぇこと出来るか!」
「……帰ろう。こんな日もある」
「………………」
………とは、言ったものの、先日の今日で2回連続のおあずけだと、少し気が滅入る。かと言って、出来ることなんて精々すぐに返って気持ちを切り換えることくらい。
全員がそれを分かってるだけに、空気が重かった。
そのタイミングで……
「無骸っ!何か壊せ!!」
「いや、何の意味があるんだよ……?」
「………………」
それは、八つ当たりがしたいのか?それとも、八つ当たりのような何かなのか?そもそも、それをして一体何になる?
……ん?棍棒作り出した。
ドゥバァギィィッッ!!
「ハッハーッ!!良い音がしたなぁ♪」
「それで、お前もやるのかよ……」
「………………」
俺の疑問が、まるで氷解しないまま無骸がフルスイングで破壊したのは、奴の手近にあった人の胴がゆうに入るくらいの大木。それをスナック菓子でも圧し折るように、叩き割りやがった。
奴のパワーに加えて、棍に乗せた霊気の風を幹へ当たる瞬間に爆発させた結果だろう。20メートル以上はある木が宙を舞う様は、見る者に戦慄を与える。流石の一撃と言ってもいい。
言ってもいいが……
「満足か?」
風で巻き上げられた砂埃が舞うなかで、呆れと若干の怒気を込めながら口を開く。こう言う時は、マスクをしてるとありがたい。
「お前等満足か?依頼失敗して、腹いせに森を破壊して、それで満足なのか?妖怪とどっちが迷惑なんだろうな?」
木だって、生きてんだぞ。そんな想いを込めて、2人を見てやる。少し前に俺も無骸を煽ってるんだが、そこはスルーしておいた。
すると、流石にやり過ぎたと思ったのか雪之丞は、バツが悪そうに頭を掻き出した。無骸の方は、どう思ってるか知らんが、前のやり取りを指摘されなくて良かった……
「………確かにな。無骸。今度から、石や地面を殴ってくれ」
「「………………」」
何だ?その分かってんだか、分かってないんだか良く分からない返答は……
「いや、そうじゃな——」
そう思って、口を開き掛けた時だった。周りの景色が、直前と違ってることに気付いたのは。丁度、舞い上がった砂埃が晴れて来たタイミングと重なったんだろう。
「なんだ……!?」
「これは、道……?」
「………………」
木々や、背の高い雑草が生い茂るその景色に変わりはない。ただ、無骸の倒した木の後ろに、明らかに人が手を加えたような道が現れていた。勿論、こんな物さっきまでなかった。
「おい。これは!」
「さっき、圧し折った木だ」
「………………」
直前までのグダグダから一転、全員に緊張が走る。
弾かれたように倒れた木に駆け寄ると、その原因はすぐに判明した。
「あった……」
「隠蔽結界か。全く気付かなかった」
「………………」
雪之丞の引っ剥がした、手の平サイズの札。
多分、かなり強い物だろう。上質な白い紙面に『隠形』と記されたそれは、根本から10メートルくらいの所にある枝の付け根。下からは、丁度見えない位置にあった。
倒れた際に、少し剥がれたんだろうが……
「これって、俺のお蔭か?」
「まさか、さっきの馬鹿行動で……」
「………………」
やらなきゃ、完全にスルーしてた。と言うか、やったの無骸だろ?いや、そんなことより……
全員で、現れた道の先を見る。進むことは出来るだろうが、相変わらず木々が深くて、その奥に何があるかは見えそうになかった。
「何処に繋がってんだろうな?」
「奥地には、幾つか廃村があると聞いた。もしかしたら、その類かもしれないが……」
「………………」
「何で、隠したんだろうな?しかも、こんな強力な結界で」
「そりゃあ、見られたくないもんがあるんだろ?絶対にな」
「………………」
奥から覗く闇は、部外者である俺達を拒んでるようにも見える。ただ、頭の一方では、逆に誘い込もうとしているようにも感じていた。
「クククッ……どうする?」
「行くんだろ?いちいち聞くなっ……」
「………………」
まぁ、どちらでもいいか。結局、奴の選択は一つしかないんだから。
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