『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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後手(ノスフェラトゥの残党編)
西新宿の一角は、もう街ではなかった。
都庁周辺は、路上に仮設の防壁が打ち込まれ、鉄板と鉄棒を重ねた数メートル程の簡易壁が全ての道路を塞いでいた。
壁の内側には、薄く光る結界の膜が張ってある。人間にはただの陽炎に見えるが、霊体や妖怪の類ならその霊的な力によって弾かれる。
警察が外側の交通を止め、オカルトGメンが内側の壁と結界を持っている。役割ははっきり分かれていた。当然だ。黄色いテープなんかでゾンビを止められるわけがない。中には多数の動く死骸が蠢いていた。
赤色灯が防壁を間欠的に照らす。一般車両は止められ、野次馬は壁の手前で押し戻されている。制服の警官がその線を守っているが、壁のすぐ外側で動き回っているのは黒いスーツの連中だ。霊障対応の看板だって、勿論出している。事態がそれだけ、ひっ迫していたからだ。
そんな中、俺達は、西条を始めとした数名のオカルトGメン達と遠くの風景を眺めていた。文珠の映し出す光によって……
「鴉。お前は、あの吸血鬼をどう見る?」
「……境界に居る天狗殿と、同程度と言った感じか」
正直、相対しなきゃ、はっきりした事は分からないが、そこまで的外れでもないだろう。奴の妖気は、数百メートル離れたここでも、はっきりと感じ取れた。
「はっ、強敵じゃねぇか♪しかも、仕留めりゃバチカン法王から50億円!おもしれぇ上に、賞金はたんまりと来りゃ、乗らねぇ話はねぇぞぉ!」
「……ても、今死んじまったな」
文珠の映す遠方の風景では、その “ノスフェラトゥ” だったか…そいつが、今しがた灰になって朽ちた所だった。美神令子が突いた槍によって……
「心臓へ見事な一突き……流石は、姐さん」
「ああ」
しみじみと呟く雪之丞だったが、俺もこの辺に異論は、全くなかった。一切の迷いの無い、鮮やかな突き。槍なんて使ったこともないだろうに、よくもまぁ。
ただ……
「………完全に乗り遅れたな」
「そうだな」
新宿の都庁の近くにある祠が動物の死骸で溢れていたのも、その都庁が戦国時代の城みたいになったのも知ったのは、ついさっき。
事務所へ、いきなり迎えに来た(連行じゃねぇよな?)西条の部下達の運転するパトカーの中で、それを連中の口から聞いたばかりだった。
……ついでに言えば、現場に着いたのも数分前。状況が分からず、文珠で確認しようとしたら、確認した瞬間に終わってた。そんな感じ。
「糞がっ、もっと早く知ってりゃあ……」
「仕方ねぇ。何事も巡り合わせだよ」
とは、言ってみたが、それで場の空気が変わるわけでもない。周りを支配するのは、危機の去った安堵感ではなく、急な肩透かしを食らったような、何とも微妙な白けた空気だった。
「所で、部長殿」
「……何だろうか?」
その空気の中、俺は雪之丞とは反対側に居る長身長髪の男。俺達を呼び出した張本人、オカルトGメン日本支部長こと “西条輝彦” へ声を掛ける。
ただ、その奴の整った顔にも、今は色がない。頭の整理が追い付いてないんだろう。
「ヘリが堕ちたと仰いましたが…そのヘリは、警察のですか?」
「……いや。民間機だ。誰が令子君を城まで運んだんだろうな?」
西条の口から発せられる声には抑揚が全く感じ取れなかったが、同時に嘘を言ってるようにも思えなかった。
後で知った話では、その操縦主はオカルトアイテム屋の店主 “厄珍” で、堕ちた後も何とか助かったらしい。ただ、この時の俺達に、そんなこと気付けるわけもなかった。
「なるほど……誰が操縦したかはともかく、あの人は “独断” であそこに突っ込んだわけですね」
西条の顔から、この男が関与してないのは予想していた。だが、逆に警察とも思ってなかった。
警察が1人のGSだけに協力するとは考えにくいし、あの女だって端から頼まないだろう。要は、予想の裏を取りたかっただけだ。
「だろうね。毎度のことだけど、彼女も無茶をする……」
本当だよ。傍らにシロも居たようだが、他に応援を待てなかったのか?まぁ、こっちは状況の殆どを把握出来てないから、何とも言いようがないんだが……
そんなことを考えていると、今度は急激にテンションの下がってた雪之丞が不満気に口を開く。
「折角来たのに、何も無しじゃ詰まらねぇ……雑魚でも、狩って帰るか?」
当たり前だが、今から雑魚なんか狩った所で1円にもなりゃしない。要は、ただの憂さ晴らしだ。だが……
「それも、必要なさそうだぞ。どれも、本体が死んで、ただの屍に戻ってる」
そう………文珠の映す場所を地上へと切り換えると、呪いの解けたゾンビ達が力を失い。バタバタと倒れて行く様子が映し出されていた。ああなったら、こっちの出る幕なんて、もう無い。後処理は、専門の人間に任せるべきだろう。
「……踏んだり、蹴ったりって奴かよ」
「平和が一番だ」
そう言うと俺は、西条に向き直る。
「部長殿、もう帰ってもいいですか?」
「ああ…すまなかったね」
◇◇◇
「ピート君、TV見たよ♪凄いじゃん!」
「大活躍だったんだね!」
「TVのレポーターも、格好良いって言ってたよぉ!」
「いや、そんな……皆と力を合わせた結果です」
翌朝。クラスは、昨日の事件の話題で持ち切りだった。
真っ昼間の都庁が、いきなり戦国時代の城と化したんだ。だから、当然と言えば、当然なんだが……クラス…と言うか女子達の興味は、事件よりもピートの活躍の方に寄っている感じだった。
当の本人は、いつも通り恐縮しながら大勢の女子達から質問や称賛の嵐に晒されていて、人集りが、いつもより多い。多分他のクラスのも混じってるんだろう。もっと言えば、隣の席の愛子も今はあの輪の中だ。
「何故、ピートばかり……」
「働いたんだから、当然だろ」
傍らで僻みっぽく愚痴るフックへ、俺は適当に相槌を打つ。クラスは、ピートを中心に集まる連中と、それを遠巻きから眺める連中(主に男子)……見事に二分していた。
突如現れた、世界を揺るがす古の強大な吸血鬼。その野望を阻止するべく立ち上がったのは、同じく吸血鬼の美少年……世間が、こぞって話題にしそうなシチュエーションだろうな。
もっとも、ピートがしたのは唐巣神父や他の急遽召集されたGS達と一緒に地上に居たゾンビの抑えと駆逐であって、大ボスの吸血鬼は先生に持って行かれちまってるんだが、話題にする方としては些細な問題らしい。
ちなみに、何故ピート達が現場に居たかと言うと、元々は先生達と一緒に祠に向かっていたからだ。
祠で吸血鬼の再封印しようとしたが、間に合わずに復活。供物として捧げられた大量の死骸がゾンビ化して、東京は大パニックに陥るが、昨日見たようにヘリで突貫した先生達の活躍によって、未曾有の大危機は数時間のスピード解決。それが、今回の事件のあらまし。
知ったのは、主にニュースから。現場に行ってるのに……
「ワッシだって……頑張ったのに………」
そんな中、俺の逆隣に居るステルスはデカい体を丸めながら、床にのの字を書いていた。周囲には、薄っすら紫色の空気でも見えるんじゃないかってくらいの、ネガティブ・イオンを巻き散らかしている。普通にウザい。
ピート曰く、こいつも現場に居て皆と一緒に奮闘したらしい……奮闘したらしいが、結果は今の通り。
「でも、覚えてないんだろ?」
その上 “虎烈” と言う赤虎の人格に任せたそうで、人格交代中の事をまるで覚えてないと言うから………もう、何と言いか分からん。
※『人格交代』参照
「う、うす……」
「ピート達と一緒だったんだろ?なら、あいつにお前の活躍を説明して貰えよ」
「そ…それは、虚しいんジャ。なんだか、嫉妬してるみたいで……」
「進行形で、してるじゃねぇか……」
「ぬがぁぁぁ〜〜〜〜〜………!!」
俺の言葉に頭を抱え出すステルスだったが、それとは別にそばに居るアフロ……改めイガグリ(本名忘れた。ってか、何でこいつまで居るんだよ?)が、今度は口を開く。
「横島。そういや、お前は何してたんだ?」
「……家で寝てたよ。起きてTV着けたら、全部終わってた」
嘘だ。本当は、俺も現場に行ってた。ただ、見たら終わってたと言う意味じゃ全く嘘じゃないのが、ただただ哀しかった……
「んだよ。皆が働いてる時に呑気な野郎だな♪」
「うるせぇっ、髪(神)に見放された癖に!」
※『燃えた頭』参照
普通にムカついたんで、右手でイガグリ頭を(思い切り)ワシャワシャしてやる。タワシみたいで気持ちいいなんて、感じてる自分が何かキモかった。
「い゙〜〜〜や゙ぁ゙〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
「皆…!皆、ワッシに気付いて欲しいんジャ〜〜〜〜っっっ!!!」
「どんなカオスだよ……」
カオスか……フックの言葉に再び昨日のことを思い出す。
そういや、数日前から爺さんとマリアは、他のGS達と都庁に拉致られてたんだよな。
いつも、フラッと居なくなるから全く気にしてなかったんだが、昨日の夜半に帰って来て爺さんの方が俺達が助けに来なくて、やたら激ってたらしい。雪之丞が言っていた。
シュコ、シュコ、シュコ、シュコ……
「は〜〜〜な〜〜〜せぇ〜〜〜〜〜っっっ!!!」
「誰かっ!誰か、ワッシに気付いてつかさ〜〜〜〜〜〜いっっっ!!!」
「うるせぇな。どっちも…なのに、誰もこっちを見ない所に俺等の闇を感じるよ……」←フック
……まぁ、何だかんだで色んな人間を巻き込んで、色々あったが、今回の事件はこれで終わり。
タワシの頭を擦りながら、そんなことを考えていた。
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