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断罪のエクスタシア

作者:はまごん
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第一章 フィオナ
  第一話 断罪

 人を信じても、返ってくるのは裏切りだ。
 そう理解していても、私は愚かに人を信じ続けた。

 火が、気持ちいい。
 皮膚がめくれ、肉が焦げ、骨がむき出しになっても、私は笑い続けていた。
 
 燃え盛る炎の向こう側で、人間たちの影が揺れている。歓声を上げ、石を投げ、狂い、叫び、笑い転げながら、私が絶叫をあげる瞬間を今か、今かと待ち続けていた。

 ——ああ、やっぱり人間なんて、信じなきゃよかった。

 火はすでに、喉元まで到達していた。それより下は真っ黒に(ただ)れ落ちて、すでに人らしい原型は残っていない。
 それでも、痛みを感じることはなかった。私はもう、人間ではいられないのだ。

 業火《ごうか》に包まれながら、私は思い出していた。
 あの、くだらないほど小さくて、今よりもずっと温かい日常を。

 朝起きて、みんなとご飯を食べて、昼寝して、笑い合って。
 ありがとうって言ってくれた。
 私の作ったご飯を、美味しいと言ってくれた。

 ——そんな未来が、ずっとずっと、続くと信じてやまなかったのに。

「魔女だ! こいつは化け物だ!」
「死んで詫びろ! 罪を自覚しろ!」

 狂った人間。
 狂った世界。

 どうして私が、こんな目に遭わなくちゃいけないの?
 どうしてあなたたちは、そうやって簡単に幸せを踏みにじれるの?

 ——ああ、もうどうでもいい。
 ——全部、壊してあげる。

 だってこれは、ただの“お伽話”なんだから。

「ねえ、知ってる? 昔はさ、魔女ってどこにでも、ありふれた存在だったんだって」

 人間たちの歓声が、少しだけ(しず)まる。皆が、魔女が残す遺言を、心待ちにしている。

「人はみんな弱くて、喧嘩して……でもね、勇者って名乗る子が、強い八人の魔女と一緒に、それをやめさせたんだって。でも、世界は変わらなかった——。人は魔女を恐れるようになってしまったの。そして、世界は魔法を捨てた。それなのに、気づいた時にはまた欲しがって、また魔法を生み出して……」

 炎がついに顔を飲み込み始める。皮膚が、肉が、炭に変わっていく。

「だからまた戦争が起こって、勇者がそれを止めて、また世界が壊れて……」

 そして仕事のように、また始まるの。
 ぐるぐる、ぐるぐる。
 壊れて、作り直して、また壊して。

「ねえ……滑稽(こっけい)でしょう?」

 次の瞬間、十字架が軋み、炎が弾けた。そして——拘束が()ける。
 ふっと持ち上げた腕はみるみるうちに形を戻し、触れた縄を溶かして黒く変色させていく。

「逃がさないよ?」

 私は地面にゆっくりと降り立ち、手を伸ばした。
 叫び声が上がるその度に、身体がひとつ、ねじ切れていく。
 舞い上がった血が地面に落ちるよりもずっと速く、私は次の体を掴んでいく。

 痛くない。
 怖くない。 
 ただ、全てを壊すだけ。

 私を裏切った家族を。
 私を焼いた人間どもを。
 私という存在を許さなかったこの世界を。

「もういいの、幸せごっこは終わり。次は、私が物語を作る番」

 何本にも分裂した手足が、触手のように周りの人間を手当たり次第殺していく。
 悲鳴が響き、地面が赤く染まり、肉が裂けて骨が折れて、全てが静かになったその時——

 一人の少女が、そこに立っていた。
 燃えるように赤い瞳。黒髪で、青白い肌。

「……やっと、見つけた」

 彼女はそう呟き、指先に光を宿す。

「————律命韶(りつめいしょう)

 その言葉とともに、光が私の胸を貫いた。
 崩れ落ちる瞬間、彼女と一瞬目が合う。
 悲しそうな、でもどこか、安堵しているような表情。

 彼女は、倒れ込んだ私を抱きかかえながらそっと呟いた。

「貴女が無事でよかった」

 ——ああ、私はなんて哀れな生き物なんだ。

 こんな身体になっても、どこまで魔女と罵られようと、それでもまだ、誰かを信じたいと思ってしまう。

 私は彼女の胸の中で涙を流す。赤ん坊のように、強く、強く。

 そして——私は勢いよく目を覚ました。

「びっくりした......」

 私はそう呟きながら、身体をゆっくりと起き上がらせた。外はもう暗い。どうやら、疲れて眠り込んでしまっていたらしい。

 それにしても、さっきの夢は何だったのだろう。夢にしては出来すぎているような、そんな感じがした。

 そう、それはまるで、誰かの記憶を覗き込んでいるような——

「まあ、なんでもいいや」

 所詮は夢、ただの悪い夢だ。いくら考えてもしょうがない。

 もう二十時を回っている。早く、子供たちの夕食を作らなければ。

 そう思いながら部屋を飛び出し、一階に降りた頃にはもう、夢の記憶など私の頭からは完全に抜け落ちていた。 
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