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『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師

作者:wood12
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転居

 
前書き
やっぱり、小鳩を活かすのは無理でした…… 

 
 5時間目――今日の最後の授業終了を告げるチャイムが鳴り響き、教科書を閉じた教科担当の教師がそそくさと教卓を去っていく。


​ 担任がホームルームのためにやって来るまでの、わずか数分間の空白。

​ まだ完全に放課後へとは切り替わらない。そんな、どこか中途半端でソワソワとした空気が教室を満たしていた。
 伸びをする者、立ち上がって友人の席へ向かう者、鞄の中に教科書を押し込む者。雑多な話し声と机を引くガタガタという音が、一気に広がる。

​ 窓の外を見れば、すっかり低くなった冬の陽光がオレンジ色の太い光条となって教室を斜めに切り裂き、黒板の消し残しや浮遊する埃を淡く照らし出していた。それを見兼ねた誰かが、ベランダの窓を開け放つと、すっかり冷え込んだ12月の風が滑り込み、溜まった熱気をじわじわと奪っていく。



「寒くなって来たわね」
「……お前、寒さとか分かんの?」


 思わず聞き返す。そりゃ、美少女の分身体はちゃんと冬用のセーラー服になってるけど、(本体)は年中通して変わらないだろ?

 そう口にすると、心外とばかりに愛子は口を尖らせる。


「失礼ね。それくらい、ちゃんと分かるわよ」
「そ、そうか……」


 まぁ、寒いか暑いかくらいは分かるか。その冬服が夏服に代わっても、別に何も変わらなそうだが、これは言わない方がいい気がしたので黙って別の話題を振る。


「そう言えば、冬休みはどうするんだ?また、皆の家に泊まりに行くのか?」
「そうなるかも知れないし、微妙な所ね。でも、受験のある娘達と図書室で勉強会をすることになってるから、殆ど学校ね」

「勉強会って……お前、就職組だろ?」
「そうだけど、お手伝いくらい出来るわよ。それに、これが皆と過ごせる最後の時間になるかもしれないんだから、1日も無駄には出来ないわ」

「そうか……」
「そう!皆で集まって、目標に向かって頑張る……あぁ、『青春』だわ♪」


 ……そういや、結構前から他の連中と放課後は自習に参加してたんだな。

 他の女子は知らないが、こいつは間違いなく今を楽しんでる。それも、目一杯……いや、残り時間が少ない分、より輝いてると言っても良いだろう。


 そんな、上に向いて目を潤ませんばかりに輝かせる愛子を、俺は純粋に羨ましいと思った。

 俺には、こいつのように何かに夢中になって取り組んだ経験が無い。妙神山では、遮二無二なって修行に打ち込んだが、あれは惨めな自分を振り払うことに必死だっただけだ。充実こそしてたかもしれないが、楽しいなんて思ったことは一度もなかった。


「……そう言うわけで」
「ん?」


 そんな物思いに耽る俺を、いつの間にかこっちを向いていた愛子が現実へと引き戻す。


「横島君も、なるべく学校に来なさいよね。皆と過ごせる時間は、残り僅かなんだから」
「はいはい。分かってますよ」


 確かにそうだな。愛子が残り少なくて、俺が沢山あるわけがない(留年すりゃ、別だが……)。だけど……

「さっきの今で悪いけど、俺は明日休むからな」
「休む……?今週は、仕事無いはずでしょ?」


 何言ってるの?と言わんばかりの愛子に、俺は更に続ける。


「仕事じゃねぇよ。この前言ったろ?」
「あっ……」




    ◇◇◇

《翌日》


「横島……お前、引っ込んすんか!?」


 いつものオチャラケ顔を、やや深刻そうに沈ませる奴に俺も淡々と答えた。


「……ああ、貧か。そうだよ。見ての通りだ」


 疫病神………いや、貧乏……福ノ神の貧が部屋から出て来たのは、業者がちょうど俺の部屋の荷物を運び出しを始めたタイミングだったから、ドンピシャって奴だな。

 そう……俺は、今日2年半過ごした、このボロアパートから出て行く。過ごし易いとは言い難かったが、それだけの短くない期間を過ごしたんだ。もっと、感慨深い物になると思ってたんだが、実際にその日を迎えても心は殆ど平坦なままだった。自分の中で、当に折り合いが付いてたんだろう。

 そして、さっき貧が驚いたようにこの事は、花戸家にも全く伝えてない。付き合いのあるお隣さんに、一言も無いのは常識的にはあり得ないんだろうが、しない方が良いように思えたからだ。

 余計な気を使わせたく無かったし、俺自身も伝える事に抵抗があった……


「…………何かあったんか?お前、卒業は来年やろ?」
「……ここは、住むのに不便だからな。もっと、新しくて綺麗な部屋に引っ込すんだよ……っても、ここから2駅しか離れてないけどな」


 …………だから、会おうと思えば普通に会える。会おうと思うことは……多分ないな。


 今度住むところは、都心郊外にある2LDK、ユニットバス(トイレ別)付きで、冷暖房完備。探し始めたのは、3週間くらい前で、割とすぐに見つかった。

 風呂無し、冷暖房無し、うっすい壁で寒くて、暑くて、煩い築40年(以上)のボロアパート……そんな、今の住環境に比べたら正に天国。
 学生が住むにしても少し不釣り合いだったが、都心から少し離れていたのと築20年に近いと言う事もあって、数万円で借りられた。かなり運が良かったのかもしれない。
 それでも、今までの倍以上の家賃になっちまうから、親父やお袋にこの事を話すと、始めは難色示した。当たり前だが、今の俺は高校生。2人の同意が無きゃ転居は出来ない。でも、足らない分は自分で支払うと言ったら、最終には同意してくれた。



「そうか。達者でな……」


 ………こいつの性格なら、もっと騒ぐかと思ったが意外にも貧はそれきり黙っちまった。
 でも、考えてみればそれも当然だ。こいつだって、事情を理解してるんだ。

 あれから……俺の気持ちを伝えて以降、あの娘(小鳩ちゃん)とは話していない。こいつ()とは、そこそこ話すんだが、あの娘とは本当に全く話さなくなった。
 あの時から、関係はギクシャク……と言うか隣に住んでいながら、ほぼ絶縁状態だ。顔すら殆ど合わせないんだからな。


 ………本当は……引っ越すのは、卒業してからくらいの気持ちでいた。

 経済的余裕が出来た現状、こんな住み辛い糞部屋直ぐにでもトンズラしたかったんだが、それをすると必然的にあの娘とも疎遠になる。
 出会った当初に盛大に迷惑掛けちまったけど、それでも折角仲良くなれた縁を切るのは、それなりに抵抗があったんだ。

 だから、こんな半端な時期(12月半ば)に出ていくのは、俺自身完全に予想外なんだが仕方ない。居る理由が無くなっちまったんだからな。


「ああ……花戸さん達に宜しくな」


 そう貧に答える。

 敢えて、あの娘の名前は出さなかった。そして、貧もその事に触れなかった。
 お節介焼きのこいつが何も言わない所を見ると “もう、どうにもならない” って事だろう。まぁ、俺自身そう思ったんだから、引っ越しに踏み切ったんだけどな……

 ついでに言えば、今日は平日。わざわざ学校を休んで、今日する事にしたのは、あの娘とブッキングすんのを避ける為だ。休日だと、それも難しくなる。


 そんな感じで、貧と話している内に配達員による荷物のトラックへの積み込みが終わった。
 彼等に促されて、忘れ物がないか部屋を確認する。だが、それは事前に何度も済ませていたんで、パッと一目見るとすぐに戻り、戸を閉めて鍵を掛けた。
 そして、2年半使ったキーを戸に設置してあるポストに放り込む。これで、後は大家が回収しに来る筈だ。


「何や……もう、終わったんか?」
「元から俺しか居ないんで、物は多くないからな」


 数日前から、部屋を整理して持って行く物はダンボールに纏めて置いた。古い物は全て捨てたし、足らないものは今後順次買い足して行く予定だ。
 業者は、それを数往復してトラックまで運んだだけどから、ここまで10分くらいしか掛かってない。
 雪之丞が今の事務所に転がり込んだ時も、荷物なんて手提げバッグ1個分しか無かったし(あれは、流石におかしいか……?)、一人暮らしの引っ越しなんてこんなもんだろ。


 ブロロロロッ……


 そうして、最終確認を終えた業者は一足先にトラックを発進させて出て行った。後は、俺が電車で合流するだけだ。


「じゃあな」


 見送りの積もりなのか、出口まで一緒に来ていた貧にそう言うと、俺はそのまま駅を目指す。

 この見慣れた風景の中を歩くのも、これが最後。ここに来ることは2度と無いだろう。ここには良い思い出も、悪い思い出も多過ぎる……



「……横島」
「ん?」


 歩き出して数歩の所で、貧に呼び止められる。顔だけ向けると、珍しく真剣な顔をした奴が浮かんでいた。そして、続ける……


「………初めておうた時……お前には、散々迷惑掛けられた」
「……………………」

「…………せやけど、お前のお陰で助かった。ワイも、小鳩も、小鳩の母親も……」
「……………………」

「皆、お前に感謝しとるんや!…………最後が、こんな形になってしも……いや、その事だけは忘れないで欲しい!………それだけや」
「…………また、連絡するよ。何かあったら、遠慮なく言ってくれ」


 俺は、手を上げながら貧にそう答えた……前に広がる近所の景色に変化はない。だけど、どこか明るく見えた気がした。


 
 

 
後書き
いつか、彼女を救済する話を書きたい。アイデアがあれば、お願いします…… 
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