『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
画質密談
コンッコンッ……
ノック後、中から響く返事を確認した俺は、美術室の引き戸を、ゆっくりと開く。
「ガララ……」と言う戸車の転がる音が、静かな廊下に短く響いた。
その少し年季の入った室内には、すでに午後の光が斜めに差し込んでいた。窓ガラスを通した陽射しが、床に長い帯を作り、その中に細かい埃がゆっくりと舞う。
次に感じたのが独特の匂い。それが、緩やかに鼻腔を衝く。絵の具と溶剤が混じった、甘くて少し鼻に残る臭い。それに紙と木の乾いた匂いが重なる。入ったことはないが、本物のアトリエと言うのは、こんな感じなのかもしれない。
「失礼します」
そう言って、俺は中に踏み込んだ。
入って左側には、イーゼルが数台。キャンバスの白が、薄暗い部屋の中で妙に目立つ。その向かいにある奥の棚には石膏像がいくつか並んで、デッサン用の木炭が箱から零れ落ちたままになっていた。部屋にいくつも置かれた机の天板には、誰かが使ったであろう、乾いた絵の具の跡が幾重にも重なっている。
まぁ、ここに来るのは初めてでもないし、見慣れた光景ではあった。
そんな中、俺を呼び出してくれた人物は引き戸の向かい側にある教卓用のデスクに居た。そして、俺が近づくと開口一番に爆弾発言をかましてくれる。
「凄い溜まってるの…!!」
「顔に書いてあります。と言うか、その言い方は誤解を招くから黙ってた方が良いですね」
答えながら俺は、近場にある生徒用の椅子を引っ張り出すと勝手に腰掛ける。ぶっちゃけ、どうでもいい用で呼び出されたんだ。これくらい許して欲しい。
まぁ、そんな細かい礼儀作法を指摘するような人間じゃないんだが……
案の定、俺の行動などお構いなしにマシンガンの様に喋り出す。飾らない大人って感じのする美人だが、このキツさじゃ絶対モテないだろうな。
「黙ってなんか、いらんないわ!どいつも、こいつも「暮井先生がおかしくなった」とか「キツくなった」抜かしやがって!私が本物だっつーのっ!!」
だから、それを牽制する意味を込めて、少し意地悪く言ってやる。
「じゃあ、偽物の方を消しましょうか?お代は頂きますが」
「い、いや…そうは言ってないでしょ?」
「もしくは、あなたが毎日学校に来れば、そんな噂消えますよ」
「嫌よ!面倒くさいっ!!それに、私が週一で来なきゃならなくなったのは、あの娘がアンタを怖がるからよ」
「それは、そちらの都合でしょ……?」
※『ドリアン・グレイ編』参照
即答かよ。俺は、本当に教員と話してるのか……?
「そうだけどさぁ……何とかなんない?」
「あなたが来る時以外は、ここへは近寄らないようにしてるんですけどね」
「この前、遠くからアンタが見えただけで、心臓止まるかと思ったって」
「相当ですね」
どんだけ、トラウマ負ってんだよ?それに、絵の具なんだから心臓なんてねぇだろ。
「だけど、その辺もあの人に信じて貰うしかないでしょう。それに、来年の3月には私も卒業するから、そこまでの我慢ですね」
「まだ、3カ月以上あんじゃん!」
「我慢して下さいよ。それくらい。それより……」
このまま話を合わせても、毎回恒例のまるで前進の見えない愚痴大会に突入するんで話題を変える。
それに、これは前々から伝えようと思ってたことだしな。
「何よ?」
「もう1人のドッペルゲンガー。私達は、彼女を見逃すことにしました」
その場に短い沈黙が落ちる。
教卓の向こうで、彼女の表情がわずかに変わったのが分かった。光の加減で、目元の影が少し濃くなったように見える。愚痴をこぼしていた時とは、明らかに空気が切り替わっていた。
「……私達は?」
「そう。私達はね…ただ、他の除霊師が彼女に気付いたら、放っとくとは思えない。事情を知りませんから。さっきの冗談が、冗談でなくなる」
「……ヤバいじゃん」
「ヤバいんですよ。物凄くね」
物の流れで、こんなことになっちまったが、あの絵の具は完全な違法アイテム。バレれば、ドッペルは元より描いた本人、もっと言えば、見逃した俺達全員が罪に問われることになる。
だから、面倒くせぇと思いつつも、こうやって彼女の元へ来ている。言い換えれば、様子見って奴だ。
「ど、どうすんのよ?」
「事が大きくなる前に、彼女の存在を公にした方がいい」
「はぁ!?んなこと、出来るわけ…」
「やらなくては、彼女は抹殺されて、あなたも違法アイテム使用の罪に問われるかもしれない」
「でも……!」
「分かっています。普通に言った所で相手にされないでしょう」
「そうでしょ?そもそも、何処に言えばいいのよ?」
「GS協会ですよ。そこで、彼女が人に対して無害だとお墨付きを貰えれば、除霊師達も手を出さないでしょう」
「だって……相手にされないんでしょ?」
「普通に言ってもね。本来なら、私達が間に入って動くところなんでしょうけど……」
「………何で、出来ないの?」
「協会から、余り良く思われてないんですよ。腹の立つ話ですけど……」
「な、何で?」
「それは、またの機会に……それよりも、今は彼女でしょう?」
「でも、アンタ達は入ってくんないでしょ?どうしたら、いいわけ?」
「『ピエトロ・ド・ブラドー』私のクラスに居る、ヴァンパイア・ハーフ。ご存知でしょう?」
「ああ。あの美形の外国人…彼がどうしたの?」
「正確には、奴ではなく、奴の師匠。『唐巣和宏』氏です」
「唐巣和宏?」
「ええ。凄腕のGSで、協会にも顔が効きます。事情を話せば、あなた方の力になってくれるはずですよ。勿論、私達も協力します」
一緒に捕まりたくはないからな。
「アンタと同じ名前……」
「いや、全く関係ないですよ。向こうは、普通に苗字ですから」
そういや、GS試験以来彼には会ってないが、どう思ってんだろうな?俺の鴉。今、考えることじゃねぇが…
「今更だけど、何で『鴉』なの?」
「格好が鴉みたいだから……」
「はぁ!?格好って、何それ?」
「いや、話を戻しましょう」
「その人は、大丈夫なの?」
「人柄については、保証します。少なくとも、人じゃないからと言って、問答無用に除霊する人ではありません。それと、ついでにあなたに絵の具を売り付けた、あの小さい変な糞親父も巻き込んだ方が良いでしょう」
「あの中国人……なんだっけ?」
「『厄珍』です。別に覚えなくてもいいですけど。とにかく、奴に「お前の所為で逮捕されそうになった!」って、脅してやれば必死になって動きますよ」
本当の意味でヤベェのは、あいつだからな。叩きゃ、とんだけ埃が出んだか……
「う、うん……」
「あくまで、提案です。気持ち悪いなら、あいつは放置でいいし……取り敢えず、1度2人で話し合ってみては?」
「……わかった。そうするわ。もし、その唐巣って人に相談する時は、アンタに言えばいいの?」
「それでも良いし、直接ブラドーの方に声を掛けても大丈夫ですよ。奴も師匠と同じ、穏やかな男ですからね」
「了解………それにしても」
「まだ、何か?」
そうに返すと、彼女は改めて俺を見るようにしながら口を開く。
「アンタってさぁ…私と喋る時と、他の生徒達と喋る時と話し方が全然違うわね」
「生徒と教師を区別するのは、当然だと思いますが」
「そう?初めて会った時は、一緒に居た連中にも今みたいな感じだったじゃない」
「仕事関係の人間には、大体今のような感じに統一しています」
「声のトーンも、口調もまるで違う。全然、高校生に見えないし、人が変わったよう。意識してやってるのね」
「高校生の除霊師なんて、普通に舐められますからね。苦肉の策と言う奴です」
……と言っても、そこまで口調や声を変えようとは意識してない。そんなに器用でもないからな。だから、気持ちを常に切り替えるようにしてるんだが、周りにはそう映るのか。
※学校では『名探偵コナン』の『服部平次』のような熱血的な口調。仕事では『幽遊白書』の『鴉』のような淡々とした囁くような口調をイメージして下さい。どちらも堀川亮氏の演技ですよ。←ウザっ
そう思ってると、彼女は更に続ける。
「この前、アンタと階段の踊り場で話してた時あったじゃん」
「ええ」
「その後、それを見てた女子達に心配されたのよ」
「妊娠しちゃうから、2人きりにならない方がいい…ですか?」
「……アンタ、目を合わせるだけで女を妊娠させれるんだ」
「もう、帰っていいですか?」
こっちだって、暇で来てんじゃねぇんだぞ。
「冗談よ。でも、秘密にしたいってのは分かるんだけど、何で、
変態キャラなの?アンタ顔も悪くないんだし、他のでいいじゃん?」
「……けど、インパクトは強いでしょ?」
まぁ、演じてたのは違う理由でだけどな。しかも、あの時は本気のつもりだった。要は、自分で自分を騙してだんだ。
「う〜ん…確かにそうね。生徒だけじゃなくて、他の先生達までアンタを馬鹿なエロガキとしか見てないわ」
「……最近は止めてますけどね」
……ただ、そこまでスムーズに肯定されると地味にショックなんだけど……つーか、ストレートだな。この人も知ってたけど。それに、連中まだ俺をそんな目で見てんのか。
「あの娘もそれで、油断しちゃったみたいね。連中にアンタが人形達や巨大ゴーレムを塵にしたなんて言っても、絶対信じなさそう」
「本当に言わないで下さいよ」
「言わないわよ。こっちだって、あの娘のことがあるんだから」
「では、そろそろ行きますね。余り、時間を掛けると周りから不審に思われますから」
「妊娠しちゃうかもしんないしね♪」
「………………」
「えっ、無視!?」
俺は黙って、椅子を戻すとそのまま美術室を出た。
「ふぅ……」
歩きながら、思わず嘆息する。
本当にしょーのねぇ人だな。出来れば、愚痴る為に何回も呼び出さないで欲しい。気持ちは、分からんでもないがな……
ページ上へ戻る