『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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雑魚処理
前書き
ワルキューレ絡みです。、
時刻は、真夜中。
下は、美神令子の住んでる高級マンションの一帯だ。街灯が白い。窓の大半は消えて、代わりにガラスだけが夜の光を返す。
道路は空いているが、完全な沈黙でもない。空調の低音と、どこかの車が遠ざかる音だけが残っていた。
そして、俺はその上空に居る。
文珠で黒の片翼を顕現させて高度を保つ。翼を広げ切るほど高くは上がらない。ビル風に煽られながら、マンションの屋上、隣棟の隙間、植栽の暗い塊を順に睨む。黒いコートが風を孕んで、顔のマスクの縁に冷気が回る。
……居ねぇ。
さっきまで確かに居た。人の半分よりも少し小さな黒い影が、壁面を滑るように横切った。次の瞬間には、街灯の光と建物の陰に飲まれて消えていた。
《念話》
“武威。そっちはどうだ?”
離れた所を飛ぶ奴へ意識を飛ばす。ただ、返って来る返事は、苛立ち混じりで覇気がない。
“駄目だ。もぅ、見えねぇ”
「ちっ……」
頭に響く答えに思わず舌打ちが漏れる。こんなやり取りは、何度目か分からない
糞ったれが……これで逃がしたら、3日連続で空振りだぞ。
◆◆◆
《3日前・事務所》
「化け蝙蝠……ですか?」
安物だが、掃除の行き届いたデスクに着いて、これまた安物の電話で聞き返す。普通に返すんじゃない。やや、訝しく思いながら返す。
前回が、前回だっただけに拍子抜けだ。
※『魔族の依頼編』参照
“ああ。その通りだ。近くを飛び回られて、鬱陶しくて敵わんっ!”
「でも、低級妖怪でしょ?」
“雑魚でも、センサーが拾ってしまうんだ。一々確認しなきゃならんから、これでは仕事にならん!”
……高精度の道具が、仇になってるわけか。しかし、相当苛ついてんな。
『化け蝙蝠』
要は、森に居る獣が妖怪化した連中の一種と思えばいい。人間の半分…いや、もっと小さいな。それくらいの大きさで、主に鳥やネズミみたいな小物を喰う。
一般人にとっては危険だろうが、除霊師からしたらそこまで脅威でもない。
「ご自分達で……出来ないから、連絡してきたんですね」
“そうだ。殺るのは簡単だが、街中じゃ目立ち過ぎる”
「まして、近くに居るのは、あの “美神令子” ……彼女にバレたら、それこそ監視どころじゃなくなる」
“ああっ!けれど、実害も出てないからGS達がいつ来るかも分からん”
「その依頼も出来ることなら、自分達で出したくないと……?」
“協会やGSなんかと、極力関わりたくない!分かってるだろっ?”
今度は、八つ当たりかよ………
◆◆◆
《念話》
“…んな、感じで引き受けたは、いいけどよぉ……ただの、雑用じゃねぇかっ!”
“俺に当たっても仕方ねぇだろ?”
“あんの糞魔族、変な仕事回しやがってぇ!”
“面倒なのは、分かってて受けた。これは、連中への先行投資だ”
“糞ったれが!”
“止めろ。この念話も、魔界軍に傍受されてるかもしれないんだぞ”
奴等は、動けないだけで常に周りを張ってるんだからな。
“馬鹿野郎ぉっ〜!!”
“……何故、煽る?”
“上手く行かねぇじゃねぇか!?”
“あと、一匹だけだ。我慢しろ”
“その最後の一匹に、3日掛けてんだぞ!”
“なら、早く探せよ”
“ずっと、探してるわっ!お前こそ、何かいい案考えろやっ!!”
“お前は、考えないのか?”
“出来ると思うかっ!?”
“……俺が悪かった”
何なんだよ?いや、寧ろ潔良いのか……?
やれやれと思ったが、そんなこと考えてても何もならないんで、今度は別方向へ意識を向ける。
“マリア。分かるか?”
すると、即座に淡々と…けれど、凛とした少女の声が頭に響き渡る。
“イエス・鴉”
“ターゲットは、捕捉出来てるか?”
“ノー・センサー反応なし・見失いました”
マリアでも、駄目か。期待してただけに焦燥感が広がる。
ここに居る中で、1番探知に優れるのは、あの娘。それで駄目なら、見つけるのはほぼ不可能だ。氷雅さんでも居れば、もう少し何とかなったかもしれないが……居ない人間のことを考えても仕方ないか。
“んだよっ!折角、ロボ娘に来て貰っても意味ねぇじゃねぇか!!”
“じゃあ、お前には意味があんのか?”
俺達だけじゃ、埒が明かねえから、わざわざ呼んだんだぞ。
“畜生っ!!”
“愚痴るなら、探せよ”
“マリア・頑張ります”
つーか、愚痴る為に一々念話して来んな……!マリアを見習え。
“探してるよ。もぅ、何時間も!……なぁ、鴉。今日は、もぅ切り上げて明日にしねぇか?”
“駄目だ。ワルキューレには、昨日も電話で尻叩かれてんだよ。何とか、今夜中に終わらせるぞ”
それに、これ以上長引けば美神令子に気付かれる。冗談抜きで、奴の霊感(この場合、危機察知能力)は神魔並だ。
もう、既に気付かれてる可能……いや、今は考えるな。とにかく、速攻で終わらせないと。
俺は、嫌な考えを振り払うようにして、再度念話を飛ばす。
“マリア。『妖怪・蝙蝠』のデータは、メモリーに入ってるんだよな?”
“イエス・鴉”
“奴の習性から、巣を割り出せないか?”
“行動パターン・データ不足・予測場所・広範囲になる可能性があります・シミュレートしますか?”
データ不足…今夜しか、来てないからか。だが……
“勿論、イエスだ。マリア頼む”
“了解しました・シミュレーション・開始します”
そう言って、沈黙状態に入るマリア。多分、数十秒程で演算結果が出るだろう。
“もうすぐ、夜が明けちまう。ロボ娘で駄目なら、どうする?”
“依頼失敗だ。ワルキューレに頭を下げて、前金を返す”
“おいおい…なら、あと1日くらい……”
“ワルキューレじゃない。これ以上長引いたら、本当にクソ女が気付くぞ。お前だって、嫌だろ?俺は、凄く嫌だ!”
“まぁ、そりゃぁ……”
“今回の損失は、俺が補填する。それで、手打ちにしてくれ”
“………はっ、馬鹿言え。損失が怖くて、除霊が出来っか!お前がそこまで言うなら、損失は俺が飲む。それが、鴉武《筆頭》である俺の役目だ!”
“お、おぅ……”
2人しか居ないけどな……とは、言わなかった。まぁ、いいか。話が纏まったんだから。
そう思ってると、丁度良い具合にマリアの声が響く。
“シミュレーション完了・候補ポイント3箇所・屋上高架水槽の脚・外壁の凹み・空き住戸のベランダ天井”
“……丁度、3箇所か”
“はっ、シンプルでいいじゃねぇか!3人で分けりゃ、誰かが当たるわけだ♪”
んな、単純に行くかよ。でも、賭けるしかねぇな……
“分かってるとは思うが、今度は追うじゃなくて、待ち伏せるんだからな。巣に戻って来る、夜明けが勝負だ”
“わーってるって、待つのは退屈だが、せこせこ動き回るよりはマシだ”
“配置担当・どうしますか?”
その後もマリアに担当を決めて貰い、雪之丞が屋上。マリアが壁の凹み。俺が空部屋を張ることになった。
まず、雪之丞の屋上。
広くて暴れやすい上に、多少音を立てても気付かれないからだな……
外壁の凹みはマリア。
この凹みは隣棟との間にあって、1番狭くて、視界も悪い。自分のセンサーが、頼りになると判断したんだろう。
そして、空き部屋担当の俺は……多分、消去法。ただ、周辺の部屋には人が居る。マリアとは、違った意味で厄介かもな。
“っしゃ!屋上は、任せろ♪”
“無茶すんなよ……”
“行って来ます”
“頼んだ”
さて、俺も行くか。2人に念話を飛ばした俺も、翼を広げ目的の場所まで飛ぶのだった。
◇◇◇
真夜中のビル風は、かなり冷たい。それが12月となれば、尚更だ。そんな中を滑空している。特殊な道具が無ければ、このレザーコートだけでは、とても耐えられなかったろう。
そんな中、片翼を狭めて高度を落とす。探すときのように上空を巡回する必要はない。降りるだけだ。
マンションの壁面が、急に近くなる。白いタイルが街灯を鈍く返し、窓はほとんど死んでいて、どこかの室内灯だけが、カーテンの裏で四角く残っていた。
目的の空き住戸は中層。当然だが、ベランダに植木なんて物はない。けれど、何故か物干し竿が一本、掛かったままだった。以前の住人の物だろう。ただ、意外なのはそれだけで、人の住んで居ない部屋の外側は、思った通りただの箱だった。
翼を畳む直前、隣戸の窓を見る。当たり前だが、閉まったままだ。夜明けには、まだ早い。
靴先が冷たいコンクリートに乗る。文珠を解けば、黒の片翼は煙のように消えると代わりに残るのは、マスクの内側から漏れる白い吐息だけだった。
あとは、奴を待つだけ。俺は、外から目立たないようベランダの隅に身を寄せて、壁を背にする。
タイルのざらつきと、寒さによる冷感が背中を軽く侵食して来た。
そのまま何気なく、周りを見渡す。
天井の陰。室外機の裏。戻ってくるなら、この狭い四角のどこかだろう。
夜が終わるまで、あと数時間。俺は、焦る気分と呼吸を抑えるようにして闇に溶ける。
あと、一匹。あと、一匹だ……それを静かに仕留めれば何事も無く終わる。
…………なんて、考える時こそ、そんな風には終わらない。残念ながら、この時の俺がそこまで気付くことは無かった。
◇◇◇
あれから、大体2時間経ったろう。夜明けは、音もなくやって来た。
空の端が、最初に灰色に薄れる。それから、ごく薄い青が混じり始め、街灯の白が次第に力を失っていく。ビル風は相変わらず冷たいが、さっきまでの鋭さが少しだけ和らいで、代わりに空気が湿った気がした。
俺は、壁に背を預けたまま動かない。
呼吸は浅く、一定に保っている。マスクの内側で白い吐息がわずかに揺れるが、それ以外に目立った動きは出さない。天井の陰、室外機の陰、ベランダの隅——視線だけをゆっくりと巡らせながら、待つ。
……ここへ、戻ってくるなら、今しかない。
巣に帰る時間帯。夜の狩りを終え、昼間の隠れ場所へ滑り込む。マリアのシミュレーションが正しければ、そうなるはずだ。
そして……
「来た…」
誰にともなく、独りごちる。
最初は、ただの影だと思った。隣棟の隙間から、黒く小さなものが、音もなく滑り出てくる。翼を大きく広げず、体を平たくして壁面に沿うように飛んでいる。まだ、街灯の光が完全に消える前の微妙な明るさだが、闇夜に比べれば視認は簡単だった。間違いない、奴だ……
素早く、しかし確実に、こっちに近づいてくる。
高さは、ちょうどこの中層のベランダと同じくらい。翼の端が、時折わずかに震える。疲れているのか、それとも警戒しているのか。いずれにせよ、直線では飛んでこない。あの独特な形状の羽を羽ばたかせながら、ジグザグに進路を取っている。
俺は、息を静める。
指先が、ポケットの内側でわずかに動く。体中に緊張を巡らせ、いつでも動く準備を完了させる。
だが、まだ動かない。完全にこの四角い空間に入ってくるまで待つ。巣に戻ったと思わせてから、一瞬で仕留める。それが一番静かで確実だ。
そう考えてる間にも蝙蝠は、どんどん距離を詰めて来る。後、10秒もしない内に俺の間合いに入るだろう。それに合わせて、俺も更に感覚を研ぎ澄ませる。そう思った瞬間だった……
ガラッ
「!?」
突如、隣……俺と蝙蝠の丁度真ん中に位置する、隣の部屋にあるベランダの引き戸。それが、最悪のタイミングで開いた。
そして、中から気だるそうに出て来るパジャマ姿の中年男。
こんな所に住んでるんだから、それなりの富裕層だろう。この時間に出て来たのは、たまたま早く目覚めたから……いや、どうでもいいっ!
“キィーーーッ!!”
耳障りな鳴き声が、ここまで響く。
あの蝙蝠が喰らうのは、鳥やネズミ。デカくても猫くらいの小動物。サイズ的に人間を襲うことは無い。ただ、至近距離で出会せば、当然威嚇なり自己防衛はするわけで……
「ひぃっ!?」
バゥッ!!
………間一髪だった。
蝙蝠が中年親父に襲い掛かる直前、俺の咄嗟に撃った霊盾が奴に当たり爆散……までは、行かなかったが、力なく堕ちて行く蝙蝠。あの様子なら、下に落ちる頃には絶命してるだろう。依頼は、これで完了だ。
ただ、ここまで控えていた霊盾を撃ったことで、決して小さくない音が辺りに響く。
糞ったれがっ!ここまで、ずっと慎重にやって来たのが全部水の泡じゃねぇか。要らんことしやがって!だが、事態はそれだけじゃ済まない。
「な、何だアンタ!?」
「ちっ……」
部屋の隣合ってる俺とその親父は、仕切りこそ隔てちゃいるが、距離にして数メートル。当然、さっきの今の状況で親父が俺に気付かないわけがない。と言うより、顔を諸に見られた。
誰も居ないはずの部屋に、マスクを着けた得体の知れない男。そんなのが居たら、パニクって大声で騒がれるのは火を見るより明らかだった。
だから、俺は反射的に手すりに跳び乗り、そのまま仕切りを越え、隣のベランダへ……
「うわっ!だ、誰——」
「黙れっ……!」
バコッ!
中へ飛び降りた勢いそのまま、拳でそいつを黙らせる。
その直後、文珠で自分を透化する。正直、透化してからベランダに来た方がもっと上手くやれた気がするが、かなり焦っていた。
改めてソイツ見る。俺に顔面を殴られて、仰向けに卒倒してる男は鼻血こそ出してはいたが、呼吸は安定していた。取り敢えずは、大丈夫だろう。証拠隠滅を兼ねて治して……
ガタンッ…
物音!?部屋の方から…家族か。
「ちっ」
俺は、即座に文珠の文字を『治』から『忘』に変えると、そのまま親父へ投げ、速攻でその場を離脱した。
……その後、上空から見下ろすと女房らしき中年の女が、親父を介抱していた。記憶は間違いなく消したが………最後、グダり過ぎだ。
「糞っ…」
魔族のパシりも楽じゃねぇな。ワルキューレに文句を言われそうだぜ。でも、騒ぎは最小限にしたし、ギリ及第点……なはず。
“………武威、マリア。取り敢えず終わった。離脱するぞ”
俺は、暗澹たる気分のまま2人にそう伝えると、その場を離れるのだった。
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