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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第四十三話 一難去ってまた一難

「どうする・・・まだ、やるか?」

何が起こったのかわからず呆然とするフォルテの首筋に刀を添えながらソレイユはフォルテに聞いた。その言葉を聞いてフォルテは徐々に状況の整理がついてきた。

「・・・・・・俺の負け、か」

状況を理解したフォルテに戦う意思はなかった。その証拠にフォルテは構えていた正眼を解き、自分の負けを認めている。それを聞いたソレイユはフォルテの首に添えていた刀をおろし、鞘に戻した。それを不思議に思うフォルテ。

「・・・とどめを刺さない気か?」

「刺したところでおれに何の利益もないんだけど・・・んなことより、双方に利益があるような結末にしようぜ」

ソレイユが何を考えているのかわからないフォルテは訝しげな視線を飛ばすが、それでもソレイユは特に気にした様子もなくメニューウインドウを操作しながら驚くべきことを口にした。

「おれとフレンド登録しようぜ」

フォルテの目の前に現れたフレンド申請ウインドウといきなりのその台詞にフォルテとそのお供たちは呆気にとられた。種族間で争っているこのご時世に好き好んで他種族とフレンド登録する奴がいることに驚いた。レネゲイトされたなどの理由で他種族と組むプレイヤーもいるだろうが、フォルテの認識上ソレイユというプレイヤーは“あの”ルシフェルが肩を入れるプレイヤーである。しかも、先ほどまで一つのアイテムを巡って戦っていた間柄である。そんなプレイヤーがまさかフレンド登録を求めてくるとは普通は考えないだろう。

「・・・何が目的だ?」

故に何かしらの策略があると考えたフォルテは正常だと言える。しかし、警戒心をあらわにするフォルテにお構いなしにソレイユはその目的を告げる。

「おれ、この世界に来てまだ日が浅いからさ、フレンドリストがルシフェルしかいないわけよ・・・だから、これを機に色々作っとこうかな、と思ってね」

そんなソレイユの言葉を聞いてフォルテは再び呆気にとらわれた。それに構わず、ソレイユはそれにさ、と言葉を続ける。

「そっちがリベンジしたいときとか連絡が取れた方が便利だろ?」

―――リベンジがしたければ好きに連絡してくるといいわ。暇な時ならいつでも相手になってあげる―――

その言葉が自分が目指している人物がかつて自分にかけた言葉と重なったようにフォルテは感じた。大きく溜息を吐くと晴れやかな表情で苦笑いをしながらフォルテはソレイユの出したフレンド申請をOKする。

「んじゃ、リベンジの連絡待ってるよ~」

そういって無防備な背中をさらしながら出入り口へ向かって歩き出すソレイユ。途中でフォルテのお供の一人がソレイユに向かって武器を構えかけたが二人に止められ矛を収める。去っていくソレイユの背中を地面に座り込みながら見ていたフォルテはボソッと誰にも聞こえない声量で呟いた。

「くそったれ・・・“あの人”の背中を見てるようで複雑な気分だよ・・・」



「まさかフォルテと戦闘になるとわな・・・だが、予定外の収穫が二つだな」

竜の谷から出たソレイユは領地に向かって飛びながら竜の谷で手に入れたものを整理していた。謎のアイテム【グリモワール】と≪火妖精の三将≫の一人であるフォルテとのフレンド登録、この二つが先ほどソレイユが口にした予定外の収穫だった。

「グリモワールについてはルシフェルに聞けばいいだろ」

そんなこんなでエンカウントした敵を葬りながら領地を目指していると、空から甲高い鳴き声が聞こえてきた。何事か、とソレイユが空を見上げてみると巨大な雄鶏がソレイユに向かって突撃してきていた。

「ちっ!?」

舌打ちをしながらダメージ範囲外へと翅を羽ばたかせる。自分と同じ高さに降りてきた雄鶏の風圧で多少なり体勢を崩してしまうが、そんなことソレイユには関係なかった。

「一難去ってまた一難とはよく言うが・・・今日は厄日か・・・」

ぼやきながらも刀を抜き、雄鶏を見据えるソレイユ。その雄鶏はネームドMobらしいので名前を確認してみると、そこには聞き覚えのあるような無いような名前が表示された。

【Vidofnir】

ウィドフニルという名前にどっかで聞き覚えがあるとソレイユが頭を捻っていると、件の雄鶏が甲高い鳴き声を響かせながら巨大な翼を羽ばたかせ、ソレイユに向かって突進してくる。

「・・・やるしか、ねぇか」

このような時のソレイユの行動は決まっている。

「さて、と・・・いっちょ鶏刺しでも作ってみますか!」

いきなりの強敵とのエンカウントだろうと臆せずむかいうつのがソレイユというプレイヤーであった。

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

意気込んでウィドフニルと対峙してから、三十分ほどたった現在ソレイユは妙なことになっていた。それが何なのかというと―――

「・・・攻撃が通らないとか、普通有り得ないだろ」

ということである。刀で斬っても魔法で攻撃してもダメージが通らずHPが一ドットとして減ることはなかった。何処かしらを部位破壊しなければならないのかと思い考えうる限りのところを攻撃してみたがまったくと言っていいほど効果がない。“あの”アポカリプスとの初対面でさえ、しっかりとダメージは通ったのだ。だからこそ、ソレイユは呆れ半分に溜息を吐いた。

「これは、逃げた方が得策か?」

ウィドフニルの攻撃を避けながら自問するソレイユ。逃げるのは性分ではない、とはソレイユは言わない。SAOの中で彼は最強の剣士≪剣聖≫と謳われ、無敵の剣士とまで言われていたがソレイユは後半のことは頑なに否定していた。

『最強とは強さの最上であって無敵という意味ではない』

最強=無敵ではない、というのがソレイユの言葉だった。そのことを聞いたソレイユと親しい情報屋はその真意が読み取れず首を傾げ、彼が所属していたギルドのメンバーはその真意を理解しているのかわからないが特に何かを言うことはしなかった。
話が逸れたが、つまるところソレイユというプレイヤーは最強の剣士と呼ばれようとも、状況を見極め退く時は退くプレイヤーであるということである。ただ、そのライン引きが常人より逸脱しているに過ぎない。
しかし、さきほどから頭の隅に引っ掛かるものを感じていて、退こうとしてもそれが最良だとはどうしても思えなかった。

「(ウィドフニルってどっかで聞き覚えがあるんだがな・・・どこだったかな?)」

ウィドフニル、ウィドフニルと頭の中で眼の前のMobの名前を連呼していると、突如閃くものがあった。ここがAlfheimであり世界樹なるものがあるのだとしたらそれは十分に有り得る可能性であった。それと同時に二つのことが閃いた。

「なるほど・・・道理で、な・・・ならば、やることは一つしかないだろ!」

そして再びダメージが通らないMobに向かって斬りこんでいく。狙いは雄鶏の尾羽。それは推論にすぎないが、ソレイユはどこか確信を得ていた。



あれから、何とかウィドフニルを退けたソレイユは領地に戻り宿屋に向かっていた。途中でレヴィアとばったり出くわし軽く雑談を交わしたり、【エクリシス】を譲り受けた武器屋に赴き砥ぎを頼んだりといろいろした後、今に至る。

「強力な竜の討伐、火妖精の三将の一人のと決闘、挙句の果てに理不尽極まりないMobとのエンカウント・・・ホントに今日は厄日か?」

神話に関する知識はあれど神道に関する知識はあまりないソレイユが厄日に対してのお祓いなどできるはずもなく、ただただ今日日の不運を乗り切るしかほかなかった。今度神社に言ってお祓いでも受けようか、などと一瞬考えるがくだらないと感じその考えを捨てる。そこでこれ以上何かするとまたとんでもない厄が来そうなので、今日は何もしなければいいという結論に至った。

「もう、今日は何もしない・・・」

宿屋で部屋を取り、ベッドで横になるとメニューウインドウを開きログアウトしていった。



「はぁ・・・」

現実に戻るとさすがに強敵との連戦で精神的な疲れが襲ってきた。それでも気力を振り絞ってベッドから起き上がると飲み物を求めて冷蔵庫へと足を進める。もう少したてば日付は変わる時間帯であるため、電気をつけていないリビングに月明かりが眩しく輝いている。桜火は静かに輝く月を立ち尽くしながらじっと見つめている。

「どうしたの?そんなに月を見つめて」

声のした方を向くと、姉である焔が立っていた。ほんのりと上気した頰と首に巻いたタオルで風呂上りであることがうかがえる。

「おかえり。瑞希さんは一緒じゃないんだな」

「さすがにね。いくら大学生と言えどあまり遊びすぎるのもよくないのよ」

しっかりしていることで、と桜火は肩を竦めながら言った。そこで、ふと思い出したことを焔に聞いてみることにした。

「そういえば、なんで≪種族九王≫のこと教えてくれなかったんだよ」

「あら、言ってなかったかしら?」

わざとらしく首をかしげる焔を桜火はジト目を送るが、焔は気にした様子は見せない。

「・・・・・・まぁ、済んだことだしな・・・それより、霧雨 迅さんの連絡先教えてほしいんだけど?」

「別にかまわないけど・・・どうして?」

「ちょっとな」

その後、焔から口頭で迅の連絡先を聞いた桜火は、冷蔵庫からオレンジジュースを取出し、コップ一杯煽ると部屋に戻るために踵を返す。

「もうお休み?」

「いろいろあって疲れたんで・・・それに明日は定期健診なんだよ」

「それはご愁傷様」

全然気の毒に思ってなさそうな焔の言葉に桜火は力なく片手を振って答える。部屋に消えた桜火を見送った焔はうれしそうな表情で月明かりに照らされながら呟いた。

「そっか、種族九王までたどり着いたか・・・」
 
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