『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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不憫
前書き
久々登場、氷室絹……
12月の風が、駅前の通りを冷たく抜ける。落ち葉は乾いて、歩道の端まで転がっていた。人の流れは、どれも足早。受験の看板と冬物のセールのせい……まぁ、他にも色々あんだろうが、とにかく忙しない様子だった。
そんな時……
「おっ」
「あっ……」
それは、本当にただの偶然だった。
俺にだって、気晴らししたい時はある。だから、柄にもなく1人で街をブラついてたんだが、その時に予想外の人間に出会ったんだ。
時刻は夕方。学校のブレザー姿と言うことは、今が帰りなんだろう。
そんな戸惑う相手に向かって、俺の方から口を開いた。
「茶でも飲まねぇか?奢るぜ」
「え…?」
いきなりの申し出に、更に戸惑うそいつ。当たり前だよな。そこまで、親しくもねぇし……
「嫌ならいい。変な事を言って、悪かった。じゃあな」
そう言って、そいつの脇を抜けようと思った。
すると……
「あ、いや……その…出してくれるんですよね?」
取り繕ったような笑顔に軽い罪悪感を覚える。気ぃ使わしちまったな……
◇◇◇
「最近、学校はどんな感じなんだ?」
話の取っ掛かりとして、軽い話題を振る。
入ったのは、出会った所の近くにあったファストフード店。結構混雑してたが、上手い具合に四隅の話しやすそうな席に入れた。今は、そこで向かい合ってる。
「楽しいですよ。勉強は大変だけど、友達も先生も良い人達ばかりですから」
「そうか」
良い連中に恵まれたな……とは、言わなかった。多分、周りの連中は、こいつの人柄に惹かれて手を貸したくなっちまうんだ。
今の俺みたいに……
「雪之丞さんは、どうなんですか?」
「俺か?俺も毎日好きなようにやってるよ。納得出来るまで修行で自分を追い込んで、たまに仕事したり、色んな場所へ行ったりしてな」
「た、たまに仕事なんですか……?」
「ん……ああ。ハハハッ、確かにそうだな。ウチは絹ちゃんとこと違って、商売でやってるわけじゃねぇからな♪」
「えぇ…商売じゃないって。でも、生活が……」
「平気だよ。足らなくなったら、テキトーな仕事して稼いでる。昔と違って、腹減ってぶっ倒れることは無くなったぜ♪」
「アハハ……」
「姐さんの方は変わんないか?毎回、一攫千金狙いとか」
「そんな感じですねぇ」
「ハハハッ、姐さんらしいな」
「でも、最近は——」
その後も続く絹の話だと、姐さんは以前ほどガメつく金に拘ることは、減ったらしい。一時は、やたらピリピリしてる時期(多分、鴉が抜けたからだな……)もあったが、今は穏やかで落ち着いてるそうだ。
ただ、俺はそれ以上にその事を嬉しそうに話す絹の方に目が行った。
屈託のない、その様子を見ると事務所は本当に楽しいんだろう。それを思うと、これから切り出すことに対する戸惑いが生まれちまった。
だが……
「……ところで絹ちゃん」
まどろっこしいのは、好きじゃねぇ。俺は、とっとと本題に入ることにした。そうしなきゃ、わざわざ声を掛けた意味がないからな……
「はい?」
「聞いたよ。鴉とのこと」
「っ……!?」
「あいつ、本人からな」
……思ったより、沈まないな。でも、間違いなく効いてるだろう。
「………………」
「かなり、参ってたよ。奴は、出来る限り綺麗に終わらせたかったらしい」
「き、綺麗に……!?そんなのって!」
「お前を怒鳴りつけたんだって?相当、溜まってたんだろうが、馬鹿なことしやがったな」
ここに来て、絹の顔を顰める。
そのことに関しては、本当にそう思う。でも、俺も同じことをしちまった気はする。
「……!?雪之丞さん。どこまで知ってるんですか?」
「この前の顛末をあいつから聞いただけだ。それ以上は知らねぇ」
……嘘だ。そうなった経緯についても、全部あいつから聞いてる。
でも、この娘には言わない。可哀想だとは思うが、奴の苦悩を思えば、簡単に口を割るわけには行かなかった。
「………………」
「ふっ……だけど、確かに身勝手だよな。テメェの都合で離れた癖に、綺麗に忘れろなんてな」
「雪之丞さんは……何が言いたいんですか?」
「大したことじゃない。ただ、お前が気の毒に思った。それだけだ」
本来なら、奴をボコって(俺が爆散するかもしらんが……)でもここに連れて来て、絹に詫びさせるのが筋なのかもしれねぇ。それが、出来ないなら俺が代わりに謝るべきだ。
でも、どちらも選べねぇ。どっちを選んでも、奴への裏切りにしかならねぇ。そんな気がしたからだ。
「……あ、あの人は、なんて言ってるんです?」
「何も。さっきの話を聞いて以来、お前のことは口にしないし、俺も聞こうとは思わない」
もぅ、終わってる話からな…とは、流石に言えなかった。語調で十分伝わるだろうし、こんなのただの “死体蹴り” だ。
俺は、こんな良い娘にそんなことをしたいんじゃねぇ。
当の絹は……予想通り伝わったな。表情が固くなった。
「………………」
「俺から誘って、こんな話をしたことは悪かったよ。ただ、さっき言ったことも本当だ」
じっと、絹の目を見て口を開く。
「………………」
「お前の力になりたい。どんなことでもいい。俺に出来ることがあるなら、遠慮なく連絡して欲しい。ただ、鴉とお前の間には入らない」
「………………」
「ついでに言うと、姐さんも関係ない。これは、俺と絹ちゃんだけの話だ」
「………………」
「伝えたかったのは、それたけだよ。迷惑なら、今日のことは全て忘れて欲しい。お前の貴重な時間を奪い取って、すまなかった」
「………………」
「言った通り、金は払っておく。じゃあな」
言いたいことだけ言うと、俺は席を立った。絹は、ずっと黙ったままだった。
………偉そうに言ったが、俺も行動に自信があったわけじゃない。絹を傷付けただけの、自己満足だったのかもしれねぇ。
◇◇◇
店を出ると、夕方の風が前より冷たい。自動ドアの暖気が背中で切れて、12月の駅前に戻された感じだ。
横断歩道の音、受験の看板、冬物のセール。入る前と同じだ。中であんな話をしたあとも、通りは何も変わっていない。
歩道の落ち葉が、靴の先で乾いた音を立てる。奢った分のレシートが、ポケットの中でまだ温かい。それだけが、店にいた証拠みたいだった。
「やれやれだぜ……」
歩きながら、嘆息する。吐く息が白い。それを見て、ようやく自分が外に出た実感が湧いて来た。
……これが、本当にあの娘との最後の会話になっちまったかもな。
後書き
雪絹フラグ……?
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