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『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師

作者:wood12
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師匠(冰織の日常編)

 
前書き
前回の続き 

 

 ある程度ゴミをまとめてゴミ箱へ……と言っても、ここも既に一杯で溢れ掛かっていた。それでも、辛うじて空いたスペースに半ば強引に押し込んでいると、奥のデスクから、くぐもった声がした。

 物音に気付いた、お師匠様が起きたのでしょう。


「……ん……氷雅ちゃんかい?」


 彼は、私の姿を見ずに気配で察知が出来る……わけでは無い。ここに来る人間なんて、彼を除けば私か、極たまに彼の知り合いが訪ねるくらいだからだ。

 取り敢えず両手を払うと、私は彼の居る奥の部屋へ。


「おはようございます。お師匠様」
 

 未だデスクへ突っ伏している彼を見ながら、丁寧に挨拶をする。相手をどう思っていようと、礼は欠かさない……と言えば、聞こえは良いけど、実際は家で嫌という程叩き込まれた習慣だ。
 あそこには、完全に見切りを付けてる癖に、こう言った物は体の芯にまで染み付いてるから始末が悪い。

 ……まぁ、出来ないよりは、出来た方が良いし、この方には恩もあるから、別に良いんですけど。


「掃除してくれたんだねぇ。ありがとう……」
「いえ…」

「……にしても、久しぶりだねぇ。1週間かな?」
「10日ですわね」

「そうかぁ。歳は取りたくないねぇ……」


 時間の感覚が曖昧なのは、歳(確か48だった気がします)ではなく生活態度の問題なのでは?とは、勿論言わなかった。
 今までも、それとなく注意していたけどヘラヘラ苦笑いするだけで、まるで改まらないからだ。

 そんなことを考えていると、お師匠様はようやく上体を起こし、目を擦る。酒の匂いが、かなり強い。
 着ている黒い作務衣もヨレヨレで薄汚れている。手首に着けた数珠が、辛うじて仏教に関わる人間に見せているけど、外で見掛けたら乞食と間違われそうですわ。

 ……多分、昨日も家へは帰らず、ここで寝てたんでしょうね。白髪混じりの髪は寝癖で荒れて、不精髭だらけの顔色も悪かった。


「今日も、手続きかな?でも、協会の依頼は受けてなかったよな……」
「いえ、手続きはしません。依頼ではなく知り合いの応援(・・)に行っていたので……これが、その分ですわ」


 そう言って、武威から振り込まれた報酬の一部、それを封筒に詰めた物を渡す。


「ああ、君の昔馴染(・・・)の人達のお手伝いかぁ」


 朧げな記憶を呼び起こそうとしてるのか、短く沈黙するお師匠様。その後、缶ビールの残りを振るけど、もう空だと分かると、つまらなそうに机に戻す。


「……なんだか、悪いねぇ。しかも、こんなに………」
「先方が、奮発してくれたんですわ」


 嘘ではない。あの男は、色んな意味で無茶苦茶だけど、金払いは本当に良い(どんぶり勘定しか出来ないだけかもしれないけだ……)。それに、今彼へ渡したのはその中のほんの一部で…それでも、私が普段出す分の倍以上はあるんだから嫌になる。

 ここへ籍を置く代わりに、私は依頼で得た報酬の4割を彼へ譲渡することになっている。
 この提案は私の方からしたもので、元は5割だったけど「流石に悪過ぎる」と言われて、今の数字になった。優しいんだが、セコいんだか……


「でも、ウチとは関係ない仕事だろ?」
「ええ。しかし、最近は正規の仕事をしてませんし、その埋め合わせだと思って頂ければ」


 受け取っといて、良くいいますわね……と言う言葉をグッと飲み込む。

 ちなみに今回(魔界へ行った件)出したのは、全体の1割以下。普段なら、書類に報酬額が記載してあるからバレる(彼は、目を通してない可能性も高いけど……)けど、自己申告なら確認しようもない。それに、普段の相場より多く出せば何も言わないでしょうね。

 出さなくても、何も言わないかもしれないけど……


「あっ、そうそう……」


 お師匠様は、受け取った封筒を中のゴチャゴチャした引き出しに突っ込むと、今度はGS協会から届いたであろう真新しい封筒を差し出して来た。


「頼まれてた書類、来たから渡しておくね。それを書いて提出すれば、君の “登録名” は変更出来るから」
「あ、ありがとうございます」


 私は、予想外の対応に面食らいながら彼から封筒を受け取る。頼んどいてなんだけど、忘れてると思ってましたわ。


「いやいや。お世話になってる人を、待たすわけには行かないからねぇ」
「………………」


 相変わらずヘラヘラと…だけど、どこか人懐っこく笑う彼を見て思う。

 この方は、いつもそう……自分のことは、完全に無頓着な癖に人のことはテキパキとする。
 譲渡金のこともそうだし、だらし無いけど、決して悪人ではないのだ。寧ろ、どこまでも善良で、お人好しとさえ言える。

 知り合いの方から聞いた話では、奥様を病気で亡くすまでは腕の良い真面目なGSだったそうな……


「名前が変われば、君のことは何と呼べば良いのかなぁ?」
「今まで通り、氷雅で結構ですわ。お師匠様」

「でも、それだと……まぁ、いいかぁ。どうせ、ここでしか会わないしねぇ」
「ウフフ……」


 もぅ、乾いた笑いしか出ない。

 この方に “冰織” ちゃんと呼ばれるのは、何となく気恥ずかしかったから濁したのだけれど、余りに身も蓋もない物言いに苦笑するしかなかった。

 確かに初めて現場で自分の力を売り込んだ時以来、一緒に出ることなんて皆無なんですけどね。便宜上 “お師匠様” と呼んでいても、私が彼に教わることも無ければ、手伝うこともない……

 文字通り、書類上だけのペーパー師弟。この辺も、あの武威、鴉(2人)と似てますわ。


 そう思ってると、お師匠様は穏やかに……だけど、改まったように口を開く。


「所で、氷雅ちゃん」
「はい?」

「最近、その知り合いの人達とよく仕事してるけど…その事務所には、移籍出来ないのかなぁ?」
「……何故、急にそのようなことを?」

「ん…いや、変な意味じゃないよ。君には、助けられっぱなしだからねぇ。こんな所で良ければ、いつまでだって居てもいいよ」
「は、はぁ…」

「ただねぇ……君のような才能のある娘が、こんな所で腐るのは、僕は勿体なくて仕方ない思ってるんだよ」
「そ、そんなことは……」


 いや、正直連中の所への移籍は考えてはいる。実際にこの前、武威や鴉へその話を通してある。

※『魔族ビブロス編』参照

 ………ただ、ヤバさ(・・・)で言えば、向こうはこっちの比じゃない。もぅ、色んな意味で……
 ここが、駄目だった時の保険みたいな形でキープはしてるけど、すぐに行くかと聞かれたら、中々「はい」と言い切れないのが正直な所なのだ。

 ここを放り出して、移籍した直後に潰れましたじゃ、目も当てれませんわ(最悪、逮捕されたりして……)。一応、お師匠様も心配だし。一応だけど……


「だからさぁ…もし、向こうさんの都合と、君の都合が合うなら——」
「いえ、お師匠様。向こうも、そこまで余裕があるわけじゃありませんわ」


 だから、私は彼の言葉を遮るように答えると、強引に話題を変える。


「お師匠様。今日は、もう行かなくてはいけません」
「ん…あ、そうなの?」

「これから協会へ行って、書類を出して来ます。そのついでに、新しい依頼を探してみますわ」
「そうかぁ、氷雅ちゃんは働き者だねぇ…」


 あなたが、怠け者なんでしょ……とは、勿論口に出さない。

 私は、静かに部屋の入口の方へ向うと、振り返って彼へ一礼する。


「それでは、また……」
「あ゛…うん。気を付けてねぇ……」


 やや意味不明で、あくび混じりの返事が返って来る。おそらく、またデスクで寝直す気でしょう。

 そんな事を考えながら、事務所を出る。



「ふぅ……」


 出てから、すぐにその場で深呼吸をする。

 当たり前だけど、外の空気は事務所の中よりずっと澄んでいる。彼には申し訳ないけど、あの汚染された空間に居るのは除霊現場とは違った意味でストレスですわ。その内 “毛羽毛現” でも出てきたりして……



「まぁ、それはともかく……」


 手元にある封筒を見る。

 元々、そんな予定も無かったけど彼にもそう言ったんだし、協会へ出しに行きますか。ついでに、依頼探しも……いつもの鍛錬は、その後でも良いですわ。

 そう思った私は、協会へ足を向ける。


 ……ちなみに、私が “登録名” を変えようと思ったのは、他の3人(武威、鴉、無骸)に合わせたのもあるけど、 “久能市” と言う苗字が何となく子供っぽいと思ったからだ。 “くノ一” → “九能市” ですからね。要は当て字です。

 ただ、余り深く考えずに着けた名前だけど、当時はそれで十分だった。ヤケクソだったのかもしれません……


 そう…あの腐った男の名……『伊能』の名を名乗るくらいなら、もぅ、当て字で十分。そんな、名を名乗るくらいなら………



「死んだ方がマシですわっ!!」


 街中を歩きながら、思わず吐き捨てる。通行人の何人かが振り返った気がしたけど、どうでも良かった。

 
 

 
後書き
次回から、本編へ戻ります。 
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