機動戦士ガンダム0086/ティターンズロア
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第二部 黒いガンダム
第六章 フランクリン・ビダン
第二節 闇転 第四話
「カミーユ!」
レクリエーションルームにレコアが駆け込んできた。ランバンとポーカーをやって負けが込んで、やめようと声を掛ける寸前だった。
「カミーユ! お父様が!」
即座にカミーユが走り出した。レクリエーションルームの床を利用して助走とし、廊下を一気に泳ぎきる。瞬く間にハッチへ取り付いたカミーユが、エレベーターに消えた。
ランバンは呆気に取られてポカンとしている。レコアも一息つくと、ランバンの背中を叩いた。
「私たちも出撃するわよ!」
「出撃? ですが中尉、敵影発見の警報はなってませんよ?」
これが普通よね……という顔をしてランバンをみる。見当もつかないランバンと、たったあの一言で駆け出していくカミーユ。察しがいいと言うには鋭すぎるカミーユに対して、戦闘以外にはその直感が活きないランバン。これがニュータイプということなのだろうか? レコアにはカミーユが生き急いでいるようにも見えてしまう。
「ランバン少尉、君、長生きするわよ」
「???」
ランバンはレコアの言っていることが理解できなかったようだ。察しの悪さではアーガマ一の男である。レコアは溜め息を一つ吐いて、言葉を接いだ。
「カミーユの父親――フランクリン大尉がリックディアスで逃走したのよ」
「な……」
ランバンは声を失った。パイロットでないものがMSを勝手に動かすことは利敵行為であり軍法会議ものの行為である。ましてや今はティターンズに追撃されている状態であった。フランクリンの企図したところは明白だ。
【リックディアスの強奪】
それ以外に答えなどあるのかという程、明解な答えだった。カミーユが駆けていくのも肯ける話である。《リックディアス》は既に量産化されている機体であり、エゥーゴにとってはこれから主力兵器として配備しようという機体だ。つまり、敵の手に渡るぐらいなら撃墜するのが当然となる。
「じゃ、じゃあ?」
ようやくそこまで辿り着いたランバンはぎこちなくレコアを向き直る。レコアはゆっくりと肯首した。
「連れ戻せない場合、撃墜命令が出ているわ」
軍ならば当たり前ではある。
だが、カミーユは母親を失ったばかりであり、メズーンの死さえ乗り越えていない。運命の悪戯というには厳し過ぎる現実だった。
「自分らも……」
急がないとという声は警報に掻き消された。
――敵機接近!レコア中尉、ランバン少尉は直掩へ! 緊急配備! 全艦第一種戦闘配備! 繰り返す……
ランバンはレコアと顔を見合わせて、慌てて格納庫に向かおうとした。不意にレコアが肩を摑む。
「大丈夫。クワトロ大尉がハッチ中尉の機体で出てくれているわ」
幾ら察しの悪いランバンでも意味は理解出来た。《アーガマ》の整備場は艦体のカタパルト下方にある。整備が終わった機体以外、カタパルト横のハンガーには置かれない。つまり、強奪されたのはクワトロの機体ということになる。ハッチは自分の機体をクワトロに貸したのだ。
「ハッチ中尉は?」
「火器管制室よ」
交代要員のない余裕のなさでもあった。平時に慣れすぎた軍人は、戦闘が始まるとストレスから変調を来すことがある。戦争経験のない砲雷長が倒れた代わりに、砲術士官あがりのハッチが火器管制室に入ったのだ。
エゥーゴは実際のところ、常に人員不足である。専科ではない要員は引っ張り凧だった。迎撃や攻撃、邀撃にと八面六臂のパイロットも大事だが、掩護には艦の砲撃も欠かせないし、艦同士の闘いは砲撃戦になることを考えれば、妥当な人員配置だ。
特に艦は帰る場所であり、旅のキャラバンである。対宙砲火も忘れてはならない。火器管制室というのは対宙砲や主砲、副砲の照準を中央で制禦する場所である。味方に当たらぬようにしたり、各砲座の被害状況を確認し戦闘艦橋に報告し、撃墜確認をする場合もある。戦闘における心臓部といえた。
「いい? 敵をアーガマに近づけないこと!」
「諒解!」
デッキに出ると、既にカミーユの発進シークエンスが始まっていた。艦体を伝って轟音が聞こえる。黒い《ガンダム》の機体はすぐに見えなくなった。
ランバンは《ジムⅡ》へ、レコアは《リックディアス》へと取り付く。既にイグニッションは入っていた。シートに座り、コールサインを出す。
「ランバン・スクワーム、いつでも発進OKだ」
「先にC4が出る! R6は待機!」
トーレスの声がランバンに現状を手短に伝えた。仕方なくランバンはガントリークレーンが収納されるのを見届けて、駐機状態を保つ。《アーガマ》のカタパルトは左右に展開されているが、中央シャフトが埋まれば、カタパルトは片側しか使えない。
「G3、〈チャンピオン〉出る!」
コンソールにC2、C3とG3の光点が並ぶ。C1だけが突出していた。これがカミーユの親父さんの《リックディアス》だな、と当りをつける。
「追いつけない距離じゃない。あとは……」
敵の出方だ、という言葉を飲み込んだ。弱い振動が伝わり、シャフトが空いたのだ。
「R6、右舷カタパルトへ!」
「R6、諒解!」
「C4、〈ハニービー〉出る!」
トーレスの声にレコアの声が重なる。戦闘艦橋も混乱しているのだろう。処女航宙で初戦闘、さらには単独艦での対艦戦闘だ。人手も経験も何もかもが足りて居なかった。
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