機動戦士ガンダム0086/ティターンズロア
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第二部 黒いガンダム
第六章 フランクリン・ビダン
第二節 闇転 第二話
フランクリンが医療機器産業から軍需産業に転向せざるを得なかったのは、一年戦争の影響だった。
ジオン公国によるコロニー落としと地球進攻作戦によって、甚大な被害を受けた地球では、医療研究どころの騒ぎではなくなってしまった。それにより、ゼネラルマニピュレータワークス社の経営状態は急速に悪化し、以前から技術提携の話が持ち上がっていたコロラドサーボ社が合併を申し出てくれたため、救われた。しかし、それは軍事転用のための企業買収であった。
当時のコロラドサーボ社は、ジオンの占領下にあって、地上におけるモビルスーツの生産に協力していた。さらに、生産に留まらず、開発にも参画しようとしていた。フランクリンの医療研究がマニピュレータや人工筋肉の分野であったことから、その技術がモビルスーツにも転用可能と践んでいたのだ。新設されたモビルスーツの設計部門を任されたのだが、フランクリンらコロラドサーボ社の開発スタッフはいわば下請けで、結局、本国の設計意図を汲み取って現場に落とすだけに終わった。
しかし、北米解放以後、フランクリンは連邦軍兵器開発局へ軍属の技術顧問として招かれると、ムーバブルフレームの開発にのめり込み、《カスタム》や《クゥエル》の設計に協力、その実績が認められ、《マークⅡ》の主任設計士として抜擢された。互換性の高い汎用型モビルスーツを主力モビルスーツとすることで、少ない戦力でも広範囲な戦局に対応できるようにすることが、フランクリンの設計思想であった。そのための《マークⅡ》であり、オーガスタで開発された次世代モビルスーツの魁ともいうべきフラッグシップ機なのだ。最先端の技術を具現化し、ジオンを追い抜いた自負さえあった。
だが、この《リックディアス》をみるに、全く別の設計思想の存在を認めぬ訳にはいかなかった。今の擬装が本来の姿ではないとすれば、《ドム》に似たフォルムを想像する。つまり、地上やコロニー内といった空気抵抗の存在を意識した機体ということになる。
「地球は渇望の地ということか」
連邦のモビルスーツ開発は、宇宙空間での使用を第一義とし、それはそのまま機体のフォルムに反映している。ジオン系の機体が丸みを帯びた曲面構造が主体なのに対し、連邦系の機体は角張った平面構造になっていた。
そういう意味では、ジオン系の方が、外形上は人に近い。ただし、『甲冑を身に纏った』という形容詞がつく。アストナージのいう『人に近すぎる』構造とは、内骨格構造――ムーバブルフレームのことだ。モビルスーツは所詮兵器である。擬人化機械操作入力補助装置を必要としない。内骨格構造まで人に似せる理由があるのか――という疑問はつきまとう。
だが、ムーバブルフレームによって、モノコック構造やセミモノコック構造に較べ、《マークⅡ》は軽量化を実現している。ムーバブルフレームによるフレキシブルアーマー――多元的機動装甲機構とでもいう、必要に応じて装甲がスライドする仕掛けが、全体的な装甲の重量問題を解決したのだ。
「そうなんでしょうかね。私には地球がそんなにいいとは思えないですが」
個人的な感想であるが、フランクリンが推察したジオン系モビルスーツの設計思想について異論がある訳ではない。
「それはともかく、マークⅡは規格として次世代モビルスーツの基準になるでしょうね。こいつは時代を超えている」
アストナージはそう付け加えた。
実際のところ、《マークⅡ》の規格は統一されていることだけであり、新しい訳ではない。しかし、この規格が統一されているという点が大きな意味を持っていた。
「ほう……さすがはレイ博士の弟子ですな」
アストナージの言葉に気分をよくしたのか、急に敬意を払った口調に改まった。
「いや、単に技術屋なんですよ」
開発に興味がない訳ではないが、アストナージは現場が好きだった。現場の要請を開発に伝え、開発の意図を現場に伝える。その役目は軽視されがちではあるが、兵器に命を預けるパイロットたちにとって、何物にも代えがたい重要なポジションである。それが解るからこそ、アストナージは現場を選んだ。目の前の命の助けになっていることを実感できるからだ。
「立場は違えど、我々は皆、技術者です」
フランクリンはきっぱりと言いきった。
アストナージからすれば、軍属とはいえ《マークⅡ》の主任設計士が敬意を払ってくれたことが嬉しかった。ティターンズの最新兵器事情や技術を学べるチャンスでもある。
「こいつの新しさを理解できない技術者は技術者とは言えませんよ」
ムーバブルフレームがもたらす機動兵器のパラダイムシフトが、ガンダムから続くジムの系譜に受け継がれてきたユニット進化の設計思想を否定し、ジオンが行ってきた設計そのものの進化という設計思想に近づいたことは、別段不思議ではない。だが、その進化が外から内へと変化したことで、世代交代を促進させるのが、新しい《ガンダム》であるのは歴史の皮肉であろうか。
「アストナージ大尉、それは言い過ぎというものですよ」
満更でもない顔で、フランクリンが応えるが、アストナージの言は正鵠を射ていた。グリプス戦役は連邦最大の内乱でもあったが、兵器史的にも第一世代と第二世代を大別するターニングポイントである。
第二世代以降のモビルスーツは《マークⅡ》という規格を革新できるものがなく、《マークⅡ》はある意味でオープンプラットホームとなって、ユニバーサル規格という敵味方の区別ない兵器プラットフォームを生み出した。
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