機動戦士ガンダム0086/ティターンズロア
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二部 黒いガンダム
第六章 フランクリン・ビダン
第二節 闇転 第一話
「これがエゥーゴの新型、リック・ディアス……か」
フランクリンは、ハンガーで整備を受ける《リックディアス》を眺めながら、満足そうに、一言一言噛み締めながら呟く。並んでいるのはアストナージだ。先程まで《マークⅡ》の解説を聞かせてもらっていたので、今度はアストナージが《リックディアス》を説明することになっていた。
ハンガーには三機のMS――赤い《リックディアス》が一機と《マークⅡ》二機が駐機している。その向こう側のデッキにはエゥーゴカラーの《ジムⅡ》が一機見えた。〈アーガマ〉にはあと四機の《リックディアス》があるが、現在、哨戒任務の交代で出払っていた。そのせいか、ガランとした印象は拭えない。
「これは」
「こいつはアナハイム製ではないな」
フランクリンが、アナハイム・エレクトロニクス社のロゴを眺めながら言い切った。アストナージが口を開こうとした上に被せるようにだ。フランクリンの言い方は答えを必要としているとは思えないので、アストナージは黙ることにした。
年齢的なものだろうか、フランクリンはアストナージに向かって、終始上から物を言っているようだが、アストナージは意に介していない。階級は同じだが、一回り以上離れていると仕方のないものだろうか。物識り顔で蘊蓄を垂れる。
「ベースはドムだが……」
「イメージが違うんでしょう? ドムというより、高機動型の後継機がベースなんだそうで。アナハイムのバインダーで立体機動を実現できたそうですよ」
「ほぅ……」
フランクリンは面白そうに背中に付けられたバインダーを眺めた。鈍重そうな機体には高機動という言葉は不釣り合いに思える。ジオンの技術が随所に使われている機体に偽装のために取り付けたバインダーが、その機動性を高めているという。ジオンの技術に興味があるフランクリンにとって、魅力的な話だった。つまり、連邦系の設計とジオン系の設計を融合させられるという可能性のヒントがここに在るということだ。
アナハイム・エレクトロニクス社は戦後急成長した電化製品のメーカーで、大型工機なども製造していたため、戦中にジムの委託生産を受注。戦後、軍需産業に参画し、現在では軍需産業の一角を成している。特にグラナダのジオニック社を払い下げられたことで、ジオンの技術を応用したカスタムタイプのモビルスーツ製造に力を発揮していた。
しかし、ティターンズとの繋がりは薄く、ましてや、ライバル会社であるコロラドサーボ社の主任設計士を務めるフランクリンには伝手がない。
「それにしても、ツィマッドの連中は惜し気もなく寄越したものだ」
「そんなこともないでしょうがね。大事なのはいまここにあるって現実です」
これにはフランクリンも聊か面喰らった。技術者にも色んなタイプがいるが、このアストナージは変わっていた。あの《ガンダム》の開発に携わっていただけでなく、ミノフスキー博士の教え子でもあり、モスク・ハン博士の助手でもあったという。
そういう経歴を持つと人は独善的になりやすく、系譜を辿ろうとし始める。失敗を恐れて保守的になるか前衛的になってしまう。だが、アストナージは違っていた。
「どたいモビルスーツなんてもんは、生まれてまだ十年そこそこしか経っちゃいない。兵器としては赤ん坊ですから」
実験と検証を繰り返して兵器は進化する。そして、時代の要望を汲んで、後世からみると歪な進化もする。そんな歴史のうねりを知ったからといって、それを正すだけの力を一介の技術者が持てるはずもない。諦観とでもいうような雰囲気をアストナージは醸していた。
「では、今求められているものはなんだと君は思うんだ?」
「規格ですよ」
即答だった。
あっさりと、そしてはっきりと。用意周到さは微塵もなく、そこには考え抜いた響きがあった。
そして、フランクリンの予想外のものだった。アストナージは設計や装甲材、推進剤、燃料といったものを口にすると考えていたのだが、少々見縊り過ぎたと感じ、評価を改めた。
無言で続きを促す。
「ガンダムとジムは同系のモビルスーツですし、装甲材の材質が違うとはいえ、規格は一緒で、互換性もある。しかし、あのマークⅡは違う。ビームライフルもシールドもビームサーベルさえ、一切の互換性がない。戦場を知らないんでしょうねぇ」
アストナージに悪気はない。規格の統一は本来軍から要望があるもの――つまり、この機体を採用した方が戦場を知らな過ぎるのだ。
絶句した。痛いところを突かれた思いだった。確かに《マークⅡ》には新技術を盛り込みはした。アタッチメントフックやエネルギーパック式ビームライフルの採用など、これから未来を見据えた設計がなされている。しかし、それらは現時点では兵站への負荷を増大させるだけの非効率なものに過ぎない。
「ティターンズのお偉いさんは余程金持ちなんでしょう。規格を新しくするには、時間と金が掛かるんですから」
規格を統一できれば、前線は効率的になる。敵味方の区別なく、回収した武装も使い回せる。ジオニック社もツィマッド社もアナハイム・エレクトロニクス社も、そのために《マークⅡ》の実機を必要としたのだ。
「こいつは設計自体が系譜を踏襲しているようでしていない。あえていえば、人に近すぎる。モビルスーツは兵器だってことを忘れられた機体……ですかね」
アストナージの言葉がフランクリンの痛い処を刺す。人に近すぎるとは、当にその通りだった。フランクリンは元々兵器の設計士ではない。医療用機械――いわゆるサイボーグ技術の研究者であったのだから、当然とも言えよう。
ページ上へ戻る