『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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脱皮(深淵の蟻編)
“許さんっ……許さんぞぉっっ………!!”
深く沈んだ……だが、苛烈な怒りを秘めた声が頭に直接響いて来る。これは、念話だ。
ここで、こんな強い念を発するのは、奴しか居ない……
俺は、改めて地に落ちた女王の首を凝視する。だが、首は落ちた時と変わらず全く動かない。
変化があったのは、首を落とされた体の方………
ボコッ……!
「!?」
背中から、何かが出て来た!?甲殻の継ぎ目を開くようにして出て来たあれは……人の手?
……間違いない。ここからでも分かる。褐色とグレーを混ぜたような人では有り得ない肌色だが、あれは間違いなく人の腕。
そう思ってる間にもう片方の腕が飛び出し、両手で背中の端を掴む。
そして………
ズシャアッ……!
「…………脱皮?」
“人” が出て来た。
デカくて歪な体を脱ぎ捨てるように出て来たのは、ほっそりとした女性のシルエットだった……その体液にまみれた体が外に出た瞬間は、新たな息吹の誕生にさえ思えた。
その灰茶(?)色の身体の背中には、羽虫の特有の双翅があり、ダークグリーンの頭髪の広がる頭には触覚が生えている。ここからだと、多少輪郭がボヤケているが、その認識で間違いないはずだ。
ただ……
「どう言うこった……?」
状況に頭が追い付かない。女王が人間形態に変態するなんて、爺さんも天狗殿も言ってなかった。
そう思った矢先だった……
「!?」
今度は、天狗殿が膝を着いた!?
頭が更に混乱する。何だ?何をされたんだ?口元を押さえてる……?
わからん…奴は、古い体から抜け出ただけだぞ。それなのに……いや、もしかして始めに首を斬り落とした時に既に………
一度始まった混乱は、倒れだしたドミノのように収まるどころか加速するばかり……だが、状況は刻々と変化する。呑気に、頭の整理をつけてる場合ではなくなっていた。
「そ〜こ〜かぁ〜〜〜っ!!」
完全に体を出し切った女王が、上を向き、俺を見定めて空中へ羽ばたき出したからだ。
俺を見る奴の両眼が赤く苛烈に光る。外へ出たからか、今度は念話ではなく肉声。ヒステリックな甲高い声だった。
「よぉ〜くぅ〜もぉぉぉ〜〜〜っっ!!!」
そうして、飛びながら右手を突き出すと、そのまま夥しい魔力を放って来た。
奴の精神状態を反映したような、赤黒い凶悪な魔力の奔流。人間とは桁違いの出力で放たれたそいつに触れれば、当然ただじゃ済まないだろう。
「やれやれ。俺をご所望か……」
まぁ、そんな見え見えの攻撃当たるはずもないんだが……俺は空中で軽く身を翻して、魔力波をやり過ごす。すると、その間に俺へ肉薄した女王は今度は右手を振り上げる。
あれは、毒爪か……
魔力の感覚で何となく分かる。子蟻や女王のケツにあった毒針と同じ物だ。機能を爪へ移植したのか?
当然触れるわけには行かないし、触れればその部位は麻痺して溶解する。
俺は、今度は身をよじって躱す。
「妾の子等をぉぉぉ〜〜〜っ!!」
だが、それが1回で終わるはずがなく、左手、右手、左手と怒りの咆哮を上げながら両手を滅茶苦茶に振り回して来る。
「うあぁぁぁ〜〜〜っっ!!」
唸る両腕。一発一発が速くて、重い……当たり前だ。人型になったとは言え、元はあの巨体。寧ろ魔力が小さい体に凝縮された分、厄介になったと言えるだろう。
毒に関係なく、当たれば普通に吹っ飛ばされる。そして、重度の打ち身。骨折……いや、場合によっては肉が千切れるかもな。
だが、俺は全てを躱す。最小限の動きで躱す。防御に手を上げる必要すらない。別に俺が凄いわけじゃないがな……
「よ〜く〜もぉ〜〜!よくも、よくもぉ〜っ!!!」
「うるせぇな!」
何回言う気だよ(まぁ、当然と言えば、当然なんだが……)?
俺は、奴の大きく振った腕を掻い潜ると、ガラ空きの腹に溜め込んだ霊気を両の掌底でブチ込んでやる。
ブオォンッッ!!!
「ぐはぁっ!!」
手応えあり。ドンピシャのカウンターを喰らった女王は、衝撃を受けた勢いのまま地表へ落ちて行く。
「霊爆掌……接触爆弾。生まれて間もないのお前には、効いたんじゃないか?」
込められた霊気は、お前に比べれば遥かに小さい。だが、上手く使えば小さな力で大きな威力を出せる。
…………と、本来なら悦に浸りたいが、余り長くは掛けられない。天狗殿の様子も気になるしな。
俺は慎重に下降する。奴の落ちた場所と天狗殿が居る場は、そう離れてない。
下へ降りると、天狗殿はまだ始めの姿勢のままだった。傍には、同じように腰を落とした無骸も来ていた。師匠が気になったんだろう。
ちなみに雪之丞と氷雅さんは、残った子蟻達の殲滅をしていた。
「大丈夫ですか?天狗殿」
俺は、女王の方へ視線を固定したまま尋ねる。奴の落ちた先は、砂煙が舞って殆ど見えない。どのタイミングで来てもいいように、こうするしかなかった。
すると後ろから、絶え絶えの声が返って来る。
「鴉か……面倒を掛ける………」
声に力はある。だが、やはり苦しそうだ。
ひょっとして、奴の毒を喰らったのか?手傷を負ったようには見えなかったから、毒を霧状にでもして飛ばして来た?いや……でも、さっきはそんなことしなかったぞ。
そう思ってると、いつの間にか立ち上がった無骸が俺の横に立って、何やらジャスチャーをする。
…………何だ。鼻の前に量の拳を重ねて棒のように……
「鼻が伸びた……?」
「………………(こく)」
何で……?
すると、今度は鼻の前に拳を上げて、前側にパット開く……
「鼻血出した……?」
「………………(こく)」
自分の中で張り詰めていたものが、どんどん崩れて行くのを感じる。奴は、美しい姿ではあった……
「………女王の裸体見て、ノボセたのか?」
「………………(こく)」
「「「………………」」」
「鴉よ……面倒を——」
「もう、黙ってて下さい」
声だけで渋く格好付けてんじゃねぇよ。ムッツリが……口元じゃなくて、伸びた鼻押さえてたのか。
「お前も大変だな……」
「………………」
色んな意味で……ただ…
ガラッ………
いつまでもシラケてる場合でもねぇな。奴の魔力は、依然として危険なレベルにある。
俺は、小声で言葉を紡ぐ。
「見てたろうが、奴は魔力も攻撃も強大だ」
「………………」
「人型になって、人語も解するようになった。もぅ、半分 “魔族” と言ってもいいだろう」
「………………」
………もっとも、魔族と魔物の境界線なんて、文化的な知能があるか無いかくらいだけどな……
「……だが、変態したばかりで体に慣れてない。常に力に振り回されてる」
「………………」
飛び方も、動きも、魔力の扱いに至っても全て雑。スペックをまるで活かせてない。だから、さっきは余裕を持って対応出来た。怒りで空回ってた部分も大きいだろう。
逆に言えば、冷静に自分をコントロールされたらこっちがヤバくなるわけだ。
「だから、慣れる前に潰す。余り時間は掛けられないぞ」
「………………」
武威と冰織は、まだ遠くに居る。後ろのムッツリ親父は、もう頼りに出来ない。
なら、俺達で一気に……
ガシャン……
…………自分の前を行く背中へ声を掛ける。
「何だ?無骸、お前1人で行く気か?」
「………………」
師匠の仇討ち(?)と言うわけか……
「ふっ……いいだろう。速攻で決めて来い」
「………………」
例によって、いつも通り無言。加えて、返事代わりの棍生成もいつも通り……
そして、その棍を横に薙ぐ。
ビュオゥッッ!!
声無き戦士によって、巻き起こる一陣の風。それが、周りの砂煙を一気に晴らす。
「下等生物がぁ〜〜〜〜っっ!!」
晴れた先から、己の根城と子を殺された女王が怒り心頭と言った面持ちで仁王立ちしていた。本来なら、妙齢の美しい顔立ちが未だ憤怒で歪みきっている。
「怒髪天を衝く……か」
嘆息混じりに独りごちる。奴の怒りが、こっちの追い風になるか、それとも………
後書き
ロマサガ2のリアル・クイーンを思い出して書きました。
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