機動戦士ガンダム0102 Curse of Zeon (完結)
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第1章:モルモットたちの棺
前書き
こんにちわ。はじめての投稿です。
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宇宙世紀0102年。
かつて地球連邦とジオン公国が、そしてネオ・ジオンが、
数多の血を流した宇宙は、一見すると静寂を取り戻したかのように見えた。
だが、それは欺瞞に過ぎない。
大国の政治の影、光の届かない暗黒の宇宙の底には、
今なお怨念の炎をくすぶらせる「残党」たちの巣窟が存在していた。
小惑星の岩肌をくり抜いて作られた、ネオ・ジオン残党の地下基地。
その一角にある待機室は、およそ軍の施設とは呼べないほど劣悪な環境だった。立ち込めるのは、安価な消毒薬の匂い、機械油、そして人間の体臭。
「——おい、ウィン。ちょっとお前の端末、貸してくれねぇか?」
声をかけてきたのは、ジャンだった。
車椅子の上で、彼は不自然に短いズボンの裾を揺らしながら、
人懐っこい笑みを浮かべている。
ジャンには、両足がない。
それだけでなく、左腕も肘の先から機械の義手になっていた。
「また妹さんへの仕送りか?」
ウィンは自身の衣服のポケットから、薄汚れた通信端末を取り出して手渡した。
ウィン自身、この地獄のような「モルモット隊」に身を置く、
しがない傭兵の一人に過ぎない。能力的な覚醒など一切ない、
どこにでもいるオールドタイプの少年だ。重病を患う姉の延命治療費を稼ぐ。
ただその一念だけが、ウィンをこの汚濁の部屋に繋ぎ止めていた。
「へへ、大正解。来月からさ、あいつジュニアスクールに通うんだよ。
制服だの教科書だの、結構金がかかるらしくてさ。少しでも足しになればいいなと思ってな!」
ジャンは慣れない義手で器用に端末を操作しながら、本当に嬉しそうに語る。
この待機室にひしめいているのは、ジャンだけではない。
手足のない負傷兵、過剰な薬物投与で精神を蝕まれた強化人間の「不出来」。
連邦政府のまともな補助も受けられず、行き場をなくしてジオンの残光にしがみつくしかなかった、
文字通りの社会のゴミ、底辺の人間たちだ。
けれど、ウィンにとって彼らは決してゴミではなかった。
この汚い部屋の中で、彼らは互いの傷を舐め合い、家族同然に寄り添っていた。
こいつらがいるからこそ、姉を想い、この地獄を耐え抜くことができる。
その絆だけが、ウィンの唯一の救いだった。
しかし、現実は非情だ。
「おい、そこのゴミ。早く片付けろ」
冷酷な声が響く。研究班の白衣を着た男が、数人の作業員を連れて入ってきた。
彼らが乱暴にプラ箱へ放り込んでいるのは、昨日戦死した仲間の遺品だった。
「待ってください」
ウィンは男の前に立ち塞がった。
「それは昨日死んだロブの荷物です。せめて、地球にいる家族に送るなり、
ここに残すなり——」
「家族? 遺品?」
研究員は底意地の悪い嘲笑を浮かべ、ウィンの胸元を小突いた。
「勘違いするなよ、モルモット風情が。ここはジオン軍だが、
貴様らは正規の兵士ではない。消耗品だ。死んでしまえば、
その残留物はただのゴミ。スペースの無駄なんだよ」
ウィンの拳が、みしりと音を立てて握り締められる。怒りで視界が赤く染まりそうだった。
その殺気を感じ取ったのか、研究員はさらに醜く口元を歪めた。
「おやおや、怖いねぇ。殴りたければ殴ればいい。
……ただし、治療室に寝たきりの、君のお姉さんの『治療』がどうなっても知らんぞ?」
「っ……!」
いつもの脅し文句。姉の命を人質に取られているウィンには、何も言えない。
その時、車椅子からジャンが叫んだ。
「てめぇ……! ウィンに何言ってやがる!」
ジャンは不格好な義足で無理やり立ち上がり、研究員に掴みかかろうとした。だが、その瞬間。
——ウゥゥゥゥン! ズゥゥゥゥン!
基地全体を揺るがすような、凄まじい地鳴りと赤色の警報ランプが、不吉な鳴動を始めた。
『敵襲! 地球連邦軍のモビルスーツ部隊! 防衛ラインが突破された! 出撃可能な者は直ちに機体へ向かえ!』
「チッ、連邦の犬どもめ!」
研究員はジャンを突き飛ばすと、足早に退避していった。
床に倒れ込んだジャンを、ウィンは慌てて抱き起こす。
「大丈夫か、ジャン!」
「ああ、クソッ……ウィン、くるぞ! 奴らだ!」
家族を守るため、姉を守るため、モルモットたちは残された五体を駆動させ、
鉄の棺桶へと走り出す。ウィンに与えられた機体は、旧式化しつつある『ザクⅢ改』だった。
大気圏外、冷徹な宇宙空間。
そこに待ち受けていたのは、圧倒的な「暴力」だった。
連邦軍のモビルスーツ部隊。その先頭を行く一機は、明らかに異様だった。
機体の動き一つ一つに無駄がなく、こちらの攻撃をまるで未来予知でもしているかのように完全に回避する。異常な強さでありウィン達の古い機体では歯が立つわけもなかった。
「うああああああっ!」
「助け、て——」
通信回線から、かつて同じ部屋で笑い合った仲間たちの悲鳴が、
次々とノイズに消えていく。無惨に、容赦なく、彼らのザクが、ギラ・ドーガが、光の球となって散っていく。
『ウィン! 聞こえるか、ウィン!』
耳を突き刺したのは、ジャンの最後の通信だった。彼のザクⅢ改は、
すでに四肢を失い、制御を失って漂っている。そのコックピットの向こうで、
ジャンは狂ったように笑い、そして泣いていた。
『これで……これでやっと、妹に会いに行ける……』
「何を言ってるんだジャン! 諦めるな、今助ける!」
『へへ……俺の、妹……ここ、の、研究員どもに……人体実験のパーツとして、……っ』
「え……?」
ウィンの思考が凍りついた。ジャンが、何を言っているのか理解できなかった。
『最初から、騙されて……っ、ウィン、逃げ、ろ——』
直後、一筋のビームがジャンのコックピットを正確に貫いた。
閃光。そして、完全な沈黙。
仕送りを喜んでいたジャンの笑顔が、彼が語った妹の未来が、すべて宇宙の塵へと変わった。
「ジャン……? ジャンーーーーーッ!!」
ウィンの絶叫をかき消すように、迫り来る影があった。
仲間を全滅させた、あの「異常な強さ」を誇る連邦のモビルスーツ。その機体が、ウィンのザクⅢ改の目前でピタリと動きを止めた。
そして、全域通信(オープン・チャンネル)から、信じられない声が流れ込んできた。
『……この懐かしい感じ…ウィンか!? 君はウィンなんだな!』
「その声……バード……!?」
幼馴染みだった。かつてスラム街で、共に明日を夢見て、共に飢えを凌いだ親友。
今は連邦軍のエースパイロットとして、その名を馳せるニュータイプの少年、バード。
『ウィン! なぜそんな軍隊にいる! その狂ったジオンの残党……
いや、狂った研究所から今すぐ抜けろ! 投降するんだ!
姉弟そろって不幸になるぞ! 世界の真実は、そこにはない!』
バードの声には、確かな焦燥と、幼馴染みを救いたいというニュータイプ特有の強い感情が籠もっていた。
だが、その言葉は、今のウィンには鋭利な刃物となって突き刺さる。
「不幸だって……? 投降しろだと……!?」
ウィンは操縦桿を握る手に血がにじむほど力を込めた。
「スラムを捨てて連邦の特待生になったお前に! 何がわかる!!」
『ウィン、違うんだ! 俺は——』
「僕たちの幸せは、この泥の中にしかないんだよ! 姉さんを救うためには、ここで戦うしかないんだ! お前ら連邦が、僕たちを捨てたからだ!!」
激昂とともに、ウィンはザクⅢ改のプロペラントタンクを切り離し、フルスラストでバードの機体へ突撃した。
親友同士の、悲しき決裂。
ビーム・サーベルとヒート・ホークが交錯し、宇宙の闇に激しい火花が散る。
しかし、オールドタイプとニュータイプの差は絶望的だった。
ウィンの必死の猛攻はすべて紙一重でかわされ、逆にザクⅢ改の装甲は確実に削られていく。
「うおおおおおっ!」
捨て身の体当たり。相打ちをも辞さないウィンの狂気が、
一瞬だけバードの予測を上回った。激突の衝撃。互いの機体が火花を散らし、爆煙に包まれる。
「がはっ……!」
強烈なGと衝撃がウィンを襲い、ザクのメインモニターが次々とブラックアウトしていく。
両者大破。ウィンは薄れゆく意識の中で、大破し、
爆破の連鎖を起こす基地の残骸と、遠ざかっていくバードの機体を見ていた。
九死に一生を得た。だが、そこはさらなる地獄の入り口に過ぎなかった。
(第1章・終)
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