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月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

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第二十八章 照らす瞳

 
前書き
月が世界を閉ざした。

それでも、消えぬ覚悟の光── 

 
空気を裂く、鋭利な音が耳元を掠めた瞬間──ミズノは首を傾けた。

ハラリ、と切り裂かれた数本の髪が宙を舞う。

「……は?」

助けに入ろうと踏み出していた水月が、間の抜けた声を漏らしてピタリと動きを止める。

「見えてないんだよね……?」

初撃を紙一重で交わされ、刺客達の仮面の奥が驚嘆に揺れた。

「一気にいくぞ……」

その声と同時に、五人一斉にミズノへと襲い掛かる。

しかし、ミズノは滑らかな動きで刃をいなす。
重心を沈めた次の瞬間、肘を敵のみぞおちへと叩き込んだ。

鈍い衝撃音が響く。

「うっ……!」

呻き声を上げて崩れ落ちる一人。

ミズノは瞼を伏せると、素早く印を結んだ。


──火遁・豪火球の術!


ミズノから吐き出された火球が大きく膨れ上がり、刺客達を丸ごと飲み込もうと襲いかかっていく。

「散れ!!」

刺客が炎を避けようと左右に飛んだ、その時──

素早くミズノが動いた。

研ぎ澄ませた聴覚と感覚のみで、逃れた敵の背後へと音もなく滑り込む。

「なに──!?」

ミズノの脚が鞭のようにしなり、相手の脇腹を蹴り抜く。

鈍い音が響き、一人が回転しながら岩肌に叩きつけられた。


視界は、未だ檻の中──


だが今の彼女には、敵の足音と呼吸、そして殺気が手に取るように感じられる。

「……驚いたな」

カブトが声を上げた。

「視界を失ったことで、他の感覚が研ぎ澄まされた……いや、元々の戦闘センスかな……」

次々と攻撃を繰り出すミズノを見て、水月は唖然としていた。

「……これ、僕たちが守ってあげる必要ないよね?
助け、全然いらないじゃん」

「最強の血を受け継いでいるものねぇ……。
でも、万が一何かあったらサスケ君に後で何をされるか分かったものじゃないわ」

大蛇丸は笑みを浮かべ、ミズノを観察するように見つめている。

重吾、香燐も立ちすくみ、ただミズノの動きを追いかけていた。

その間もミズノは戦い続け、残りの刺客は二人のみ。

しかし、彼らも動きに無駄はない。

気配がふっと掻き消える。

死角から二つの攻撃が彼女に迫った。


──ガンッ!


鈍い音と共に、ミズノの背後で敵が弾き飛ばされる。

重吾が強固な盾となり、ミズノを庇った。

さらに、体勢を崩した刺客の足元から無数の白い影が這い上がる。


──潜影多蛇手(せんえいたじゃしゅ)


不気味な声と共に、ぬめりを帯びた蛇の群れが敵の全身に絡みつき、自由を完全に奪い去った。

彼らの完璧な援護により、相手の陣形は完全に崩壊する。

ミズノは流れるように最後の一人の背後を取ると、容赦なくその膝裏を蹴り折り、首筋にクナイを押し付けた。

驚くような力で、冷たい岩肌に敵の身体を縫い留める。

「……誰の指示?」

ミズノの声は氷のように冷たかった。

クナイの冷たい感触が急所を捉えているという恐怖。

刺客は全身をざわつかせる。

ミズノの制圧力と冷徹な気配に、水月が思わず一歩後ずさった。

(この子、怒らせると怖いタイプだ……)

頬に冷や汗を伝わせながら、その光景を凝視している。

敵は口を割らない。

ギリッという音がしたかと思うと、仮面の隙間から一筋の血を流し、首を垂れた。

「口の中に毒を仕込んでいたようね……」

絶命した刺客を見下ろし、大蛇丸が冷ややかに目を細める。

「追い込まれたら、自ら命を絶たせる。
ダンゾウ亡き今、木ノ葉の中でこんな時代遅れで陰湿な真似をするのは……コハルとホムラあたりかしら」

「……」

ミズノの胸の奥で、黒い感情が湧き上がった。


里の闇を背負わされ、一人散っていった優しい彼の顔が頭をよぎる。


ミズノは汚れた自身の手のひらをきつく握りしめた。

千手の血を引き、うちはとして生まれ、里の闇に翻弄され、命を狙われ──それでも生き残っている自分という存在。


今、生きている理由は──


(私の“使命”を果たす。そして、サスケだけに背負わせはしない)

覚悟を心の奥底に封じ込め、ミズノは顔を上げた。

拘束していた男の身体を地へと横たえる。

「サスケのところへ行きます」

ミズノの言葉に、香燐が真っ先に噛み付く。

「お前……そんな目でどうするつもりだよ」

きつい口調だが、その顔は明らかに彼女を案じていた。

「いや……さっきの戦いぶりからして、足手まといにはならないでしょ」

水月の声。

「てめーは黙ってろ。ウチらはサスケからお前を任されてんだよ!勝手なこといってんじゃねーよ」

香燐の鋭い声にも臆さず、ミズノは真っ直ぐ香燐の方へ顔を向けている。

「サスケ君と同じで……何を言っても聞かなそうね」

大蛇丸が呆れたように言うと、カブトも続いた。

「僕もいくよ。回復役が必要だろうからね」

「……ありがとう」

ミズノは深く頭を下げる。

光を失った瞳の奥に確かな炎を灯し、ゆっくりと歩み出していく。

他のメンバーも後に続いた。

「チッ……」

眉をひそめながら、香燐も遅れて後を追うのだった。 




──同じ頃、神威の時空間

「リン……」

掠れた声が、何もない空間に虚しく響く。

黒ゼツに身体の半分を支配されたオビトは抗えず、目の前に立つマダラを絶望の淵から見つめていた。

マダラは彼に、自身が仕組んだ残酷な過去の真実を明かす。


リンを三尾の人柱力に仕立て上げ、絶望の瞬間に立ち会うようにお前を誘導したと──


「すべては計画のうち。
お前を闇へ落とし、俺のコマにする為のな」

愛が深ければ深いほど、失った時の憎しみは強大な力となる。

うちはの呪われた性質を誰よりも理解し、利用した狂気だった。


「返してもらうぞ……その左目を」




──決戦の地

現実世界へと帰還したマダラ。

その両眼には、禍々しい紫色の光が灯っていた。

ナルト達へ攻撃を浴びせながら素早く上空へと飛翔し、夜空に浮かぶ満月へと真っ直ぐに向かっていく。

そして、彼の額の肉を割って現れたのは第三の輪廻眼。

マダラは迷いなく、狂喜に満ちた声を響かせた。




「世を照らせ」




──無 限 月 読




直後──月そのものに巨大な輪廻が映し出され、夜を真昼のように染め上げる強烈な光が地上へと降り注いだ。

「なんだ!?昼間のように明るく……!?」

「月が……!!」

その光は、影すらも強制的に貫く“絶対の幻術”

世界中の瞳に、輪廻眼の文様が浮かび上がった。

身体から戦意が消失し、力なく天を仰ぐ。

ミズノと共にいた彼らも例外ではなかった。

(サスケ……)

香燐の想いが虚ろに溶ける。

水月も、重吾も、カブトも──そして大蛇丸でさえも、抗う間もなくその意識を沈めていった。




──神・樹界降誕(しん・じゅかいこうたん)




さらにマダラが印を結ぶと、大地を割って無数の巨大な神樹の根が這い出した。

夢に落ちた者たちの身体を次々と絡め取り、神樹の枝へと吊るしていく。


抵抗する者は誰もいない。


世界中の生命が、永遠の安寧という名の檻に囚われていった。
  


巨大なチャクラの防壁を除いては──



須佐能乎の身体で光を完全に遮断し、間一髪のところでサスケはナルト、サクラ、カカシをその影の中でかくまっていた。

自身の左眼に宿る輪廻眼の力だけが、この場で幻術を防ぐ唯一の盾。

サスケは暗い須佐能乎の内側で、歯を噛み締めていた。

外に出れば、夢に落ちる。

自分が生き残らなければマダラを倒すことはできない。

どれほど願おうと、彼女を助けに向かう術はなかった。



──世界が呼吸をやめた

すぐ隣で聞こえていた足音も、衣擦れの音も、空間から無残に切り裂かれたかのようにプツリと途絶えている。

「みんな……?どうしたの!?」

ミズノは足を止め、問いかける。

しかし、返ってくるはずの声はない。


耳鳴りがする──


痛いほどの静寂が、彼女の身体に重くまとわりついてきた。


(まさか……無限月読が!?)


生命の気配がすべて消え失せた、完全なる無──

すると、ズルズルと足元の乾いた土を擦りながら巨大な“何か”が蠢く気配がした。

それは視界を奪われたミズノの足首を掠めるも、彼女には構わず通り過ぎていく。


無限月読の光は、視覚を通じて脳に幻術を刻む。

ミズノは今、視神経の経路そのものが焼き切れているが故に光が届かなかった。

幻術にかからぬ者は神樹にとって“取り込む対象”として認識されない。

彼女のすぐ傍で香燐達は次々と神樹に巻き取られ、虚空へと吊るし上げられていった。



──その頃、先の戦場の一角


この絶望の中で、動くことを許された者たちがいた。

穢土転生で蘇った歴代の火影たち。

「何かわかりましたか……!?」

ミナトが岩場に降り立った。

「誰もおらぬ……ただマダラの下半身があるだけぞ」

柱間が、足元に転がっている“それ”を見下ろした。

切断されたマダラの下半身。

「マダラの半身が転がっているなら、彼は死んだと考えていいのでしょうか?嫌な予感もしますが……」

ミナトは辺りを見回している。

「どちらにしろ、奴の無限月読は完成してしまったようだな。
死者の我らはかからぬようだが……しかしナルト達は……」

扉間は冷静に状況を見定め、次の手段を考えていく。


その時──


無音の世界で一歩一歩、確認するような足音が近づいてきた。

「ミズノ!?なぜお前が……!」

ヒルゼンの声が空気を割る。

その隣で柱間が目を見開き、扉間とミナトも動きを止めた。

「その声は……ヒルゼン様……?」

ヒルゼンはミズノの焦点の合わぬ瞳に気がつく。

「目が見えていないのか……!?一体何があったのじゃ!」

「それは……」


ミズノは今、自身の瞳に起きていることを火影達に説明した。


「……視神経を損傷し、回復の見込みは不明……だが、そのおかげで無限月読を免れた、ということか」

扉間の声の隣で、柱間は静かにミズノを見据えている。


姉・棟間の血を引き、木遁を受け継いだうちはの少女──


「ミズノ、お前は姉者によく似ている……」

「兄者……今は感傷に浸っている場合ではないぞ」

「わかっている……しかし」

柱間はミズノへ向き合う。

「不謹慎ではあるが、今を逃せば語れぬ気がしてな……」

表情は見えないが、ミズノは暖かいチャクラを感じていた。

「柱間様……祖父から話は聞いています」

柱間は優しく微笑む。

「扉間の憂いは……杞憂だったな。
俺は最初から信じておったぞ」


「……結果論にすぎん」

扉間は少しバツが悪そうに顔を背けた。

柱間の大きな手が、ミズノの頭にポンと乗せられる。

「お前を見ていて安心した……立派な忍に育っている」

ミズノの瞳が、僅かに揺れる。

何度も迷い、揺れながら──
それでも生き抜いてきた自分を認められた気がした。

こぼれ落ちそうになる涙をこらえ、ミズノは声を絞り出す。

「サスケとナルト君……あの二人は……」

「ここから西に数キロ……動く二人のチャクラを感じる。あいつらは無事だ」

扉間が静かに答えた。

(よかった……)

絶望しかけていたミズノは、安堵の息を吐く。

「……私は、サスケ達のところへ行きます」

「待て!」

歩き出そうとしたミズノを、扉間の声が制止する。

「貴様が行ったところで……犬死にするだけだ」

「扉間!!」

「兄者、ワシは事実を言っている!
光を持たぬ目で行ったところで、足手まといになるだけだ。
今の貴様に出来ることは何もない」

扉間の容赦のない指摘は、残酷なまでに正しい。

柱間が与えてくれた温もりが、急速に奪われていくようだった。

ミズノは唇を噛み締める。


だが──引かなかった。


濁った瞳を、扉間の声がする方向へ向ける。

「扉間様が言うことは正しい……」

全てを受け止めた声。

「でも……」

扉間は腕を組んだまま、無言でミズノを見据えていた。


「誰も、イタチお兄様のことは止めなかった」


空気が張り詰める──


「里のために、一族を殺せと命じられた彼を……誰も止めなかった。
たった一人で行かせて……全てを背負わせた」

ミズノは重く、鋭い言葉を並べていく。

その傍で、ヒルゼンが深く瞼を伏せる。
あの日の自分の手が──今も震えている気がしていた。

「今度はサスケが、全てを背負って戦ってる。
うちはの全てを……サスケ一人には背負わせない」

扉間の眉がピクリと動いた。

彼のうちは一族への猜疑心。

その果てに起きてしまった、全て。


誰よりも冷徹に里を守ろうとした男の胸の内に、小さな棘が刺さった。

「……感情論で戦場には立てん」

その言葉に、ミズノは小さく頷く。

「わかっています。でも……サスケの側に私が行く意味はある」

「なんだと?」

「サスケを一人にはしない」

(使命を果たすまでは……絶対に)



長い沈黙──


風が戦場の砂を巻き上げた。

ミズノは答えを待たずに歩き出す。

扉間の横を、一歩、また一歩と通り過ぎていく。

「……おい」

扉間の声が、その背中に投げられた。

しかしミズノの足は止まらない。

「……行かせてやれ、扉間」

柱間が弟を制した。

「兄者、正気か?あの状態で行けば──」

柱間は遠ざかるミズノを見つめている。

「……あの目は止まらん」

柱間は静かに言う。

「全てを賭けると決めた者の目だ。
マダラも……そしてかつての俺も、きっとあの目をしていた」


一拍の間──


反論はいくらでもできる。

合理的に考えれば、止めるべきだ。

しかしミズノの言葉が、扉間の耳に残っている。


『誰も止めなかった。たった一人で行かせて……全てを背負わせた』


「……」

扉間は目を閉じ、腕を組み直す。


ミズノが数歩離れたその時だった。


突如、背後から凄まじいチャクラが吹き上がる。

「!?」

ミズノは咄嗟に振り返った。

マダラの下半身から神聖で不可侵な力が立ち昇り、やがて宙にひとりの異形の老人の姿を形作る。

「誰だ……?」

扉間が疑問を投げかけた。

皆が息を呑む中、宙に浮かぶ老人が口を開く。

「我が名はハゴロモ。忍宗の開祖にして、六道仙人とも言う」

「六道仙人……!?」

驚愕に縛られる皆を尻目に、ハゴロモの輪廻眼は柱間とミズノの姿を交互に捉えていた。

「アシュラの前任者……そして、インドラとアシュラ二つの力が交わりし娘よ……」

「……!」

ハゴロモの言葉に、柱間とミズノが息を呑む。

「柱間よ。お前が姉の血筋を秘し、守り抜いたおかげだ」

ミズノの肩が微かに跳ねる。

「ミズノ……争い続けた二つの血が歩み寄り、愛によって結びついた。その“答え”がお前だ」

その言葉は、痛みを抱えていたミズノの胸の奥に深く染み渡っていく。

「お前のその瞳……今は限界を超えてしまっているようだな」

「……」

「ワシはナルトとサスケに力を託した。
ゆえに、お前のその焼け切れた瞳を治す余力はない」

ハゴロモはゆっくりと杖を掲げた。

「だが……お前をあの二人の元へ飛ばしてやること位はできる」

「……!!」

「どうするかは……お前次第だ」

ハゴロモの問いに、ミズノは迷わず力強く頷いた。

「行きます……!!」

その覚悟を見届け、ハゴロモは微かに微笑む。

「……では行け、長きにわたる争いの中で生まれた希望よ」

ハゴロモの杖が地に打ち付けられた瞬間──

眩い光がミズノの身体を包み込んだ。

火影たちと六道仙人が見守る中、彼女の姿がふっとその場からかき消える。


彼女はついに、決戦の地へと跳躍した。



光を失った瞳の奥に、闇を照らす希望を宿して── 
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