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月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

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第十七章 戻れぬ未来へ繋がる光

 
前書き
誰にも言えない覚悟。

戻れぬ未来へと続く道。姉の力をも宿し、彼女は進んでいく──。 

 
──深夜



星も風も息をひそめるように静まり返っている。
まるで、もうすぐ訪れる“始まり”の気配を察しているかのように。

ミズノはベッドの端に座り、寄せては返す思考の波に溺れていた。

(……戦争が始まる)

胸の奥に重く沈む不安。 

壊れていく里、傷つく仲間、失われる命。

そして──サスケはどこへ向かうのか。

そっと左目に触れる。

未完成のままだった術。偽りの姿を保つため、瞳へ集中すべきチャクラがずっと散らされていたからだ。

(今の私なら……)

意を決し、チャクラを左目に流し込む。今まで届かなかったその場所へじんわりと熱が広がっていくのを感じた。
封じられた力がゆっくりと脈動を始める。

(大きな力……想像以上に大量のチャクラが必要みたい……)

額を冷たい汗が伝った。

息を整えた瞬間、祖父の静かな声が耳の奥で蘇る。


『その力は決して使わないと約束してくれ』


ミズノは目を伏せた。唇からもれたのは、懺悔の言葉。

「……おじい様、ごめんなさい。里を守ったお兄様とみんなの未来を……守りたいの」

悲しみの連鎖を断ち切る。救える命があるなら手を伸ばしたい。

この想いに自信を与えてくれたのは、彼の姿。
傷だらけの道を進みながら、どんな時もまっすぐ立ち向かい、仲間を守る光。

(ナルト君を見て、わたしの想いも間違ってないって思えた……)


──しかし、覚悟の裏でわずかな痛みがよぎる。


「お兄様……」

思い浮かぶのは、あの夜の優しい仕草と柔らかい微笑み。

右目の力は、闇の中で彼を静かに抱いている。

ミズノの瞳に赤い万華鏡が灯った。

(会いたい……でも……)

今、彼の姿を見ればきっと”自分の未来“まで求めてしまう。



本当は、一緒に生きていきたい──。



けれど彼の未来を願い、自分は消える。

赤い光が霞む。震える手を胸元へきつく抱きしめた。

ミズノは深く息を吸い込み、自分の中に渦巻く渇望を必死に押しとどめる。

(会うのは……全て終わらせた時。私が今やるべきことは…ナルト君を守る戦いに勝つ。そして絶対に、倒れない)

覚悟を定め、ミズノは再び左目にチャクラを注ぎ込んでいく。


──その瞬間。



目の奥が何かを押し広げるように激しく疼いた。視界が揺れ、周囲の音が急速に遠ざかる。

眩い光がミズノの全身を包み込んだ。

「ここは……?」

辺り一面が柔らかい光に満ちている。

身体に違和感を感じ、視線を落とした。そこにあったのは幼い自分の姿。

(小さくなってる……?)

息を呑んだその時───

「ミズノ」

淡い光の粒が花びらのように舞い、懐かしい声が響いた。

顔を上げると、優しく微笑む少女があの日のまま、佇んでいた。

「……お姉様……?」

ミズノは一歩、二歩とゆっくり近づいていく。


──間違いない。


次の瞬間には走り出し、全身で抱きついた。

「お姉様!!会いたかった!!」

イズミは目を瞬かせるも、すぐに柔らかく腕を回して抱きしめ返す。

「私も……会いたかったよ」

ミズノの涙が、堰を切ったように流れ落ちていく。

「ごめんなさい……助けられなくて……私、何もできなかった……」

イズミは静かに首を振った。

「謝らないで。子供の私たちには……どうすることもできなかったんだよ。ミズノは何も悪くない」

その声は、優しさの中にも凛とした強さが含まれている。

「でも、お姉様に……生きていて欲しかった……」

イズミはミズノの身体をそっと離し、なだめるようにミズノの頬に触れた。

「私は……悔いなんてないよ。だって、今ミズノが生きてるんだから」

その言葉は、ミズノの胸の奥で燻っていた痛みをほどいていく。

「あなたに私の眼を渡すとき……チャクラを流し込んでおいたの。だから今、こうして会えたんだよ」

イズミがミズノの頭をふわりと撫でた。

「ミズノ、辛かったよね。イタチ君の事、サスケの事……本当に、頑張ったね」

姉の言葉が心に深く染み渡り、ミズノはまた涙をこぼす。イズミは困ったように微笑んだ。

「………」

ふと、イズミの表情が曇る。

「私ね、謝りたいことがあるの」

ミズノは顔を上げた。

「あなたの中でずっと感じてたの。
ミズノがどれだけイタチ君のことを想い続けていたか……。なのに私は、ミズノの痛みに気がつかなくて……ひどい姉さんだった。本当にごめんね」

一瞬、喉が詰まる。しかし強く首を振った。

「違う!そんなことない!私は、二人が笑っているのを見るのが好きだったの。四人で……みんなでいられれば、それだけで幸せだったんだよ……」

揺れるイズミの瞳から、ひと粒の涙が光の中に溶け落ちていく。

「ミズノは本当に優しいね……だから、その力を使おうとしてる」

イズミとミズノの視線が静かに重なった。

「それを使ったら……もう、戻ってこられないんだよ……?
ミズノには、私の分まで生きていって欲しいと思ってるの。あなたには……幸せになって欲しい」

胸を刺す、苦しくて暖かい言葉。
しかし、ミズノは確かな意志を込めて告げる。

「お姉様、ありがとう。うん、本当は……少しだけ怖い。でも、決めたの。これは私の使命なんだと思う。だから……もう迷わない」

イズミはしばらく彼女を見つめ、深く頷いた。

「変わらないね……ミズノは」

その表情は誇らしさと、少しの悲しみを浮かべている。

「言い出したら聞かない頑固なところ……昔のまま」

イズミはそっとミズノの手を包み込む。

「でも……それがミズノのいいところ、だよね。
あなたの覚悟を私も一緒に支えるよ」

指先から温かい光が流れ込んでくる。
触れ合った手のひらの間で、二人の力が一つに重なり合った。

その光がミズノの左目へと注ぎ込まれていく。

「私の力は、ずっとミズノと一緒。ミズノが選んだ未来を、私も……信じてる」

その言葉と同時に、イズミの輪郭は光にほどけ始めた。
指先から離れていくぬくもり。

再び抱きしめることもできないまま、その光はひとひら、またひとひらと散っていく。

優しい余韻だけを残し、姉の姿は光の中に溶けていった。

「お姉様……」

涙に濡れたミズノの頬を暖かい風が撫でる。

ゆっくりと現実が戻り、部屋に静けさが訪れた。

イズミの想いと共に完成した力が、左目の奥で確かな脈を刻んでいる。

「イズミお姉様……ありがとう」

震える呼吸を整えた。手のひらに残った温もりが、ミズノの心を柔らかく包み込む。

窓の外へ目を向けると、夜はすでにその形を変え始めている。

世界が静かに動き出そうとしていた。



─亀島


海風が岩を削り、潮の匂いが満ちる島。

そこで、ナルトは“愛されていた証” に触れる。母クシナの言葉が、彼の孤独の鎧をひとつずつ溶かしていた。
外からは見えない心の奥の光。カカシは彼を信じ、背を向ける。

「ヤマト……あとは頼んだよ」


「……わかりました。お気をつけて」



──その頃、雨隠れの空にも変化が訪れていた。

止むはずのない雨が止み、水面に静かな波紋が広がる。

紙の海はすでに形を失い、小南の身体が横たわっていた。
彼女が作った祭壇には長門と弥彦。

「長門、裏切ってなお……俺を笑うか」

マダラの声に感情はなく、深く冷え切っている。

その手には輪廻眼。マダラはゆっくりと闇に吸い込まれて行った。


──アジト、地下の空洞

マダラはカブトと共に外道魔像の元へと向かう。
その下には柱間細胞から作り出された巨大な樹が、まるで生きているかのように静かに呼吸していた。

柱間細胞が作り出した十万の白いゼツたちが、不気味に胎動し、カブトによって穢土転生された忍達も揃っていく。

「開戦だ……」

マダラは赤い眼を細める。その眼に宿った闇は、ただ世界を塗り潰すことだけを望んでいた。



そして忍連合軍は──


「侍と忍。今こそ手を組むべき時……」

額当てに刻まれる“忍”の文字。確かに進んでいく歴史に刻まれる新しい時代の始まり。忍連合軍は集結した。

しかし、空気にはまだ微かな疑念が漂っている。

重い沈黙を破ったのは、戦闘大連隊、連隊長の我愛羅。

「自国、自里の利益のために、長きに渡り忍はお互いを傷つけ、憎しみあってきた。
かつて俺も憎しみであり、力であり、人柱力であった。
その憎しみは力を欲し、俺が生まれた。
そしてこの世界と人間を憎み、滅ぼそうと考えた……。
今、暁が成そうとしていることと同じだ」


その声は、静まり返った空気の中に力強く響いていく。


「だが、木ノ葉の一人の忍がそれを止めてくれた。
その者は俺のために泣いてくれた!
傷つけた俺を友だと言ってくれた!
彼は俺を救った!
敵同士だったが、彼は同じ人柱力だった……。
同じ痛みを理解し合ったもの同士わだかまりはない!」


我愛羅は皆に訴え続ける。


「今ここに敵はいない!!
なぜなら皆、暁に傷つけられた痛みを持っている!
砂も岩も木ノ葉も霧も雲もない!!
もしそれでも砂が許せないのなら、この戦争の後に俺の首をはねればいい!!」


我愛羅の声が忍たちの表情を変え、疑念を消していった。


「俺を救ってくれた友を今敵は狙っている!!
彼が敵に渡れば世界が終わる!!
俺は友を守りたい!世界を守りたい!!
世界を守るには俺は若すぎる!浅すぎる!だから……皆の力を貸してくれ!!」


我愛羅が頭を下げると、空気を揺るがすほどの雄叫びが上がる。

「もちろんだ!!我愛羅様!!」

かつて、人柱力として孤独と憎しみに苦しんだ我愛羅。

しかし今、彼の強い意志によって忍び達の心が一つになっていった。



──誰かが誰かを救い、繋がっていく想い。


(……お姉様、私達も行こう。救い、繋げるために)

覚悟を胸に、それぞれの部隊は各地へ散らばっていくのだった。




──第三部隊集結地点

カカシ率いる第三部隊。ミズノの側にはガイとネジがいる。

「ミズノ……俺から離れるなよ。何かあったらすぐに呼べ」

「ガイ先生、ありがとうございます」

「……ミズノ」

ふと、隣からネジが彼女の名を呼ぶ。

「なに?ネジ君」

「………」

ネジは少しの間、何も言わずミズノを見つめている。

「……どうしたの?」

ミズノが問いかけると、ネジは視線を落とした。

「……俺は昔、運命に縛られていた。だが、ナルトが教えてくれた。運命は、自分で変えられると……」

一拍の沈黙の後、彼は再びミズノへ視線を戻す。

「一族……血筋が運命を決めるわけじゃない」

ネジは小さく微笑んだ。

「この前のように……自分を犠牲にしようとするな」

ミズノが目を見開くと、ネジは小さく頷いた。

「共に……この戦いを生き抜くぞ」

ネジが手を差し出す。

「もちろん……ありがとう」

ネジの手に自分の手を重ねる。二人は仲間としての絆と決意を確かめ合っていた。


──ふと視線を感じる。
目を向けると、ヒナタが少し離れた場所からこちらを見ていた。

ミズノは彼女の元へと駆けていく。

「ヒナタちゃん!」

「あ……ミズノさん……」

ヒナタは少し俯いてから、ぎこちない笑みで声を絞り出す。

「あの、が……頑張ろうね……」

その控えめな言い方に、ミズノは胸が小さく痛んだ。

「ヒナタちゃん、私に……気を使ってる?」

「えっ……?」

思わず体をこわばらせるヒナタ。

「私が正体を明かしてから、ヒナタちゃんが少し遠くに感じて……なんだか寂しかったの」

固まる彼女を見つめながら、ミズノはまっすぐな思いを伝える。

「私にとってヒナタちゃんは……特別な友達」

ヒナタは目を瞬かせた。その瞳は大きく揺れている。

「ヒナタちゃんは、私に人と繋がる暖かさを思い出させてくれた。里の中での居場所をくれたの。
だから……“ラン”の時と同じように……接してくれたら嬉しい」
 
ヒナタの顔に、堪えていた想いが溢れ出た。

「私も……ミズノさんのこと大切な友だちだと思ってる!」

思わず大きな声が出て、ヒナタ自身も驚いたのか顔を赤くしている。

「で……でも、色んなことがあって……ミズノさんが違う場所にいるみたいに感じてしまったの。私なんかが前と同じように接していいのかなって……」

ヒナタは声を震わせる。

「ミズノさんの力になりたいのに……私は強くないから、何も出来ない……」

「そんなことない」

ミズノは被せるように、迷いなく言った。

「私は何度も迷って、立ち止まってた。でも、ヒナタちゃんの真っ直ぐな心が……私の背中を押してくれたの。だから今、“うちはミズノ”としてここにいる。
……あなたは強い。自分の力をもっと信じて」

「ミズノさん……」

ミズノは芯の通った声色で決意を口にする。

「一緒に……ナルト君を守ろう」

ヒナタは涙を拭う。

「うん……!」

二人は揺れる瞳でお互いを見つめ、微笑み合う。

「ミズノさん……今度は私も隣で戦う。だから一人で抱え込まないで、私にも……頼ってね」

その言葉に、ミズノは一瞬動きが止まった。

(ヒナタちゃん……)

彼女のまっすぐな優しさに胸を締め付けられる。

けれど、その優しさはミズノの胸の奥に隠している“未来”に触れた。


──『一人で抱え込まないで』


イタチやサスケに対して何度も願った言葉。

まさかそれが自分に向けられるなんて。

(私も同じ……)

抱え込むしかない未来を選んだミズノの矛盾を、ヒナタが照らし出したのだった。

「ありがとう……」

微笑むミズノを見て、ヒナタは安心したように目を細めた。

(……それでもいい。大切な人たちに笑って生きてほしいから)

ミズノの胸に切なさが広がっていく。

暖かさを思い出させてくれた時間、仲間と築いた日々、ヒナタの存在、ナルトという光。

それはミズノにとって失いたくない、かけがえのないもの。

(ありがとう、みんな。そして……ヒナタちゃん、あなたと友達になれて……本当に良かった)

心の奥底に、静かに想いを沈めていく。

誰にも気づかれないように──。

そして、辺りを見回す。

周囲には“忍”の文字を掲げた仲間たち。
木ノ葉も、砂も、岩も、霧も雲も……同じ空の下で駆け出していく。

ミズノもまた、静かに一歩を踏み出した。




もう戻れない未来へと続く道。

それでも彼女は進んでいく。



──第四次忍界大戦、開幕──
 
 

 
後書き
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ミズノの思いが伝わっていたら嬉しいです!!
次章から、いよいよ戦争編です。
ミズノの戦い、仲間との絆、闇の陰謀など……。
引き続き、よろしくお願いします!
 
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