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月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

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第十三章 明けぬ夜の終わり、真実の先に

 
前書き
ミズノがついに自分の正体を打ち明ける。
仲間たちの揺れる心、静かな語り合い。

隠し続けてきた真実が露わになり、彼女の新たな物語が動き始める──。 

 
──時空の渦に呑まれた先、辺りは深い静寂に包まれていた。

岩壁に囲まれた薄暗い空間の中へサスケは歩みを進めている。

マダラはその少し後ろを歩いていた。

「あの女は何者だ。何か繋がりがあるのだろう。
そうでなければ、お前が庇い立てする理由はないはずだ」

マダラが低い声で問いを投げる。

その声には何かを探るような鋭さがあった。

サスケは前を見据えたまま、立ち止まる。

「……お前には関係ない」

静かだが、これ以上踏み込むなという意思が伝わる。


わずかに空気が凍った。


マダラはしばし沈黙のあと、ふっと鼻を鳴らす。

「まぁいい。いずれわかることだ……」

仮面越しにサスケの背を一瞥し、声を落とした。

「奴は万華鏡を開眼している。そのままにしてはおかない」

 
サスケは何も返さない。


マダラもそれ以上は何も言わず、ゆっくりと歩み寄った。

「それで、俺に話とはなんだ」

サスケは再び歩き始め、はっきりと告げる。


「イタチの眼をもらう」


その言葉に空気が変わった。

「やっとその気になったか…須佐能乎の使いすぎだな。
もうろくに見えていないのもわかっていた。
いいタイミングだ」

マダラの声は、すべてを見通しているかのように確信に満ちている。

「すぐに移植してくれ」

「しかし、急だな。どうしたというのだ?」

サスケの瞳に、冷たい光が宿った。

「俺は全力でナルトを潰す!
そして奴の全てを否定してやる!それだけだ……」

その声には迷いも躊躇もない。

二人は足早にアジトの奥へと歩みを進めていくのだった。




──木ノ葉の里

ミズノ達が里への帰路を急いでいる頃、昏睡状態に陥っていた綱手が意識を取り戻していた。

布団の上で上体を起こした綱手は、山盛りの料理を前に箸を勢いよく動かしている。

「まだまだ足りん!チャクラも元には戻っていない!!
もっと食い物を持ってこい!気を抜くとババアに戻っちまう!!」

豪快に肉を頬張り、次いで大盛りの白米をかきこむ。

「綱手様、ゆっくり食べてください!火影室の食材はもう底をつきました……今から食材を仕入れてきますので少し食休みを……」

隣に控えるシズネがあまりの食欲に慌てていた。


ふと綱手の箸が止まり、部屋の入り口へ視線を向ける。

「綱手様、目覚められたんですね」

視線の先にはカカシが立っていた。

「お元気そうでよかったです。
あやうく俺が火影になるところでしたよ。
ま、俺は火影ってガラじゃないし……今の状況下では、顔の聞く綱手様が火影でいてくれないとね」

シズネから全ての状況を聞いていた綱手は、そのまま言葉をつなぐ。

「ダンゾウの死も驚いたが、忍連合とはな。
よく土影や雷影が協力する気になったものだな」

「それだけマズイ状況が差し迫っているってことです」

「うちはマダラ…本当に生きていたのか?」

「確証はありませんが、やろうとしている事から考えてもまず間違い無いかと」

綱手は口元を拭い、小さく息をついた。

「…また戦争か。うちはの因果が忍全てを巻き込むことになるとはな」

カカシは気まずそうに視線を逸らす。

「食後すぐに会議を開く!戦争の準備だ!」

綱手は息を巻き、食事を再開した。

「綱手様、その会議の前に…急ぎお伝えしたい事があります。極めて重要な事です」

「重要な事?一体なんだ。ここでは話せないのか」

「はい。できれば俺が許可した者以外、人払いをお願いしたい」

カカシは真剣な面持ちで綱手を見つめている。

綱手とシズネは眉をひそめ、一瞬顔を見合わせた。

「お前がそこまで慎重になるとは、なにか訳ありのようだな。食後、すぐに段取りする」


──張り詰めた空気の中、一人の少女が背負ってきた秘密が遂に明かされようとしていた。




──マダラのアジト


その頃、サスケはイタチの瞳の移植を終えていた。

「当分は安静にしていろ。
万華鏡の場合はなじむまで時間がかかる。痛むか?」

マダラの問いかけに、サスケはベッドに腰を下ろしたまま冷たい笑みを浮かべる。

「……いや、しっくりきている」

声は低く静かだったが、その奥には確かな手応えが滲んでいる。

「イタチの瞳力を感じる。自分が強くなっているのがわかる…!」

サスケの瞳に宿ったのは、兄の残した力と自らの意志を重ねた万華鏡。

誰の言葉も届かないその瞳に、彼は何を映すのか──。




──木ノ葉会議室

綱手、シズネ、ガイ、カカシが待機している中、呼び寄せたメンバーが順番に入室していた。

ナルト、サクラ、サイ。
キバ、シノ、ヒナタ。
シカマル、いの、チョウジ。
そしてネジ、リー。

静寂に潜む圧迫感、誰もが口を閉ざしている。


「揃ったな…」


カカシは小さくつぶやき、最後に彼女の入室を促した。


──扉がゆっくりと開く。

足音が一歩ずつ床を打つたび、視線が集まっていった。

部屋の中央で立ち止まった彼女をカカシが名で呼ぶ。


「じゃあ、話してもらおうか…ラン」


皆がざわめく。


「ラン?」 「どういうことだ?」


ミズノは一呼吸おき、顔を上げてゆっくりと口を開いた。


「ランは仮の名前です。
本当の名前は…うちはミズノ。
私は、うちは一族の生き残りです」


場の空気が揺れる。

息を呑む音、視線が交錯する音が聞こえてくるかのようだった。

シカマルは眉をひそめ、いのは思わずチョウジの腕を掴む。

サイとシノは僅かに表情を変え、リーとキバは動揺を隠せず、額が湿っている。

ヒナタは両手を胸に当て、言葉にならない戸惑いと憂いが交差していた。

「あの日…うちは一族はサスケ以外、うちはイタチによって惨殺されたはずではなかったのか?」

ネジが思わず困惑の声を漏らす。

誰もが息を呑んだまま、次の言葉を待っていた。

ミズノは視線を落として静かに語る。

「あの日、一族は確かに惨殺されました。
でも…私も生き残った。
なぜ生き残ったのかは、今は詳しくお伝えできません。
ごめんなさい」

「お前…!」

キバが口を開きかけたが、サイが視線で制した。

再び、室内は重たい沈黙に包まれる。

ミズノは小さく息を吸い、慎重に一つひとつ言葉を紡いでいく。

「私はあの日、助けを求めて三代目の元へ向かいました。
三代目は私を守るために里の皆に素性を偽り、私は術で姿を変え、“やかぜラン”として生きていくことになりました。
そしてアカデミーへ再び入学し、卒業した後は暗部に配属された。その後は皆さんが知っている通りです」

淡々と語られた言葉の裏に、長年抱えてきた重みがにじんでいた。


仲間達は顔を見合わせ、驚きと混乱の表情を浮かべる。


落ち着かない雰囲気の中で、サクラが疑問を投げかけた。

「あの…ミズノさん、なぜ三代目はあなたがうちはであることを隠したんですか?
それと、サスケ君やうちはイタチとは…どういう関係なんですか?」


全員の視線がミズノへ注がれる。


──その瞬間、鮮やかな光景が脳裏をよぎった。

いつもの川辺、サスケと自分が競い合う姿。
イタチの優しい笑顔、イズミが差し伸べてくれた手。
穏やかな陽光の下で四人が笑い合った日々。


「………」


ミズノはサクラをまっすぐに見つめ、深い影が混じる声で答える。

「私の父とサスケ達の父、フガク様は親友だった。
家族ぐるみで仲が良かったの。
私の姉イズミとイタチお兄様、そしてサスケと私は小さな頃から家族のように育った幼馴染…」

その言葉は長い間閉ざされていた扉を開くように、静かに広がっていく。

「私がうちはであることを三代目が隠した理由も、今は言えない。
でも、時がきたら必ず全て話します。
今はどうか…許してください」


「一体なんなんだよ!!」

キバは耐えきれずに思わず声を荒げた。

「今、サスケやマダラが原因でやべー事が起きまくってんのに、そんなんでうちはのお前を信用できると思ってんのかよ!」

怒りを露わにし、目をギラつかせながらミズノに詰め寄る。

ミズノは小さく唇を噛みしめ、瞳を伏せたまま答えられない。


「キバ、落ち着け」


淡々と、しかし芯のある声でカカシが制す。

「三代目がミズノを守ったのは、それだけの理由があるってことだ。
うちはだからと責めるのは違う。
今は…ここまでで十分だ。
俺たちがするべきことは、ミズノを追い詰めることじゃない」

カカシの視線が、仲間たちをゆっくりと見渡した。

その瞳は“彼女を信じろ”と語っているようだった。

キバは舌打ちしながらも押し黙る。

腕を組み、黙って耳を傾けていた綱手は大きく息を吐いた。

「カカシのいう通りだ…。
しかし、先代はとんでもない事実を隠していたものだな。
ミズノ、他に話すことはあるか」


ミズノは瞳を伏せたまま、声を絞り出す。


「私は、やかぜランとして過ごしながらサスケを見守っていました。
でも…サスケは里を抜け、罪を犯して犯罪者になった。
さらには、うちはマダラが生きていて戦争を仕掛けようとしている」


彼女は深く頭を下げた。


「うちはの因縁が大変な事態を招いてしまったこと。
うちはの生き残りとして何もできなかったこと……。
本当に申し訳ありません。
責めるのも、怒るのも当然です。
どうしたら、責任が取れるのか……わかりません」


ミズノの声と身体が震えている。


誰もが言葉をのみこんだまま、空気は鉛のように重く沈み込む。

すると、ナルトがミズノの前に歩み出し、震える彼女の肩に手を置いた。

「お前に責任なんかねぇ。今まで辛かったよな。
話してくれて、ありがとな!
お前を庇ったサスケを見て、あいつの心がまだ残ってるってわかったんだ。
俺が絶対サスケを連れ戻す。マダラだってぶっ飛ばす!
だからもう、自分を責めるなってばよ!!」

ミズノがゆっくり頭をあげると、ナルトはニッと笑った。

瞳が熱くなる。

彼に向けて少し遠慮がちな笑みを返した。

「……ありがとう」

張り詰めていた空気がほどけ、穏やかなぬくもりが場を包み始める。


──そのぬくもりを受け止めながらも、場を引き締めるように綱手の低く落ち着いた声が、静かに響いた。

「……うちはの生き残りがいるとわかった以上、これから会議で皆に報告する。
他里にも話を通す必要があるだろう。
忍連合を結成し、戦争の協力体制を築いている状況で隠し事は許されない」

火影としての威厳と責任を帯びた瞳がミズノを捉える。

「ミズノ、私が指示をだすまでしばらく自宅で待機しているように。わかったな」


「……はい」


その場は解散となり、仲間たちはそれぞれ胸に複雑な想いを残したまま、静かに会議室を後にしていった。



──ミズノの家

二階建てのアパートの一室。ミズノは窓辺にもたれかかる。心の奥から重たい息が漏れた。

(これから私はどうなるんだろう。
危険人物として拘束されるのかな。
うちはのせいで戦争が起こるんだもんね)

窓の外に目を向けると、沈みゆく夕陽が里を茜色に染め上げている。
ミズノはその色を見つめながら、彼の背を思い返した。

(サスケが私を庇ってくれた。
ナルト君が言っていた通り、優しい心はまだ消えてない。
今はただ憎しみにのまれて、自分を見失っているだけ──)


更にイタチとイズミの記憶が、水面のように彼女の瞳の奥で揺らめく。


(イタチお兄様は一人で全てを背負いすぎた。
もし私達に打ち明けてくれていたら、私たちがもっと早く彼の背負っていたものに気づいていたら……違う未来を選べたのかもしれない)

思考の波に沈みながらふと視線を落とすと、見覚えのある桜色の髪がそよいでいた。

窓を開け、そっと声をかける。

「サクラちゃん?どうしたの?」

サクラはハッとして顔を上げ、どこか気まずそうに慌てた。

「あっ、その……少し話がしたくて……」

「……いいよ。私は家から出られないから上がってきて?中で話そう」

ミズノは手で合図しながら、柔らかい声で告げる。

サクラは少し緊張した笑みを返し、階段をゆっくりと踏みしめてミズノの部屋へと向かっていった。




──静かな部屋に、二人だけの時間が訪れる。


ミズノはサクラをダイニングテーブルへと案内した。

「そこに座って。今、お茶を入れるね」

サクラは緊張した面持ちで、かすかに頭を下げる。

お湯を注ぐ音が、張り詰めた空気の中に小さく響く。

湯気とともに立ち上がる香ばしい茶葉の匂いが、緊張をほんの少し和らげてくれた。

カップをサクラの前に置くと、彼女は礼を言う。

ミズノは微笑みながら頷き、サクラと向かい合わせに座った。

「なんか色々考えて、落ち着かなくて。
サクラちゃんが来てくれて正直ホッとした。
私とサスケのことを……聞きに来た?」

サクラは図星を突かれ、目を瞬かせたがすぐには言葉が出てこない。

「あ、その……」

言いかけて、視線を落としたまま口ごもる。

その様子を見て、ミズノが先に切り出した。

「サクラちゃん……私ね、あの時のあなたの覚悟が私と似ているなって思ったんだ」

サクラはハッと顔を上げ、驚きに目を見開いた。

「私の覚悟なんて……。
結局、私はサスケ君にけじめをつけることも、助けることもできなかった……」

言い終えると彼女は小さく肩をおとし、瞳を伏せた。

ミズノも視線を落とす。
そっとカップに手を添え、指先でフチをなぞる。

「サクラちゃんありがとう。
ずっとサスケを信じて、助けようとしてくれて。
私とサスケはきょうだいのように育ったから、サスケを弟のように思っているの。
サスケは姉さん面するなって怒るんだけどね」

ミズノはやわらかく微笑みながら、サクラに視線を戻した。

「サスケが私を庇ったことが、気になっているんだよね?」

サクラは小さく肩を震わせる。

「ごめんなさい……こんな時に」

「ううん、いいの」

ミズノは穏やかに首を振る。

「私とサスケの間に、特別なことはないよ。
死んだと思っていた“姉さん”が目の前に現れた。
家族思いのサスケだからこそ、思わず身体が動いたんだと思う」

胸の奥で小さく痛むものを抱えながら、サクラを見つめた。

「ごめんね……。
サスケがあなたに沢山辛い思いをさせてしまって……」

サクラはしばらく黙っていたが、やがて震える声で語りはじめる。

「辛いけど…気持ちは変わらないんです。 
サスケ君を想う気持ちは、ずっと変わらない。
サスケ君のことが好きでたまらなくて……」

サクラの言葉が細く途切れ、彼女の瞳から熱い雫が伝っていく。

ミズノはその姿を見つめながら、柔らかくも強い声色で伝えた。


「サクラちゃん、わかるよ。
あなたの気持ち本当に……よくわかる」


少し間を置いて、ミズノは微かに迷いながらも自分の胸の内を明かし始める。


「私ね、小さい頃からずっとイタチお兄様のことが好きだったんだ」

サクラは顔を上げ、問いかけるようにミズノを見つめた。

ミズノの眼差しには、想い続ける者の優しさと苦しみが浮かんでいる。

「イタチお兄様は、姉のイズミを大切に想っていた。
もちろんイズミお姉様も。
私はそれでよかったの。
大好きな二人が幸せなら、私も幸せでいられたから。
そして四人でいる時間が何よりも大切だったから…」

脳裏に一瞬の痛みが走った。

手を握りしめ、まつ毛が微かに揺れる。声は消え入るように小さくなった。

「だけど、あの日お兄様は姉の命を奪った。
私の母、友達、一族、そして私も殺されかけた。
絶望して、失望して、復讐を考えてもおかしくなかったよね」

二つのカップの湯気が絡まり、ほどけていく。
サクラの瞳から、こぼれ落ちた涙がテーブルをぬらしていた。

「だけど、私はイタチお兄様が好き。
どんな事があっても……この想いは消えない。
きっと、これからもずっと」


ミズノは握る手の力を緩め、ふっと息を整える。


「私の話、聞いてくれてありがとう」


すると、瞬時に険しい表情を浮かべ、勢いよく声を上げた。

「全く!サスケを連れ戻したら思いっきり説教してやるんだから!もちろん、サクラちゃんも一緒にね!」

サクラはミズノの勢いに驚いて目を瞬かせ、遅れてフフッと笑う。

彼女達の目元には涙の跡が光っていた。


── やがて二人の言葉も途切れ、外はすっかり薄闇に包まれていた。サクラは礼を述べ静かに立ち上がると、部屋を後にした。

部屋の中には、茶葉の残り香と沈黙だけが漂う。

ミズノは再び椅子に腰を下ろし、両手を膝の上に重ねる。

吐息がかすかに震えているのが自分でもわかった。

(……私達本当に似てるね、サクラちゃん。
でも、きっとサスケはわかってるはず。
大切にするべきものは何か──)

カーテンの端をそっと撫でる風が部屋に入り、彼女の胸の奥で渦巻く感情と重なる。

(サスケの心につけこんで利用しようとしている、うちはマダラ。絶対に許さない)

拳をぎゅっと握りしめる。

指先に痛みが走り、胸の奥に静かな熱が宿った。



彼女が自身の処分を待つ夜。
黒雲が低く垂れ込み、闇の中で黒い無数の影達が動き始める。


──嵐の予感が、扉のすぐ向こう側へ迫っていた。
 
 

 
後書き
ここまで読んでくださってありがとうございます。
彼女の苦しみや想いが、少しでも伝わっていれば嬉しいです。
次回は、迫りくる黒い影との戦いへ──。
またお読みいただければ幸いです! 
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