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月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

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第九章 光さす者、闇に潜む者

 
前書き
光に立つ者と、闇に沈む者。
二つの選択が交差する──。 

 
木ノ葉隠れの里、昼下がりの茶屋。
賑やかな店内で、ランはヒナタと向かい合わせで甘味を食べていた。

「やっぱりここのお店はおいしいね」

ヒナタは静かに笑って、湯気の経つ湯呑みを持っている。

「うん。ここのあんみつ食べたら他のお店のは食べられない気がする」

ランも微笑みながら一口お茶を飲んで息をつく。

任務の合間の休日。
第三班に配属されてから他の忍と関わる機会が増えた。
中でもヒナタと過ごす時間はどこか特別で、穏やかで、心が安らぐ。

「ランさんって、すごいよね…。この前の任務の時も冷静にいろんなこと判断してて…。それにとっても強い」

ぽつりと、ヒナタが言った。

ランは湯呑みをテーブルに置き、ヒナタを見つめる。

「そうかな…ありがとう。だけど、ヒナタちゃんだってすごい」

「えっ……わ、私なんて…全然…」

「そんなことない」

ミズノは首を横に振る。

彼女の真剣な様子にヒナタは驚き、照れくさそうに視線をそらした。

「……ありがとう」

ランはヒナタの様子を見ると、穏やかな笑みを浮かべ話を続ける。

「……そういえばナルト君が妙木山に修行に行ってから一週間経つ。どんどん強くなっていくね、ナルト君」

ヒナタは頬をうっすら染めてうなずく。

「ヒナタちゃん、ずっと思ってたんだけど…ナルト君のこと好きなの?」

「えっ……! な、なななんで……!?」

ヒナタは慌てふためいて、顔がまっ赤になった。

「だって…ナルト君の話をしたり、ナルト君が近くにいるといつも顔が赤くなるし。それになんだか嬉しそうだから」

ランの言葉を聞いたヒナタは、ゆっくり視線を落とし小さな声で答える。

「…うん。私はナルト君の事が、昔から好き…。
一生懸命で、真っ直ぐで、憧れの人なの。
自分に自信がなかった私に…希望をくれた。
私も、ナルトくんに追いつきたい。いつか…隣に立てるくらいに」

彼女の声は小さかったけれど、確かな熱があった。ランはその気持ちをどこか自分と重ね、瞳を優しく細めた。

「大丈夫。きっとナルト君と並んで戦える日が来る。
それに…優しくて可愛いヒナタちゃんの一途な想い、絶対に届くと思うよ。

ただナルト君は鈍感そうだから、気がつくのに少し時間がかかりそうな気がするけど…」

二人は顔を見合わせてくすりと笑った。

そして、今度はヒナタの方から問い返す。

「ランさんは? 好きな人…いるの?」

ランの表情がわずかに揺れる。

「私は…」


──彼の顔が浮かぶ。そしてすぐに姉の顔も。
困ったように笑い、瞳を少し伏せた。


「うん、いる。私もずっと好きな人が…。
でもその人に私の想いが届く事は……ない」


ヒナタは何かを悟り、それ以上深くは踏み込まずにいてくれた。

「……ランさんが言ってくれたように、想いはいつか届くって私も信じたい。きっとランさんの想いだって届くはずだよ」

「……ありがとう、ヒナタちゃん」

二人の間にあたたかく、静かな風が吹いていた。




──その夜、ミズノは万華鏡写輪眼を開く。

「寂滅陣」

空気がひずみ、漆黒の闇が辺りを飲み込む。
誰も立ち入ることのない時空間。
ここに訪れるのは、彼を連れてきて以来だった。

そこにはあの日のまま、彼が横たわっている。

ランはそっと彼の側に座った。

「イタチお兄様…私、色々な人達と関わるようになったよ。友達もできた。
特に、ヒナタちゃんと一緒にいると落ち着くんだ」

返事はない。発せられた言葉は闇の中に紛れていく。
ただ眠っているだけのような彼。ランの表情が曇り、瞳に熱いものが込み上げてくる。

「私…お兄様のことが好き。強くて、優しくて、ずっと憧れてた」

声が震えた。

熱いものが頬をつたい、顎の先から闇へ落ちていく。

「イズミお姉様もあなたの事が好きだった。お兄様もお姉様のこと大切に思っていたよね。
大好きな2人が幸せなら…私も幸せって思ってた。
あなたとお姉様、サスケと四人でいられる時間が何より大切だったから」

彼の手に触れると、ひんやりとした温度が指先に伝わってくる。

「お兄様を救いたい。それが私の役目だと思ってる。お姉様に託されたあの夜からずっと…」

ランは小さく微笑んだ。
けれど、その瞳には涙の残光がきらめいていた。

「だからもう少しだけ…待っていて。必ず助けるから」

やがて彼女はゆっくりと立ち上がる。
誰にも届かない約束を自分の中だけに刻み、術を解く。

闇の世界は静かに消えていった。



次の日──

雲が途切れ、太陽の光が差す昼下がり。

木ノ葉隠れの忍たちは、いつも通りの任務に勤しんでいた。
子供たちの笑い声が通りに響いている。




──その空に、不意に六つの黒い影が差した。

里の中心へと歩み出すその姿を見て、誰もが思わず息を呑む。

「あれは……!?」

警備の忍が声をあげるよりも早く、輪廻眼の冷たい光が辺りを射抜く。


“ペイン六道”


自来也を討った”神”と名乗る男たちは、木ノ葉の里を真っ直ぐ見据えていた。

そして一人の声が雷鳴のように響き渡る。

「……九尾はどこだ」

目的はただ一つ。
人柱力、うずまきナルトの捕獲。

だが、里に残っていたのは彼以外の忍たち。

各班が散り散りに配置につき、情報を伝達するがその動きを嘲笑うかのようにペインの六体は同時に動き出した。

里中が混乱に包まれ、悲鳴が絶え間なく響き渡る。

それでも木ノ葉の忍たちは踏みとどまった。
仲間を庇い、子供を抱きかかえ、怪我を負いながらも立ち上がる。

しかし、その抵抗も虚しく


神羅天征(しんらてんせい)


天道の低い声が、空気を震わせた。

次の瞬間、世界そのものが反転する。

圧倒的な引力と斥力の奔流。
地が爆ぜ、建物が崩れ去り、空気が悲鳴をあげた。


「──!!」


誰かの声も、土煙に呑まれて消えていく。

木ノ葉隠れの里は、一瞬で瓦礫の山と化した。

崩壊の音。

煙に覆われた地に、もはやかつての姿は存在しない。

その中心に立つのは、輪廻眼を持つ天道の姿。
冷酷な闇を宿した瞳は崩壊した里を見つめ、静かに告げる。


「ここより世界に痛みを…」


崩れた建物の瓦礫の下、忍たちを守っていたのは火影である綱手に口寄せされたカツユだった。

綱手は己の命を削るようにチャクラを注ぎこんでいた。

しかし死者や負傷者がどんどん増えていく。

はたけカカシも戦いにより、チャクラ切れで力尽き、意識は静かに遠のいていた。


誰もが絶望に震える。


ランはサクラと負傷した忍たちの回復に専念していた。

(怪我人がどんどん増えていく…どうしたら…!)

ランは自身と葛藤していた。ここで正体を表し、万華鏡写輪眼で須佐能乎を使えば、皆を守ることが出来るはず。
ナルトが里に帰ってくるまで持ち堪えられるかもしれない。

でもここでうちはの生き残りがいるとわかれば、後に里に拘束される可能性もある。

そうなればイタチを助けられず、サスケの安否もわからない…。

(私はなんて浅ましいんだろう。忍のくせに、私情で里を守ることすらできない…)
 
自分の心の甘さを噛み締め、拳を握りしめた。

すると、サクラが渇望を込めた大きな声でナルトの名を呼ぶ。


──地鳴り。


空気が揺れる感覚と共に、彼が舞い降りた。
忍たちが顔を上げる。

煙の中から現れたのは、一人の少年。

新たな力を纏った“うずまきナルト”

彼は息を呑むほどに、堂々としていた。

ナルトは静かに里の惨状を見渡した。

何もかも崩れ去り面影のない里、泣いている子供。
倒れた人々。

そのすべてを見据えた彼は深く息を吸い込み、大地に拳を突き立てた。

「……ここからは、オレがやる!」

その声は里中に響き渡り、人々の胸に再び火を灯す。

ランは彼の姿をみて、口を引き結んだ。

(ナルト君、あなたは本当に…)

彼女の胸の奥に小さな安堵と、強烈な羨望が芽生えていた。

自分はまだ正体を隠し、闇に潜んでいる。
けれど彼は堂々と光の下に立ち、人々の希望になり、迷わず全てを守ろうとしている。
自分の弱さを突きつけられているようだった。


──そしてその瞬間から、戦いは新たな局面を迎える。


ナルトとペイン六道。


里の中心に、緊張が走る。
仙人モードの力を纏ったナルトが、ガマたちと共に立ち塞がった。
輪廻眼を持つ六体のペインがその視線を一斉に向ける。

「……九尾。お前を捕らえる」

声は冷たく、容赦がなかった。

ナルトは拳を握りしめ、瓦礫を踏みしめて前へ出る。

「おいナルト!一気に畳みかけるぞ!」

ガマ達の連携が一気に戦場の色を変え、戦術が大地に響く。

ランは負傷者を治療しながら、ネジとヒナタが白眼で見ている光景を聞き、戦況を見守る。

(ナルト君が奴らを倒せるかもしれない。
でも…このままでいいの?
お兄様の思いは里を守ることだったのに私は…)

一つの希望の中に感じるのは、自分が深く闇に沈んでいるような感覚。迷いを捨てることができなかった。


激化する戦い。

だが六道ペインは容易くは倒れない。

「くそっ……!」

ナルトの額に汗が滲む。

だが彼の動きは止まらなかった。
仙人モードの感知能力で死角を潰し、影分身を交えて一体ずつ確実に削っていく。



──やがて、残るはただ一人。


輪廻眼がナルトを真っ直ぐに射抜く。


「痛みを知れ。世界に平和をもたらすために……」


天道の両手が広がった瞬間、強烈な重圧が空気を押し潰す。
ナルトの体が弾き飛ばされ、地面を抉るように転がる。


天道の放った衝撃で、ナルトの身体が瓦礫の中に叩きつけられる。

その様子を白眼で見ていたヒナタ。

「ナルト君…!!」

「ヒナタちゃん…!?どうしたの?ナルト君に何が…」

ランが聞き終える前に、ヒナタはその場からナルトの元へと風を切る様に駆け抜けていった。

「!!」

(ナルト君に何かあったんだ…!ヒナタちゃん…あんな危険なところに1人で…!)


砂煙の向こう、立ち上がろうとするも、両手両足に黒い杭が打ち込まれ、ナルトは動きを封じられる。
輪廻眼が、捕らえた獲物を見下ろすように光った。


──その時だった。

「はあっ!!」

闘気を含んだ声と共に、地面にヒナタの拳が叩きつけられた。

(ひどい…この杭でナルト君の動きを封じているんだ)

強い怒りと悲しみを白眼に宿し、まっすぐに天道を見据える。

「ヒナタ!何してんだ!お前じゃあいつには…」

ナルトが叫ぶ。だが彼女は落ち着き、凛と佇んでいた。

「うん…。これは私の独りよがり。
ナルト君が…私を正しい道に導いてくれた。ナルト君のおかげで私は…。今度は私がナルト君を助ける番」

その瞳は、もう迷っていなかった。
静かに、けれど力強く、心の奥から溢れる言葉を告げる。

「死ぬ事なんて怖くない。

私は…ナルト君が…大好きだから」

ヒナタは微笑んだ。彼女の髪を風が撫でていく。


彼女は白眼を開き、構えを取った。

次の瞬間、ナルトの動きを封じている黒い杭を蹴り飛ばす。

だがその想いの力さえ、ペインの冷徹な力の前には届かなかった。

何度も何度も彼が手をかざしただけで彼女の身体が地面へ打ち付けられる。

しかし、ヒナタは諦めなかった。

(少しでも可能があるなら…!)

限界を迎えている身体を引きずり、ナルトの手を拘束している杭に両手を添える。

「わからんな…。死ぬとわかっていながら…なぜ?」

ペインは感情のない言葉を彼女へ投げかける。

「まっすぐ…自分の言葉は…曲げない」

ナルトが顔を上げ、ヒナタを揺れる瞳で見つめた。

「それが…私の忍道だから…」

ペインの手が振り上げられ、彼女の身体が高く宙を舞う。
そのまま地面に強く打ち付けられ、身体へ黒い杭が差し込まれた。ヒナタの血が大地を赤く染めた。

「ヒナタァァァァァッ!!!」

ナルトの絶叫が戦場に轟いた。
次の瞬間、赤黒いチャクラが爆発のように弾け、彼の体を包み込む。

空気が唸り、大地が揺れる。
尾が伸び、牙が生え、理性を食い破るように九尾の力が膨れ上がっていく。

「なに?!」

離れた仲間たちが異変に気づく。
白眼で見ていたネジがナルトの様子を伝えると、サクラの頬に汗が伝う。

「あの姿になってしまったら…ナルトは見境なく人を襲う…!」

ネジが声を上げる。

「ナルトの力にペインが押され、里から遠ざかっていく!」

(今のうちに…!!)

ランは走りだす。

ヒナタは瓦礫と血溜まりの中に倒れていた。

「ヒナタちゃん!!」

瀕死の彼女を抱え、サクラの元へと急ぐ。
サクラはその姿を見て、すぐさま治療を開始する。

「ヒナタ様…なぜこんな無茶を…!」

ネジが呟く。サクラはヒナタを見つめながら、何かに気がついた様子で目を伏せていた。

(ヒナタ…あなたナルトの事…)

サクラの必死の治療を横で見守りながら、ランは震える手を握りしめる。

悔しさ、羨望、後悔。

すべてが入り混じって、胸を激しく揺さぶった。



その頃、暴走する九尾の咆哮が空を裂く。


鎖のように絡みつく憎悪が、ナルトの心を引き裂こうとしていた。

封印の紋様がぎしぎしと音を立てて崩れていく。

ナルトの瞳は、もはや理性を失っていた。


──その時。


「ナルト」


柔らかな声が響き、光が差し込む。
ナルトの精神世界の中にひとりの男が現れた。
金色の髪を揺らし、温かな眼差しを向けるその姿。

「四代目…火影?」

「ナルト…お前は俺の息子だ」

ナルトの瞳が大きく見開かれる。

時間が止まったかのような沈黙。

やがて、押し殺していた感情が爆発する。
ナルトの叫びは、怒りと涙に震えていた。

だが、ミナトは優しく微笑む。
ミナトから九尾事件の犯人が暁のメンバーの面をした男である事を知らされた。
そして忍界の未来とその答えを託される。

「俺はお前を信じている」

その言葉が胸に染み渡り、暴走していた心に再び灯がともる。

ミナトにより再び九尾の封印は閉じ、荒れ狂うチャクラが静まっていく。

ナルトは迷いを断ち切った力強さを宿し、再び戦場へ。

深い呼吸を整え、折れそうになる膝を必死に支えながらも、輪廻眼を睨み返す。

その瞳の真っ直ぐさに、天道の動きが一瞬だけ止まる。


そして──撃破した。


ナルトは、本体である長門の元へと仙人モードで逆探知しながら向かう。

森の奥深く、朽ち果てた大木の中。

そこに本体の長門は潜んでいた。

その傍には小南も佇む。

痩せ細り、生命を削りながらも、なお輪廻眼を輝かせるその姿は痛々しかった。

彼に歩み寄る。

「……俺を殺しに来たのか?」

長門の声は掠れていた。

ナルトは拳を握りしめる。

「違う……。オレは、お前と話をしにきた」

二人の間に重い沈黙が落ちる。
互いの師、自来也の名が交わされた時、長門の眼が揺らいだ。
ナルトは怒りや悲しみにとらわれながらも、痛みを”耐え忍ぶ”選択をし、師である自来也を信じ続ける姿勢を貫いた。

「エロ仙人は俺の事を信じて託してくれた。俺はエロ仙人が信じた事を信じてみる。それが俺の答えだ。だからお前達は殺さねぇ」


──長門は深く息を吐き、手を合わせた。


「……里にきてから俺が殺めた者ならまだ助かる」

「長門!そんな事をしたらあなたは…」

小南は声を荒げた。しかし長門は止まらない。

「お前を信じてみよう…うずまきナルト」


「外道、輪廻天生の術(げどう、りんねてんせいのじゅつ)」


術が発動し、横たわる者たちの体が淡く輝き始めた。
次々に命が戻り、息を吹き返す声が響く。

「……生き返ってる……!」

救護にあたっていた忍たちが、驚愕の声を上げる。

やがて光は収まり、長門の体は力なく崩れ落ちた。


──その顔は、苦悩を手放したかのように安らかだった。



ふらふらと、大木から出てきたナルトをカカシが背に抱える。

そしてそのまま里へ戻ると、ナルトは英雄として迎えられた。

誰よりも眩しく、里全体を照らしていた。
歓声が響き渡り、全員の顔に笑みが戻っていく。

「ナルト君…ありがとう…」

その光景をヒナタを支えながら見つめるラン。
まっすぐ、己の力を信じて光に立った少年。

そして、ふとヒナタに視線を移すとナルトを見つめながら涙を流していた。
 

(ヒナタちゃんは迷わず命をかけて、ナルト君を助けにいった。ナルト君もヒナタちゃんも…なんて真っ直ぐなんだろう)

二人の姿が眩しくて、思わず目を伏せた。

ヒナタのように迷わず、ナルトのように真っ直ぐにもなれない。自分は影に潜み、正体すら明かせない。


(サスケを本当の意味で救えるのは、きっとナルト君。
…でも、私は私のやり方で道をひらく)

ランは確信を持って、胸の奥で呟いた。

悔しさも、後悔も、決意もすべてを抱きしめて、ランは顔を上げる。

今はまだ闇に潜む。

時が来るまで──。


その瞳には未来を信じる光が宿っていた。
 
 

 
後書き
ここまでお読みいただきありがとうございました!
ペイン襲撃を通して、光に立つ者と、影に潜む者の姿を描きました。
ナルトやヒナタの真っ直ぐさに対し、ミズノは迷いを抱えています。次章ではその迷いの先にある決断や選択を描いていく予定です。
 
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