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月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

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第七章 兄弟の終焉、悲しみの継承

 
前書き
血にぬれた絆の果てに、サスケは兄の真実を知る。
その痛みは新たな復讐の炎へと変わっていく。
悲しみの中で芽吹く決意──。 

 
運命に導かれ、二人はついに相まみえる。

兄と弟。

愛と憎しみ、絆と断絶。
複雑に絡み合った想いが今、最後の戦いへと繋がっていく。
だがその場には、誰も知らない“万華鏡写輪眼“
彼女の瞳が見つめたのは、兄弟の終焉、そして兄からの悲しみの継承だった──



夜の森は、静寂に包まれていた。

湿った土の匂いが重く、草木を揺らす風音だけが耳に届く。

ゼツは草陰に身を潜め、隣のトビに囁く。

「…来るぞ。蛇の連中が。イタチを追っている」

トビは空を見上げ、月明かりを受けて羽ばたく鷹の姿を捉える。

「いい流れだ。あとは次の脱皮で蛇のままか、それとも鷹に変わるか見モノだ…サスケ」

その声は低く、妙に愉しげだった。


だがその頃、闇夜に溶け込むもう一つの気配が潜んでいた。

──彼らはまだ気づいていない。

自分達の計画の外側を、彼女の万華鏡写輪眼が静かに見つめていることを。



──森を駆け抜けていくサスケの表情に迷いはなかった。
あるのはただ一つ、必ず終わらせるという鋭い意志。

香燐が後ろから声を荒げた。

「すごいチャクラ!それに早い!…来る!!」

すると、サスケ達の目の前に干柿鬼鮫が姿を現す。

「……!」

香燐が息を呑み、水月は目を見開いた。

鮫肌を背負った鬼鮫は、低い声で告げる。

「ここからは、サスケ君ひとりで行ってください。
イタチさんの命令でしてね…他の方々はここで待っていてもらいましょうか」

「…分かった。小隊で動いていたのは元々、一対一に邪魔が入らない様にするためだったからな。ちょうどいい」

「サスケ…!それはダメだ!こいつを倒してみんなで…」

鬼鮫は香燐の方に視線をやる。

「私は戦う気などありませんがね…無理やり通るというのなら
容赦しませんよ」

「香燐…お前達はここで待て。これは俺の復讐だ」

香燐は舌打ちするも、おとなしく従う。
サスケは一人、ただ前だけを見据えて森の奥へと消えていった。



一方、その頃──
別の場所で、ナルト達もまた動いていた。

「急げ! サスケのチャクラが…!」

ナルトが前を走り、仲間達が続く。

だが彼らの前に突如、面をつけた男が現れた。暁の衣を羽織っている。

「いやあ、こんなところで木ノ葉の皆さんにばったり。」

ナルト達は足を止め、鋭い目つきでその男を射抜く。

「こいつは暁のリストには載ってなかったが…」

カカシが様子を伺うように目を細めた。

オレンジ色の面、右目の穴だけが開いたその男は、のらりくらりとした口調で語る。

「八対一とは間の悪い…新人なもんで、よろしく」

「邪魔すんじゃねェ!! そこをどけ!」

ナルトが叫び、影分身で螺旋丸を繰り出す。

だが、影分身はそのまま男の体をすり抜けていった。

「…なっ!?」

「図に乗りすぎでしょ…君みたいな子に何が出来るってのかな?」

ひらひらと手を振り、まるで本気で戦う気配すら見せない。

カカシの声が鋭く響く。

「…これは時間稼ぎだ!ナルト!」

男は面の奥で笑う。

「…さてと、何して遊びましょうか?木ノ葉の皆さん」

ナルトたちは足を止められた。あと一歩のところで、もうサスケには近づけない。



──森の奥、石作りの古びた建物。

ひび割れた石の椅子に座る影。


「その写輪眼…お前はどこまで見えている」


懐かしさを含む無機質な声。サスケの中には憎悪しかない。

「イタチ…あんたの死に様だ」

「俺の死に様か…。
では…再現してみせろ」


──静寂。二人は幻術を掛け、様子をうかがい合っている。

サスケは幻術の中で、イタチに問う。

「あんたがあの日言っていた、もう一人の写輪眼とは…
うちは一族とは誰だ?
あんたが殺さなかったうちは。
そいつはつまり協力者だった。いくらあんたでも警務部隊を一人で殺れるはずがない」

イタチは口角をわずかに釣り上げた。

「気がついたか…。木ノ葉隠れ創設者の一人うちはマダラ。
万華鏡写輪眼を最初に開眼した男だ」


──天井のわずかな隙間。呼吸を殺し、チャクラを消し、彼らが自分の気配を一瞬たりとも捉えないように。
ミズノの写輪眼は静かに見つめていた。

(協力者…?でも、うちはマダラはもうこの世にはいないはず…一体どういうこと?)

二人の幻術の掛け合いが続く中、ふと異様な気配を感じる。

(!?…あれは…)

視界の端、天井から白と黒に分かれた顔が浮かび上がり、二人の様子を見つめていた。

(…何者…?二人の様子を伺ってる…?)

ミズノは更に意識を研ぎ澄ませ、謎の人物に警戒しつつも、二人の幻術の中での会話に耳を傾ける。

イタチはマダラ、木ノ葉、うちは一族について語っていた。
そしてマダラを超え、高みへ近づく。
サスケは自分のスペアだと言い放った。

そこから戦いは本格化する。

イタチは月読をかけ、サスケはそれを破り、反撃。

しかし、イタチの動きは鈍い。
病に侵された身体、術を発動した瞳にダメージが蓄積していた。

争いは激化、炎と雷がぶつかり合い、焦げた匂いがたちこめ、瓦礫が崩れ落ちる。
破片が頬をかすめ、耳の奥で鼓膜が軋む。

それでもミズノは瞬きを耐え、二人の動きを瞳に縫い止めていた。

挑発が交差し、火遁は天照(あまてらす)に呑まれ、空気が黒く灼けていく──

(お兄様…サスケ…)


あんなに仲の良かった二人が、お互いを傷つけあっている。

チャクラと気配を消していても、心までは消せない。

──幼い頃、皆で修行をしていたあの日々が頭をよぎる。
笑い合い、競い合い、未来を夢見ていた。

それが、こんな形で崩れていくなんて。


(こんな未来……誰が望んだの……)


見ていることしかできない悲しみに押しつぶされそうになっている間も、二人の激しい戦いは続いていた。


サスケは”麒麟”(きりん)という名の術を放とうとしている。


──空から雨が降り始めた。


「雷鳴と共に散れ…」


巨大な雷が雲を切り裂き、イタチを目掛けて激しく弾け散った。


(お兄様…!!!)


術の勢いに吹き飛ばされそうになる。
しかし両足に力を込め、絶対に自身の目を閉じることを許さない。



──イタチは地面に倒れ伏していた。


サスケも限界だ。


ミズノの足が無意識に前へと進む。

(だめ…行っちゃだめ…)

踏み出してはいけない。震える両手で足を押さえつけた。


「これが、お前の再現したかった……死に様か?」

イタチが静かに起き上がる。




「クソがぁ!!!!」




サスケの怒りが爆発し、身体の呪印が蠢きはじめた。



「本当に…強くなったな…サスケ」



そう言って、イタチは”須佐能乎”(スサノオ)を展開する。



すると、サスケの呪印が疼きはじめ、抑え込んでいたはずの大蛇丸が現れた。サスケの身体を乗っ取ろうとするが、イタチの隠し持っていた十拳剣(とつかのつるぎ)にすぐさま封じられる。

(お兄様、まさか大蛇丸の呪印からサスケを解放することまで考えて?)


次の瞬間、イタチは吐血し、膝から崩れ落ちた。

須佐能乎が弱まる。

サスケはその隙に攻撃を仕掛けたが、再び須佐能乎で弾き飛ばされた。

そして、イタチは一歩、また一歩と着実に歩みを進める。


サスケの背には壁。もう余力も逃げ場もない。


指先が迷いなく、サスケの目元へと伸びる。


その瞬間、全ての音が遠のき、世界が静止したように感じられた。


──トン。


「許せ、サスケ…これで…最後だ」



微笑んでいた。

優しく、懐かしい。あの頃の兄の顔と、愛情の仕草。



イタチは静かに崩れ落ちていく。



息が詰まる。ただ、兄の声だけが耳の奥に響いていた。


サスケは立ち尽くし、ただ呆然と、倒れた兄を見下ろすことしか出来なかった。


やがて雷鳴が響き、大粒の雨が地面を叩きつける。


──戦いの幕が下りた音だった。


ミズノはその場に膝をついた。喉の奥から、嗚咽が漏れる。

「ううっ……」

届かなかった祈り。

守れなかった命。

見届ける事しかできなかった、ただの傍観者。
それが、今の自分だった。


“ドサッ”


はっと顔を上げると、サスケもその場に倒れている。
もう彼の身にも力は残っていなかった。

(サスケ……)

湿った夜気のなか、炎と雷の残り香がまだ鼻を刺している。

ふと、瓦礫の陰から何かの気配が動いた。

(あれは……)

白と黒に分かれ、植物のような異様な風貌の人物がヒソヒソと会話をしている。

「サスケガ勝ッタ…。トビノ思惑通リダナ。コレデサスケハ万華鏡写輪眼ヲ開眼シ、イタチノ目ヲサスケニ移植スレバ作戦ハ成功ダナ」

「ああ…。作戦は成功したけど…イタチの強さってこんなもんじゃなかったでしょ…本来の動きじゃなかったし、元から何らかの重大なダメージを負っていたのかもしれない。写輪眼の使いすぎか?」

「ソレハ断定デキナイ…。トリアエズトビニ報告シニイクカ」

戦いの一部始終を観察していたその人物は、音もなくその場を離れていき、気配が完全に消えた。


(作戦…?サスケを利用するつもり?なぜ永遠の万華鏡写輪眼の事を知っているの?トビって、一体?)

ミズノは頭を振り、一度思考を止める。

(とりあえず考えるのは後。今のうちに…!)

ミズノはチャクラをコントロールしていた身体を解放した。

心臓の鼓動が乱れている。

戦場の中心に兄と弟。
どちらも、倒れ伏したまま動かない。

「………」

ミズノはふらつく足で、ゆっくりと近づいていった。

──怖かった。

この瞳で確認することが。

二人の側へ膝をつき、サスケの様子をうかがう。

その顔は青ざめ、身体中は傷だらけだったが、命の灯はしっかりと燃えていた。

「サスケ…」

静かに囁くと、その指先で彼の髪にそっと触れた。


そして、イタチの方へ視線を向ける。

──決して目覚めることのない静けさ。

「イタチお兄様……」

名を呼ぶ声は震え、かすれる。
そっとその身体に手を添えると、まだ少しだけ温もりが残っていた。

それがかえって、胸を締めつける。

「どうしてこうなってしまったの…」

身体に力が入らない。胸が軋み続けて、今にも壊われてしまいそうだ。

「ねえ、お兄様…あなたが守ろうとしたサスケは…生きてるよ…」

「あなたは…最後まで優しくて…」


月は雲に隠れ、雨が降り続く。
彼女の涙と雨が混ざり合い、地面へと滴っていた。


命がつながっているサスケの傷を癒して、少しでも楽にしてあげたい。

「でも、傷を癒せばサスケは目を覚ます。そして、あの怪しい奴らに気づかれ、全てが…無駄になる」

ここで自分の存在が知られてしまえば、イタチが残した想いを壊すことになる。

罪悪感が滲むも、サスケの額に影を落とすように、静かに囁いた。


「ごめんね、サスケ…」


再びイタチの方へ向き直る。


後悔したくない。助けたい。だから──決断した。


「おじい様、ごめんなさい」


そう囁くと、ミズノは印を結び始める。

「木遁、影躯(えいく)の術」

ミズノが地面に手を置くと、木々が地面から伸び、緻密な造形を始める。

やがて目の前に現れたのは、肌の質感、髪、色、服装、傷
命以外の全てが完璧に再現されている、イタチの木製人形。

ミズノはイタチの眼から万華鏡写輪眼を取り出し、その人形に移植する。

(触れても絶対に見破られない。ただ1日で消滅する。
時間稼ぎにしかならないけど、お兄様の身体は渡さない)

そして、さらに術を発動する。

寂滅陣(じゃくめつじん)

空間がうねり、匂いも音も、時間さえはぎ取られていく。色だけが抜け落ち、完全な”無”が、口を開け、自分と彼を飲み込んだ。

ミズノの万華鏡写輪眼に宿った時空間忍術。

誰にも干渉されず、感知されない自分だけの空間。
 

医療忍術でイタチの身体の傷を可能な限り癒していく。
今この瞬間、自分にできることを全てやる。

傷口がふさがり、血の痕が消えていく。そして最後に彼の瞳を癒し、目元に包帯を巻く。ミズノの指がかすかに震えた。

同時にミズノの目からは、深い悲しみがこぼれ落ちていく。

それは無音のまま、闇の中に染み込んでいった。

「私は必ずあの術を完成させる。その時が来るまで
待っていて…」

どれほど呼びかけても、もう目を覚ますことのない彼に切なる想いを伝え、静かにその空間を閉ざす。


──闇から戻ったミズノはサスケを見つめた。
 
「本当はあなたも連れて行きたい。でも、今の私には出来ない…。
どうか、お兄様が望んだ通りに。何を言われても、利用されないで…憎しみだけに囚われないで」

祈るように呟く。


──来る。


あの怪しい人物の異質なチャクラを感知した。
即座に自らの気配を消し去る。

空気に溶けるように姿を隠したまま、雨の音に紛れてその場を離れていく。

激戦の余韻が残る地を背にし、彼女は静かに森の奥へと消えていった。

(サスケ、どうか無事で)




──気絶していたサスケは瞼を開けると、どこかの洞窟の中にいた。
蝋燭の淡い炎がゆらゆらと揺れ、岩肌を照らす。湿った空気と静かな水滴の音。


「手当はしておいた。お前が勝った。無理に起きるな」

炎の向こう、橙色の仮面を被った男。
その男は、かつて“暁”でデイダラと共に現れた謎の存在だった。

「俺はお前の敵ではない。…うちはイタチの事を伝えるためにここへ連れてきた。俺はうちは一族の生き残り…あの夜の協力者”うちはマダラ”だ」

サスケが仮面の奥から覗いた写輪眼を見た瞬間──

「……!!」

視界が激しく歪んだ。瞳が焼け付くように疼き、次の瞬間、黒炎がほとばしる。

「なんだ…今のは?」

洞窟の壁が黒く焼き焦がされ、炎がうねるように拡がる。
男は体を霧のように揺らして、その一撃を回避していた。

「イタチがお前に仕込んでいた”天照”だ。さすがイタチ…ここまで手を打っておくとはな」

サスケは視線が定まらない。
何故だ?なぜ、そんな術を自分に?

「一体…なんのことだ」

そのつぶやきに、男は静かに答える。

「決まっているだろう。お前を、守るためだよ」


──その言葉は、胸に鈍い衝撃を与えた。


うちはマダラと名乗る男はイタチがサスケを守ろうとした事、イタチの真実について語り始めた。

サスケの中で、過去と現在の兄の姿が交錯する。
そして思考が飽和し、息が止まったかのように喉を詰まらせる。

過呼吸に陥ったサスケは意識を飛ばし、気づけば縄で拘束されていた。

マダラは静かに語る。

九尾騒動後に向けられた疑念、里とうちはの深まる亀裂。
うちは一族のクーデター計画。
里と一族の二重スパイとなったイタチ。
上層部から下った“うちは一族全員抹殺”の任務。


「イタチは全ての任務を全うした。
ただ一つの失敗を除いてはな…」



──”弟だけは殺せなかった”



サスケの身体が鉛のように重くなった。


マダラは淡々と話しつづける。

ダンゾウへの牽制、ヒルゼンへの託し、暁への潜入。
呪印からの解放、全て“弟を守るため”に彼が成した事だと。


「やめろ!!嘘だ!!そんなもの全て……」




「何故ならお前は生きている!!」




その宣告に、身体が凍りついた。

「あいつにとって、お前の命は里よりも重かったのだ」

縄を解かれてもサスケは動けない。


病に蝕まれた身体を薬で延命し、新しい力を授けるため、仇を討った英雄に仕立て上げるため、最後は弟の前で散る──計画通りに。

イタチは最後まで、あの頃の優しかった兄のまま。

自分の瞳がそれを見抜けなかったのだ。


彼は全てを背負い、悲しみと孤独の中で散っていった。
名誉の代わりに汚名を、愛の代わりに憎悪を受け取って。


──それでも、最後は笑っていた。



サスケは涙を呑み下す。


兄が守った木ノ葉は、守るに値しない。


「我らは蛇を脱した。これより“鷹”と名を改める」


胸奥に燃え広がる新たな炎。


「目的はただ一つ……木ノ葉を潰す」


ゆっくりと瞳が開かれ、万華鏡写輪眼が闇を赤く照らす。



──”手懐けた”

マダラは面の奥で冷たい笑みを浮かべていた。
 
 

 
後書き
ここまで読んでくださりありがとうございます!
イタチとサスケの戦いはやっぱり悲しくなります。 
ミズノの想いも含めて、楽しんでもらえたら嬉しいです。 
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