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月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

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第零章 赤き瞳に封じられた真実

 
前書き
その瞳に宿るのは、光か、それとも闇か。
近づく運命の時。

ミズノは運命の戦いを迎える二人に想いを馳せ、過去の冷たい記憶を辿る。

祖父が語った隠された真実とは──。
 

 
夜の森、あの封じられた記憶が蘇る。
過去は血に縛られ、未来は霧に覆われていた。けれど、その狭間で私は選択する。

何を守り、何を救うのかを──。

月明かりの下、私は息を潜めていた。闇の奥で近づこうとしている二つの影。彼が辿り着くその瞬間を前に、胸の奥の冷たい記憶が静かに目を覚ます。

雪の残る、刺すように寒い冬の朝。

病床の祖父は、自らの死期を悟っていたのだろう。
母、姉のイズミ、そして当時九歳だった私を自室へと呼び寄せた。古い畳と線香の匂いが漂う部屋。皆の視線が集まる中、祖父は乾いた唇をゆっくりと開いた。

「……お前たちに、伝えておかねばならぬことがある」

その言葉に、空気が張り詰める。
祖父は母に視線を向けて静かに頷くと、部屋から下がらせた。残されたのは祖父と私達二人だけ。イズミと私は息を呑み、ただ次の言葉を待つ。

一拍の沈黙の後、祖父は深い皺の刻まれた指で布団を握りしめ、重々しく語り始めた。

「お前達には……初代火影・千手柱間様の血が流れている」

その名を聞いた瞬間──張り詰めていた部屋の空気が、一層鋭さを増した。

「我らの始まりは、千手柱間様の姉上・棟間 (とうま)様。……棟間様の子が、お前達の曾祖母・張子 (はりこ)様。張子様の子がキリコだ」

祖父の言葉に、隣でイズミの喉が小さく鳴る。
膝の上で握りしめた拳が小刻みに震え、瞳が大きく見開かれていた。
信じたいのに信じきれない──そんな色が滲む。

私も頭では言葉の意味を理解しているのに、心が追いつかない。視線は自然と膝の上へ落ち、心臓の音だけが耳の奥でやけに大きく響いていた。

私達が言葉を失っている間も、祖父の話は紡がれていく。

第二次忍界大戦時。

うちは一族の忍・祖父シグレ。千手一族の忍、祖母キリコ。二人は、互いの素性を知らぬまま特殊任務中に出会い、深手を負った祖父を医療忍術に長けた祖母が救った。
かつて争い合い、決して相容れぬはずの千手とうちは。

しかし惹かれ合った二人は、後に互いの正体を知っても引き返せなかった。

「当時はまだ千手とうちはの溝が深かった。だがキリコは、自身の正体を隠し通し……私と生きていく事を選んでくれたのだ」

過去を語る祖父の声が、僅かに掠れ始めた。

「この事実を知った柱間様はすでに病に伏し、死期も近い中であった。それにもかかわらずあの方は……キリコは戦死したと記録を改ざんし、我らを庇って下さった。最後まで姉上の血を……自分の家族を……守ろうとして下さったのだ」

灰色がかった瞳が、私とイズミを順に見つめる。

「この事実を知るのは、我ら家族と柱間様、そして二代目火影の扉間様のみ。決して生涯、他言してはならん 」

祖父はゆっくりと息を吐くと、私へと視線を向けた。

「ミズノ、お前が三歳の頃のことだ──」

その記憶は、私には残っていなかった。
しかし祖父の声と共に、当時の情景が色鮮やかに浮かび上がる。

桜が舞い散る春の日。

座敷の片隅で、家で飼っていた白猫のハクが家族に見守られ、静かに息を引き取った。誰もが別れを受け入れようとしていたその時、幼い私は無意識に小さな指を絡ませていた。

誰にも教えられていないはずの印。

手のひらから淡く緑の光が溢れ、空気がフワリと揺れると、白い花が咲いた枝が小さな手の上に現れる。

ハクと同じ色の白い花。

それをそっと亡き骸に供え、小さな手でその身体を撫でると──ハクの身体が微かに動く。閉じられていた瞼がゆっくりと開き、金色の瞳が再び光を灯した。

その光景を見た父は息を呑み、母の瞳は驚きで揺れ、イズミは声を発することすらできなかった。

「ミズノ……」

祖母は震える声で私を呼び、小さな身体を抱きしめる。

祖父は、震える祖母の肩に手を置いた。

──その力に心当たりがあったからだ。

初代火影柱間の血継限界・木遁、そして命を呼び戻すほどの回復の力。

千手とうちはの血が混ざったことで、あまりにも特別な力を宿してしまった。

その日から祖母は、私に厳しくチャクラの制御を教え込み、祖父は二度とその力を使わぬよう私に言い聞かせたという。

祖父の声が、低く沈む。

「ミズノ、お前は柱間様から受け継いだ木遁を使うことが出来る。そして、命すら呼び戻す力がその身に宿っている。万が一、うちはに伝わる“瞳の力”とお前の持つ力が結びついてしまえば……忍界の秩序そのものを揺るがすやもしれん。この事、決して忘れるな」

私が唇を噛み締めると、隣のイズミが私の手をそっと握ってくれた。

「もしその力を知られてしまえば、お前を利用しようとする者が必ず現れる。木ノ葉すら例外ではない……。
場合によっては、災いの火種にすらなりうる」

すると私を握る手に力を込め、イズミが口を開く。

「そんな事、絶対にさせない。私が絶対にミズノを守る」

小さい声。しかし、眼差しは強く揺るがなかった。

祖父はイズミを見つめ、深く頷く。

「もちろんだ、イズミ。ミズノを頼む。
そしてミズノ……今後も一切、木遁とその力は使わないと約束してくれ」

返事を待たずに祖父は私の方へ手を伸ばし、冷たい掌で額に触れる。

その瞬間──何かが胸の奥深くへと冷たく絡み付き、重く沈み込んでいった。私は一瞬息苦しさを感じ、右手で胸元を押さえる。

「……不測の事態に備え、その力が発動した時に反応する封印術を施した。これは、お前を守るためだ。
ミズノ……多くの重荷を背負わせ、自由を奪い……本当にすまない」

祖父の声は掠れ、浅い呼吸を繰り返している。

「だが、これが……私にできる……唯一の守り方だ……」

最後の言葉が白い息と共に消え、祖父の手がゆっくりと私の額から滑り落ちていった。

障子の外で、木から落ちた雪が大きく舞いあがる。

赤く光る私の瞳から頬を伝ったのは、悲しみだけではない。

どうして……私の意志を確かめてもくれなかったのか。

イズミは私を抱き寄せた。
その温もりが、凍りつくような私の心を辛うじて支えてくれる。

祖父が危惧していた通り、私の特別な力は万華鏡写輪眼と結びつき、大きな術を宿した。

大地を再生し、死した魂を呼び戻す力──。

発動条件は、対象の人物の身体が残っていること。そして私がその死の瞬間を見届けていること。

しかし、術を発動すれば封印の大樹が私を絡め取り、私はやがて朽ち果てる。

雲間から覗いた月光が、髪を淡く照らす

私は目を開き、遠くの気配を見据えた。

「術は、まだ未完成……。けれど、必ず完成させる。その為に全てを見届ける」
 

──たとえ、この命が樹に囚われるとしても。
 
 

 
後書き
お読みいただきありがとうございます!
ミズノはどんな選択をするのか…見守っていただけたら嬉しいです! 
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