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月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

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第六章 再会、届かぬ願いと揺るがぬ覚悟

 
前書き
再会は、残酷なほどに優しかった。
生きてほしい。
けれど彼は、覚悟を背負って歩き出す。
二人がそれぞれ選んだ覚悟の章。
 

 
夜の森に差し込む月光。
静寂の中で、二人は再び出会う。

──再会は永遠ではなく、別れへと続く道だった。




“サスケが自分を追っている”

その知らせが届いた瞬間、イタチは静かに動き出す。

彼は、サスケを追っていたナルトの前に姿を現し、弟に対する強い思いを確かめた。

そして自らの力を託すと、再び闇の中へと消えていったのだった。




──イタチがナルトと別れたほぼ同じ頃。

もう一人の“うちは”もまた、密かに動き出していた。

“やかぜラン”

それは、うちはミズノが偽っていた仮の姿。彼女は今その術を解き、自分自身の姿でイタチを探していた。

(本当の姿で、お兄様に会いたい!)

焦りから、うまく呼吸ができない。
彼の面影を探し、木々の影が揺れるたびに視線をむけてしまう。わずかに感じる彼のチャクラを感知しながら、夜の森を必死に走り抜けていく。

ミズノは同じ暗部の隊員から、サスケがイタチを追っているとの情報を聞き、独断で動いていた。

時折、立ち止まっては周囲を警戒する。
誰にも気付かれてはならない。しかし、たとえ自分の正体が暴かれる危険があってもイタチを見つけだしたい。

ふと、薄暗の空からカラスの羽がひらひらと舞落ちてくる。


──その瞬間、彼のチャクラを強く感じ取った。


「この先に……イタチお兄様がいる……!」

生い茂る木々の向こう側から、気配を感じる。
そこはかつて、うちは一族が使用していたアジトがある方向。必死に木々をかき分け、足早に森の奥へと歩みを進めて行く。


──その先にあったのは、懐かしくて誰よりも遠い、あの背中だった。


「イタチお兄様!!!」

忘れたはずの響きに夜気が震え、彼は振り向く。

その刹那、イタチの瞳がわずかに揺れた。
しかし、かすかな揺らぎは一瞬で閉ざされ、赤い瞳は冷たさを取り戻す。

「まさか……俺の月読を受けて生きていたとはな……復讐でもしにきたか。俺は、お前に構っている暇はない」

言い捨てるように、イタチは背を向けて歩き出した。

──数歩

突如、激しい咳が彼の足を止める。

「お兄様!!」

彼の身体が折れ込むのを見た瞬間、否定したかった現実がミズノの中に広がった。

このままいけば、もう──。

答えが心に突き刺さる。

抑えきれぬ焦りと悲しみが、怒りを帯びて溢れ出した。

「復讐なんかじゃない!!私はお兄様を助けたくてきたの!そんな身体でサスケと戦うつもりなの?
どうなるかわかってるのに、むしろ“それ”を望んでる。永遠の万華鏡写輪眼をサスケに託すために……」

イタチの肩が微かに揺れる。

「イズミお姉様はあの日、万華鏡写輪眼を開眼した。
その力を私に託したの」

ミズノの肩もまた小さく揺れ、握りしめた白い拳が言葉にならぬ悲しみを物語っていた。

「そんなもの、私は望んでなかった。ただお姉様に生きていて欲しかっただけ……」

押し込めてきた悔しさと怒りが喉を詰まらせる。しかし、それは彼に対してではない。

彼が押し付けられた過去を、選べなかった現実を、彼の運命を──静かに拒絶しているのだった。

「サスケだって、きっと……同じだよ」

こぼれ落ちそうになる涙を、力を込めて耐える。

「私は知ってる。里がお兄様一人に背負わせたもの全部。もう一人で抱えなくていい。
サスケがいる、私もいる。一緒に受け止めるから……」

彼の答えを待つ間、自身の胸の鼓動だけが耳の中に大きく響いていた。


──永遠に続くかのような沈黙。


イタチは赤い瞳から光を落とす。
ゆっくりと振り返ったその表情には、先ほどまでの冷たさはなかった。
ただ懐かしさと優しさだけが滲んでいる。

彼は一歩、歩み寄り、温かな声音で言葉を紡ぐ。

「俺は……そんな言葉をかけられるような人間じゃない。だが、お前が生きていて……っ……」

声が喉の奥で擦れ、彼は口元を右手で覆った。
再び咳き込みながら片膝をつく。
指の隙間から血が滴り落ち、地面に染み広がっていった。眉を深く寄せて、苦しげに肩を上下させている。

ミズノの胸に、大きな絶望と恐怖の波が一気に押し寄せてくる。

駆け寄ろうとした瞬間、イタチは拒むように首を振った。

「これは……報いだ」

彼の表情には、決して揺らぐことの無い決意と覚悟が浮かんでいる。

「時間がない……」

イタチはふらつきながらも立ち上がり、口元を拭った。
マントを翻しながら、迷いなく歩み出していく。

ミズノの喉は焼けついたように、うまく息を吸えない。呼び止めたいのに声が形を成さない。

──次の瞬間、強く地を蹴り駆けだした。

震える指先をイタチの背中に伸ばす。
勢いのまま、彼の背負い続けた闇と悲しみごと抱きしめた。


──その身体は、あまりにも痩せていた。


(……!!)

目の奥が熱い。鼻の奥に痛みが広がっていく。

彼を抱きしめる腕に力を込めた。

「お兄様、サスケに本当の事を話そうよ……三人で、里に帰ろう?お兄様の身体も治せるはずだよ。それに、私もサスケも昔とは違う。強くなったよ……今なら一緒に戦える。だから……」


(行かないで……)


最後の言葉が途切れる──。


堪えきれずに涙が溢れ、彼の背中を濡らしていく。

「……お願い……生きて……」

静かな森の中にミズノの想いと、風で葉が擦れ合う音だけが響いていく。

イタチは彼女の手の上へ、静かに手を重ねた。

「ミズノ、お前は本当に優しいな。……昔と変わらない」

彼はそっと手を握りしめてくれた。

血で染まった、大きな優しい手。


──しかし氷の様に冷たく、冷え切っていた。


「……この身体に残された時間は、後わずかだ」

ミズノは、首を強く振り否定する。

「里には綱手様がいる!!絶対に治る!」

イタチはミズノの手をそっと、けれど確かな力で身体から離した。

「サスケに俺の眼を託す。それが兄として、サスケにできる最後の償いだ」

彼は振り返り、どこか懐かしむように微笑む。

まるで幼いあの頃のように、そっとミズノの額に“トン”と指を当てる。

「お前に会えて、嬉しかった。そして……ありがとう」

イタチは手を下ろすと、名残を断つようにゆっくりと離れていった。

(子供の頃と同じ……お兄様……)

震える手を額に当て、触れたばかりの優しさを感じ取る。涙で霞む視界の中、森の奥へと進んでいく彼の背中は、幻のように淡く月明かりに照らされていた。


──もう届かない。


ミズノは、その場に力無く座り込んだ。

(サスケ、お願い。お兄様の思いに気がついて……)

胸が押しつぶされるように痛む。両手で地面を押さえると、流れ落ちた雫が土の色を変えていった。

止められなかった悔しさも、伝わらなかった想いも、刃のように胸の奥に突き刺ささっている。ミズノは音もなく身体を震わせていた。



──しかし、彼女は己を奮い立たせる。



(私は託されたんだ。イズミお姉様に)


地につけた両手を握りしめ、涙にぬれた顔をあげる。
彼女の瞳が赤い光を灯した。


六つの花の弁の模様──永遠の万華鏡写輪眼。


(イタチお兄様、サスケ、私はこの眼で全てを見届ける。イズミお姉様と一緒に)

胸の奥に積もり続けてきた全てが、一つの決意へ形を変えていく。

(必ず助けてみせる……私の力で)


ミズノは涙を拭い、深く地を踏み締めていった。



──うちはのアジトの最奥へたどり着いたイタチは、おぼつかない足取りで壁に寄りかかり、荒い呼吸をゆっくりと整える。

薄く開いた瞳には、懐かしい面影がよぎった。

「もうすぐだ……」

その言葉に宿るのは、迫る戦いの時か。
それともあの日、自らの手で手放した“彼女”への想いか──。

イタチは静かに瞼を閉じ、天を仰ぐ。

「これで全てが終わる。……待っているぞ、サスケ」




──闇夜の静寂が、ミズノの決意とイタチの覚悟を包み込む。

やがて静けさは終わり、運命の嵐が近づいていた。 
 

 
後書き
お読みいただき、ありがとうございました!!
切ない別れの中で、二人は決意と覚悟を決めました。
まだまだ物語は続きます。読んで頂ければ嬉しいです。
 
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