| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

月と樹と写輪眼 ─もう1人のうちは─

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章 幼き日の記憶

 
前書き
もし、もう一人の“うちは”いたら?

うちはイタチ、弟サスケ。
うちはイズミ、そしてイズミの妹ミズノ。

幼なじみの4人の小さな思い出。

NARUTOの“ifの物語”

ここから、彼女の物語が動き出す。
 

 
木ノ葉隠れの里の郊外。
眩しい日差しが降り注ぐ川辺に、風を切る鋭い手裏剣の音が響いている。

川の向こう岸に並べられた複数の的。横一列に並ぶうちはサスケ、うちはイズミ、うちはミズノの三人は必死に的を狙っていた。

陽の光にきらめく水面の対面岸に立ち、穏やかな声で指導をしながら優しく微笑むうちはイタチ。

天才と呼ばれる彼は里や家族、仲間を思う優しい心の持ち主だった。

そして、弟サスケ、幼馴染の姉妹もそんな彼を深く慕っていた。

──まだ誰も知らない。

この穏やかな時間は、永遠ではないことを。



風が吹くたびに木々が揺れ、木漏れ日が四人の姿を照らしている。

サスケは兄の言葉に真剣な表情で頷き、イズミとミズノもそれぞれ真剣な面持ちでイタチを見つめていた。

まずはイタチが三人に手本を見せる。
彼の手から放たれた手裏剣はまるで吸い込まれるように、全ての的の中心へと正確に刺さった。

「すごい!!イタチお兄様!」

キラキラした瞳でミズノはイタチを見つめている。
その尊敬と憧れが入り混じった彼女の無邪気な表情と声に、サスケは少しだけ面白くなさそうに唇を引き結んだ。

「次は私だね!」

続くイズミが手裏剣を投げると、見事に全ての的の中心を射抜く。

「なかなかやるな、イズミ」

「お姉様も全部の的に刺さってる!」

妹のミズノからの熱意のこもった眼差しに、イズミがふわりと笑う。イタチもまた、そんな姉妹の姿に柔らかな微笑みを浮かべていた。


四人の修練は続く。


イタチの表情はとても真剣で、とても穏やかだった。

「サスケ、次はお前だ。俺やイズミの動きをよく見ていたか?」

「見てなくたって余裕だよ!全部の的に当ててやる!」

息巻いて進み出たサスケが、力一杯手裏剣を投げる。
しかし、力みすぎた手裏剣は一つだけ的に刺さり、無情にも残りは全て外れてしまった。

「くそっ……!!」

「サスケ、集中しろ」

イタチの静かな眼差しと声に、サスケは悔しそうに俯きながら後ろへと下がる。

「次は……私だね」 

今度はミズノが手裏剣を投げると、軽快な音と共に全ての的の真ん中へと命中した。

「やった!!」

その様子を見たサスケは表情を曇らせ、自分だけ成功しなかった不甲斐なさに拳を静かに握りしめる。そしてなにより、ミズノに格好悪いところを見られたと酷く落ち込んでいた。

そんなサスケの横顔に気がつくと、ミズノは優しく微笑みながら語りかける。

「サスケ、大丈夫だよ!私の方が二歳も年上でお姉さんなんだから、サスケより上手くて当たり前だよ!」

「二歳しか変わんないだろ!偉そうに姉さん面するなよ!」

「もー!いつも言ってるでしょ!!サスケは絶対にできる!強いんだから。次は絶対に成功する!」

真っ直ぐに背中を押す言葉に、サスケはほんのりと頬を染め、グッと歯を噛み締めた。

二人のやりとりを静かに見守っていたイタチは、ゆっくりとサスケの方へ歩み寄り、そっとサスケの肩に手を置く。

「焦るなサスケ。お前には冷静さが必要だ」

イタチは手裏剣を取り出し、サスケに手渡した。

「落ち着いて、呼吸を整えてやってみろ」

イタチの表情には、弟を信じて見守る優しさが浮かんでいた。ミズノはそんなイタチの姿を見ながら、静かに胸が高鳴る。

(イタチお兄様、優しいな……)

三つ歳上の彼に、ミズノは憧れと少し背伸びをしたような淡い恋心を抱いていた。

「サスケー!!頑張ってー!!」

ミズノは満面の笑みで、川岸に立つサスケへ向けて両手を大きく振っている。

「お前に応援されなくても、次は絶対に成功してやる!!」

大声で気合を入れると、サスケは深く息を吸い込み、的を鋭く見据えた。

次の瞬間、彼の手から放たれた手裏剣は全ての的へ命中。

「やった!!サスケ!!」
「……うわっ!?」

ミズノは弾かれたように駆け寄り、勢いよく抱きついた。

「な、なんだよ!くっつくなよ!!」

サスケは耳まで真っ赤に染めながら、慌ててミズノの肩を押し返す。

「さすがは私の弟弟子だね!」
「誰がお前の弟弟子だよ!」

にっこりと自慢げに笑うミズノと、照れ隠しに声を荒らげるサスケ。その賑やかなやりとりを見ていたイタチとイズミは、顔を見合わせてふふっと微笑み合っていた。

(イタチお兄様とお姉様、仲いいな……)

二人の様子を見たミズノは、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべる。胸の奥がちくりと痛むのは、たぶんこの小さな恋心のせい。

けれど、それ以上に──優しく笑うイタチと姉のイズミがいて、隣には負けず嫌いの弟のようなサスケがいる。

四人で過ごすこの時間が、ミズノは何よりも大好きだった。

しばらくするとイタチは、微かに物悲しさを湛えた眼差しでサスケとミズノの方を見る。そして再びイズミの方へ視線を向けた。

「今日はここまでだ」

ミズノ達はその声で空を見上げ、夕暮れが近づいていることに気がつく。

イタチはサスケとミズノの方へ近づき、いつものように二人の額を順番に“トン”と指で小突いた。

「また今度だ……」

二人を見つめる眼差しは優しかったが、その表情にはどこか深い悲しみが垣間見える。

「みんな気をつけて帰れ。俺は今から少し用がある」

茜色に染まる夕暮れの中、静かに去っていくイタチの背中は何か重い影を背負っているようだった。

「イタチお兄様!!また今度みんなで修行しようね!」

ミズノが声をかけると、イタチは静かに立ち止まる。
ゆっくりと振り返り、柔らかな微笑みを向ける。

「……ああ、だが俺は任務でしばらく忙しくなる。
約束はできないが、きっとまた」

言い終えると、長い髪を風になびかせながら再び歩き出す。

ミズノはなぜか胸騒ぎがした。

「イタチお兄様、任務頑張ってね!サスケの事は私がしっかり面倒みておくからね!」

「なっ……お前に面倒見てもらう必要なんてない!」

サスケの叫び声を背に、イタチは足を止める事なくそのまま歩き去って行くのだった。




サスケと別れた後の帰り道。

ミズノは、隣を歩く姉のイズミに疑問を投げかけた。

「ねえ、お姉様、イタチお兄様……なんか変じゃなかった?」

イズミは少しだけ目線を落とし、ゆっくりと頷いた。

「そうだね……イタチ君は優秀な人だから……私達にはわからない、なにか難しいことを考えてるんだと思う。
任務も忙しくて、きっと少し疲れてるんじゃないかな」

「そっか、お兄様ってすごいね……最近忙しそうだけど、お兄様の任務が終わったら、私もっとみんなで修行したいな。私、四人でいるのが楽しいの!みんなのことが大好きなんだ!」

「うん!私もだよ!!」

イズミとミズノは笑い合いながら、家へと向かって歩いて行くのだった。


──しかし、その日を境に四人で過ごす穏やかな時間が戻ってくることはなかった。


季節が幾度か巡り、三年という月日が流れる。

偶然すれ違うことがあっても、交わすのは短い挨拶だけ。ミズノはまともにイタチの顔を見ることすら出来なくなっていく。

行き場のない寂しさを埋めるように、ミズノとサスケは“兄や姉を超え、強くなる”という目標を掲げ、二人で修行に明け暮れる日々を送っていた。




──ある日。

川辺で修行をしていたサスケとミズノは、木陰で休憩していた。

「ねぇ、サスケ。イタチお兄様は家に帰ってきてるの?」

サスケは兄の名を聞くと、眉をしかめて俯いた。その表情には僅かな苛立ちと寂しさが見え隠れする。

「……兄さんは任務が忙しいらしくて、帰ってきてもすぐにまたどこかに行く。修行をつけてもらいたくて頼んでも、いつもまた今度だって誤魔化される……」

「そうなんだ……サスケもあんまり会えないなんて、お兄様本当にすごく忙しいんだね……」

サスケはイタチに会えない事を悲しんでいる様子の彼女から目を背け、力強く立ち上がった。

「俺は兄さんより、強くなる!驚かせてやるんだ、絶対」

「……うん、私も強くなりたい。お兄様と一緒に修行できなくても、サスケには私がいるよ!一緒に頑張ろうね!」

屈託のないその笑顔に、サスケは耳が熱くなるのを感じて素早く目を背けた。


そして、二人は修行を再開したのだった。


──その夜。

イズミとミズノの家の大きな木の上に、イタチは月明かりに照らされながら佇んでいた。深い影を落とした表情で、二人の家を見つめるその瞳には、写輪眼が月明かりに反射して浮かび上がっている。

彼は小さく息をついた。

(もう決して、あの頃に戻ることはできない)

暗闇の中でイタチの表情には深い悲しみ、そして決意が刻まれている。

二階の部屋で休もうとしていたミズノは、ふと微かなイタチのチャクラを感じ、急いで窓を開けた。

眉を寄せ、目の前の木に目を凝らす。

「イタチお兄様?そこに……いるの?」

すると、イタチが木の葉の間からゆっくりと姿を現した。

月明かりに照らされた表情には、深い憂いが宿っている。

「ミズノ……まだ起きていたのか」

「お兄様!どうしてここに?任務が終わったの?」

久しぶりに会えた喜びに、ミズノの顔がパッと明るく綻ぶ。そんな彼女の様子に、イタチの表情が少しだけ和らいだ。

「ミズノ、サスケと仲良くしてくれているようだな……これからも仲良くしてやってくれ」

ミズノは驚いた表情を見せながらも、力強く頷いた。

「うん!もちろん!私とサスケは姉さんと弟みたいなものだから。安心して!」

イタチは再び影を宿した目でミズノを見つめる。

「ありがとう……ミズノ、もう休め」

残されたその言葉と共に、イタチの姿は夜の闇の中へと消えていった。

「イタチお兄様……どうしたんだろう。なんだか悲しそうだった」

ミズノは布団に入った後も、しばらくイタチの事を考えていた。

(また四人で一緒に修行出来るといいな……)

彼女は温かい希望を抱きながら、静かに眠りへと落ちていく。


──うちは一族の運命がイタチによって変わろうとしていることを、この時は知る由もなかった。 
 

 
後書き
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ミズノの幼い日常を通して、イタチやサスケとの絆を描きました。
次章からは、彼女の運命が大きく動き出していきます。
もし楽しんでいただけましたら、感想いただけると嬉しいです。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧