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冥王来訪

作者:雄渾
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第三部 1979年
反ソ連合結成
  10万里の旅 その2

 
前書き
 毎年恒例の天長節の投稿です。
5月3日の投稿は、普通に行う予定です。 

 
 全世界がケープカナベラルでのロケット発射に注目している頃、ウラジオストクでは動きがあった。
旧チューリン百貨店の建物に設置されている国防省本部では、大臣の指名した少人数による密議が行われていた。 
目的は、ソ連宇宙艦隊の再度の月面派遣である。
 この諮問会議のメンバーは、ヤゾフ元帥、新任のアフロメーエフ赤軍参謀総長、GRUを統括するイワシュチン副参謀長兼GRU総局長、トルプコ副大臣兼戦略ロケット軍総司令官だ。
 ヤゾフ元帥は、初の諮問会議で、前任者であるウスチノフ元帥の政策および軍事的姿勢を継承することを宣言した。
かつての大祖国戦争時のような大動員は出来なくとも、月面攻略戦の如何によって、米国との対等な軍事バランスを築くことが目的であると説明した。
 ヤゾフの言葉に耳を傾けていた彼らを驚かせたのは、G元素への言及である。
それというのも、BETA戦争開戦以来、ソ連の国家方針としてハイヴはおろか、BETAに由来する物は完全に消滅させるのが決まっていたからだ。
 ソ連政府の公式声明では、国連及びそれに類する機関への研究協力は惜しまないと発表していたが、実態は違っていた。
ノボシビルスク市にあった細胞・遺伝学研究所の爆発事故以降、国連と共に推し進めたオルタネイティブ3計画は深刻な影響を受けた。
1958年から同研究所で行われていたキツネの家畜化実験の記録はおろか、西側から秘密裏に来ていた学者は全員が死亡し、研究そのものが破棄される結末を迎えた。
3年に及ぶ秘密交渉で、なんとか賠償は回避できたものの、西側の援助者たちは自分たちに有利な条件で交渉を押し付けようとしてくる。
国際情勢に敏いインテリ層ならば、ソ連のBETA研究は行き詰まりを迎えている事は、周知の事実だ。 
 
 秘密裏に集められた諮問会議に課された使命は、ゼオライマーとあからさまに対立せずに月面を攻略する戦略の策定だ。
アフロメーエフ参謀総長が口を開いた。
「まず、米国の動きですが」
 参謀総長は、月面地図の張られた白板の前にまで来ると、指示棒で静かの海を指した。
「静かの海に大部隊を空挺降下させた後、ハイヴに戦術機部隊を投入するであろうと予測されます」
 そして、指示棒を隣に貼ってある月面の裏側の地図に当て直した。
「そこでわが軍は、今回の作戦において、バビロフ・クレーターに核飽和攻撃を実施し、速やかに部隊を派遣することとしました」
 ソ連は、1959年の無人探査機「ルナ3号」により、世界で初めて月の裏側を撮影・観測していた。
 ただ月の面と違い、裏側は40万キロ離れているので電波障害が発生しやすかった。
その為、セルゲイ・コロリョフの肝いりで、黒海艦隊の通信を止めさせ、米国よりも早く貴重なデータを得たのだ。
「問題は」
 ヤゾフが口を開く。
「そこまで届くロケットがあるかという事だ」
 この場合のロケットは、宇宙ロケットではない。
核ミサイルのことである。
 トルプコ副大臣兼戦略ロケット軍総司令官が、力強く答えた。
「同志大臣、R-36の新型は既に実用段階にあります。
20メガトン級の小型核を10発ほど内蔵した、多弾頭式であります」
 R-36M2は、全長34.6メートル、直径3メートルの超大型ミサイルだ。
最大射程は16000キロメートル、最大当社は8800キログラム。
 単に巨大なだけではなく、能力も以前のR-36とは格段の向上を経ている。
 発射指令から、発射までの時間短縮。
レーダーに検知されやすく、攻撃に脆弱な、ブーストフェイズの時間短縮。
分断式を改良し、弾頭の命中精度を高めたなどである。
 史実での実戦配備は、1988年からである。
だが、この異世界ではすでに1977年の段階でほぼ完成しており、実戦配備は1980年を予定していた。
 
 トルプコ副大臣は、熱弁を続ける。
「日本野郎に頼らなくても、ハイヴの撃滅は、現在のソ連の科学力を持ってして十分可能なことです」
 イワシュチン副参謀長は、椅子から立ち上がって、付け加えた。
「米国にいる工作員(アゲント)からも、報告は届いております。
新型のG弾兵器が、すでに実戦配備状態であることを確認したと!」
 ヤゾフ元帥がまとめた。
「諸君!
我々はBETAを総力を挙げて抹殺するとともに、月面を奪回せねばならん。
もともと、我々のものだったのだからな!」
 
 その頃、党政治局を中心とし、閣僚会議、最高会議幹部会、ソ連の最高権力は、異様な恐慌に(おのの)いていた。
幹部会では、今日もその事について大会議が開かれていた。
 幹部会の評議はなかなか一決しない。
 ところへ、トルプコ副大臣が急遽(きゅうきょ)伺候(しこう)して来た。
時局の急を察し、一大献策のために参ったと彼はいう。
 ゴルバチョフは招いて、すぐ訊ねた。
「では同志トルプコ。いかなる策があるというのですか」
「さればです。いまこそわが軍は月面の天与を利し、G元素をとって、次の侵略に備えておかねばなりません。
強馬精兵を内に蓄たくわえてさえおけば、アフリカのごときはいつでも奪れる機会がまたありましょう」
 トルプコは難航しているアフリカでの作戦上にも、なお固く必勝の信念を抱いているらしく陳じた。

 トルプコの発言は、会議の方針を導くに充分な力があった。
なぜならば、彼の任地であった極東は、ソ連、中共、日本という三国の利害が交叉している重要な地域だ。
彼はその現地防衛司令の重任にあったのみならず、智慮才謀にかけても、断然(だんぜん)超一流の人物である。
「大策の決った上は、現地のことはすべて戦略ロケット軍にまかせます。適宜(てきぎ)対処されるように」
 ゴルバチョフは少し間をおいてから、いった。
すなわち、この間に対米問題も、アフリカでの時局方針も一決した。
 ヤゾフは、議長の決定を補足する。
「機は熟した。
GRUと協力して、月面ハイヴを攻め取れ。
直ちに出撃せよ!」
 後陣の副将として、現政権の派閥であるドニエプロペトロフスク出身者から、チェルナヴィン提督を特に添えてやった。
 三万の精兵は、一夜のうちに、80余りのシャトルやロケットに乗りこんだ。
参軍の諸将には、マルゲロフ空挺軍司令、ボブロフ第4航空隊指令など名だたる猛者のみ選ばれた。
 そのうち10機ほどは、半日ほど先に月に向かって出発して行った。 
 

 
後書き
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