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冥王来訪

作者:雄渾
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第三部 1979年
反ソ連合結成
  宿願 その1

「おい、野郎ども!」
 号令台から声が響く。
裂帛たる声を上げたのは、ヨアヒム・バルク大尉。
 黒く染めた米軍熱帯野戦服を着ているが、腰にはワルサー拳銃が下げている。 
左袖のドイツ国旗の刺繍と、背後に立つ西独軍の将校がいなかったら、米軍と見まがうような格好だ。
「今度の作戦は、米軍の皆さんと共に月の静かの海に乗り込むことになっている。
その際、貸し出される戦術機は、約8000万マルク相当の品物だ。
高い道具故に、何とか無傷で返さねばならん!
お前たちの棺桶代の何千倍、線香代の何万倍という事を忘れるなよ!」
 整列する一個大隊30名のパイロットと600名の地上勤務員の顔が、演台に向けられる。
新たに号令台に昇ったのは、西独軍戦術機部隊大隊長のクラウス・ハルトウィック上級大尉だ。
「5年前、中共のカシュガルに飛来した着陸ユニットは、月面から送り出されたのは、諸君らも記憶
にあるだろう。
月が奴らの本拠地か、根拠地かは不明だ。
我が第51戦術機甲大隊は、米軍に先行してそこに乗り込み、敵を殲滅する大任を命ぜられた」




 米国アリゾナ州ルーク空軍基地。
州都フェニックスから30キロほど離れた場所にあるこの場所は、戦後長らく西ドイツ空軍の訓練場の一つであった。
 700機以上のロッキードF-104スターファイターを導入した西独空軍は、安定した天候を持つ米国中西部の飛行場で訓練を積んだ後、本国に戻る制度が導入されていた。
それは、ドイツの天候が不順で曇り空が多いという飛行訓練には不向きな環境だったからである。
 だが1979年10月に実施される月面攻略作戦に向けて、同基地は往時をはるかにしのぐ規模の改修を受け、
巨大な飛行場へと変貌したのであった。

 西独軍派遣将校は、表向きは参加していない扱いになっていた。
時の国防相ハンス・アーペルが、ドイツ基本法の理念に反する戦争には参加できないと国会答弁した為である。
 その為、義勇軍という形になり、部隊長はヴァルター・クルピンスキー退役中将が務めることとなった。
彼は、第二次大戦時のドイツ空軍の指揮官であり、戦後再建されたドイツ空軍に参加した小生の一人である。
だが、1976年11月8日のルーデルスキャンダルにより、政治的に退役に追い込まれた。
 月面攻略に際し、西独軍の参加を要請されると、世界大戦での経験のある彼は軍に呼び戻され、非公式の部隊の設立を命ぜられたのだ。
 その多くは政治的に問題がある人物が集められ、1961年の西ドイツ空軍F-84機による領空侵犯事件に関与したマルティン・ハルリンクハウゼン中将やジークフリート・バルト大佐などが参加した。  
 なかでもハルリンクハウゼン中将は柏葉付騎士鉄十字章の受勲者の中の一人ではあるが、政府から危険視されていた。
戦前コンドル軍団に関与し、戦時中はゲーリングに、戦後はシュトラウス国防相に食って掛かった経歴のある持ち主だったからだ。

 
 場面は変わって、サンフランシスコ郊外のセント・フランシス・ウッド。 
 そこにある閑静な高級住宅地に立つ、一軒の白い二階建ての家。
呼び鈴を鳴らす音がしたので、その家に住む夫人はドアを急いで明けた。
 その瞬間、防弾使用のBMW・7シリーズから降りてきた人物の姿恰好に夫人は肝を冷やした。
ソ連軍の1969年型勤務服に長靴を履いた人物が目の前に立っていたからである。
車から降りた男たちは、驚く家人を後目にずかずかと家の中に入っていった。 
間もなく、屋敷の主人と妻は、ソ連の将校たちを応接間に通した。

「すっかり、アメリカ人らしくなったな」
 KGB大佐の男は部屋の中を見回した後、笑みを浮かべながら答えた。
「25年もアメリカ人をやっておりますと……」
 夫人がコーヒーを出した。
「粗茶にございます」
 KGB大佐の男は、コーヒーの香りをかぎながら、続けた。
「お前たち夫婦は、ロスアラモスでの研究職をついているそうではないか」
「はい」
 KGBの潜入工作員であるヴァルガ夫妻は、ハンガリーからの亡命者を装っていた。
1956年のハンガリー動乱の際、反政府の活動に参加して、亡命したとCIAを騙し、ロスアラモスに潜り込んでいたのだ。 
「お願いがございます」
 屋敷の主人とその妻は、KGB大佐に平伏した。
「うん」
(せがれ)たちは、自分がソ連人だと知りません。
カリフォルニア生まれのアメリカ人だとばかり……」
 別な将校が憤りの声を上げた
「なんだと」
 KGB大佐は右手でその将校を遮ると、宥めた。
「まあ、良かろう。
アメリカでソ連人であることを隠して生活していくには、仕方なかったのかもしれん」
 大佐は、ソ連製の口付きたばこ「白海運河」の封を切った。
「だが、お前たちまでがソ連人であることを忘れたわけではあるまい」
 大佐は、言葉を切るとタバコに火を点けた。
「KGBにとって、正面の敵は、天のゼオライマー。
とりわけ、パイロットの木原マサキは最大の敵」
 PM自動拳銃を工作員夫妻に向ける。
「ゼオライマー打倒の為、戦略航空機動要塞のスパイ計画に協力せよ」
「ロサンゼルスに別荘を手配してある。
工作隊を組織して、戦略航空機動要塞の情報を奪取するのだ」  
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