『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
横槍(天狗編)
ギュオオオオォォォォ〜〜〜ッ!!
「すげぇな。竜巻まで起こしやがった……」
「………………」
天狗の右腕に持つ刀に宿る長さにして数メートルくらいのそれを目にしながら、俺は半ば感動したように呟いた。
山に棲む天狗が竜巻を起こす………
想像していたのとは少し違ったが、ガキの頃に見た絵本の様な光景が、目の前に広がっている事に不覚にも感激しちまったよ。
たげど、そんな感慨を抱いてる場合でないことも頭の一方で理解していた。雪之丞は、とんでもなくヤベェ状況だ(本人は寧ろ喜んでそうだが……)。
奴の刀に宿るそれには、地形すら変形させる危険性がある。それが遠目からでも、よく解ったからだ。
「込められた妖気が尋常じゃねぇ……あれは、霊波砲じゃ防げないぞ」
「………………」
おそらく、あの螺旋の一本一本が、今までに撃って来た圧縮波だ。
一本で、大木を数本ぶった斬るそれが、何本も……しかも、渦を巻きながら収束してる。あそこまで行ったら、あれはもう竜巻と言うより、 “風のドリル” と言った方が良いかもしれない。それをまともに喰らえば、どうなる?
いや、考えるまでもねぇな……
文珠で霊波砲を強化すりゃ、まだ防げる可能性はある……たが、奴は使わない。なら、逃げに徹するか?
あれを作るには、今までの圧縮波を撃つよりも “溜め” が必要だ。回避出来れば、隙が出来る。そこに賭けるか?いや、天狗だってそれは解ってる筈だ。前みたいな雑な狙い方はしないだろう。
どうする?どうやって、やり過ごす………?
「っ………………!!」
…………何だ?
上を見ながら、思考の海に埋没していた俺だったが、無骸の息を呑む様子に我に返る。こいつは、俺と違って下を見ていた様だが……
「………………迎え撃つ気か?」
「………………」
月光を背に大技を放たんとする天狗に対して、雪之丞は腰を落として両手に念を込めるような体勢を取っていた。
それに、力を溜めてる!?明らかに夜空へ向かって、霊波砲を撃つ構えだ。
「何を考えてる……?」
「………………」
対抗出来ねぇのは、妖気を見りゃ明らかだろ?それでもやる気か?何故……?文珠を解禁?
………………いや、無い。奴の性格上、それは絶対に無い。
なら、何をする気だ?あいつは、無茶苦茶ではあるけど勝算の無い事はしない。無鉄砲に見えて、強かな一面も確かに持っている。
こっから、あいつの表情までは解らない。ただ、その行動には迷いが無いようにも見えた。そうなれば、奴は霊波砲に活路があると見たんだろう。
だが、俺にはそれが見えない………………いや……
「解ったかもしらん。奴のしたい事が………」
「………………!?」
絞り出すように言葉を紡ぐ。そして、言うと同時に顔に手を当てて顰める。
相手は、百戦錬磨の天狗だぞ。そいつに、それが通じるか?一歩間違えりゃ、ミンチ確定だ……
でも、他に有効打なんてねぇな。だとしたら、やっぱお前は……やるよな………
「行くぞっ!小僧ぉっっ!!」
「来いっ!糞親父ぃぃ!!!」
………そんな俺の葛藤お構いなしに、遂に天狗が動く。
刀を……触れた物全てを蹴散らすだろう凶悪な危険性を秘めた竜巻を宿した、その刀を振り被って雪之丞へ突進した。
それに対して、雪之丞は………
「はあああぁぁぁぁーーーーーっっ!!」
……………………予想通り先に撃った。奴にタイミングを合わせてたんじゃ、間に合わねぇからな。
「甘いわぁっ!死ねえぇぇっっ!!____」
グオォォォーーッ!
「____『烈風っ……旋回刃』!!!」
…………ゴォギギャアアアァァァーーーーーーッッ!!!
天狗が刀を振った……その瞬間、まるで抑えつけられていた呪縛でも解き放たれたように何倍にも膨張する渦。
グバアアアァァァーーーーーーーッッッ!!!
最早、風の音かと疑いたくなるような轟音を掻き立てながら直進するそれは、あっと言う間に霊波砲の奔流を飲み込み地面に到達。
グオォォォォォーーーーーッッ!!
……だが、それでも威力は落ちない。
その勢いのまま土煙を上げながらガリガリと地面を削り、そこに生える木々をまるで裁断機にでも放り込んだように何本も細切れにする。
そんな暴虐的な破壊現象を何度も繰り返して……漸く消えた………
本当に数秒程度の出来事だった。そこに残ったのは、何も無い。竜巻で無惨に抉り取られた地面だけ。
大きさで表すなら、深さ数十センチ、幅1〜2メートルの溝が何メートルにも渡って伸びている。それが、あの竜巻の暴威を如実に物語っていた……
勿論、そこに雪之丞の姿は無い。完全に削り取られて細切れになったか、あるいは…………
「おいっ!!」
そこへ、当の大技を放った天狗が叫ぶ。奴は、未だに上空に留まったまま降りて来ない。雪之丞の行方を確認しに来る訳でもなく、ただそこに居た。
…………こりゃあ、十中八九バレてるかもな。流石にそんな上手くは行かないか。
「出て来い!潜ってるのは、解っとるっ!!」
…………そう。天狗は、地面に向かって叫んでいた。雪之丞が立っていた地面の近くへ……
すると、程なくしてズボッと言う音と共に地面から土まみれの雪之丞が起き上がる。そうして、天狗の方を見上げるとバツが悪そうに口を開いた。
「……んだよ。バレバレだったか」
そんな雪之丞の姿を確認すると、天狗も降りて来て奴の数メートル先に立つ。
「………そうでもない。途中までは騙された。今のも半分は、ハッタリじゃ」
「ちっ……なら、出て来なきゃ良かったぜ」
種明かしは、こうだ。
雪之丞は、如何にも撃ち合うようなポーズを見せて、実際に撃った。だが、撃った直後に目の前の地面へダイブするように潜り込んだ。要は、霊波砲を目眩ましに使ったんだ。
…………と言えば、簡単そうに感じるが少しでもタイミングや位置がズレたら危なかった。実際、雪之丞の潜ったすぐ傍に技が炸裂した訳だしな。
「本当に無茶をする奴じゃ……じゃが、小僧……この勝負、一旦預けるぞ」
「はぁっ!?わざわざ降りて来たと思ったら、何言ってんだ?それに、お前等まで……!」
やれやれ……取り敢えず間に合ったか。
2人に近付く俺達に食って掛かる雪之丞へ、俺も息を整えながら返す。
「…………ここまでだ。武威」
「………………」
「だから、何でだよ!?」
「何も感じないか?と言うか、向こうを見ろ!結構、近寄ってるぞ」
「あぁ?」
いきなりのおあずけを喰らって、苛立っていた雪之丞だが、俺が指で示した方向を見ると取り敢えず納得………してねぇな。寧ろ、更にヒートアップしやがった。
「糞がっ!勝負に水差しやがって……!!」
数十メートルくらい先から、猛烈な勢いで近付いて来るどデカいソイツへ歯軋りでもするように毒づく。
少し前から遠くに居た俺達にも奴は見えてたがこいつは、天狗に夢中で気付かなかったらしい。
そんな、俺達のやり取りを眺めていた天狗も、やれやれと言った感じに声を上げる。
「あれは、魔界のトカゲじゃな……」
「トカゲだぁ?」
「うむ……拙僧等の騒ぎに、触発されたんじゃろう。大分、興奮しとるようじゃな。暴れられると厄介じゃ」
「なら、倒しゃいいだろ?全員で、やりゃあ直ぐだ」
「手伝うと言うのか?」
「俺ぁ、苛々してんだよ!あいつの頭でも潰さなきゃ、おさまらねぇ!」
「………そうか。なら、拙僧と呼吸を合わせろ」
「はぁ?何で……?」
「やりながら、説明する」
もう、そのトカゲは俺達の目前まで来ていた。
◇◇◇
かくして、勝負の有耶無耶になった奴等とついでに俺と無骸はなし崩し的にトカゲ退治をする事になった訳だが…………
結論から言うと、雪之丞が言ったように直ぐに終わった
相手は、緑の体色をした高さ5メートル、全長に関しては20メートル以上にもなる大トカゲ。それだけでも十分ヤバいんだが、一番の特徴は2つに別れた首……要は、双頭のトカゲってこった。
それに加えて、天狗曰く高い再生能力の持ち主で、例え頭を潰されても時間が経てば元通りになっちまうらしい。しかも、巨体な割にすばしっこくて(この辺は、遠くからでも解った)不利になると、直ぐ逃げるから2つの頭を同時に潰す必要があった。天狗が呼吸を合わせろと言ったのは、その為だ。
んで、どうしたかと言うと……やる事は、そこまで難しくなかった。
俺と無骸が囮になってトカゲの気を引いてる最中に、両脇に伏せていた2人が同時に2つの首を刎ねた。天狗は刀。雪之丞は、霊気で作った戦斧………時間にしたら、5分と掛からなかった
◇◇◇
「なるほど……お前等2人は、妙神山で武神の手解きを受けていたのか。道理で………」
「未だに、あの女には一発も入らねぇよ」
「せめて、名前で呼べ……」
「………………」
トカゲを退治した後、俺達は1つの焚き木を囲んで飯を食っていた。
さっきの今で何か変な感じだが、今更に気にしても仕方ないんで状況に身を任せてる。
ちなみに、これを言い出したのは天狗で即座に快諾(食い気味)したの雪之丞だ…………ここまで来ると、お約束ってか?
食ってるのは、その仕留めたトカゲの肉………………それを串焼きにして食ってる…………
はっきり言って人体はに毒だが、俺達なら良く火を通せば大丈夫らしい。寧ろ、毎日少しずつ摂り続ければ瘴気に対する抵抗力も上がるから薬にすらなり得るそうだ。
………………まぁ、複雑だ。それでも、全員腹が減ってたから食ったが……雪之丞はガツガツと。無骸は、仮面が取れないようにセコセコ(食いにくいだろ)と………
味の方は………思った程、悪くはなかった。そこまで臭みも無く、どちらかと言えば淡白で何となく……………………何となくだが、鶏肉っぽかった………
そんな感じで、その後も飯を食いながら色々話した。
天狗は、初対面の時こそ厳しい態度だったが、打ち解けた(完全に打ち解けたのは、雪之丞だけだが……)後はそれなりに喋り、時たま笑うこともあった。
◇◇◇
「へぇ……おっさん定期的に、魔界に行ってんのか」
「ああ、山に籠もるにしても色々物は必要だからな………」
…………なるほど。
生活必需品をどうやって調達してるのかと思ったが、そういうカラクリか。
◇◇◇
「お前は、儂に挑まんのか?」
「この男より、弱い私が挑むわけないでしょう……でも、見ているだけで刺激になりましたよ」
それに、見たこともない魔獣や魔物の相手もしたんだ。あれも、あれで良い経験になったと思う。
◇◇◇
「…………そうか、あの時の人狼は死んでしまったのか……惜しい男を亡くしたものだ……」
「どうして、人狼(シロの父親)には風を使わなかったんだ?」
「拙僧は、薬を欲しがる者の覚悟と信念が見たいだけじゃ。お前の言うように相手を殺したいわけじゃない」
「そういう訳か……」
◇◇◇
「今回は、中途半端に終わったが……どうする?明日、改めて仕切り直すか?」
「いや、いいわ。今日は身の程を知った。今の俺じゃ、あんたに食い下がるので目一杯だし、あんな竜巻俺にはまだ防げねぇ……」
「………………まだ防げない……じゃあ、いずれ防ぐつもりなんじゃな?」
「当たりめぇだ!今度は、ブチのめしてやっから覚悟しとけよ」
「「「………………」」」
…………ま、まぁ……いいか。得る物が沢山あったような顔してるしな。それに……気の所為かもしれないが、天狗も何処となく嬉しそうに見える。
そんな穏やかな天狗の様子を見ながら、俺は丁度良いと思い口を開く事にした。
「天狗殿、少し気になったのですが……」
ページ上へ戻る