『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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真打(天狗編)
「おい!俺等の分も残せよ!」
…………って、聞いてるか?
「ぶはぁっ!!苦え゙ぇ゙ぇ゙!!!」
「我慢せぇ、効果は保証する」
苦いのか……?いや、『良薬は口に苦し』とか言うしな。
「…………おぉ!!体力や霊気が満ちてくる!」
「寄越せ!」
半ば引ったくるようにして、雪之丞から瓶を掴むとまじまじと眺める。
これが、世に聞く《天狗の妖薬》………………
「馬鹿野郎っ!半分もねぇじゃねぇか!?」
「悪ぃな、この借りはいずれ返す」
……ったく。まぁ、いい。取り敢えず一口。
そう思って、マスクをずらして瓶を顔に………
「臭っっ!!」
近づけようとしたが、余りの臭さに思わず叫ぶ……
んだぁ、こりゃぁ!!?
見た目は綺麗なのに、何入れたらこんなに臭くなるんだ??余りの臭さで、鼻腔が麻痺するかと思ったわ!
…………ってか、あいつは良くこれを一気飲み出来たな。
……と思ったが、奴の方を向くと、地面に四つん這いになってへたり込んでる………後から来たらしい。
《天狗の妖薬》なんてありがたがってたが、本当にこれ飲んでいいのか……?
「味わうもんじゃない。一気に行け」
んなこと、言われてもな……作った本人に促されても、なお躊躇する臭さだぞ………
「………………」
だが、無骸のよく解らない視線も気になるんで(催促してるのか?)、仕方なく息を止めて飲んだ……
「お゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙〜〜〜!!…………お゙お゙お゙ぉ゙〜!!」
「………………!!?」
「大袈裟な……」
苦いなんてもんじゃねぇ〜〜〜………舌が麻痺る……舌が痺れる…………
そのまま、顔を向けずに瓶を無骸へ押し付けるように渡す。
すると、数秒後………
「くぼぉっっ!!ぐおふぉっ!ごほっ…………!!」
お前もキツかったようだな……
「いちいち、騒がしい連中よ……」
…………と言うより、お前の声 “久々” に聞いたぞ。もう、何年も前なんで殆ど覚えてねぇけど……
◇◇◇
天狗から薬を譲り受けてから、約10分後。
あの黒狼と戦った場所から、少し離れた場所で天狗と雪之丞が対峙したいた。俺と無骸は、そこから遠巻きに2人を見ている。
薬の余りの気持ち悪さに暫く動けなくなっていた雪之丞だったが、数分もすると立ち直り天狗に手合わせをせがんで今に至る。
……ちなみに、あの薬の効果は本物だった。
衝撃の臭さと不味さで、鼻と舌が未だ麻痺状態だが、飲んで1分もしない内に体の中心から熱い物………活力が込み上げて来て、体力と霊気を一気に回復してくれた。雪之丞が飲み過ぎてくれたが、あれだけでも十分過ぎる効果だった。
薬作りの名人……本人的には、違う様だが噂に違わないとはこの事だな。
「決め事は、どうする?」
「死なない程度で、いいんじゃねぇか?」
厳かに口を開く天狗に、不敵に答える雪之丞。だが、天狗は奴の返答が気に入らなかったらしい。元から厳しい顔を更に歪める。
「………………お前……拙僧の薬を受け取る条件は “真剣勝負に勝つ” と言う事を知らんのか?拙僧に勝負を挑む者は、皆命懸けだったぞ」
声にも若干の怒りが滲んでいた。それと同時に威圧感も増した様に思う。並の人間なら、奴の眼光を前にするだけでたじろいたかもしれない。
ただ、雪之丞の方も負けてなかった。奴の目を傲然と見返しながら、言い放つ。
「あの薬は、あんたが勝手に寄越したんだろ?それと、誤解がねぇように言っとくけど……俺は別に死ぬのが恐いわけじゃねぇ。だが、殺し合いがしたいわけでもねぇ」
「…………なのに、死ぬかもしれない拙僧と、力比べがしたい……そうに言いたいのか?」
「ああ、そうだ。全力尽くした結果、死んじまうのは仕方ねぇ。それらいの覚悟はある。だが、俺がしたいのは鍛えた力と技のぶつけ合いだ。いちいち、どちらかが死ななきゃいけねぇなんて詰まらねぇ」
…………雪之丞がそこまで言い切ると、2人の間に数秒間の沈黙が流れた。
そして……
「ふっ……お前の様な奴は、初めてだ」
…………先に口を開いたのは、天狗だった。
不思議な事に、それによって勝負前の緊迫している場面にも関わらず、空気が少し和んだ気がした。表情は変わらず、仏頂面のまんまだったが……
「そうかい♪」
それに釣られる様に雪之丞もニヤリと笑う。霊(妖)武道を追求する者同士で、通じ合うもんでもあったんだろうか?
「目が闘争心に満ちて、ギラギラしておる……なのに全く邪念が無い。寧ろ澄んでもおる。魔族と手を切ったと言うのは、どうやら本当らしいな」
「んだよっ、信じてなかったのか?」
「気にするな。褒めておるんじゃ。遠慮せず、受け取れ……!」
そう言うと、天狗は徐に刀を抜いた。その動作を見る雪之丞も、合わせるように両手を上げる。いつもの戦闘態勢だ。
それによって、少し前に和んだ空気が再び張り詰める。
……………今回も先に口を開いたのは、天狗だった……
「いざ……」
それに示しでも合わせたように、雪之丞も応える………
「…………尋常に!」
更に緊張する空気。それが臨界点に達した、次の瞬間……
「「勝負っ!!」」
互いの叫びがゴング代わりとなり、一瞬で肉薄する両者。
ガギィンッッ!!
同時にぶつかり合った……様に見える刀と拳………
「ぐっ……!」
………雪之丞が若干だが、押し込まれていた。
地を蹴ったのは同時だったが、出した拳が間に合わず咄嗟に腕で受けた形だ。今は、上から刀を押し込もうとする天狗に対して下から籠手で必死に耐えている。
巨漢の天狗に、小兵の雪之丞……知らない者が見れば、これで勝負は決したように映るかもしれない。
「どうしたぁ〜?その程度で、終わるのかぁ?小僧ぉ」
「まだぁ、まだぁ~……!!」
歪ながらも、拮抗したまま力む両者。
ゴゴゴゴゴゴ…………
上から、下へ……下から、上へ………互いの異なるベクトルに合わせて膨れ上がる妖気と霊気。始めは、別々に出ていた物が増大するに連れて、一塊になり両者の周りの地面を削り始める。
「ぬおおおぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜っっ!!」
「うおおおおおおぉぉぉ〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
5秒………10秒…………20秒………………互いに、全く引く気配のない2人……
一見すると両者互角と言えるかもしれないが、明らかに不利な態勢で踏ん張る雪之丞と、有利な態勢にも関わらず押しきれない天狗……この場合、どっちが優勢かは明らかだろう。
そして、押し合いを始めてから30秒経とうとする頃、その均衡が遂に破れる。
「おぉぉ〜……オラァッッ!!」
「ぬぅっ……!」
天狗が退いた。態勢を崩されるのを嫌った奴が、押し切られる前に自分から後ろへ跳んだんだ……雪之丞が押し切りやがった。
あの不利な態勢から………
「逃がすかぁっ!」
だが、それで攻防は終わらない。
距離を取ろうとする天狗に対して、間髪入れず突攻する雪之丞。これが別の相手なら体勢を崩すか、体勢を整える前にそのまま追撃が入ったかもしれない。
「ふんっ……」
…………ただ、天狗もさる者………
着地と同時に……違うな。足を着く前に体勢を立て直すと、地に足が着いた瞬間にカウンターで刀を突いて来る。
当然、通常の突きなんかと訳が違う。刀に纏う妖気を見るだけで解る………刃の部分を返してるとは言え、あれが当たれば大木でも簡単に圧し折れちまうくらい凄まじい物だった。
「うおっ……!?」
これには、流石の雪之丞も面食らう。だが、前傾姿勢で突っ込んでるので横には回避出来ない。このまま行けば、上体と下半身が永遠の別れを遂げる事になったろう……
だから、奴は前に跳んだ。勢いを殺さず、前へ跳んだ。
前に跳んで、刀の下に転がり込む。頭を掠める正にギリギリだったが、何とか滑り込んだ。 加えて、そのまま手を伸ばして天狗の足を掴みに掛かる。
だが、それでも天狗は崩れない。
こう言った場合、普通の相手なら咄嗟に刀を戻すか、狙われてる足を上げて躱そうとするだろう。どちらにしても、無理な力が掛かって体勢は崩れる。
だが、天狗はそれのどちらも選択しなかった。
「ふっ……」
雪之丞がそうしたように、奴が跳んだ瞬間に、その意図を察し自分も突いた勢いのまま前に前に跳ぶと、刀を上手く畳みながら宙を返りやり過ごす。その動作は、正に流れるようで淀みが全く無かった。
その1秒後…………
「へっ……やるじゃねぇか!流石は伝説の修験者、伊達に歳は食ってねぇな♪」
「減らず口を……!じゃが、大口を叩くだけの力はあるようだのぅ」
奴等は、始める前と同じ様な姿勢で再び対峙していた。違っているのは、互いの位置が綺麗に入れ替わった事くらいか。
「「………………」」
…………そして、遠巻きにしている俺達の方は、それを固唾を飲むようにして見ていた。俺に至っては少し、感動していたと言っても良い。
始まって、まだ数十秒……互いにダメージもなく一見すると五分だが、所々で天狗の方が上手な気がした。
さっきまでの攻防………しかも、数秒の間にいつもの奴なら決め切れる場面が2度もあった。にも関わらず、天狗はそれを両方ともいなして見せた。全く体勢を崩さず、まして焦る様子も見せずにだ………
あの動き……言葉にするのは簡単だが、中々出来るもんじゃないぞ。特にあの雪之丞に潜り込まれた時………頭では、あれが最良と解っていても、いざとなれば……しかも、あんなギリギリの攻防の最中では本能が邪魔をする。
何百、何千もの実戦経験の賜か、あるいは気の遠くなるようなイメージトレーニングを重ねて、自分の本能を制御する術を身に着けたんだ。
予想はしてたが、一筋縄じゃ行かねぇぞ………どうする?雪之丞……
「ったりめぇだっ!!喧嘩第二章!行くぜぇっ!!!」
「ふんっ……来いっ、小童!」
………………それくらいで、戦意の萎える奴じゃなかったな。嬉々とした雪之丞の顔を見ながら、そう思った。
壁が高い程燃えるタイプだし、寧ろ天狗の研ぎ澄まされた動きを見て更にギアが上がった感じだ。
「燃える戦闘狂い対百戦錬磨の戦巧者と言った所か……」
「………………」
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