『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
実体(GS試験編)
「鴉・目標・喪失」
「空蝉……?」
フム……武威の小僧が正解じゃな。自分の残像を残して、鴉の小僧を欺いたんじゃ。
やはり、あの小娘も精神感応の使い手らしい。
じゃが、力はかなり弱い部類じゃな。一回見せてしまえば、ほぼ使えなくなるくらいの……ただ、裏を返せば一回なら有効。
その虎の子の一回をここで使って、勝負を掛けて来たか。
◇◇◇
「九能市氷雅……!参る!!」
俺の頭上、数メートル上で抜刀の構えを取る彼女……着物を脱ぎ捨て、体にフィットするピッチピチの全身タイツ(?)姿…………相変わらず立派な “もの” をお持ちで……って違う!
遂に “アレ” を抜く気だ!!
糞っ……さっきのは、残像だったのか!?
完全に間合いに入られた。今から回避しても間に合わねぇ。かと言って、霊盾でも駄目。となれば、もう迎え討つしかない!
覚悟を決めた俺は、右手に霊手を展開。
…………落ち着け。心を鎮めるんだ。霊感を研ぎ澄ませ……一回だけだ。彼女は、この一閃に賭けてる。ここを凌げれば、もう二の手のはない。
俺は彼女の右手に照準を合わせ、全神経を集中する。寸分たりとも、動きを見逃さないように……
来るっ……来るっ……来るっ……来るっ…………!?
一瞬……いや、半瞬にも満たない短い時間。だが、精神の極限状態になった俺の視界は、コマ送りのようにゆっくりとなった彼女の動きを捉えることに成功する。
……………………そして、
……無いっ!!?
彼女は、確かに “抜いた” !柄を持つ右手を勢い良く、振り抜いたんだ!
…………だが、あるはずの刃物は見えない!?
見切れなかったんじゃない。本当に “無” かった……
「はああぁぁぁーーーーっ!!」
「!?」
何が起きたんだか、まるで頭が追い付かなかった…………だが、次の瞬間理解する。
槍じゃねぇかあぁぁぁぁーーーーっ!!?
畜生っ!!騙された!!
そう……彼女の持っていたものは、 “刀” じゃなくて “槍” だった…………
今、彼女が右手で振り抜いたのは “柄” じゃなくて “鞘” !
左手に持ってるのが、 “鞘” じゃなくて “柄” !
つまり、刀に似せた所謂 “仕込み槍” って奴で、今まで彼女は柄で俺の霊盾を弾いてたんだ。
この瞬間に俺は、理解した。
氷雅さんが、わざわざ抜けない刀(に似せた槍)を使い続けるなんて回りくどいことしたのは、俺に “突く” んじゃなくて “斬る” と誤認させる為……
“いつ抜くんだ?” と警戒心を煽って、何もない右手に意識を向けさせる為だったんだ。
全部、この一瞬の為に…………
完全に見えない刀に目を奪われた俺だが、それは、ほんの一瞬……または、それにも満たないくらいの僅かな時間。
だが、ギリギリの勝負をしてる最中、その一瞬がまさに命取り……
それまで練り上げていた気は一気に霧散し、集中力は途切れ、決死の念を込めた一撃の前に棒立ち状態。
そんな無防備な姿を晒した俺に、彼女の刺突を回避することなんて不可能………
このまま行けば、右肩を貫かれ、最悪勢いのままマットに縫い付けられていたかもしれない。
「くうっ……!!」
刺される……本当にそう思った…………
……ただ、この時は俺に幸運が微笑んだ。あるいは、氷雅さんが不運に脚を絡め取られたのかもしれない。
理由として、まず仕掛ける直前に彼女は左肩を負傷した。俺の霊盾によって。気力で動かしちゃいたが、動きはいつものそれじゃなかった。
第二の理由は、空中で仕掛けたこと……多分だが、本来は地上で仕掛けるつもりだったんだろう。
右脚を前に出した状態から、左脚を前にスイッチすることで突きの射程を伸ばす……でも、空中でそれは出来ない。だがら、彼女は腕を目一杯伸ばすしかなかった。
それらの理由が重なったお陰で、完全な虚を突かれたにも関わらず、僅かに体を傾けるだけで右肩の上を槍の穂先が掠めるだけで済んだ。
当に奇跡……この時の霊運に、俺は後で深く感謝した。俺の方はそうだったが、彼女の方は不運がまだ終わらない。
ガッ………バキッ!
落下の勢いのまま、マットを突いた槍。穂先は無事だったがこれまでの攻防で傷んでいた柄の方が、その衝撃に耐えられず彼女の持つ左手の手前からボキリッと折れてしまう。
「つっ……」
左手の突然踏ん張りを失ったことで、マットに倒れ込む彼女。辛うじて受け身を取ることには成功したが、座り込んだまま立ち上がる気力は…………既に無さそうだった。
「ちっ……」
そんな彼女に俺は反射的に霊盾を投げつける。今度こそ、霊盾は背中を向けていた彼女に命中して爆散!
ヴオォォォンッ!!
「きゃああぁぁぁっ!!」
会場中へ響き渡る爆音と彼女の悲鳴………背中へ諸に衝撃を受け、そのままうつ伏せに倒れ込む。
………………そして、そこから動くことは……もう、無かった。
「そこまで!勝者、鴉!!」
駆け寄った審判が、彼女の有無を確認して手を旗を上げる。
「……………………」
こうして、俺はトップの戦績で試験を終えた訳だが…………歓声は殆ど上がらず、閑散としていた。
元々観客は半分も入ってなかったし、何より今何が起きたか周りには解らないからだろう。今の応酬なんて、時間にすりゃ数秒程度だしな。
まぁ、それはいい。そもそも、免許さえ取れりゃランクなんて気にしてなかった。
それよりも…………
やるせねぇもんだな……
倒れたままの彼女を見て思う。勝負だから仕方ないとは言え、動けない女の背後からトドメを刺すことになるとは………
近寄って介抱してやりたいが、それもルール違反……何より、文珠のストックがない。
大人しく、救護班に任せるしかないだろう。
そんな風に思っていると、ちょうど招杜羅を連れた女史が結界に入って来たので、それと入れ替えるように結界を出た。
◇◇◇
何が起こったんだ……?
女が飛んだと思ったら後はあっという間過ぎて、ここからじゃ何だか全然解らなかった。
最後に女がボマーの一撃を貰って、倒れたのは解ったけど………
「う〜む…………」
タイガーに聞いてみようかと思ったけど、唸るだけで………と言うか、全く理解出来てる顔じゃないんで止めた。
それならばと、更に奥にいるエミさんを見てみたけど、彼女も難しそうな顔をしてる。やっぱり解らないんだろう。
仕方ないと思う反面、俺だけが理解出来てないわけじゃないことに、変な安心をする………凄く恰好悪い。
………………何は、ともあれ……これで、試験は奴の優勝で決まりか。昨日は大騒ぎだったけど、今は会場全員がそれに納得してるような感じだ。それくらい奴は、圧倒的だった……
そして、3日間の試験もこれで終わり。
決勝の終わりと同時に早くも席を立つ観客がチラホラ…………この後、何も無いから当然か。普通の大会とかと違って、表彰式なんか特にないしな。
色々あったけど、終わっちまうと何か淋しく感じるぜ。
そんな感じで、1人感傷的になってる時だった。
「ウチの制服……!?」
背もたれに寄りかかって、ふと向けた視線の先……向かい側の席から、出口へ消える人物の1人が目に飛び込んで来た。
今の時間(15時前)に居るって事は、俺と同じように学校サボったクチか?
いや、そんなことはいい!それよりも、あの長い青髪の後ろ姿は……?
「お絹……ちゃん?」
◇◇◇
「うっ……」
目を覚ますと、そこは白い天井だった。自分は白いベッドに寝ていて、周りにはそれを薄緑色のカーテンが周囲の景色を遮っている。
ただ、鼻腔を突く薬剤の匂いで、ここが医務室であるのは何となく解った。
まだ、覚め切らない頭を必死に動かして思いだす。
あの時の私は、全身の激痛に耐えながら分身を作り出して彼に迫った。
そして、切札……なんて、とても呼べた物じゃない “稚拙” な槍を出して突いた………
後は、思い出したくない………けれども、考えてしまった以上自分の意思とは関係なく、脳内にフラッシュバックしてくる。
…………渾身の力で突いたものの穂先は呆気なく躱され、自分は無様にマットに転がって……その後、背中に強い衝撃を受けたと思ったら、ここで目をまさす。
……背中に彼の一撃を受けたんでしょうね。
別にその事をどうこう言う気はない。戦で敵に無防備な背中を晒した、自分が愚かなだけ。
ただ…………こんな卑劣な手段を使った自分を、彼はどう思うんでしょうね。
“兵は詭道なり” ……相手の虚を突くために取った今回の戦術、兵法家として恥じるべきものは何もない。
でも、剣士としては…………
自分が一心不乱に打ち込んで来た……自分の支えであった剣を、ただの囮に使ってしまったことは…………
「くっ……!」
ゆっくりと上体を起こす。おそらくヒーリングをされたんでしょう。やってくれたのは、六道家の式神かしら?
体の至る所に痛みはあるけど、動けない程じゃない。治療を受けなければ、入院レベルだったかも……そのまま掛けてあった布団を剥ぐと、ベッドから脚を下ろす。
そうして、カーテンを開くと__
「あっれ〜〜!?目が覚めたの〜〜?」
……何だか脱力的………もっと言ってしまえば、おっとりし過ぎた能天気な声が私の耳に入って来る。
振り向くと、デスクで書き物をしていた看護婦(?)の女性が、私を驚いた顔をして見ていた。
自分と同じくらいの(19歳)年齢……こんな職務に付いてるんだから多分年上でしょうけど、余りそうは見えない。それくらい、童顔で可愛らしい顔立ちですわね。
そして、身に纏ってる昔風の看護婦の制服……?何かコスプレ臭を感じますけど、それはこの際気にしないことにします。
それよりも気になるのが、彼女の傍らに居る白い犬……穏やかな目をした、大きめの紀州犬にも見えるけど、強い霊気を感じる。
あれは、 “犬” じゃなくて “狗” …………あれは式神……
隣の女性にも霊感の目を向けてみると、それ以上に遥かに巨大な霊気……普通の状態で、これだけの霊気を放てるなんて、どう考えても只者じゃない。
「六道……冥子さんですか?」
試合前にも彼と話してる最中に、お会いしたのよね。あの時は、状況が読めず途方にくれてしまったけど……
式神使いの名門中の名門……六道家。
そこに千年以上伝わる強力な式神、十二神将の現継承者。噂には聞いてたけど、改めて見るとその圧倒的な霊力に圧倒される。
「うん!そう♪六道冥子よ〜〜、冥子って呼んで欲しいなぁ♪」
…………そんな緊張しながら口を開く私に、あっけらかんと返す彼女……調子が狂いますわね。
「く、九能市氷雅です……それで、冥子さんが私の治療を?」
「私と言うより、招杜羅ちゃんねぇ〜〜、あなた酷かったのよ〜〜、全身打撲に〜、何本か骨にヒビも入ってて〜〜、普通に入院レベルだったんだからぁ〜〜」
「そうですか……」
………やっばり。
予想通りとは言え、何か複雑ですわ。取り敢えず、立ち上がって一礼する。
「……とにかく、助かりました。ありがとうございます」
「まだ、休んでても平気よ〜〜」
「いえ、ここまでして頂ければ十分ですわ。それでは失礼致します」
心配そうな顔をする、彼女の申し出を固辞して医務室を後にする。
痛くても、体が動くなら問題ない。家に居た頃は、こんなこと日常茶飯事………いや、あの頃は痛みこそが日常だったかもしれない。
そうして、控室へ向かって少しした辺りだった……
「もう、動かれても平気なようですね」
「………………!?」
廊下の片隅、その壁に寄り掛かるようにして腕組みをした彼が立っていた。
「鴉……」
ページ上へ戻る