『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師
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希望(GS試験編)
前書き
場面転換が多く、多少混乱するかもしれません
――試験2日目――
「…………熱心ですわね」
入場口から、会場を覗き込む彼に声を掛ける。今は、ちょうど3回戦の後半の最中だ。
「……そりゃあ、自分と当たるかも知れない人間が居るわけですからね………」
そんな私の声に、彼は視線を会場に向けたまま答えた。
無視されてるわけじゃないけど、余り歓迎されてる感じでもありませんわね。今までの経緯や、これからの試合を考えれば当然でしょうけど……
「…………あの中に、あなたの相手になるような人間が居るとは、思えませんけどね」
今、彼が見てるのは…………あの、一際大柄なオールバックの男性?
霊力は受検者の中では、強そうですわね。弱くはないと思います……でも、何であんな人に注目してるのかしら?
とても、彼の相手になんかならなそうだけど…………
◆◆◆
――試験3日目控え通路――
「……………………」
本当に、大丈夫なんですの?
目の前で行われる試合を、私は言いようのないヤキモキした気持ちで眺めていた。
右腕が使えない状態で、あの巨漢に捕まったら逃げられないじゃない。
…………あんな相手、簡単に勝負が着くと思ってた。
でも、現実は今の通り……
彼は、知ってたんだわ。あの男……タイガーとか言う男の底力を…………
◇◇◇
《観客席》
「おいおい……!流石にヤベェんじゃねぇか!?死んじまうよ!」
観客席から見える光景に、俺は焦りを覚えながら訴える。
タイガーが勝ってくれるのは嬉しいど、人殺しにはなって欲しくない!
さっきは全く動じてなかったけど、こうなりゃ伊達だって多少慌てるはず。
横目で見ると案の定、奴は深刻そうな顔をしていた。
だけど、こんなこと言った所でどうする?この男がタダもんじゃねぇのは知ってるけど、今は俺と同じ観客でしかない。どうする事もできねぇよ……
そんな焦りや、苛立ちを抱えながら視線を結界の方へ戻す。そんなタイミングで、伊達がぼそりと呟いた……
「ヤベェ……死ぬかもな “タイガー” …………」
はっ……!?
何言ってんだ??俺の聞き間違い…………?
◇◇◇
「ぐぁっ……ぐぁ…………」
ステルスの剛腕によって、ギリギリと締まり続ける俺の体……今口から出してるのは、俺の呻き声じゃない。肺を圧迫された事で、間抜けな音を立てながら空気が漏れ出しているだけだ。
このまま行けば、後1分もしない内に俺の意識は落ちるだろう。
…………落ちたらどうなる?
普通の試合なら……いや、普通の相手ならその時点で止めるだろう。でも、今俺を絞め上げてるのは虎と化しているステルスだ。
喰うか、喰われるか……生きるか、死ぬか…………
本能のそれに従ってるこいつに、そんな慈悲や常識なんか望めない。
運が良けりゃ審判が止めてくれるかもしれないが、それも厳しそうだな。ステルスが、俺を絞め殺す方が速い気がする。こいつの力は “想像以上” だ……
「フゥーッ……フゥーッ…………」
改めて、こいつの顔を見る。
呼吸が荒い。泡を吹きながら、苦痛に耐えて必死の形相をするこいつが、とても余裕があるようには思えない。腹のダメージは、相当深いんだろう。さっきのは、完全に不意を突いた。
今の俺はギリギリだが、それはこいつも同じってことだ。
だけど、このまま行けば勝つのはお前だよ。俺の霊的防御じゃ、お前に抗しきれない。
このまま、行けばだけどな…………
なぁ、ステルス……何で掴む時、俺の左腕は自由なままにしたんだ?
そんな余裕、無かったからか?
まぁ、それも当たりだとは思う。でも、重要なのは俺が “そうなるように” 仕向けたってことなんだよ。
解るか?
タックルで決まるなら、それでもいいとは思ってた。だけど、お前が掴んで来ることも俺は想定してたよ。何でかって?
お前が、それだけ強いからだよ!!
なぁ、ステルス……そんな強いお前に掴まれて、ピンチになった俺は一体何をすると思う?
残った左腕で、何をすると思う?
「グァッ……!!?」
俺が左手に持ってるものを見て、ステルスの両眼が驚愕するように見開く!
慌てて、両腕を離すと距離を取ろうとバックステップする。
……だけど、もう遅ぇ!!
「…………爆弾だ……!」
左腕を掴み損ねた時点で、お前は常にそれを注視しなきゃいけなかった。お前が苦痛に耐えてる間、俺も必死に爆弾を作ってたんだよ。
もっとも……そんな余裕、なかっただろうけどな…………死ぬなよ!
そう念じながら、離れようとするステルスに投擲する。
バックステップする奴よりも、投げた爆弾の方が当然速ぇ。慌てたステルスには、それを撃ち落とすことも防ぐことも出来ない。
そのまま、為すすべも無い奴に着弾…………
“___ワッ__られ__ジ……”
___!?
ドォグゥアァァーーーンッ!!
爆風に晒されて、結界の端まで吹っ飛ばされる奴の体…………一応警戒はしたが………人の姿に戻った奴が、起き上がってくることはなかった。
「そこまで!勝者、鴉!!」
「……………………」
◇◇◇
《観客席》
「……そ…そんな…………」
体の力が一気に抜けて、椅子の背もたれにもたれ掛かる。
「取り敢えず、生きてるか……」
一瞬の出来事に、呆然とするしかなかった……何が、起きたか解らなかった…………
勝っていた。タイガーが、勝っていたはずなのに……
「惜しかったな……でも、始めからアレが狙いだ。タックル決めれた時から、タイガーは終わってたんだよ」
「あ……あんなのアリかよ!?あいつ…あいつは、自爆する気だったのか?」
タイガーが離さなかったら、どうする気だったんだよ?
「関係ない。あいつの爆弾は、普通の物と違って爆風の方向も変えられる。さっきだって、鴉の方には行って無かったろ?」
「う……」
確かに言われてみれば、そうだった…………
あんな至近距離で爆発したのに、何故か奴に爆風が行かなかったのは、そう言う事だったのか。
だとしたら、こっちに返す言葉はねぇ。返す言葉はねぇけど…………でも、やりきれねぇよ。
拳を握りしめながら、言葉を絞り出す。
「タイガーは、必死にやったんだ。あんな痛い目に遭いながら、必死になって相手を追い詰めた…………でも、結局は向こうの手の上だったなんて……」
あいつの頑張りは、何だったんだ?
胸が張り裂けそうになる。全部出し切って、ズタボロにまでなったのに何も報われねぇじゃねぇか…………
「本当に、そう思うか……?」
「え……?」
“凄かったな……あのタイガーって奴”
“ああ、あの『鴉』をあそこまで追い詰めるなんてな……”
“凄ぇ、動きだったぜ!”
“何で始めから、変身しなかったのかしら?”
“加減してたんじゃないか?ありゃ、相手を殺しかねねぇぞ”
「聴こえるだろ?皆、タイガーの強さを認めたんだ。ダチとして、喜んだっていいんじゃねぇか?」
「…………あ…ああ!」
そうだ…………例え負けたとしても、あいつは死力を尽くしたんだ。下を向く必要なんかねぇんだ。
やったな、お前はやったんだよ!タイガー!!
「さて……俺は、もう行くわ。勝ったけど、鴉のダメージも深そうだからな。お前も医務室に行ってやったらどうだ?」
「えっ!?」
立ち上がった伊達の一言で我に帰る。ヤベェ、忘れてた!タイガーの奴は重症なんだ。
「ああ、そうだな!俺も行かないと……じゃあな、伊達さん」
そう言って慌てて立ち上がると、俺はそのまま出口へ駆け出した。
……………………あれ?
そういや、あの男「鴉のダメージ」も深そうとか言ってたよな………何でだ?
◇◇◇
《控室》
「こっ酷く、やられたな♪」
「何で嬉しそうなんだ……?」
控え室で待ってるとニヤニヤした雪之丞が入って来るなり、文珠を放って来た。準々までくると、控え室にも殆ど人は居ない。
言っやりたいことは腐る程出てきそうだが、今はそれを呑み込んで治療に専念しなきゃならない。
投げて来た文珠を受け取ると、『治』と刻んで早速実行する。直後に溢れる霊気の光によって、瞬時に傷が回復する…………
改めて思うよ。この力は完全にチートだ。
何とかステルスに勝てたものの、これが無きゃ棄権は必至だ。それくらいの怪我だった。何かズルい気もするが、本当の意味で不正してるわけじゃない(文珠の禁止は試合中のみ)。
それに他の受験者だって、医務室に行けば六道女史(遠くから見掛けた)が使う招杜羅やヒーリングに長けた人間にある程度の怪我なら治して貰えるんだ。
そう自分に言い聞かせながら、治った右腕を動かしてみる。
「肘も外れてたな……」
「ハグされた時な……でも、感覚がなくなってて痛みも感じなかったよ」
良し……問題なく動く。感覚も戻って、霊手も普通に出せるようになった。
「霊気も回復するか?」
「ああ、さっきは流石に疲れた」
そう言って、更に受け取った文珠を分解して霊気を吸収する。
ちなみに文珠は、全部雪之丞に管理して貰ってる。別に禁止されてるのは使用だけで、所持までは明言されてないけど後で何か言われたら癪だからな。
「で、どうだった?あいつに勝った感想は」
「観てたんなら、解るだろ?本当、ギリギリだよ。しかも、この前よりも進化してやがるしな……」
爆発する直前に……あいつは、確かに何かを呟いた。何を言いたかったんだかは解らなかったが、理性は微かに残ってたんだ。
「進化か……確かに進化してる。今度、やり合うのが楽しみだぜ♪」
「どこで、やる気だよ? “まだ” 人の来そうな所じゃ出来ねぇぞ」
俺がそう言うと、雪之丞は怪訝そうに眉を動かす。
「まだ……?」
「ああ、まだな……」
…………でも、次への希望なら繋げるかもしれない。
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