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『GS美神IF』〜独白〜黒衣の除霊師

作者:wood12
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希望(GS試験編)

 
前書き
場面転換が多く、多少混乱するかもしれません 

 

――試験2日目――

 
「…………熱心ですわね」


 入場口から、会場を覗き込む彼に声を掛ける。今は、ちょうど3回戦の後半の最中だ。
 
 
「……そりゃあ、自分と当たるかも知れない人間が居るわけですからね………」


 そんな私(氷雅)の声に、彼(鴉)は視線を会場に向けたまま答えた。

 無視されてるわけじゃないけど、余り歓迎されてる感じでもありませんわね。今までの経緯や、これからの試合を考えれば当然でしょうけど……
 

「…………あの中に、あなたの相手になるような人間が居るとは、思えませんけどね」


 今、彼が見てるのは…………あの、一際大柄なオールバックの男性?

 霊力は受検者の中では、強そうですわね。弱くはないと思います……でも、何であんな人に注目してるのかしら?

 とても、彼の相手になんかならなそうだけど…………


  

    ◆◆◆

――試験3日目(現在)控え通路――


「……………………」


 本当に、大丈夫なんですの?

 目の前で行われる試合を、私は言いようのないヤキモキした気持ちで眺めていた。

 
 右腕が使えない状態で、あの巨漢に捕まったら逃げられないじゃない。

 
 …………あんな(・・・)相手、簡単に勝負が着くと思ってた。

 
 でも、現実は今の通り……

 彼は、知ってたんだわ。あの男……タイガーとか言う男の底力を…………




    ◇◇◇

《観客席》


「おいおい……!流石にヤベェんじゃねぇか!?死んじまうよ!」


 観客席から見える光景に、俺は焦りを覚えながら訴える。

 タイガーが勝ってくれるのは嬉しいど、人殺しにはなって欲しくない!

 さっきは全く動じてなかったけど、こうなりゃ伊達だって多少慌てるはず。


 横目で見ると案の定、奴は深刻そうな顔をしていた。

 だけど、こんなこと言った所でどうする?この男がタダもんじゃねぇのは知ってるけど、今は俺と同じ観客でしかない。どうする事もできねぇよ……

 そんな焦りや、苛立ちを抱えながら視線を結界の方へ戻す。そんなタイミングで、伊達がぼそりと呟いた……


「ヤベェ……死ぬかもな “タイガー” …………」

 
 はっ……!?

 何言ってんだ??俺の聞き間違い…………?



 
    ◇◇◇

「ぐぁっ……ぐぁ…………」
 

 ステルスの剛腕によって、ギリギリと締まり続ける俺の体……今口から出してるのは、俺の呻き声じゃない。肺を圧迫された事で、間抜けな音を立てながら空気が漏れ出しているだけだ。

 このまま行けば、後1分もしない内に俺の意識は落ちるだろう。


 …………落ちたらどうなる?


 普通の試合なら……いや、普通の相手ならその時点で止めるだろう。でも、今俺を絞め上げてるのは虎と化しているステルスだ。


 喰うか、喰われるか……生きるか、死ぬか…………

 
 本能のそれに従ってるこいつに、そんな慈悲や常識なんか望めない。

 運が良けりゃ審判が止めてくれるかもしれないが、それも厳しそうだな。ステルスが、俺を絞め殺す方が速い気がする。こいつの力は “想像以上” だ……


「フゥーッ……フゥーッ…………」


 改めて、こいつの顔を見る。

 呼吸が荒い。泡を吹きながら、苦痛に耐えて必死の形相をするこいつが、とても余裕があるようには思えない。腹のダメージは、相当深いんだろう。さっきのは、完全に不意を突いた。

 今の俺はギリギリだが、それはこいつも同じってことだ。


 だけど、このまま行けば勝つのはお前だよ。俺の霊的防御じゃ、お前に抗しきれない。
 


 このまま、行けばだけどな…………


 
 なぁ、ステルス……何で掴む時、俺の左腕は自由なままにしたんだ?

 そんな余裕、無かったからか?

 まぁ、それも当たりだとは思う。でも、重要なのは俺が “そうなるように” 仕向けたってことなんだよ。

 解るか?

 タックルで決まるなら、それでもいいとは思ってた。だけど、お前が掴んで来ることも俺は想定してたよ。何でかって?

 
 お前が、それだけ強いからだよ!!
 

 なぁ、ステルス……そんな強いお前に掴まれて、ピンチになった俺は一体何をすると思う?

 残った左腕で、何をすると思う?
  

「グァッ……!!?」


 俺が左手に持ってるものを見て、ステルスの両眼が驚愕するように見開く!

 慌てて、両腕を離すと距離を取ろうとバックステップする。

 ……だけど、もう遅ぇ!!
 


「…………爆弾(手榴弾型)だ……!」

 

 左腕を掴み損ねた時点で、お前は常にそれを注視しなきゃいけなかった。お前が苦痛に耐えてる間、俺も必死に爆弾を作ってたんだよ。

 もっとも……そんな余裕、なかっただろうけどな…………死ぬなよ!


 そう念じながら、離れようとするステルスに投擲する。

 バックステップする奴よりも、投げた爆弾の方が当然速ぇ。慌てたステルスには、それを撃ち落とすことも防ぐことも出来ない。

 そのまま、為すすべも無い奴に着弾…………



 “___ワッ__られ__ジ……”



 ___!?


 
 ドォグゥアァァーーーンッ!!


 
 爆風に晒されて、結界の端まで吹っ飛ばされる奴の体…………一応警戒はしたが………人の姿に戻った奴が、起き上がってくることはなかった。


「そこまで!勝者、鴉!!」
「……………………」 


  
 

    ◇◇◇

《観客席》


「……そ…そんな…………」


 体の力が一気に抜けて、椅子の背もたれにもたれ(・・・)掛かる。

 
「取り敢えず、生きてるか……」
 

 一瞬の出来事に、呆然とするしかなかった……何が、起きたか解らなかった…………

 勝っていた。タイガーが、勝っていたはずなのに……
 
 
「惜しかったな……でも、始めからアレが狙いだ。タックル決めれた時から、タイガーは終わってたんだよ」
「あ……あんなのアリかよ!?あいつ…あいつは、自爆する気だったのか?」


 タイガーが離さなかったら、どうする気だったんだよ?
 

「関係ない。あいつの爆弾は、普通の物と違って爆風の方向も変えられる。さっきだって、鴉の方には行って無かったろ?」
「う……」


 確かに言われてみれば、そうだった…………

 あんな至近距離で爆発したのに、何故か奴に爆風が行かなかったのは、そう言う事だったのか。


 だとしたら、こっちに返す言葉はねぇ。返す言葉はねぇけど…………でも、やりきれねぇよ。

 拳を握りしめながら、言葉を絞り出す。

 
「タイガーは、必死にやったんだ。あんな痛い目に遭いながら、必死になって相手を追い詰めた…………でも、結局は向こうの手の上だったなんて……」


 あいつの頑張りは、何だったんだ?

 胸が張り裂けそうになる。全部出し切って、ズタボロにまでなったのに何も報われねぇじゃねぇか…………


「本当に、そう思うか……?」
「え……?」

 

“凄かったな……あのタイガーって奴”

“ああ、あの『鴉』をあそこまで追い詰めるなんてな……”

“凄ぇ、動きだったぜ!”

“何で始めから、変身しなかったのかしら?”

“加減してたんじゃないか?ありゃ、相手を殺しかねねぇぞ”

 

「聴こえるだろ?皆、タイガーの強さを認めたんだ。ダチとして、喜んだっていいんじゃねぇか?」
「…………あ…ああ!」


 そうだ…………例え負けたとしても、あいつは死力を尽くしたんだ。下を向く必要なんかねぇんだ。

 やったな、お前はやったんだよ!タイガー!!


「さて……俺は、もう行くわ。勝ったけど、鴉のダメージも深そうだからな。お前も医務室に行ってやったらどうだ?」
「えっ!?」


 立ち上がった伊達の一言で我に帰る。ヤベェ、忘れてた!タイガーの奴は重症なんだ。
 

「ああ、そうだな!俺も行かないと……じゃあな、伊達さん」


 そう言って慌てて立ち上がると、俺はそのまま出口へ駆け出した。



 ……………………あれ?

 そういや、あの男「鴉のダメージ」も深そうとか言ってたよな………何でだ?




    ◇◇◇

《控室》


「こっ酷く、やられたな♪」
「何で嬉しそうなんだ……?」


 控え室で待ってるとニヤニヤした雪之丞が入って来るなり、文珠を放って来た。準々までくると、控え室にも殆ど人は居ない。

 言っやりたいことは腐る程出てきそうだが、今はそれを呑み込んで治療に専念しなきゃならない。

 投げて来た文珠を受け取ると、『治』と刻んで早速実行する。直後に溢れる霊気の光によって、瞬時に傷が回復する…………


 改めて思うよ。この力は完全にチートだ。

 何とかステルスに勝てたものの、これが無きゃ棄権は必至だ。それくらいの怪我だった。何かズルい気もするが、本当の意味で不正してるわけじゃない(文珠の禁止は試合中のみ)。

 それに他の受験者だって、医務室に行けば六道女史(遠くから見掛けた)が使う招杜羅(ショウトラ)やヒーリングに長けた人間にある程度の怪我なら治して貰えるんだ。

 そう自分に言い聞かせながら、治った右腕を動かしてみる。


「肘も外れてたな……」
「ハグされた時な……でも、感覚がなくなってて痛みも感じなかったよ」


 良し……問題なく動く。感覚も戻って、霊手も普通に出せるようになった。


「霊気も回復するか?」
「ああ、さっきは流石に疲れた」


 そう言って、更に受け取った文珠を分解して霊気を吸収する。

 ちなみに文珠は、全部雪之丞に管理して貰ってる。別に禁止されてるのは使用だけで、所持までは明言されてないけど後で何か言われたら癪だからな。


「で、どうだった?あいつに勝った感想は」
「観てたんなら、解るだろ?本当、ギリギリだよ。しかも、この前よりも進化してやがるしな……」


 爆発する直前に……あいつは、確かに何かを呟いた。何を言いたかったんだかは解らなかったが、理性は微かに残ってたんだ。

 
「進化か……確かに進化してる。今度、やり合うのが楽しみだぜ♪」
「どこで、やる気だよ? “まだ” 人の来そうな所じゃ出来ねぇぞ」


 俺がそう言うと、雪之丞は怪訝そうに眉を動かす。


「まだ……?」
「ああ、まだな……」


  …………でも、次への希望なら繋げるかもしれない。
  
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